交換レンズレビュー

SAMYANG AF 35-150mm F2-2.8 FE

ポートレートに適した焦点域を1本のズームに

SAMYANGの大口径ズームレンズ「AF 35-150mm F2-2.8 FE」が5月に発売された。ここではポートレートの作例を見ながら紹介したい。実勢価格は税込18万3,000円となっている。

SAMYANGは韓国のブランドで、以前は安価なMFレンズを主力にしていたが、最近はAF対応のレンズに注力しており、単焦点レンズ、ズームレンズとも充実してきている。

本レンズはソニーEマウント用のフルサイズ対応レンズで、ポートレートでよく使われるであろう焦点距離をF2-F2.8という明るさで実現している。単焦点レンズにすれば、35/50/85/100/135/150mmと5〜6本分が1本に収まっているというのが売りだ。さらにズームレンズとしては明るめなので、ポートレートには特に向いていると言える。

ほぼ同スペックのレンズとして、2021年にタムロンがリリースした「35-150mm F/2-2.8 Di III VXD」がある。こちらもEマウント用で、実勢価格は税込19万9,800円。SAMYANGのほうが1万6,800円ほど安い計算だ。

しっかりした作り

ビルドクォリティは良く、安っぽい感じは全くない。ズーミングもスムーズで、操作スイッチ類も扱いやすい感触だ。重量は1,231gとずっしりしたものだが、単焦点レンズ数本分と考えると納得できる。特に70-200mm F2.8を持ち運ばなくて良いと考えるなら、カメラバッグを軽くできると思う。

レンズ構成は18群21枚となかなか詰まっている。うち特殊レンズは12枚という。絞り羽根は9枚。フィルター径は82mmだ。最短撮影距離は広角端で33cm、望遠端で85cmとなる。

操作リングは先端がフォーカスリング、手前がズームリングだ。フォーカスリングは粗めのパターンで回しやすい。フォーカスリングも幅広で操作感に問題は無い。

カスタムスイッチを備えており、AF時に「2」にするとフォーカスリングを絞りリングとして使える(クリックは無し)。またMF時に「2」にするとフォーカスリングの回転角に応じた調整ができるリニアMFとなる。またMF時の「3」は「ドリーショット」(後述)用のモードになる。

フォーカスホールドボタンを横位置と縦位置用に2つ備えている。カメラ側の割り当てを変えれば、任意の機能に設定可能だ。また、フォーカスホールドボタンを3秒押すと異なるピント位置を記録でき、後から呼び出してその位置に自動で合わせる事も可能だ。

本レンズは下に向けるとズームが自重で伸びるタイプなので、広角端でロックできるスイッチを備えている。ただ、レンズフードを収納状態(逆付け)にしてからロックしようとしても、フードで隠れてしまってアクセスできないのは惜しいと感じた。

レンズの11カ所にウェザーシーリングを施してあり、小雨や雪、ホコリからレンズを守れるとしている。写真では見にくいが、マウント部にもゴムのシーリングを備えている。

同梱のフードは内側に植毛は無くリブ加工ではあるが、しっかりした作りだった。

ソニー「α7 III」に装着してズームを望遠端にしたところ。ボディとのバランス感は70-200mm F2.8を付けいているようなイメージが近いだろう。

前後ともボケ描写が秀逸

各作例は「α7 III」で撮影したRAWデータをLightroom CCで現像している。


まずは広角端での描写を見た。解像力だが、4.3倍のズーム倍率と絞り開放なのを考慮すれば合格点と言えそう。ボケは非常にきれいで草もうるさくならず、まさにポートレート向きだ。

α7 III/AF 35-150mm F2-2.8 FE/35mm/マニュアル露出(1/2,000秒、F2.0)/ISO 100/ストロボ使用

同じく広角側だが、F8まで絞るとかなりくっきりとした描写になる。この距離でも服のディテールまでよくわかる。こうした広めのショットもカバーできるのがこのレンズの良いところだ。

α7 III/AF 35-150mm F2-2.8 FE/35mm/マニュアル露出(1/200秒、F8.0)/ISO 100/ストロボ使用

標準レンズの焦点距離といえる50mmで撮影。遠近感なども含めて自然な描写にできる。トーンを見るためにモノクロにしてみたが繋がりも良い。

α7 III/AF 35-150mm F2-2.8 FE/50mm/マニュアル露出(1/200秒、F2.8)/ISO 50

50mm時の開放F値はF2.2。このくらい引いて撮ると単焦点レンズのような大きなボケは期待できないが、それでも人物を浮き立たせる程度のボケはある。

α7 III/AF 35-150mm F2-2.8 FE/50mm/マニュアル露出(1/2,000秒、F2.2)/ISO 100/ストロボ使用

ポートレートの定番レンズとされる85mm域での撮影。このあたりから開放F値はF2.8となる。円ボケは輪郭が目立つではなく、落ち着いていて好ましい印象だ。

α7 III/AF 35-150mm F2-2.8 FE/86mm/マニュアル露出(1/500秒、F2.8)/ISO 100/ストロボ使用

こちらも85mm域。大きく前ボケを入れて見たがこちらも自然できれいなボケ方をしている。UMC(ウルトラマルチコーティング)とのことだが、全体的にクリアで抜けも良い。

α7 III/AF 35-150mm F2-2.8 FE/87mm/マニュアル露出(1/500秒、F2.8)/ISO 100/ストロボ使用

100mm域でアップにしていくと背景の省略が簡単にできる。この焦点距離もまたポートレートでは使いやすい。ピントを合わせた目の解像力も申し分ない。

α7 III/AF 35-150mm F2-2.8 FE/94mm/マニュアル露出(1/200秒、F2.8)/ISO 100

続いては、これもポートレートで人気がある135mm域での撮影。両目にピントが来るようにF4に絞っているが、それでもボケが大きくて被写体が浮き立ってくる。

α7 III/AF 35-150mm F2-2.8 FE/136mm/マニュアル露出(1/200秒、F4.0)/ISO 100/ストロボ使用

135mm域でF8まで絞り込んでみたショット。肌のディテールやまつげの1本1本までビシッとした描写だ。

α7 III/AF 35-150mm F2-2.8 FE/135mm/マニュアル露出(1/250秒、F8.0)/ISO 100/ストロボ使用

望遠端となる150mmで全身を撮った。ほどよい圧縮感で画面をまとめることができた。このズームレンジの広さは魅力だろう。

α7 III/AF 35-150mm F2-2.8 FE/150mm/マニュアル露出(1/500秒、F2.8)/ISO 100/ストロボ使用

150mmともなるとパースがほとんど付かないので、顔のアップを撮るのにも向いている。花が前ボケになっているが、やはり自然なボケ方だ。

α7 III/AF 35-150mm F2-2.8 FE/150mm/マニュアル露出(1/400秒、F2.8)/ISO 100/ストロボ使用

望遠端で最短撮影距離となる85cm付近で撮影したもの。それなりに大きく写せるので、積極的に近接撮影にもチャレンジしたい。

α7 III/AF 35-150mm F2-2.8 FE/150mm/マニュアル露出(1/200秒、F2.8)/ISO 200

ドリーショットのサポート

本レンズのユニークな機能として動画におけるドリーショットのサポート機能が搭載されている。人物のサイズは変わらずに背景の大きさを変化させるというもで、特に「ドリーズーム」や「バーティゴ」などと言われる撮影手法だ。古典的なカメラワークではあるが、ホラー映画などでしばしば見られる。

ドリーショットは、被写体との距離を変えながらズーミングし、フォーカスも調整するという3つの操作が同時に必要になる。その名の通り、本来はレール上の台車(ドリー)にカメラをセットして複数人による大がかりな撮影となる。

本レンズは、MFモードにしてカスタムスイッチを「3」にするとドリーショットのモードとなる。ズーム操作に連動してフォーカスが自動的に調整されるため、1人でもドリーショットが撮れるという触れ込みだ。

メーカーでは、「F8-F16程度に絞り込んで被写体に近づきながら、ズームリングを100mm程度から広角側に動かす」と説明されており、今回の作例もそのようにして手持ちで撮影した。滑らかに撮るには練習がいると思うが、動画時代の面白い機能ではある。

まとめ

ポートレートレンズとしてこれ1本、あるいは広角ズームとの組み合わせでほとんどのシーンを撮影できるのはかなり便利だ。イベント撮影などレンズ交換がしにくいようなシーンでも使い勝手が良いと思う。

絞り開放時の描写力は最新の単焦点レンズ同等というほどではないが、十分な解像力がありボケもきれい。カスタムスイッチなども一通り揃えてある。また、オプションの「レンズステーション」(いわゆるドック、税込7,760円)を使うと、ファームウェアのアップデートやAFピント調整、MF感度調整などができる。

ただ、先行しているタムロン「35-150mm F/2-2.8 Di III VXD」はUSB端子内蔵でドックが不要と利便性も高い。そのため、レンズステーションまで購入する金額を考えるとタムロンとの価格差はあまり無い。さらに、タムロンの方はスマートフォンアプリからのコントロールにも対応するなど機能は上手と言え、積極的に本レンズを選ぶ理由に乏しいのが悩ましいところだ。

実は海外市場を見ると、例えば米国では両者の小売価格に500ドルほどの差が生じている。これなら、コストパフォーマンスでSAMYANGを選ぶという人も少なくないのだろう。

SAMYANGは後出しになってしまったので、例えば28mmスタートであるとか小型化を図るなど、タムロンとのわかりやすい違いが打ち出せると日本のユーザーには良かったのかと思う。全体的なクオリティーは高いので、SAMYANGの今後のラインナップに期待していきたい。

モデル:進藤もも

1981年生まれ。2006年からインプレスのニュースサイト「デジカメ Watch」の編集者として、カメラ・写真業界の取材や機材レビューの執筆などを行う。2018年からフリー。