交換レンズレビュー

フジノンレンズ XF8mmF3.5 R WR

“コンパクト”と“高い描写力”を両立 Xシリーズの純正最広角レンズ

X-S20+XF8mmF3.5 R WR

富士フイルムから「フジノンレンズ XF8mmF3.5 R WR」が登場した。Xシリーズ用の純正単焦点レンズとして最もワイドとなる、対角画角約121度、焦点距離約12mm相当(35mm判換算)の超広角レンズだ。それでありながら全長約53mm、最大径で約68mmというコンパクトサイズを実現しているだけでなく、重量についてもわずか約215gに抑えられていることは素晴らしい。

さらに、レンズ名称の「R」と「WR」からも分かる通り、絞りリングを持ち、防塵・防滴・-10℃の耐低温仕様となっている。

コンパクトデザインと高い描写力

本レンズの特徴は何と言ってもサイズ感。フード装着状態でもマウント部から8cm程度しか突出しないので、レンズ単体であればポケットサイズと言ってしまってもギリギリ許されそう。前玉が“出目金”になっていないので管理の心的ストレスは少ない。またフィルター径が62mmなので、荷物的にもお財布的にもフィルターワークのハードルが低いのは嬉しいところ。

フードを装着した状態

2021年5月に登場した「XF18mmF1.4R LM WR」などのようなシッカリとした鏡筒が採用された。最近登場したレンズは全てこのテイストになっているので、世代が明確に更新された感がある。

描写力は高く、基本的にシャープそのもので好印象だった。じっくりと観察すれば、開放絞りでは四隅がやや甘いとかフリンジがあることは分かるが、それでも超ワイドレンズという点を考慮すれば、筆者としてはむしろ良く出来ていると感じられるレベルにはある。

それに超ワイドで画面の隅っこを睨みつけるようにして観察した挙げ句にアレやコレやとイチャモンを付けるような振る舞いは、写真の鑑賞方法としては一般的ではないかなとも思っている。

とてもよく写っている。今回のシーンでは人工光源が画角内に入り込んだ場合であってもヘンテコなフレア・ゴーストが出ることは無かった。X-S20の高ISO感度画質についても良好でしょう
X-S20/XF8mmF3.5 R WR/8mm(12mm相当)/絞り優先AE(1/100秒・F4・+1.0EV)/ISO 4000/PROVIA/スタンダード

もし収差が気になるなら、F5.6まで絞ればそうした不満はある程度解消される。しかし、コンパクトなレンズであるところを見ても、コンセプト的に完璧な光学性能を目指したレンズでないだろうことは、想像に難くない。

F3.5(左上)、F4.0(右上)、F5.6(左下)、F8.0(右下)
周辺部を観察してみると、完璧な光学性能という訳ではないことが分かるが、価格・サイズからすると非常に素晴らしい性能を実現していると思う

撮影時には気付きかなかったが、PCでチェックしていると周辺光量落ちがほぼ無いことに驚いた。恐らく自動補正でキレイにされているのだと思うが、均一な明度でとてもキレイ。歪曲についても同様で、ほぼ完璧に補正されている。

個人的には、周辺はわずかに光量が落ちている方が奥行き感の演出効果や視線を集中させる効果などが期待でき、またレンズの光学特性を利用した写真らしい表現として好ましく思っている。歪曲も若干は残っていた方が自然に見えると考えているので、こうした性能の高さに若干の寂しさがあることも否めなかった。が、これも古い考えなのかも……。

太陽の反射を画面の周辺部に配置してみたが、全く問題なかった
X-T5/XF8mmF3.5 R WR/8mm(12mm相当)/絞り優先AE(1/1,250秒・F4.5・+1.0EV)/ISO 250/PROVIA/スタンダード

逆光耐性は高いと感じた。超ワイドなので、画角内に光源が写り込む頻度は他のレンズよりも上がる。にも関わらず、意図的にゴーストやフレアを出してやろうと思わない限りは、フレア・ゴーストの存在を気にすることはなかった。

筆者が試した限りの逆光ワーストがこのカット。大変優秀だと思う
X-S20/XF8mmF3.5 R WR/8mm(12mm相当)/絞り優先AE(1/1,400秒・F5.6・-0.3EV)/ISO 320/PROVIA/スタンダード

使っていて楽しく感じたのは接写性の高さ。撮影倍率的には0.07倍なので、マクロ感という点ではそれほどでもないが、センサー面から18cm、フード先端からで言えば約10cm程度まで被写体に寄って撮影できる。超ワイドの画角を活かした強烈なパースのある接写表現など、このレンズで得られる特別な楽しみがあったように思う。

接写性を活かそうとした場合にやりがちな撮り方を試してみて点光源のボケ感と周辺部の描写をチェックしてみた。木漏れ日のカタチが煩く見えるシーンはありそうだ
X-S20/XF8mmF3.5 R WR/8mm(12mm相当)/絞り優先AE(1/100秒・F3.5・+0.3EV)/ISO 320/Pro Neg. Std

一方でボケは少しザワつく感じがあったので、逆光気味にフレーミングして背景をハイライトに溶かし込むなどの小技を知っておけば、このレンズをより楽しむことが出来るかもしれない。

絞り開放かつほぼ至近端という条件でも解像感が高く見事な性能がある。逆光気味なシーンを見つけて、ボケをハイライトに溶かして仕舞えばボケのカタチは気にならなくなると思うが、どうだろうか?
X-S20/XF8mmF3.5 R WR/8mm(12mm相当)/絞り優先AE(1/100秒・F3.5・+3.3EV)/ISO 1000/ISO 320/Pro Neg. Std

唯一無二の選択肢となるか

今回はVlog的な使い方ではなく、静止画に特化して触れてみたが、動画目線で見てみると、例えばGoProのHERO11の画角がHyperViewモードでは換算12mmとなっている。そこに着目すれば、コンパクトなX-S20との組み合わせによって、高画質なアクションカム的な使い方も……、といったことも想定できるかもしれない。

これは完全な妄想だが、このレンズの存在はパナソニックのLUMIX BS1HやBGH1のような動画に特化したXシリーズの登場を仄めかしているのかも? と邪推するのも楽しい。

絞り込んで、硬調なモノクロでシャープに表現してみた。かと言って妙にシャープネスが強調されたような再現ともならず、とても気持ちの良い写りだと思う。空のトーン出したかったのでDR400%で撮影しています。なのでISO 640
X-S20/XF8mmF3.5 R WR/8mm(12mm相当)/絞り優先AE(1/1,700秒・F8・-0.3EV)/ISO 640/ACROS+Rフィルター

ともあれ、小型軽量な超ワイドレンズというのは、それだけでも存在価値が高くなる。というのも対角120度の画角に対応するフルサイズ用のレンズもいくつかあるが、コンパクトな製品は存在していない。

マイクロフォーサーズでは、200gを切る素晴らしいサイズ感のMFレンズ「LAOWA 6mm F2 ZERO-D MFT」がある。しかし、AFレンズとなると「M.ZUIKO DIGITAL 7-14mm F2.8 PRO」が最もワイドとなるので、やはり本レンズのライバルは存在していない。

つまるところ、APS-Cフォーマットにおけるコンパクトな超広角レンズというところで、本レンズが現状で唯一無二の選択肢。APS-C専用設計のXシリーズの強みが存分に発揮されているように感じられた。こうした製品を心から歓迎したいと思う。

超ワイドレンズは水平垂直を出すのがとても難しく、その上ウッカリすると自身の指や足などが写り込んでしまう場合もあるので、フレーミングの際にはチェックする項目が多く難易度が高い
X-S20/XF8mmF3.5 R WR/8mm(12mm相当)/絞り優先AE(1/170秒・F8・-0.3EV)/ISO 320/ISO 640/ACROS+Rフィルター

1981年広島県生まれ。メカに興味があり内燃機関のエンジニアを目指していたが、植田正治・緑川洋一・メイプルソープの写真に感銘を受け写真家を志す。日本大学芸術学部写真学科卒業後スタジオマンを経てデジタル一眼レフ等の開発に携わり、その後フリーランスに。黒白写真が好き。