比較レビュー
ライカM10-PとライカM10-R、どちらを選ぶか?
スペックと実写画像で比較
2021年7月22日 09:00
ライカMシステム(通称M型ライカ)は、1954年から続くレンジファインダーシステムカメラだ。初代M型ライカ、ライカM3から現代まで基本的なデザインは踏襲されている。そのため“ライカ”といえばM型ライカを思い浮かべる人も多いだろう。
現在の中心モデルは、デジタルのライカM10シリーズだ。ライカM10-Dは背面モニターを持たず、ライカM10モノクロームはその名の通りモノクロ専用機なのでやや特殊。多くはライカM10、ライカM10-P、ライカM10-Rの中から選ぶことになるだろう。
ライカM10シリーズを画素数で分類すると、次のようになる。
2,400万画素
・ライカM10
・ライカM10-P
・ライカM10-D(背面モニターなし)
※ライカM10のブラックとシルバー、ライカM10-Pのシルバー、ライカM10-Dは製造中止(2021年7月時点)
4,000万画素
・ライカM10-R
・ライカM10モノクローム(モノクロ専用)
それでは2,400万画素のM型ライカと4,000万画素のM型ライカは、実用上でどんな違いがあるのだろうか。今回は購入検討のひとつの判断材料として、ライカM10-PとライカM10-Rを実写比較してみた。主に使用したレンズは、極めて高い解像力を誇る「ライカ アポ・ズミクロンM f2/50mm ASPH.」だ。
登場機種の説明
ライカM10-P
ライカM10-PはライカM10のプロフェッショナル機として登場したモデルだ。前面に赤丸のライカバッジがなく目立たないルックスが、控えめで“プロ向け”とされている。機能面では、ライカM10と比べて静音化されたシャッターと、タッチパネル式の背面モニターを装備する(これはライカM10-Rも同じ)。
データ量と連続撮影性の違い
しかし画素数が異なるので、データサイズは大きく異なる。2,400万画素のライカM10-Pは、JPEGが10MB前後(1枚あたり。以下同)、DNG形式のRAWでは28MB前後になる。それに対し4,000万画素のライカM10-Rは、JPEGが18MB前後、DNGでは45MB前後だ。そのため連写速度は、データシート上でライカM10-Pは5コマ/秒、ライカM10-Rは4.5コマ/秒と、わずかにライカM10-Rが遅くなる。とはいえ実際に連写しても、0.5コマ/秒の差はわからなかった。
またバッファメモリーはどちらも2GB。連続撮影可能枚数は、データシート上でライカM10-Pが16枚、ライカM10-Rが10枚となっている。JPEGとDNGの同時記録で試してみたところ、ライカM10-Pは24枚、ライカM10-Rは7枚まで通常速度で連写できた(UHS-IのハイエンドクラスのSDカードを使用)。
これだけ見ると、連続撮影性は2,400万画素のライカM10-Pが有利だ。しかしM型ライカというカメラそのもののキャラクターを考えた時、連続してシャッターを切り続けるシーンはあまりないのではないか。筆者自身も長年M型ライカを使っているが、連写が必要になったのは記憶にない。1枚1枚撮っているならレスポンスの違いは感じられなかった。
実写:画質はどう違う?
いよいよ、画質の違いだ。解像力は当然4,000万画素のライカM10-Rが高い。撮影後にパソコンで拡大すると、細かい部分までしっかり解像している。ライカM10-Pも十分なほどの解像力を持っているが、画素数が多いメリットとして、ライカM10-Rはその上を行っている。
それでは画素数が多いことによる画質のデメリットは何だろうか。一般的に言われていることとして思い浮かぶのは、ダイナミックレンジが狭まり、“高感度に弱い”という部分だろう。ところが実写の結果、ライカM10-RのダイナミックレンジはライカM10-Pより広かった。明暗差が大きい条件で試したところ、ハイライトもシャドーもライカM10-Rの方が階調豊かだった。
さらに高感度も優秀だ。同条件で比べると、私見でライカM10-PはISO 6400まで常用できるのに対し、ライカM10-RはISO 3200が常用できる。約1段分不利ではあるが、画素数の違いを考えれば差は小さい。また、JPEGの色もわずかに異なる。ライカM10-Pは派手ではないが華やかさがある印象。それに対しライカM10-Rは落ち着いた雰囲気だ。広い階調再現と共に、まったりした写りをする。ライカM10-Rは、画素数が多いことによる画質のデメリットをほとんど感じなかった。ライカM10-PのベースとなるライカM10の発売からライカM10-Rの発売までは3年半の期間があり、その間の撮像デバイスや画像処理の進化が影響しているように感じる。
※特記なき場合、カメラで生成されたJPEGデータを掲載しています。
解像力
絞りはF5.6。2,400万画素のライカM10-Pも高い解像力だが、やはり4,000万画素を持つライカM10-Rは驚くほど細密な写りだ。甘さが全くない。
絞りF8で木の葉にピントを合わせた。ライカM10-Rはとてもシャープで、葉の1枚1枚がはっきりしている。ライカM10-Pも決して劣っているわけではなく、ライカM10-Rと比べるとエッジが立っていない優しい写りと言える。
ダイナミックレンジ
晴天の逆光。ライカM10-RはライカM10-Pより空の青が出ていて、シャドー部の階調も広い。コントラストが低いようにも感じる写りだ。ライカM10-Pはシャドーが締まっていてメリハリがある。感度は共にISO 100。
曇り空でダイナミックレンジを比較。やはり空の階調はライカM10-Rの方が出ている。しかしライカM10-PもDNGで撮影し、現像時にハイライトやシャドーを調整すれば、十分に広い階調表現が得られる。感度は共にISO 100。
高感度
各感度で撮影してみた。ライカM10-PはISO 6400でも常用できる印象。ISO 12500も拡大しなければ実用的だ。ライカM10-RはISO 3200が常用域。ISO 6400も実用範囲内だ。ISO 12500はノイズが目立ち、高感度を感じさせる。どちらも感度を上げてノイズが出てきてもディテールは潰れない。
考察:比較を踏まえて
高解像度でトリミング耐性もあり、ダイナミックレンジも広い。ではライカM10-RがライカM10-Pより有利なのかといえば、必ずしもそうとはいえない。ライカM10-Rも含め、M型ライカにはAFも手ブレ補正もないのだ。レンジファインダーカメラの二重合致式距離計で正確にピントを合わせるのは神経を使う。外付けEVFのライカビゾフレックスを装着してミラーレスカメラのように扱う方法もあるが、せっかくのレンジファインダーカメラなのでトラディショナルな使い方をしたい。ライカM10-Pではピントが合ったと思った瞬間にシャッターを切っていたが、ライカM10-Rは高解像度ゆえ慎重になり、ピントが合ったと思っても再度確認しながらの撮影だった。
また、それぞれを等倍表示する場合、高解像度機はブレにもシビアになる。ライカM10-Pではしっかり構えれば1/30秒でもブレずに撮ることができたが、ライカM10-Rは少し気を抜いただけで1/125秒でもブレてしまった。1/60秒より遅くなると、とてもブレやすくなる。ライカM10-Rは高感度に強いので、想定する鑑賞サイズによって手ブレが心配になる場合は、積極的にISO感度を上げて高速シャッターを得るのがポイントだと感じた。
4,000万画素だとレンズの性能も気になってくる。常に最高峰のアポ・ズミクロンを使わなければいけないのか。そこで筆者が常用しているズミルックスM f1.4/50mm ASPH.(2006年発売。現行品)とも比較した。たしかにアポ・ズミクロンの方が解像力は高くシャープだ。しかしズミルックスも決して大きく劣っているわけではないので、現行のライカMレンズなら安心して使えるだろう。
レンズ比較
ライカM10-Pで絞りを開けた比較。ズミルックス絞り開放での被写界深度の浅さが目立つ。アポ・ズミクロンの絞り開放は、ズミルックスのF2より解像力が高くシャープな印象。コントラストも高く、カッチリした写りだ。
ライカM10-Pで絞りはF5.6。ここまで絞ると、2,400万画素では大きな差は感じられない。椅子の座面がわずかにアポ・ズミクロンの方がシャープに見える程度だ。
ライカM10-Rで絞りを開けた比較。ズミルックスは絞り開放だとピントが外れた部分がソフトだ。F2にするとシャキっとしてくるが、アポ・ズミクロンはさらにエッジが立っていて立体感がある。柔らかさのある写りが好みならズミルックス、キレ味を求めるならアポ・ズミクロンだ。
ライカM10-RでF5.6に絞った比較。椅子の座面を拡大すると、極端な差ではないもののアポ・ズミクロンがシャープだ。4000万画素を生かすにはついアポ・ズミクロンを使いたくなるが、ズミルックスも劣っているわけではなく、安心して使える。
どちらを選ぶ? 決め手は?
それではライカM10-PとライカM10-Rは、どんな人に向いているのだろうか。ライカM10-Pはミラーレスやデジタル一眼レフでも主流の2,400万画素で、一瞬を狙うスナップから風景まで幅広く対応できるモデルだ。正面にライカの赤バッジがなく、クラシカルなので街中でも目立たない。ライカM10と並ぶ、M型ライカで最も扱いやすいスタンダード機だ。
対するライカM10-Rは、高い解像力と広いダイナミックレンジを生かした写真が撮りたくなる、都市を含む風景やポートレートに最適だ。またトリミングを活用した使い方もできる。レンジファインダーは望遠レンズによる撮影が苦手とされ、ズームレンズもない。そこでトリミングで構図を作る場合に4,000万画素が有効だ。画面の一部を切り取っても十分な解像度が得られる。大きなプリントを制作する予定であれば、高解像度はそれだけ有利だ。
ライカでトリミングというのは、人によっては抵抗感があるかもしれないが、アンリ・カルティエ=ブレッソンの名作「サン=ラザール駅」は、望遠レンズが手元になかったためトリミングしている。またWユージン・スミスもトリミングを多用していた。特に、高解像度となり画質の劣化が目立つことなくトリミングできるのは、最新カメラらしい使い方だといえるので便利に活用したい。撮りたいと思ったときにシャッターを切って、後で画面を調整する。そうしたシャッターチャンス優先の撮り方もライカらしいと言えよう。
スタンダードなライカM10-Pと高解像度なライカM10-R、どちらもライカならではの撮影フィーリングと高い画質が楽しめる。上記のポイントを踏まえて、自分の撮影スタイルや作品づくりに合ったモデルを選ぼう。
作品
ライカM10-P
ドーム状の奥の建物に光が当たっているのを見つけた。撮りたいと思ったらすぐにカメラを構えて撮影できる。その軽快さがライカM10-Pの魅力だ。またダイナミックレンジの広さはライカM10-Rに譲るものの、実用的には全く不満がないレベルだ。
2,400万画素でも、F2の絞り開放でのピント合わせはシビア。しかし4,000万画素ほど神経質になる必要はない。ライカM10-Pの距離計は精度が高く、狙ったボトルにピントが合わせられた。
2.400万画素でもアポ・ズミクロンの解像力の高さは存分に感じられる。黄色い花が実に細かく描写されていて、浮かび上がってくるようだ。
中腰になってカゴに近づいた。シャッター速度は1/60秒。手ブレ補正がなく、不安定な体勢でもライカM10-Pはブレずに撮ることができた。
ライカM10-Pでシャッター速度は1/30秒。しっかり構えれば、手持ちでもブレずに撮れる。これより遅くなると、さすがにブレる確率が非常に高くなる。
日が傾いて薄暗くなっていたので、ISO 800に設定した。ライカM10-PはISO 800ならばノイズがほとんど気にならない。階調再現も良好なので、シャッター速度が遅くなりそうだったら迷わず感度を上げるのがおすすめだ。
ライカM10-PのISO 6400。拡大すれば高感度を感じるが、不自然さはない写りだ。ノイズリダクションによるディテールが溶けてしまうようなこともない。またノイズはフィルムの粒子を思わせる雰囲気なのもライカらしい。
ライカM10-R
光が当たった木の枝の1本1本を解像し、背景の建物の階調も出ている。ライカM10-Rの高い解像度と広いダイナミックレンジが威力を発揮した。
木の質感が見事に再現されていて、リアリティのある写りだ。しかしF8に絞っても、拡大するとわずかに被写界深度が外れただけでピントが合っていないのが目立ってくる。4,000万画素のシビアさもわかる。
光が当たっているところと当たっていないところの明暗差が大きい条件。ライカM10-Rはハイライトの階調も再現しながらシャドーもよく出ている。そのため見た目の印象に近い写真になった。
水面の質感とシャープに再現された植物。ライカM10-Rらしさを狙った。風景やポートレート、さらに被写体の質感を狙った街のスナップにも使いたいカメラだ。
4,000万画素でMF。しかも絞りF2を二重合致式で合わせるのは、2,400万画素のライカM10-Pよりさらにシビアだ。距離計をよく見ながら人形の指にピントを合わせた。距離計の精度の高さも驚きだ。
昔、手持ちの限界は「1/焦点距離 秒」が目安と言われていた。50mmなら1/50秒だ。しかし4,000万画素もあると、1/50秒でもブレが見えやすい。ここではISO 800に設定し、1/250秒を確保。高感度を活用することで4,000万画素でも街のスナップが楽しめる。
画素数が増えると高感度が苦手になると考えがち。しかしライカM10-Rは高感度でもノイズが少ない。またライカM10-Pと同様に、ノイズが出てもディテール再現に優れ、ノイズもフィルムの粒子のようで不自然さがない。