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稲垣徳文写真展:『巡礼』2010-2020

(富士フイルムイメージングプラザ東京)

(c)稲垣徳文

東京・丸の内の富士フイルムイメージングプラザ東京で8月26日から開催される、稲垣徳文さんの写真展『巡礼』2010-2020。展示概要とともに、作家本人からのメッセージと見どころ紹介をお届けします。

展示について(写真展情報より引用)

旅する写真家「稲垣徳文」が、アジアに点在する古刹を巡り撮影した写真展。写真家を夢見て、修行のつもりで世界を旅した1990年代。25年あまり経った今も、当時訪れた各地を再訪し続けている。2010年に西チベットの霊峰カイラス山を訪れてからは、アジアの古刹を巡ることがテーマのひとつとなった。その中でもカンボジアのアンコール・ワットは、写真の黎明期である19世紀中頃より記録が残る史跡だ。他の史跡同様、幾多の天災や戦禍を乗り超えてきた。長い政情不安から解放された後、近年は、オーバーツーリズムの影響により、再び荒廃の危機にさらされている。

これまで写真家として得た教訓は、撮影の機会があるならばそれを決して先延ばししてはならないということ。今世紀初頭の佇まいを記録すべくレンズを向けている。撮影に使用した大型カメラ『ディアドルフ』8×10(エイト・バイ・テン)のフィルムサイズは35mm判に比べおよそ60倍の面積があり、最大級のフィルムから得られる高画質が特徴のフォーマットだ。2018-19年には富士フイルムの中判デジタルカメラ『GFX 50R』を使いアンコール・ワット(カンボジア)とボロブドゥール(インドネシア)を再訪し撮影を試みた。GFX 50Rは大型カメラでは撮影困難な東南アジアの激しいスコールの中でも使用できる耐候性に優れ、小型軽量ながら8×10を凌ぐ解像力を発揮する。本写真展ではカラー作品のほか、階調豊かなモノクロ写真であるゼラチンシルバープリントに加え、19世紀の写真技法「鶏卵紙」も同時に展示。フィルムとデジタルそれぞれの表現力をお楽しみください。

撮影ノート

(c)稲垣徳文

東南アジアのスコールは積乱雲からの強い下降気流の後、雨になる。三脚に据えた大型カメラが倒されるほどの突風が吹き荒れるのだ。

インドネシアのボロブドゥール遺跡ではそのスコールを待った。けれども、雨季なら毎日、期待通りに降るかといえばそうでもない。空模様を伺いながら大型カメラをセットすること4日。ようやくその時が来た。

降り始めに一枚、雨が激しさを増したピークに一枚。2カット撮影できた。

大型カメラは撮影後、フィルムホルダーに遮光板を差し込まなければならない。タオルで水滴を拭き取りながら作業しないとフィルムに張り付いてしまう。雷雨の中、ひとりではどうにもならず来場者にカメラを覆うように傘を持ってもらい、撮影済みのフィルムホルダーをジップロックに収納した。

雨はその後も降り止まず、FUJIFILM GFX 50Rを三脚に載せ換え撮影を続行した。

防塵防滴のデジタルカメラは万能だ。大型カメラのように段取りを気にせず、撮影に集中できた。被写界深度の浅い大型カメラは絞り込みが必要でスローシャッターを切らなければならないが、GFX 50Rは厚い雲に覆われた低照度でも石畳に打ちつける雨を止めることができた。

作者からのメッセージ:
FUJIFILM GFX 50R VS Deardorff 8×10「中判デジタルカメラ」「大型カメラ」プリント対決

Deardorff 8×10

今回の写真展ではGFX 50Rのデータから970×1,300mmの銀塩バライタプリントを制作した。それは1m幅のロール印画紙からプリント可能な最大サイズになる。

バライタ印画紙が放つやわらかな光沢感。ハイライトの白さと無限とも思える黒のグラデーション。バライタ層に塗布された乳剤が生み出す立体感。

展示前のプリントチェックではこの一枚の仕上がりを前にトリハダがたった。目の前に広がる全紙の4倍を超える作品に体がゾクゾク勝手に震えていた。

(c)稲垣徳文
(c)稲垣徳文

一方、8×10ネガは小全紙にプリントした。モノクロフィルムは現像からプリントまで自家処理をしている。小全紙は自宅暗室でプリント可能な最大サイズになる。作品の鑑賞距離をとれない個人宅では小全紙でもやや大きく感じるが、写真展はそうした制約からの開放でもある。

自家現像した小全紙プリントと比較すると解像力とシャープネスにおいてGFX 50Rは8×10を凌駕している。フィルムは引伸ばすほどにアナログらしさが感じられるようになるが、GFX 50Rの作品にも同様の優しさが感じられる。それは中判フォーマットが持つゆとりなのだろう。

(c)稲垣徳文

展示概要

会場

富士フイルムイメージングプラザ東京 ギャラリー

開催期間

2020年8月26日(水)~9月14日(月)毎週火曜休館

開催時間

10時~19時(最終日は14時まで)

作品点数

約36点

作者プロフィール

1970年東京都出身。法政大学社会学部卒業。在学中より写真家・宝田久人氏に師事する。朝日新聞社「AERA」編集部を経てエディトリアルを中心に活動する。富士フイルムXシリーズはX-Pro1以来のユーザー。「アジアの古刹巡礼」と「ウジェーヌ・アジェが写したパリの再訪」をライフワークにしている。東日本大震災後、太陽光でプリント可能な鶏卵紙による作品制作に取り組んでいる。日本写真協会会員。

写真展
1991年『タシュクルガンへの道』オリンパスギャラリー
1995年『大陸浪人』ドイフォトプラザ
2007年『In the viewpoint of Asia / Tokyo』 gallery Litfasssaeule Munchen
2011年『巡礼』Mt.Kailas コニカミノルタプラザ
2017年『HOMMAGE』アジェ再訪 gallery bauhaus
2019年『10th gelatin silver session』参加 AXIS GALLERY
2020年『ROOTS』アジェとニエプスを辿る旅 gallery bauhaus