デジカメアイテム丼
超広角レンズ「SIGMA 14mm F1.8 DG HSM」専用リアフィルターホルダー活用術
換装サービスを利用してND・赤外線・ソフトに挑戦
2017年12月5日 07:00
SIGMA 14mm F1.8 DG HSM | Artは、高解像力と明るさ、そして美しいボケを高次元で実現した、唯一無二の超広角レンズだ。暗い環境に強いだけでなく、大口径を生かして超広角でありながら、自在にボケ表現を行えることが魅力の1本である。
フィルターホルダーが必要な理由
本レンズは超広角、大口径であるがゆえ、レンズ第一面は曲率の大きなレンズが採用されている。また、第1面の保護を兼ねて花形フードを組み込み式としているため、通常のねじ込み式フィルターを装着することができない。
色補正が自由に行えるデジタルの時代、このことは欠点とも言えないことであるが、表現というものはわがままだ。美しいボケや高解像力という以上の表現をしたいと望むことは表現者の真理である。
だからこそ、フィルターを装着したいという願望も生まれてくる。例えば、長時間露光で水の流れを表現したい時にはNDフィルターを使いたい。
リアフィルターホルダー換装サービスの概要
超広角、大口径を生かしつつ、フィルターも使いたい。そうした要望に応えてくれたシグマの回答は、「リアフィルターホルダー換装サービス」だ。
レンズ後玉周りの化粧リングをフィルターを装着できるリングへと交換する有償サービスだが、これにより後玉の後ろ、マウント内にシートフィルターを装着できるようになる。
マウント内径の関係から換装サービスはキヤノンEFマウントのみとなっている。費用はフィルターホルダー込みで税込7,560円。なお、ユーザー自身で交換する場合は税込5,400円でホルダーのみも販売している。
フィルターの装着方法
使用可能なフィルターは厚みがおよそ0.3mm以下のシート状のフィルターだ。撮影用のフィルターとしては、富士フイルムなどからシートフィルターが発売されている。
主なものでは、SC(Sharp Cut、紫外線吸収)、IR(Infra Red、可視光吸収・赤外透過)、ND(Neutral Density、光量調節)、LB(Light Balance、色温度変換)などがある。
換装サービスで着いてくるフィルターカット型枠をシートフィルターに押し当て、油性サインペンで型を写し取り、型通りにハサミでカットして準備が完了。
リアフィルターホルダーのフィルター保持隙間にカットされたフィルターの爪を挿入すればOKだ。
シートフィルターは、種類によって若干厚みが違い、0.1mmもしくは0.2mmだ。厚みとしては2枚重ねまで可能であるが、薄いものなので重ねての挿入は難しい。また、2枚目は撮影中に外れてマウント内に落下する可能性もあるので、筆者はおすすめしない。
NDフィルターを試す
NDフィルターは光学的に中性で、濃度だけを持ったフィルターである。効果としては色合いを変えることなく、シャッタースピードを遅くすることができる。
ガラス製のND400などを使っているユーザーも多いことだろう。性質を示す表記「ND」以下の数字はフィルターの濃度や露出倍数を示しており、ND400では露出倍数400倍である。
今回試してみたものは、富士フイルムの号数4.0というNDフィルターだ。4は対数表示で濃度を示しているので、露出倍数は1万倍となる。絞り値に換算すると13と1/3絞りとなる。
撮影している間に太陽の位置が変わり、適正露光も変わるので2カットの絞り値は13と1/3絞り以上になっている。ともあれ、狙いは長時間露光にすることによって、海面の波を消してしまうことだ。
海面の波が消えることによって、とても静かな海の印象となった。日中に、滝や渓流の流れを表現したい時にも使いたいフィルターだ。
赤外線フィルターを試す
IRフィルターは赤外フィルターである。今回使用したのはIR76という製品であり、光の波長760nm以下をカットし、それ以上を透過する近赤外線撮影をするためのフィルターだ。
デジタルカメラは、適正なカラーバランスを得るために赤外カットフィルターをセンサーに装備しており、およそ600nm以上の近赤外線をカットしている。
そのため、このフィルターを使うと大幅に感度が低下する。今回は三脚で固定しての撮影としたが、感度を最高感度まで上げて手持ちで撮影するのも一興だ。粗粒子表現となって面白い効果を生んでくれる。
また、色としては全体に濃い赤かぶりとなるので、画質設定はモノクロにしておく必要がある。
フィルター有無の効果は歴然だ。フィルター有りでは空が暗くなり、木の葉が明るくなる。通常のモノクロと明度の関係が逆転するのである。このフィルターを装着すると、肉眼でも見えないので、ライブビューでの撮影となる。
ソフトフィルターを試す
ソフトフィルターについては自作する方法もあるので、今回はそれを紹介したい。ソフト量を自分で調整できるのがメリットだ。
今回購入したフィルターは富士フイルムのSC-38というほぼ透明のフィルターだ。380nm以下の紫外線をカットし、昼間の遠景をシャープに写すためのフィルターである。
これにヘアスプレーを吹き付けて、「ソフトフォーカス(弱)」を作ったのだ。そしてもう1つ、SC-38を指で触って指紋をたくさんつけたものを「ソフトフォーカス(強)」とした。簡単な加工だが使えるフィルター! になる。
ソフトフォーカス(弱)はヘアスプレーを吹き付けて乾かしたもの。ヘアススプレーは固まるものであればどのようなものでも構わない。ほんの少し光が滲む程度なので、シャープさを損なわない。星景写真にも向いている。
ソフトフォーカス(強)は、とにかくたくさんフィルターを触って指紋をつけた。明らかなソフトフォーカス効果となった。効果の強弱は指紋をつける量で変わるので、撮影結果を見ながら、指紋を足してゆくといい。
まとめ
SIGMA 14mm F1.8 DG HSM | Artは、超広角の世界にボケという表現の大切な要素を持ち込んだ。しかし、写真の表現手法は多岐にわたり、フィルターで階調や光の波長をコントールすることは重要な要素なのである。
本レンズに限らず、超広角や魚眼レンズでは、その機械としての構成上、フィルターの使用を諦めざるを得ないことが多かった。この点が改善されたことは実に喜ばしい。
例を挙げるなら、長時間露光作品の場合、露光時間を長くするために夜や夕方に撮影しなければならなかったものは、日中にも撮影できるようになる。星景写真では、超広角では明るい星が目立たず、星座の形がわかりにくかったが、ソフトフィルターで明るい星を目立たせることができるようになる。
そのような変化が、自分の心の中でイメージしたものと直結する手段を得ることができたのである。