伊達淳一のレンズが欲しいッ!

コシナの超広角「ヘリアー三兄弟」をα7R IIでテスト

10mm・12mm・15mm 歪曲収差が少なく自然な広角描写が味わえる

ボクは超広角や超望遠レンズが好きだ。人間の視覚とは異なる強烈な画角やパースペクティブの効果で、何の変哲もない日常の風景やシーンをフォトジェニックに写すことができるからだ。要は、標準ズームレンズ等の平凡な画角だとつまらない写真しか撮れないヘタッピイなので、“レンズの力”に頼ろうという魂胆なんだけどね(笑)。

で、とりわけ非日常的な描写が得られるのが“超広角”の世界だ。といっても、最近は超広角ズームレンズを持っている人も多くなり、一般的な超広角ズームの16-35mm相当の画角では、人と違う写真を撮るのはむずかしい。そこで、さらなる超広角レンズを求めてたどり着いたのが、コシナ フォクトレンダーの「ワイドヘリアー」(WIDE-HELIAR)シリーズだ。

Eマウント版はα7シリーズに最適化

ワイドヘリアーの名を冠しているのは、

  • HELIAR-HYPER WIDE 10mm F5.6 ASPHERICAL
  • ULTRA WIDE-HELIAR 12mm F5.6 ASPHERICAL III
  • SUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5 ASPHERICAL III

の3本で、それぞれソニーEマウントとコシナVMマウント(ライカMマウント互換)が用意されている。できるだけ広い画角で撮りたくてこのレンズを選ぶわけなので、組み合わせるボディは当然35mmフルサイズ機。つまり、現状では、ソニーα7シリーズか、ライカMシリーズということになる。

左から15mm、12mm、10mm。サイズは微妙に違うが、非常によく似た外観デザインだ。特に10mmと12mmは銘板を確認しないと見分けが付かないほど。距離指標には被写界深度目盛りも刻まれている。

VMマウント版なら汎用のマウントアダプター併用で、α7シリーズはもちろん、さまざまなメーカー(マウント)のボディに装着できる。とりわけコシナから発売されている「VM-E Close Focus Adapter」は、4mm繰り出せるヘリコイド機能を内蔵しているので、レンズ単体よりも最短撮影距離を短くできるのが魅力だ。

一方、ソニーEマウント版を買ってしまうと、ソニーEマウント以外の機種には流用できないが、単にマウント形状をEマウントにしましたというだけでなく、電子接点や距離エンコーダーまで搭載していて、マニュアルフォーカス、手動絞りではあるものの、撮影絞り値や焦点距離がボディに伝達され、Exif情報に詳細な撮影情報が記録されるほか、フォーカスリングを回すと“拡大MF”も可能。

ボディ内手ブレ補正を搭載した第2世代のα7シリーズと組み合わせれば、焦点距離などを手動設定することなく、シフトブレも含む“5軸手ブレ補正”が効くのも特徴だ。また、撮像センサー手前に設置された赤外カットフィルターなどの光学的特性など、ソニーαシリーズのセンサーに対し、光学系の最適化(レンズ構成は同じでもレンズのクリアランス等の微調整)も図られているという。

なので、α7シリーズで使うなら、汎用性などと余計なことを考えず、素直にEマウント版を買った方が快適だ。

Eマウント版はシフトブレを含む5軸手ブレ補正やMFアシスト機能、ボディ内でのレンズ補正(周辺光量/倍率色収差/歪曲収差)が可能。

ただ、絞り操作はボディ側ではなくレンズ側で操作し、実絞りでの測光、ライブビュー表示となる。動画撮影時に絞り操作音が入らないようにするデクリック機能も備わっていて、絞りリングの指標(・)を対物側に持ち上げ、180度回転させて縦線の指標(|)に切り換えると、1/2EVステップのクリックストップが無効になる。

HELIAR-HYPER WIDE 10mm F5.6 ASPHERICAL E-mount


    レンズ構成:10群13枚
    絞り羽根枚数:10枚
    最短撮影距離:0.3m
    最大径×全長:67.4×68.5mm
    重量:375g
    フィルター:装着不可
    実勢価格:14万4,570円前後(税込)

ULTRA WIDE-HELIAR 12mm F5.6 ASPHERICAL III E-mount


    レンズ構成:10群12枚
    絞り羽根枚数:10枚
    最短撮影距離:0.3m
    最大径×全長:67.4×68.3mm
    重量:350g
    フィルター:装着不可
    実勢価格:12万6,210円前後(税込)

SUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5 ASPHERICAL III E-mount


    レンズ構成:9群11枚
    絞り羽根枚数:10枚
    最短撮影距離:0.3m
    最大径×全長:66.4×62.3mm
    重量:298g
    フィルター:58mm
    実勢価格:8万9,790円前後(税込)

常時持ち歩ける小ささが魅力

ところで、ソニーα7シリーズと電子接点付きEFマウントアダプターを組み合わせれば、キヤノンEFマウントレンズでAF撮影することが可能で、実際、半年前まではキヤノンEF11-24mm F4L USMをMETABORNESのマウントアダプターでα7R IIに装着して、“世界最広角(当時)”の描写を楽しんでいた。

左がキヤノンEF11-24mm F4L USM、右がHELIAR-HYPER WIDE 10mm F5.6 ASPHERICAL E-mount。EF11-24mm F4L USMは24mm域までズームできるとはいえ、何か明確な撮影対象がなければ持ち出したくないサイズ感。その点、10mm F5.6なら、とりあえずカメラバッグに入れて、持ち歩いても苦にならないのが魅力だ。

そこに、登場したのがHELIAR-HYPER WIDE 10mm F5.6 ASPHERICAL E-mountだ。マニュアルフォーカスで開放F値もF5.6と明るくはないが、焦点距離は10mmと短く、EF11-24mm F4L USMに変わって“世界最広角”の座を獲得。しかも、一眼レフ用超広角ズームに比べ、レンズが驚くほどコンパクトなので、携帯性や機動力に長けているのも魅力だ。

正直な話、焦点距離10mmや11mmの画角のレンズを必要とする、もしくはピタリとハマるシーンはそれほど多くない。つまり、一発芸のためのワンポイントリリーフ的な存在だ。

にもかかわらず、一眼レフカメラ用の超広角ズームレンズは大きく重く、使うかどうかわからない撮影に“とりあえず持っていく”には、文字どおり荷が重く、買ってしばらくすると、防湿庫でお留守番というケースが多くなる。その点、HELIAR-HYPER WIDE 10mm F5.6 ASPHERICAL E-mountなら、カメラバッグに入れてもさほどフットワークは鈍らないので、常時持って出掛けられるのが強みだ。

そんなわけで、この小ささで世界最広角の描写が得られるという点に魅力を感じて、予約までして発売日にHELIAR-HYPER WIDE 10mm F5.6 ASPHERICAL E-mountを手に入れたのだった。

で、気になるのが、残るULTRA WIDE-HELIAR 12mm F5.6 ASPHERICAL III E-mountとSUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5 ASPHERICAL III E-mountだ。

3本同時発売ではなく、15mm、12mmの順に順次発売で、ちょうどクレジットを支払い終わったころに、次のレンズが発売され、物欲を刺激されるというコシナの罠だ(笑)。

幸い絶望的に財力が不足していたので、つい最近まで罠にはまらずに済んでいたのだが、たまたまSUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5 ASPHERICAL III E-mountが超お買い得価格で出ていたのを見て、思わずポチってしまい、あとはULTRA WIDE-HELIAR 12mm F5.6 ASPHERICAL III E-mountを手に入れればコンプリートだ。

ちなみに、3本のワイドヘリアーの実測重量は、フロント/リアキャップも含め、計約1,105g。EF11-24mm F4L USMは約1,220gで、これにシグマMC-11を装着すると約1,345gとなる。さすがに、ヘリアー3本まとめて持って歩くなら、EF11-24mm F4L USMにしたほうが開放F値はF4と明るいし、24mmまでカバーしているので有利だが、それでもコンプリートしたくなるのはボクだけだろうか?

ちなみに付属のレンズキャップは、10mmと12mmがかぶせ式でフィルターは装着不可、15mmだけは通常のレンズキャップで、58mm径のフィルターが装着できる。フードはすべてレンズと一体となった固定式。結構フードの角が鋭く、カメラをぶら下げて歩いている際に通行人の手に当たると危険なので、15mmもかぶせ式のレンズキャップを標準品にしてほしいところ(12mm用レンズキャップが流用できる)。

歪曲収差は少なく極端な周辺光量落ちも無し

さて、問題は描写性能。いくらコンパクトで機動性に長けていても、肝心のレンズ性能がいまひとつでは本末転倒だ。

さすがに、“絞り開放から周辺までカリッとシャープな描写”とまではいえないが、4,240万画素のα7R IIで撮影しても、3本とも周辺部の大きな乱れや流れは少なく、カバーしている画角の広さを考えれば、実用上、さほど大きな不満は感じない。また、歪曲収差が非常に少ないこともあって、実際の画角に比べ超広角感をあまり感じないのも特徴だ。

レンズを個別に見ていくと、10mm F5.6は広い画角を確保するため、周辺部で倍率色収差というかパープルフリンジ的な青のはみ出しが気になるケースもあり、総合的な画質では12mm F5.6のほうが安定している感じ。

15mm F4.5は、他の2本よりも被写界深度が浅いので、遠景撮影でもピント位置に気を配る必要はあるものの、周辺部の乱れは少なめだ。

いずれも目を見張るような高解像レンズではないものの、歪みが少なく、周辺描写も自然に解像とコントラストが落ちていく感じで、裏面照射型CMOSセンサー搭載のα7R IIを使っていることもあるが、周辺部での極端な周辺光量落ちや色かぶり(カラーフェリア)はほとんど感じない。

あまりにも当たり前に写るので、じゃじゃ馬的な面白みはなくなったが、その分、自然な超広角描写が得られるのが魅力だ。

※共通設定:α7R II / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE

HELIAR-HYPER WIDE 10mm F5.6 ASPHERICAL
F5.6
F8
F11
F16
ULTRA WIDE-HELIAR 12mm F5.6 ASPHERICAL III
F5.6
F8
F11
F16
SUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5 ASPHERICAL III
F4.5
F5.6
F8
F11
F16

画角が広いだけに太陽など強い光源が画面に入るケースも多くなるが、光源の位置によってはゴーストが目立つこともある(特に絞るとゴーストは小さく明るくなる)が、フレアは少なめだ。絞り羽根は10枚構成で、光条がシャープに出るのも特徴だ。

なお、絞りの操作はボディではなく、レンズ側の絞り環で行う仕様で、絞り環の操作で実際に絞り羽根が閉じたり開いたりするが、ミラーレスのα7シリーズなら絞り羽根が絞られた状態でもEVF表示は明るいまま。

また、前述したようにヘリコイドを回すと拡大MFに切り替わる設定にもできるので、マニュアルフォーカスによるピント合わせもさほど苦ではない。ただ、10mm F5.6だけは被写界深度が思いっきり深く、拡大MFしてもどこがピントの山かわからないほど。なので、ヘリコイドに刻まれた距離指標と被写界深度目盛りを見て、目測でピントを合わせた方が確実かつ快適だ。

HELIAR-HYPER WIDE 10mm F5.6 ASPHERICAL

α7R II / 1/250秒 / F11 / -0.3EV / ISO100 / 絞り優先AE
α7R II / 1/640秒 / F5.6 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE
α7R II / 1/100秒 / F8 / +1EV / ISO100 / 絞り優先AE
α7R II / 1/60秒 / F8 / -0.3EV / ISO500 / 絞り優先AE
α7R II / 1/125秒 / F16 / -0.3EV / ISO100 / 絞り優先AE

ULTRA WIDE-HELIAR 12mm F5.6 ASPHERICAL III

α7R II / 1/500秒 / F5.6 / -1EV / ISO100 / 絞り優先AE
α7R II / 1/125秒 / F11 / -0.3EV / ISO100 / 絞り優先AE
α7R II / 1/60秒 / F11 / +1EV / ISO160 / 絞り優先AE
α7R II / 1/200秒 / F7 / -0.3EV / ISO100 / 絞り優先AE
α7R II / 1/200秒 / F7 / +1.3EV / ISO100 / 絞り優先AE

SUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5 ASPHERICAL III

α7R II / 1/200秒 / F11 / -0.3EV / ISO100 / 絞り優先AE
α7R II / 1/200秒 / F8 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE
α7R II / 1/800秒 / F7 / -0.3EV / ISO100 / 絞り優先AE
α7R II / 1/60秒 / F8 / -0.7EV / ISO1000 / 絞り優先AE
α7R II / 1/200秒 / F7 / +0.3EV / ISO200 / 絞り優先AE

伊達淳一

(だてじゅんいち):1962年広島県生まれ。千葉大学工学部画像工学科卒。写真誌などでカメラマンとして活動する一方、専門知識を活かしてライターとしても活躍。黎明期からデジカメに強く、カメラマンよりライター業が多くなる。