比較レビュー

ライカSL2とSL2-S、どちらを選ぶか?

静止画ユースで実写比較

ライカカメラ社のフルサイズミラーレス機といえばライカSL2とSL2-Sだが、購入に際してどちらを選ぶべきか迷っている人もいると思う。そこで、今回は両機の何が違って何が同じなのかを比較検証してみたい。なお、両機は動画性能も若干異なるが、今回は静止画性能のみにフォーカスした。

まずはそれぞれの簡単なプロフィールから。

ライカSL2
撮像素子:ローパスフィルターレス有効4,730万画素CMOS
設定可能感度:ISO 50〜50000
電子シャッター:1秒〜1/40,000秒
AE/AF追従時連写速度:最高6コマ/秒
AE/AF固定時連写速度:メカ=10コマ/秒、電子=20コマ/秒
動画性能:5K 29.97fps、C4K/4K 59.94fps、FHD 180fps 10bit内部記録可能
発売:2019年11月
価格:税込89万1,000円
ライカSL2-S
撮像素子:ローパスフィルターレス裏面照射型有効2,400万画素CMOS
設定可能感度:ISO 50〜100000
電子シャッター:60秒〜1/40,000秒
AE/AF追従時連写速度:最高5コマ/秒
AE/AF固定時連写速度:メカ=9コマ/秒、電子=25コマ/秒
動画性能:C4K/4K 59.94fps、FHD 180fps 10bit内部記録可能
発売:2020年12月
価格:税込66万円

主に異なるところのみ記してみた。画像処理エンジンのMAESTRO IIIや、補正効果5.5段の5軸手ブレ補正機構の内蔵、最高1/8,000秒・シンクロ最高1/250秒までのメカシャッター、4GBのバッファメモリー、UHS-II対応デュアルSDカードスロット、576万ドットOLEDパネルのEVFなどは両機とも共通だ。

外観

まずは外観の違いから。どちらも形状は同じで、アルミとマグネシウムという外装素材も共通。-10〜+40度までの耐環境性能やIP54に対応した防滴性能も同じだ。

違うのはボディ正面の「LEICA」表記がSL2は白文字、SL2-Sは黒文字になっていることと、アクセサリーシュー上部の機種名表示も同様にSL2は白、SL2-Sは黒になっている。あと、SL2-Sにのみ撮像素子位置を示すΦ表示が付いている。

重量はSL2が835g(バッテリーなし時)なのに対してSL2-Sは850g(同)と、ちょっとだけ重い。

SL2-Sは、おでこの「LEICA」表記が黒文字。単に白塗料を省いたわけではなく、ちゃんと黒い塗料で墨入れされているのは芸が細かい。
アクセサリーシュー上部の機種名表示もSL2だけ白文字になっている。
撮像素子の位置を示すマークはSL2-Sのみ付いている。SL2発売後にマークが必要という要望があったのだろう。

解像力

解像性能に関しては、レンズが同じなら画素数の勝負になるので、当然ながら4,730万画素のSL2の方が2,400万画素のSL2-Sより解像性能は高い。横位置で撮影した画像を縦位置にするといった大胆なトリミングをよく行うのであれば、選ぶべきはSL2だ。とはいえSL2-Sの2,400万画素を半分にトリミングしたとしても1,200万画素は残るから、A3プリントはイケると思う。

※レンズは「ライカ アポ・ズミクロンSL F2/50mm ASPH.」を使用(F5.6)。

解像比較
以下の画像は赤枠部分の切り出し
カメラ内JPEGより。上:SL2等倍切り出し 下:SL2-Sの同部分を上に合わせて拡大(クリックすると原寸画像を表示)
RAW現像したTIFFより。上:SL2等倍切り出し 下:SL2-Sの同部分を上に合わせて拡大(クリックすると原寸画像を表示)

話はちょっとそれるが、今回の比較撮影をして気がついてのはJPEG画像に対するモアレ処理についてだ。どちらもローパスフィルターレスなので、モアレ発生時は自動的にモアレを軽減する画像処理が発動すると思われるが、画素数の違いもあってSL2でモアレが発生してもSL2-Sでは発生しない(もちろんその逆も)こともある。当然ながらモアレの軽減処理が行われた場所は解像が少し甘くなるので、たまたまその場所同士で比較するとSL2よりもSL2-Sの方が解像が良いなんてこともある。ただし、モアレの軽減処理が行われるのはJPEG画像のみで、RAW画像はそのままなので、RAW画像をチェックすればモアレ軽減の画像処理がかかったかどうかを確認することができる。

モアレ軽減処理のチェック
以下は、赤枠で示した付近の等倍切り出し。枠内はJPEGでモアレ処理が行われたと思われる箇所。RAW画像ではモアレは見えるが解像は落ちていない。
カメラ内JPEGより
SL2
SL2-S
RAW現像したTIFFより
SL2
SL2-S

回折現象の起きやすさ

レンズの絞りは露出や被写界深度をコントロールするために存在するが、絞り込みすぎると回折現象による解像性能の低下が発生する。回折現象は画素サイズが小さくなるほど発生しやすくなると言われているので比べてみた。なお画素サイズはSL2が4.3μm、SL2-Sは5.94μm。同じセンサーサイズなら高解像度なSL2の方が当然ながら各画素は小さい。

結果はご覧の通りで、どちらもF11から回折の影響が出始め、F16、F22と絞り込むに従って回折による解像低下が明確になる。比較という意味では画素サイズの大きいSL2-Sの方がやや軽微ではあるが、画素数により拡大率の違いを考慮すると、SL2とSL2-Sで明確な回折の違いはないと感じた。テスト前はもっと違いが出るのでは?と思っていたが、あまり変わらないという結果だ。

※レンズは「ライカ アポ・ズミクロンSL F2/50mm ASPH.」を使用。

ライカSL2
F2
F2.8
F4
F5.6
F8
F11
F16
F22
ライカSL2-S
F2
F2.8
F4
F5.6
F8
F11
F16
F22

ダイナミックレンジ

ダイナミックレンジ=階調の再現幅については、これも画素サイズが大きい方が画素あたりの受光面積が広いので有利と言われている。とはいえ、メーカーごとの画作りは機種が異なっても共通なことが多いため、実際には画素ピッチが大きいから階調再現がテキメンに良いということにはなりにくい(画素数に関係なく階調特性を揃えているため)。

そこで、輝度差の大きいシーンで適正露出、1段オーバー、2段オーバー、3段オーバーの4カットをRAW撮影。当然ながらオーバー露出で撮影したカットは白飛びが発生するが、Adobe Camera Raw現像時に「ハイライト」スライダーのみを使って、どれだけハイライトの階調が適正露出カットに近づけられるかを比べてみた。

※レンズは「ライカ アポ・ズミクロンSL F2/28mm ASPH.」を使用(F8)。

ライカSL2

ハイライト調整前
適正露出
1段オーバー
2段オーバー
3段オーバー

以下はCamera Raw現像時に「ハイライト」スライダーのみを使ってどれだけハイライトの階調が適正露出カットに近づけられるかを試みた結果だ。

1段オーバーから復元
ハイライトスライダーを-48に調整。ハイライト部の階調はほぼ復元できている。ハイライトのみの調整なのでやや眠いが、シャドー部を落とすなど手を入れれば適正露出と変わらない画像にできそう。
2段オーバーから復元
ハイライトスライダーを-88に調整。こちらもハイライト部の階調はほぼ復元できている。
3段オーバーから復元
さすがに3段オーバーになるとハイライトスライダーを最大の-100にしても白飛びは解消できなかった。露光量を下げるなどまだ手はあるが、ハイライト調整だけでは無理なことがわかる。

ライカSL2-S

ハイライト調整前
適正露出
1段オーバー
2段オーバー
3段オーバー

以下はCamera Raw現像時に「ハイライト」スライダーのみを使ってどれだけハイライトの階調が適正露出カットに近づけられるかを試みた結果だ。

1段オーバーから復元
ハイライトスライダーを-41に調整。ハイライト部の階調はほぼ復元できている。
2段オーバーから復元
ハイライトスライダーを-76に調整。ハイライト部の階調はほぼ復元できている。
3段オーバーから復元
ハイライトスライダーを最大の-100まで動かしたが、ハイライト部の白飛びは解消できなかった。

SL2、SL2-Sのどちらも2段オーバーまではほぼ大丈夫だが、3段オーバーになるとハイライトスライダーだけでは階調を戻せず、唐突な白飛びになることがわかった。ただ、ハイライト補正を施したそれぞれの3段オーバー画像を子細に比べてみると、わずかであるがSL2-Sの方が階調が戻せているようだ。ただ、あまりに微細な差なのでこれをもってして“階調はSL2-Sの方が優秀!”とは言いがたい感じ。点数をつけるとしたら53対47くらい。本当に微差だ。

なお、ダイナミックレンジの比較と言いつつ、ハイライト側に限定した検証となったが、階調再現で気になることが多いのはシャドー側よりもハイライト側であること多いため、今回はハイライト側の検証に限定した。

高感度画質

高感度時の画質についても画素サイズが大きい方が有利と言われているが、SL2とSL2-Sの場合はどうだろうか。ノイズリダクション初期設定のままJPEG同士で比較してみた。

結果はご覧の通りで、SL2よりSL2-Sの方がノイズ量、NRによるディテール損失ともに控えめに見ても1段以上は優れていると感じた。高感度時のノイズ量とNRによるディテール損失をどこまで許容できるかは使う人次第だが、個人的な感覚では例えばA3サイズプリント前提の場合ならSL2はISO 6400、SL2-SはISO 12500までならノイズを気にせず行けると感じた。

※レンズは「ライカ アポ・ズミクロンSL F2/28mm ASPH.」を使用(F5.6)。

ライカSL2
ISO 50
ISO 100
ISO 200
ISO 400
ISO 800
ISO 1600
ISO 3200
ISO 6400
ISO 12500
ISO 25000
ISO 50000
ライカSL2-S
ISO 50
ISO 100
ISO 200
ISO 400
ISO 800
ISO 1600
ISO 3200
ISO 6400
ISO 12500
ISO 25000
ISO 50000
ISO 100000

Mレンズの対応力

MマウントレンズをLマウントカメラに装着するためのライカ純正マウントアダプター「ライカMアダプターL」を使用し、Mレンズを装着したときの画質を比べてみた。

SL2、SL2-Sの両機はボディ内にMレンズのプロファイルが内蔵されており、6bitコード付きのMレンズを装着した場合は自動的にプロファイルが適用される(ライカMアダプターLには6bitコードを伝達する仕組みが備わっている)ほか、6bitコードなしのレンズの場合はメニューから該当レンズのプロファイルを手動で当てられるようになっている。プロファイルを使って補正するのは歪曲収差と周辺光量だ。

エルマリートM f2.8/28mm ASPH.

まずは現行の1つ前のエルマリート28mmで検証してみた。こちらは6bitコード付きレンズなので、両機とも自動でプロファイルが適用された。

これを見ると、SL2-Sの方は周辺部で若干のマゼンタシフトが感じられる。AWBの振れかと思いケルビン値を確認したが、ほぼ同値だったので、これはカメラごとの特性と考えられる。単純に周辺部の色かぶりという点ではSL2の方が優れている印象だ。

SL2
SL2-S

ズミルックスM f1.4/75mm

中望遠のズミルックス75mmでも比べてみたが、こちらは有意な差違は認められなかった。古いフィルム全盛時代のレンズなので、デジタルで使うとそれなりに色収差が発生するが、その程度もSL2とSL2-Sで大差ない。

SL2
SL2-S

電子シャッター時のローリング歪み

SL2は1秒〜1/40,000秒、SL2-Sは30秒〜1/40,000秒までの電子シャッター機能を備えている。晴天時に絞り開放気味で撮りたい時など、メカシャッターの上限である1/8,000秒を超える高速シャッターが使えるのは便利だ。

そんな電子シャッターだが、現時点ではどのメーカーも全画素を同時に読み取る方式ではなく、撮像素子の端から順次読み取る方式のため、多かれ少なかれどうしてもローリング歪みが発生する。そこでSL2とSL2-Sで歪み量が違うのかを比べてみたが、どちらもローリング歪みの程度は同じくらいで、差はほとんどなかった。

※共通設定:シャッター速度1/400秒、ISO 6400

SL2
SL2-S

連写AF

フルサイズミラーレス機を作っている多くのメーカーでは、24メガくらいの標準的な画素数モデルと40〜60メガくらいの高解像度モデルを兄弟機としてラインナップしているが、その場合、画素数が少ないモデルの方が連写コマ速に優れていることがほとんどだ。

しかし、SL2とSL2-Sの関係性はそうではない。メカシャッター時の連写速度は高画素モデルのSL2が10コマ/秒に対して、SL2-Sは9コマ/秒と、僅かだが遅い。また、AEとAFが追従する連写速度もSL2が6コマ/秒に対してSL2-Sは5コマ/秒と1コマの差がある。唯一、SL2-Sが勝るのは電子シャッター時のコマ速で、こちらはSL2が20コマ/秒なのに対し、SL2-Sは25コマ/秒だ。そこで、実際には両機で連写性能がどれだけ違うのかを検証してみた。

実際に動きモノを撮影するときはやはりAEとAFが追従することが重要なので、プラレールを使って正面から向かってくるおもちゃの電車をコンティニュアスAFで追いつつ、同一区間内で何枚撮れるかを比べてみた。前述したとおり、AE/AF追従時の最高コマ速はSL2が6コマ/秒、SL2-Sは5コマ/秒だ。

プラレールの撮影は超単純だがコマ間の被写体移動量が大きいため、カメラにとっての難易度は意外と高い。以前に国内メーカーの5機種くらいで同様の比較を行ったが、ピントを合わせきれない機種が続出した意地悪テストである。結果は両機とも撮影枚数は17枚で一緒だったが、ピントの歩留まりはSL2-Sの方がSL2よりもやや良かった。スペック的には分が悪いSL2-Sだが、今回のような条件ではSL2よりAF連写能力は僅かに高いようだ。

※レンズは「ライカ アポ・ズミクロンSL F2/50mm ASPH.」を使用(F2・1/1,600秒・ISO 6400)。

ライカSL2
ライカSL2-S

※編注:このテストはライカSL2-Sのファームウェア2.0公開前に実施しました。最新バージョンの更新内容には「アルゴリズムを改良したオートフォーカス」が含まれています。

まとめ

テストを行う前はそれぞれの機種の強みがもっと明確に差になって現れると思っていたが、実際はそうではなかった。確かに解像性能関係ではSL2が強く、感度やダイナミックレンジはSL2-Sが強いという結果ではあるが、絶対的な解像能力の違いはともかく、それ以外の回折や感度、ダイナミックレンジについては思っていたよりもずっと微差であり、正直「あれ、これくらいしか違わないんだ」という印象。

こうなるとSL2の高画素が魅力的に思えてくるし、それぞれの項目の差を考慮すると、高画素なSL2が意外とオールマイティであることが分かった。一般的に標準画素数機と高画素機では、それぞれに違った性格付けがされていると思うが、SL2シリーズの場合はどちらも性格はかなり近い。であるならば、動画撮影機能は気にせず、両機のどちらを選ぶべきか迷った場合は、トリミング耐性を求めるかどうかだけで選んでしまっても良いような気がする。

河田一規

(かわだ かずのり)1961年、神奈川県横浜市生まれ。結婚式場のスタッフカメラマン、写真家助手を経て1997年よりフリー。雑誌等での人物撮影の他、写真雑誌にハウツー記事、カメラ・レンズのレビュー記事を執筆中。クラカメからデジタルまでカメラなら何でも好き。ライカは80年代後半から愛用し、現在も銀塩・デジタルを問わず撮影に持ち出している。