交換レンズレビュー

SIGMA 14mm F1.8 DG HSM

ボケ表現も自在な唯一の魅力を持つ超広角レンズ

現在シグマのレンズは、Art、Sports、Contemporaryの3つの群に大別される。特に描写力、すなわち解像力とボケにこだわったシリーズがArtシリーズだ。その中でも、明るい単焦点のシリーズはユーザーの高い評価で固まったと言える。その最新レンズが14mm F1.8 DG HSMである。

発売日:2017年7月7日(ニコン用は7月28日)
実勢価格:税込19万円前後
マウント:キヤノンF、シグマSA、ニコンF
最短撮影距離:27cm
外形寸法:95.4×126㎜
重量:1,120g

デザインと操作性

14mmという焦点距離自体は珍しいものではない。しかし、他社の同焦点距離帯のレンズの開放F値は、ほとんどがF2.8である。絞り値としては1と1/3段の違いでしかないが、ボケに与える効果の差は大きい。数値として世界初、唯一の14mm F1.8であるが、最も大きな差はボケ表現の差だと思っていい。

カメラはEOS 6D(以下同)

レンズの明るさが表現として大きなメリットをもたらすが、解像力の高さがなければ、そのメリットを活かせない。Artシリーズの目標はボケ表現と解像力の両立であり、そこも抜かりはない。

最短撮影距離から無限遠まで、絞り開放であっても高い解像力を持ち、高画素のカメラを使ってもその描写力に不満を感じることはないだろう。

また、マウント交換のほか、USB DOCKによるカスタマイズやファームアップなどシグマ独自のオプションが活用できる点も面白い。

レンズの操作系は至ってシンプルだ。AFのON/OFFスイッチが左手側に設置されるのみだ。クリック感は硬めだが、スイッチ自体が大きいので手袋をしていても、支障なく操作できる。

ピントリングはとても良い感触だ。トルク感は適度に重く、回転にはガタがなく、少なめのアソビが設けられている。そのため、リングを往復させた時にも即座にレンズが反応する。星景写真など、シビアなピントを求められるシーンでも使いやすいものだ。

デザインは高級感があり、現在のシグマレンズのアイデンティティ通りの仕上がりだ。全体はマットブラック、マウント側は細かなヘアライン仕上げで、どんなボディをつけても違和感がない。

花形フードは組み込み式であり、取り外しできない。1,120gと大きく重いレンズなので、ボディ側もそれなりな大きさのものが使いやすいだろう。今回のテストではEOS 6Dを使用したが、良いバランスであった。

左手でレンズをホールドした時、若干レンズ側に倒れてゆくようなバランスである。当然、レンズ径も太いものだが、中肉中背と言える筆者の手に余るような感じではない。しかし、AFスイッチやピントリングには自然と指が届く。これは大柄なレンズゆえ、指の動きに余裕が出るからだが、手の小さい方でも操作性は同じ感想になることだろう。

AF速度は、ボディ側に依存する面も大きいが、本レンズではレンズの一部を動かす方式であること、超広角レンズであるがゆえ、レンズ自体の移動距離が短いことから、AF速度は十分に早く、不満に思えるシーンはなかった。

作品

星空を撮ってみると、収差の状況がよくわかる。結論からいえば、絞り開放から素晴らしい描写のレンズだ。絞り開放のとき、中心像は極めてシャープ。写野60%程度からサジタルコマフレアが目立ち始め、周辺に向かって穏やかに像が崩れてゆくので、不快な印象にはならない。

F2.8まで絞ると写野全面に渡ってサジタルコマフレアは気にならない量になる。しかし、レンズの明るさを活かすにはもう少し、絞りを開けたい。個人的な感想で言えば、F2.2くらいが星景写真のとき、収差とレンズの明るさを使うベストマッチのポイントと考える。

EOS 6D / 15秒 / F1.8 / 0EV / ISO400 / WB:太陽光 / マニュアル露出 / 14mm

静かな森の倒木を撮影した。撮影距離はおよそ1m。しっかりとボケ味を出すために、絞りをF2.2としたが、厳密な被写界深度は数cmである。仔細にみると後ろボケは少し二線ボケ傾向を示しているが、ボケ量が大きいので気にならない。何よりも、距離に応じてボケ量が多くなって行く様子が立体感、距離感を作り出しており素晴らしい。

EOS 6D / 1/400秒 / F2.2 / -1.7EV / ISO200 / WB:3,600K G+5 / 絞り優先AE / 14mm

本レンズの最短撮影距離は27cmだ。超広角での近接撮影は、その場の状況を写しこめるのでとても面白い。明るいレンズであるからこそ、狭い被写界深度を活かして興味を引かれた被写体を強調できる。広角レンズには必ず広角歪み(パース)が発生するが、そのことを念頭に置いておくと良い。

このカットでは周辺が少し放射状に流れているように見える。これは、アウトフォーカス部の非点収差と、超広角であるが故の広角歪みが複合しているためだ。広角歪みはレンズの瑕疵ではないが、ここでの像の流れの主因である。このような場合、絞りを絞れば絞るほど、像の流れが目立ってしまうこともある。このレンズの場合、近接撮影ではF2.8よりも明るい絞りで撮影するのがおすすめだ。

EOS 6D / 1/20秒 / F2.8 / -1.3EV / ISO100 / WB:3,600K G+5 / 絞り優先AE / 14mm

強く、しかし心地いい日差しの牧場を通りかかった。超広角であるが故、広い景色はそのまま広やかに気持ちよく写真にできるが、開放絞りでは、さらに奥行きまでもそこに加えることができる。

ピントは7~8m先の鉄柵あたりに合わせた。その前後のボケが奥行きを表現している。こうしたボケ表現は大きくプリントをすると効果的だ。このように点光源のボケを含まないカットでは、本レンズの周辺に至るまでのシャープさや均質感の高さが発揮されているのがわかる。

EOS 6D / 1/4000秒 / F1.8 / +0.7EV / ISO200 / WB:3,600K G+5 / 絞り優先AE / 14mm

伊豆の国市 韮山にある、反射炉跡。明治の頃、ここで大砲が鋳造された歴史的建造物だ。逆光で見上げると、その重厚さと当時の熱が伝わってくるようだ。

さて、本レンズのように超広角であり、前玉の大きいレンズでは逆光時のゴーストが気になるポイントだ。結果としてゴーストは発生するものの、量は少ない。フレーミングの工夫によって目立たなくできる量だ。このカットで言えば、少しカメラを右に振るとゴーストは青空の中に入って消えてしまう。

EOS 6D / 1/400秒 / F11 / +0.3EV / ISO100 / WB:オート / 絞り優先AE / 14mm

山の中にある小さな湖に足を踏み入れた。小さな、とは言え緩やかな谷あいの広い景色だ。この景色を仔細に記録するのは、本レンズが最も有効な役割だ。

中央下の大きな岩にピントを合わせ、F5.6としたが、距離が遠くなるにつれ、緩やかにほんの少し解像感も弱まり、程よい距離感を表現できた。同一距離では画面周辺までシャープで、本レンズの解像力の高さを実感できる。

EOS 6D / 1/640秒 / F5.6 / -1EV / ISO50 / WB:3,600K G+4 / 絞り優先AE / 14mm

絞り開放で、北の空に向かうと周辺光量がわかる。中心に比べて、最周辺では2段ほど光量が落ちているが、このくらいの超広角では順当な量だ。F4で明らかに周辺光量落ちが改善されたのがわかるが、筆者はこのくらいの周辺光量落ちはあって良いと常々思っている。

EOS 6D / 1/250秒 / F8 / -0.3EV / ISO100 / WB:オート / 絞り優先AE / 14mm

韮山反射炉の壁面。F8まで絞って仔細に描写した。中心から、周辺までの解像力の高さがはっきりとわかる。気になる収差のうちの1つとして歪曲収差があるが、本レンズにも、若干の樽型歪曲収差が残っている。しかし、画像ソフトで簡単に補正できるレベルのものだ。

EOS 6D / 1/250秒 / F8 / -0.7EV / ISO100 / WB:オート / 絞り優先AE / 14mm

まとめ

本レンズの特徴は何と言っても、F1.8の明るさだ。一般にレンズは開放F値を暗めに抑えた方が、解像力の高いものにできる。しかし、本レンズでは絞り開放であっても他社製のF2.8クラスのレンズの開放時の解像力と遜色がない。そこに、F1.8によるボケ表現が加わり、表現の多様性を楽しめるレンズに仕上がっている。

今回はEOS 6Dでの撮影であったが、本質的に解像力の高いレンズなので、より高画素のカメラでの撮影では、よりボケの効果と解像力の高さによる表現を活かすことができるだろう。

撮影協力:伊豆の国市

茂手木秀行

茂手木秀行(もてぎひでゆき):1962年東京生まれ。日本大学芸術学部卒業後、マガジンハウス入社。24年間フォトグラファーとして雑誌「クロワッサン」「ターザン」「ポパイ」「ブルータス」を経て2010年フリーランス。2017年1月14日より新宿、コニカミノルタプラザにて個展「星天航路」を開催。