私はこれを買いました!

過去10年で1番のお気に入りレンズ

Voigtländer ULTRON 27mm F2 X-mount(豊田慶記)

年末恒例のお買い物企画として、写真家・ライターの皆さんに、2023年に購入したアイテムをひとつだけ紹介していただきました。(編集部)

カメラに取り付ける前から楽しみを与えてくれるレンズ

コシナのVoigtländer(フォクトレンダー)ブランドレンズ「ULTRON27mm F2 X-mount」が今年のというか、過去10年では間違いなく1番のお気に入りです。

このレンズはCP+2023で開発発表されてから、ずっと気になっていた1本でした。職業柄、皆さんよりも一足早くテストすることが出来ましたが、その機会を「運命の出会い」とするか、あるいは「運の尽き」とするかは人それぞれあると思います。

当時のインプレメモをチェックしてみると「レンズをカメラに取り付ける前から楽しいのは、一体どのくらい振り?」というメモ書きがありました。実際に箱から取り出して、順当に最新世代であるX-T5と組み合わせるか、電気通信非対応ではありますが従来機種のX-Pro2と組み合わせるか、についてウッカリ真剣に考えてしまったことを白状しておきます。

もちろんお仕事なのでX-T5と組み合わせて一通り撮影しましたが、撮影効率や目的以外の観点で「どちらのボディと組み合わせよう?」という気持ちになる事がここ数年無かったので、「今日はどちらのボディにULTRONを付けようか?」と考える事はとても新鮮でした。

軽く体力測定がてらに、いつものコースで描写特性のチェックをしてみると、最新世代のレンズらしく基本的にはスッキリ系の優等生な描写ではありましたが、絞りと撮影距離で描写をコントロールする楽しみがちゃんと残されているところに「やはりフォクトレンダーらしさがある」と感じられました。描写性能で勝負するレンズではない、と表現すると怒られてしまいそうですが、収差を徹底的に補正したタイプではなく、シーンによっては収差が顔を覗かせます。しかし絞りや距離、光の使い方で収差を撮影者がコントロール出来るようにチューニングされていることが実感でき、それでいて最新レンズらしくとてもシャープに写すことも出来るので「次はどのように撮ろうか?」と、試行錯誤や使い熟す楽しさがあるところに魅力を感じました。

フォクトレンダーブランドレンズ全般に当て嵌まりますが、レンズと対話出来る製品にもなっているので「このレンズは写真を楽しむレンズだ」ということを言い訳に、楽しんで撮影できる1本です。

実はこのレンズをテストした時期は発表前。赤字覚悟で何度も実写を行い、発表と同時に予約をキメるべく、発売日の告知を今か今かと待っていたのですが、懸念点がひとつありました。このレンズはシルバーとブラックの2色展開となっており、インプレ用の試用機材はシルバー。ブラックをこの目で見るまでは予約が躊躇われました。

「カラバリなど無ければこんなにも悩まなかったのだ」とコシナさんを恨みましたが、こういった悩みは幸せで楽しい悩みであり、いくら悩んでも良いものです。

発売が迫ったある日、赤城耕一氏がブラック(ベータ機でした)をX-E4に組み合わせているところに遭遇し、悩みは拡大することに。結局お店でワガママを言って、展示品と手持ちのX-Pro2で何度もチェックし、納得して買いましたが、いまだにブラックにも未練があります。

薄型レンズなので、手の大きな人にはMFが少しだけやり難いですが、不満らしい不満はそれくらい。撮影はめちゃくちゃ楽しいです。購入から約半年経ちますが、まだワクワクします。

自分にとって距離感が丁度良いこと。写りをコントロール出来ること。コンパクトなこと。操作感が良いこと。総じて、どこを切り取っても「心地良いこと」が気に入っています。

枯れた紫陽花を見かけたのでパチリ。少しシャープでドライな表現にしたかったので1段絞って撮った記憶があります。X-Pro2と組み合わせると撮影が本当に楽しく、ULTRON専用機にしています
X-Pro2/Voigtlander ULTRON27mmF2 X-mount/(1/680秒・F2.8)/ISO 400/WB:オート/フィルムシミュレーション:ACROS

近況報告

久々に写真をブックに纏めています。表現や手段の必然性、気に入ったカットを入れたい欲求などが絡み合い、これで良いのか?と思慮する時間が長く迷走していますが、とても楽しい時間です。

あと、カレンダーが発売されています。
https://mm-style.jp/SHOP/32414.html

1981年広島県生まれ。メカに興味があり内燃機関のエンジニアを目指していたが、植田正治・緑川洋一・メイプルソープの写真に感銘を受け写真家を志す。日本大学芸術学部写真学科卒業後スタジオマンを経てデジタル一眼レフ等の開発に携わり、その後フリーランスに。黒白写真が好き。