COSINA WIDE-HELIAR WORLD

大和田良×HELIAR-HYPER WIDE 10mm F5.6 E-mount

世界最広角レンズでスナップショット

超広角の広がりを最大限に生かすには、斜めの線を意識的に使うと良い。特に画面の対角線を使って被写体を捉えると印象的に構成できる。ダイナミックな遠近感により、東京タワーの大きさと高さが強調された。α7R II / F8 / 1/400秒 / -1.3EV / ISO100 / 10mm

月刊誌デジタルカメラマガジンと連動した本特集「COSINA WIDE-HELIAR WORLD」は、コシナがソニーEマウント用にラインナップするフォクトレンダーの超広角レンズ3本(10mm、12mm、15mm)を、3人の写真家が1本ずつ撮影します。第2回は大和田良氏が「HELIAR-HYPER WIDE 10mm F5.6 Aspherical」を手に、渋谷から撮り始めました。

10mmという画角を聞いたときには、その世界がどのように見えるのか予想もつかなかったのだが、いざカメラに装着してファインダーを眺めてみると、意外なほど自然に感じられた。もちろんはじめて見る世界ではあるのだが、しっくりと感覚に馴染むような気がするのだ。学生時代、はじめて28mmを使ったときの違和感のほうが余程強かったように思う。多分、10mmという世界はこれまでの技術的な慣れや感覚を超えているのだろう。ただ身を任せるしかないと、ファインダーを覗いた瞬間に観念したのかもしれない。

はじめはフォーカスアシストや水準器を使ってピントや構図を調整したりもしたのだが、ほどなくあまり意味が無いことに気づき、絞りはF8でピントも固定し、パンフォーカスでひたすら感覚的にスナップすることにした。街を歩きながら、ほとんど考えることなくファインダーを一瞬覗いてシャッターを切る。とにかく無心で写真を大量に撮るという、スナップにおける最も基本的なスタイルが、このレンズには良く似合う。

9時:渋谷駅前〜恵比寿方面

渋谷駅前の再開発の景色を捉える。これだけの広さを1枚の写真に収められることに、10mmという画角の面白さが感じられる。遠景には舞台の書き割りのような独特の立体感が感じられる。順光状態で撮影しているため、色が鮮やかに再現された。

α7R II / F8 / 1/200秒 / -0.3EV / ISO100 / 10mm

ひざ下程度の高さにカメラを下げ、横断歩道を撮影している。縦位置による奥行き感が極めて強く感じられる。シャドウの中に太陽を反射した白線がリズミカルに並び、普段見ている街とは全く違う世界観が描かれているのが分かる。

α7R II / F8 / 1/500秒 / -0.3EV / ISO100 / 10mm
α7R II / F8 / 1/60秒 / -0.3EV / ISO100 / 10mm

触れるような距離まで被写体に寄っても、超広角の世界ではまだ距離が感じられる。近接撮影では、ファインダーではなく背面モニターを確認しながら撮影すると、その距離感がつかみやすい。また被写界深度が深いため、個人的にはピントもほとんど気にする必要は感じられなかった。

α7R II / F8 / 1/250秒 / -0.3EV / ISO100 / 10mm

カメラの側面が金網に触れる距離で撮影している。走る車をアクセントに入れたのだが、ファインダーで確認していると超広角の世界では驚くべき速さで車が小さくなっていく。体感的には車が横に並んだその瞬間にシャッターを切るような感覚だった。

地面すれすれから、歩道橋の階段部分に寄って撮影を行った。空に向かって吸い込まれるような遠近感が印象的だ。順光状態ではない場合、ほとんどのシーンで太陽が画面内に写されるため、どこに配置するのかによって写真の雰囲気や構図が変化する。

α7R II / F8 / 1/320秒 / -1.0EV / ISO100 / 10mm

金網越しに撮影を行った。レンズフードが触れる距離まで接近している部分ではボケが見られる。被写体をある程度大きく写すため、できるだけ近い位置で列車が捉えられるようなタイミングを狙っている。

α7R II / F8 / 1/200秒 / -0.7EV / ISO100 / 10mm

10時:恵比寿駅周辺

画面の対角線上に歩道橋の螺旋階段を捉えている。うねるように伸びる景色には、レンズの描く映像の特徴が良く表れている。シャドウからハイライトまでの描写も良く、細部のディテールを確認することができる。

α7R II / F8 / 1/60秒 / ±0EV / ISO100 / 10mm
α7R II / F8 / 1/250秒 / -1.0EV / ISO100 / 10mm

歩道橋上の手すりから撮影を行った。強烈なパースペクティブにより、手すりの伸びた先へ2つの消失点が表れたような錯覚に陥る。超広角の表現には、まだまだ新たな可能性があることを感じさせる1枚になった。

狭い路地の風景を捉えることで、都市の空の狭さをより強調できた。太陽の反射によっていくつかの光芒が表れ、画面にリズムを与えている。F8でも十分長い線を描くが、さらに絞るとより光芒が強調されるだろう。

α7R II / F8 / 1/250秒 / -1.0EV / ISO100 / 10mm

12時:東京ゲートブリッジ

α7R II / F8 / 1/500秒 / -0.7EV / ISO100 / 10mm

太陽がちょうど構造に隠れる位置で撮影することで、深い空に浮かび上がるような姿を捉えられた。海に反射した光が一部を照らし、印象的な模様を描いている。力強く伸びる硬い線が描かれている。

α7R II / F11 / 1/500秒 / -1.0EV / ISO100 / 10mm

特徴的な東京ゲートブリッジの構造を橋上で捉えた。マイナス補正を行い、空を暗く落とすことで逆光の輝きが鮮明に感じられる。遠くには小さく写る飛行機が見える。画面の四隅を意識しながらフレーミングを少しずつ変えて撮影した。

協力:株式会社コシナ

大和田良

(おおわだ りょう):1978年宮城県生まれ。東京工芸大学大学院芸術学科研究科卒業。2005年、スイス・エリゼ美術館「reGeneration.50 Photographers of Tomorrow」展に選出。ドイツのLUMASギャラリーなど国内外で作品発表。2007年、初の写真集『prism』を青幻舎より刊行。2010年、フォトエッセイ『ノーツ オン フォトグラフィー』をリブロアルテより刊行。雑誌、広告媒体などでも活躍しつつ、個展やグループ展などを多数開催。独自の作品を発表し続けている。東京工芸大学非常勤講師