COSINA E-mount WORLD
小林哲朗×MACRO APO-LANTHAR 110mm F2.5 E-mount
色収差を徹底除去 "アポ"の威力を工場夜景で実感
2018年12月20日 07:00
月刊誌「デジタルカメラマガジン」と連動した本特集は、コシナ・フォクトレンダーがラインナップするソニーEマウント用レンズの個性を見ていく。今回は久しぶりの"アポ・ランター"銘を冠した中望遠レンズ「MACRO APO-LANTHAR 110mm F2.5 E-mount」を、小林哲朗氏の工場夜景作品とインプレッションで紹介する。(編集部)
川崎の工場夜景を撮り歩く
近景と遠景のバリエーションが豊富な川崎を主な撮影地として選んだ。普段は撮影ポイントに合わせてレンズを選択することが多いが、今回は110mmという本レンズの焦点距離に合わせて撮影地を選択した。これは一見制約のようにも思えるが、普段は目に入っていなかった被写体や撮影ポイントも見えてきて、結果的に撮影の幅が広がることとなった。
色収差を徹底的に除去している本レンズでは、工場・プラントの金属や錆の質感を限りなくリアルに表現できる。α7R IIIの有効約4,240万画素でも非常にきめの細かい線を描ききっている。まるでそこに実物があるかのような質感描写に驚いた。
さっと構えた時に、縦構図でちょうど収まりの良かったプラントの赤白模様に夕日があたり、陰影がついているのが魅力的だ。開放のF2.5でも十分な解像力なので、被写界深度がいらない状況では絞り込む必要がない。
夕日が沈みゆく瞬間、手前のススキが逆光で美しいシーン。ススキは前ボケにして奥の方の煙突と水蒸気にピントを合わせている。AFだとススキや手前の電柱にピントが合ってしまうが、MFの操作がしやすい本レンズでは、狙った位置に素早く正確にピントを合わせられた。
夕日が沈み切り、夜へと向かう夕闇の時間帯。1日に数十分しかないグラデ―ションが美しい空だ。三脚なしでどこまで撮れるかと思い、橋の欄干に肘をついて手持ちで撮影。本レンズはα7R IIIのボディ内5軸手ブレ補正も利用できるので、高解像が得られた。
リフレクションの筋が美しかったので、縦構図で海面を多めに入れた。シャッタースピードが短いと海面の揺らぎが止まって写り、少しざらついた感じになるので、長時間露光で水面を均すように写した。
使い勝手がいいので忘れてしまいそうになるが、これはマクロレンズ。最短撮影距離を気にせず近接撮影できるのは大きな利点だ。手前のものにピントを合わせると背景が適度に分かるボケ具合だったので、後ろのプラントの形も意識して構図を考えた。
逆光の草、金網、プラントが層になっているポイントがあったので、ローアングルで撮影してみた。今まであまり考えたことがなかった、昆虫の目線で見たような工場夜景だ。
絞りと光条
絞り開放で前ボケをうまく使うと、工場のフェンスを消すことができる。フェンスに光が当たっていると消えにくいので、暗い所を選んで撮影する。絞り開放でも解像力は十分なので、フェンスの向こうのパイプの表面も、十分に質感を表現できている。
このレンズは絞り羽根が10枚なので、絞り込むと10本の光の筋が伸びる(奇数枚だと羽根の数の2倍になる)。光源を中心として均等に筋が伸びるので、とても美しい光条が得られる。絞りリングを回しながらライブビュー画面でダイレクトに効果を確かられるのもメリットだ。光の筋は絞り込むほどに伸びるが、シャッタースピードが長くなり、小絞りボケが出る可能性もあるため注意したい。
前ボケ/後ボケ
パンフォーカスでなるべくボケないように撮ることが多い工場夜景だが、ボケ味が美しい本レンズでは、積極的にボケも入れたくなる。前ボケと、後ボケで簡単に主題を入れ替えられる効果がある。前後のボケのどちらか迷ったときはどちらも撮っておいて、家でじっくり見比べると良いだろう。
次への撮影意欲が高まるスペシャルなレンズ
本レンズは高い解像力を持ち、質感を重視する工場夜景には打ってつけだと言える。特に絞り開放での描写力には驚いた。シャープな描写を得るために絞り込む必要がないのでシャッタースピードを短くでき、ブレのリスクや撮影時間の短縮に貢献してくれる。また逆光にも強く、ゴーストやフレアの心配をしなくていいので、自由なポジション取りができるのも魅力だ。
110mmという焦点距離も使ってみれば絶妙で、近接、近景、遠景とポジションによってあらゆるバリエーションを撮影可能だ。フォーカスリングと絞りリングの操作も快適で、自分自身が撮影しているという満足度があり、次の1枚への撮影意欲も高まるスペシャルなレンズと言えるだろう。
協力:株式会社コシナ