COSINA E-mount WORLD

岡嶋和幸×APO-LANTHAR 50mm F2 Aspherical E-mount

超高性能レンズで集める、銀座の質感

ビルの屋上から交差点を見下ろす。肉眼だと行き交う人びとの様子はよく分からないが、ガラス越しでも鮮明に描写。絞り開放なのに画面の隅々まで緻密に捉え、α7R Ⅳの6,100万画素にもしっかり対応できている印象だ。
α7R IV APO-LANTHAR 50mm F2 Aspherical E-mount ISO 100 F2 1/4,000秒

月刊誌「デジタルカメラマガジン」と連動した本特集は、コシナ・フォクトレンダーがラインナップするソニーEマウント用レンズの個性を写真家とともに見ていく。今回はフォクトレンダー最高性能を謳う標準レンズ「APO-LANTHAR 50mm F2 Aspherical E-mount」を、岡嶋和幸さんのスナップ作品とインプレッションで紹介する。(編集部)

好きなレンズの焦点距離は標準域。50mmの単焦点レンズだけで撮影して開催した写真展も多数ある。若いころは他のレンズを買う余裕がなかったので、50mmで工夫しながらいろいろな表現にチャレンジした。その甲斐あって、これ1本で何でも撮れるという得意のレンズになった。その画角だけでなく、被写体との間合いがちょうど良く感じられ、特にスナップ撮影で選ぶことが多い。

アトリエから徒歩圏内の銀座へ向かう。日ごろからよく撮影をしている見知ったエリアだ。α7R Ⅳに装着したAPO-LANTHAR 50mm F2 Aspherical E-mountは、究極の光学性能を追求したという。それならばと選んだテーマは「ディテール」。街歩きをしながら細部を捉えて、銀座という街を表現(構築)してみようと思った。コシナとして十数年ぶりにMTF曲線を公開するほどの自信作とあれば期待も膨らむ。視点を明確にするため、絞り開放で積極的にモチーフを狙ってみる。

新旧の建築物が集まる銀座。昭和初期の建物の造形美に着目した。ピント位置は質感を鮮明に捉え、前後は滑らかにぼけて立体感がある。開放のF2だと周辺部の玉ボケがレモン型になりやすいが、F2.8まで絞れば解決できる。
α7R IV APO-LANTHAR 50mm F2 Aspherical E-mount ISO 100 F2 1/1,000秒
古き良き時代の銀座が封印された建物。味わいのある階段の手すりなど、レトロな雰囲気が漂っている。視点を浮かび上がらせる自然なボケ。諸収差など目障りな要素は見られない。空気ごと包み込むような素直な描写が好印象だ。
α7R IV APO-LANTHAR 50mm F2 Aspherical E-mount ISO 1000 F2 1/50秒
路地裏を歩くと、ユニークなショップに出合うなどいろいろと発見がある。グラスがたくさん陳列された商店をのぞき込む。標準レンズは自分の視線の延長のように写し取ることができて、モチーフとの距離感を伝えやすい。
α7R IV APO-LANTHAR 50mm F2 Aspherical E-mount ISO 100 F2 1/125秒
古い民家などが残るエリアで生活の息吹を感じ取る。目に留まったモチーフに素早くアプローチできる軽快さと、絞りリングやピントリングといった操作性の良さもこのレンズの魅力だと思った。わずかな後ピンも気になってしまうほどのシャープさだ。
α7R IV APO-LANTHAR 50mm F2 Aspherical E-mount ISO 100 F2 1/250秒

絞りによる変化

絞り開放のF2と、F8に絞り込んで撮影したものを比較。F2は周辺減光こそ現れるが、目障りに感じられる諸収差は確認できない。F8は被写界深度が深い分鮮明に見えるが、ピントが合っている部分はF2も負けず劣らずシャープである。

F2
F8
飲食店が連なる銀座コリドー街。おしゃれなレストランの店先に灯るポーチライトは、指先で直接触れているような錯覚を起こすほど質感描写が見事だ。ボケとシャープネスが絶妙な美しさで対比し、その立体感をリアルに感じられる。
α7R IV APO-LANTHAR 50mm F2 Aspherical E-mount ISO 100 F2 1/640秒
黄色く塗られたブロック塀。垂れ下がる葉っぱの緑との組み合わせに目が留まった。クリエイティブスタイルは「スタンダード」を選んでいるが、「ニュートラル」くらいの方が、このレンズの描写力の良さをより生かせるように思う。
α7R IV APO-LANTHAR 50mm F2 Aspherical E-mount ISO 100 F2 1/500秒
繁華街はガラス張りの新しい建物が多く、洗練された印象。反射する光が目に飛び込んできて、モザイクのようにきれいだったので切り取ってみた。もっと絞り込めばパンフォーカスになるが、これくらいの方が視覚に近く自然だ。
α7R IV APO-LANTHAR 50mm F2 Aspherical E-mount ISO 100 F8 1/250秒
前を通りかかるといつも見上げてしまう、有名なカプセル型マンション。写真に捉えて観察すると、経年変化の様子が細部まで確認できた。掛けられたネットの描写も、線が細く自然なシャープさで、その柔らかな質感が伝わってくる。
α7R IV APO-LANTHAR 50mm F2 Aspherical E-mount ISO 100 F8 1/500秒

軸上色収差を徹底的に抑えた「アポ」(アポクロマート)の名前通り、このレンズは絞り開放でも収差が表現を邪魔しない。絞り羽根は開放のF2だけでなく、1段絞ったF2.8でも円形を保つ特殊な形状で、画面周辺部の玉ボケはF2よりもむしろ良好になる。描写は硬すぎず、柔らかすぎず、絞り全域で自然なシャープさが好印象だ。目にした光が素直に取り込まれるなど"フォクトレンダー史上最高性能"を実感できた。

付属のレンズフードを装着して撮影したが、最初に手にしたとき、そのスレンダーなフォルムがとても気に入った。開放F2だからこそのコンパクトさは、Eマウントカメラの軽快さを損なわない。ピントリングは絶妙なトルク感で、MFアシストやピーキング機能を使えばフォーカシングは快適だ。絞りリングを操作したときの感触も上々である。MF専用だからと敬遠せず、このレンズでの機動力を生かした撮影と、その優れた描写をぜひ味わってみてほしい。

協力:株式会社コシナ

岡嶋和幸

1967年、福岡県生まれ。東京写真専門学校卒業。スタジオアシスタント、写真家助手を経てフリーランスとなる。作品発表のほか、セミナー講師やフォトコンテスト審査員など活動の範囲は多岐にわたる。写真集「ディングル」(SBクリエイティブ)、「風と土」(インプレス)など、著書多数。主な写真展に「ディングルの光と風」(富士フイルムフォトサロン)、「潮彩」(ペンタックスフォーラム)、「学校へ行こう! ミャンマー・インレー湖の子どもたち」(キヤノンギャラリー)、「九十九里」(エプソンイメージングギャラリー エプサイト)、「風と土」(ソニーイメージングギャラリー)などがある。