イベントレポート

エプソン「EW-M973A3T」を使いこなす!GANREFメンバーが約1カ月挑戦した成果を発表

プリントの“反り”をどうする? フチを切るときは? 写真家 長瀬正太さんによるアドバイスも

注目製品レビュー エプソン EW-M973A3T

弊社インプレスが運営する写真SNS「GANREF」において、「注目製品レビュー エプソン EW-M973A3T」が約1カ月間開催された。

この企画は選ばれたGANREFメンバー6名に実機が貸し出され、プリントを通してその魅力を発信していく趣向となっている。参加メンバーは期間中、GANREFページにおいて本セミナーでの課題の結果や使用した感想などをレビューとして投稿していく。実に多くのレビュー記事がアップされているので、EW-M973A3Tに興味のある方はぜひご覧になっていただきたい。

ここでは本企画の一環として開催されたオンラインセミナーうち、最終回となった「アドバイス&講評会[2]」の模様をお伝えする。第1、2回に引き続き、セミナーの講師は写真家の長瀬正太さんが務める。

1)使いこなしセミナー(8月1日)
2)アドバイス&講評会[1](8月9日)
3)アドバイス&講評会[2](8月22日)

セミナー参加者。EW-M973A3Tでのプリントを見せてもらった。上段左からエプソン販売の上條将吾さん、講師の長瀬正太さん、エプソン販売の吉田貴之さん。中段左から参加者のKazuさん、まささん、shoji_sugaさん。下段左から下段左からNEONEOさん、big sheepさん、gretsch16さん

EW-M973A3Tとは?

EW-M973A3Tは、A3ノビサイズ対応で写真作品のプリントに適するインクジェットプリンター。写真向けだが、スキャンおよびコピー機能を搭載した複合機型となっており、ビジネスやファミリーといった一般向けとしても導入しやすいモデルとなっている。

また、ランニングコストに優れるエコタンクを採用している点も見逃せない。しかも2種類のブラックインク(マットブラック・フォトブラック)にカラー4色(CMY+グレー)を加えた6色インク「ClearChrome K2 Plus インク」という充実したインクを搭載。プリントに意欲的な参加メンバーも納得の出力が得られているとのことだ。

EW-M973A3T。エコタンク搭載ながら6色インク×A3ノビサイズ対応で写真作品のプリントに適する。スキャンおよびコピー機能も搭載

“プリントマニア”長瀬正太さんのワンポイントアドバイス

第3回のセミナーの時点で、1カ月にわたる本企画も3週間が経過し、残り1週間となった。参加メンバーはかなりハイペースでプリントし、作品をGANREFに投稿している。「この期間でプリントのスキルや使いこなしのレベルがかなり上がったのでは無いでしょうか」(長瀬さん)。

今回は課題発表の前に「プリンターの使いこなし続々編」として、長瀬さんによるプリントの実際で役に立つ数々のテクニックが披露された。

プリント用紙の扱い方

良いプリントを得るには、用紙の平面性を確保しておくことが大切。保管中にロール(反り)が発生してしまうものだが、特にA4より大きいと顕著だ。用紙毎に反り方は違っており、例えば光沢紙系や絹目調系とVelvet Fine Art Paperは反り方が反対になるそうなので、その状態を確認しておくことが重要となる。

公式サイトではロールを抑えるために寝せた状態で保管することが謳われている。しかしその置き方では面積を取るため、長瀬さんは立てて保管しているそうだ。その時の注意点として、反りの影響が出ない立て方をするよう気をつけてほしいとのこと。この方向を間違えると余計に沿ってしまうので注意したい。

プリント用紙を平らにおいて3mmを越える反りが発生していると、プリント時にかすれる原因になる。これを直す場合、指で掴んで直そうとすると折れたり指の跡が付いたりして良くない。そこで、ソフトカバーの大判書籍で用紙を挟み、ロールと逆方向に反らすことで用紙全体のロールを安全に修正できるそうだ。

反りを戻したい場合は大判の書籍では挟んで逆方向に反らす

またA3クラスの用紙は机の上に置き、その上にそのプリント用紙のパッケージを載せる。さらに本などの重しをして一晩おくことで修正する方法があるとのこと。

大きなサイズのプリント用紙の反りを直すには、プリント用紙のパッケージが役立つ

ただし、修正が必要なのは目で分かるほどのロールがあった場合だけでよいそうだ。

一方、Velvet Fine Art Paperや和紙などは四隅の部分にロールが発生しやすいので、プリントの前に修正しておくと良いという。

写真の切り方

長瀬さんはプリント用紙のカットについても触れた。

普通紙より厚みのあるプリント用紙はカッターナイフでそのまま切るとバリが出てしまい、切断面が綺麗にならない。

これを防ぐコツとしては、切りたい部分よりも約1mm外側で一度切っておくということ。次に本来切りたい位置で切ると、紙の外に圧力が逃げやすいので切断面が綺麗になるのだ。「実際に試してもらうと実感できます」と長瀬さん。

プリントのカットについて説明する長瀬さん。1mm程度広く切り、その後本来の寸法でカットすることで、切断面の破砕を防ぐ

ホコリを取る

プリントの直前にはブロアーで全面を吹いておく事も重要とのこと。これはプリント時に紙の粉やホコリによってインクが付かず、画質に悪影響が出るが改善されるため。長瀬さんも必ずやっている作業だそうだ。

課題の発表と講評

続いて、前回の講評会で出た課題に対する発表があった。課題は「2回目の発表で選んだ用紙以外の2つでプリント」だ。「それぞれの用紙に最も合う写真を選ぶ」「写真の選択とどの用紙が適するかを考えて取り組む」ことが含まれる。

参加者の作品と長瀬さんの講評をまとめてみよう。

まささん

・1点目(絹目調)

「A3用紙でモノクロプリントにしました。光沢紙だとなだらかな感じが出ないと考えて、絹目調の紙にしました。画像処理で粒子を入れることで肌が滑らかになるようにしています。モノクロでもこのプリンターの画質がすごくよくて、一発で理想のイメージでプリントできました」(まささん)

「このプリンターは黒の質感がすごくよく出ますからね。髪の艶にもすごく合いますね。素晴らしいプリントだと思います」(長瀬さん)

エプソンEW-M973A3Tでプリント(絹目調のプリント用紙を使用。プリント後にEW-M973A3Tでスキャン)

・2点目(写真用紙クリスピア<高光沢>)

「展示会場での見え方を考えて、スポット光を当てたときに、チームラボ作品のようなイメージになることを目指して光沢紙にしました。現像でハイライトを落とすなど写真用紙クリスピア<高光沢>に合うように調整しています。このセミナーのおかげでここまでたどり着けたと思います」(まささん)

「写真用紙クリスピア<高光沢>だから出る臨場感があって、写真に合っています。また、プリントのためにはその目的を果たすためのレタッチがあって然るべき。まささんの表現に繋がるレタッチになっていて良いですね。この辺りのこだわりを積み重ねるのは重要なことでしょう」(長瀬さん)

エプソンEW-M973A3Tでプリント(写真用紙クリスピア<高光沢>を使用。プリント後にEW-M973A3Tでスキャン)

まささんのポートフォリオ(GANREF)
https://ganref.jp/m/photomasa/portfolios

gretsch16さん

・1点目(写真用紙<絹目調>)

「路地で撮影したもので、てるてる坊主を女性が吊しているところです。単焦点レンズで撮った写真に、写真用紙<絹目調>の粒子感が合うと考えました。発色も良いので、撮影場所の雑多な雰囲気を出すことができたと感じます」(gretsch16さん)

「提灯の色のグラデーションをストレートに見せるには、写真用紙<絹目調>で合っていますね。提灯の濃淡、光っている感じが出やすいんです。アスファルトも質感が綺麗に出ている。写真にマッチした用紙選択でした」(長瀬さん)

エプソンEW-M973A3Tでプリント(写真用紙<絹目調>を使用。プリント後にEW-M973A3Tでスキャン)

・2点目(写真用紙クリスピア<高光沢>)

「写真用紙クリスピア<高光沢>がこのモノクロの作品に合っていると考えて選びました。朝まで遊んでいる女の子ですが、この時の、朝の逆光の感じが写真用紙クリスピア<高光沢>で表現できると考えました。最初、マット系のプリント用紙のほうが合うのかなと考えましたが、やってみてこちらが正解でしたね」(gretsch16さん)

「光沢用紙を使ったことで、光が出ている感じがとてもよく表現できていると思います。光沢が眩しい感じの臨場感に繋がっている。上手な用紙の選択だと思いました。写真用紙クリスピア<高光沢>の特徴をうまく活かしましたね」(長瀬さん)

エプソンEW-M973A3Tでプリント(写真用紙クリスピア<高光沢>を使用。プリント後にEW-M973A3Tでスキャン)

gretsch16さんのポートフォリオ(GANREF)
https://ganref.jp/m/gretsch16/portfolios

Kazuさん

・1点目(写真用紙クリスピア<高光沢>)

「床の写り込みが綺麗に撮れた写真です。いろいろ試してみたところ、写真用紙クリスピア<高光沢>は被写体自体に光沢があるものだとそれを表現できることがわかり、このプリント用紙を選びました」(Kazuさん)

「自分で試さないと、どれが一番良いかわからずにそこで終わってしまいます。それぞれのプリント用紙の良い部分を盛り上げるためのレタッチや、他の被写体を選ぶなど、紙から発想するやり方もあるでしょう。そうした試行錯誤をこれからも続けて欲しいと思います」(長瀬さん)

エプソンEW-M973A3Tでプリント(写真用紙クリスピア<高光沢>を使用。プリント後にEW-M973A3Tでスキャン)

・2点目(Velvet Fine Art Paper)

「革ジャンの写真はオイルで光っているので、最初は写真用紙クリスピア<高光沢>が合っているかと思いましたが、プリントして比較するとVelvet Fine Art Paperのほうが自分には合っているように感じて、新しい発見になりました」(Kazuさん)

「そうなんですよね。正直僕もこの写真はVelvet Fine Art Paperが良さそうに思いました」(長瀬さん)

エプソンEW-M973A3Tでプリント(Velvet Fine Art Paperを使用。プリント後にEW-M973A3Tでスキャン)

Kazuさんのポートフォリオ(GANREF)
https://ganref.jp/m/factory_kazu/portfolios

shoji_sugaさん

・1点目(写真用紙クリスピア<高光沢>)

「ガラス越しに窓から撮影しています。白い雪ということで写真用紙クリスピア<高光沢>にしました。試したところ雪の白が綺麗に出るのが写真用紙クリスピア<高光沢>でした」(shoji_sugaさん)

「こういう写真は、展示の時にわざと反射のあるところにおいて見るのも良いですね。会場の光が反射しているのか? それとも写真の中に反射が? となると面白いと思います」(長瀬さん)

エプソンEW-M973A3Tでプリント(写真用紙クリスピア<高光沢>を使用。プリント後にEW-M973A3Tでスキャン)

・2点目(Velvet Fine Art Paper)

「モノクロの子供で、奥が鏡になっています。Velvet Fine Art Paperを使うと、鏡に映った部分に虚像の感じがうまく出て良かったのでこのプリント用紙にしました。マット系のVelvet Fine Art Paperによって、柔らかい印象にすることもできました」(shoji_sugaさん)

「Velvet Fine Art Paperは表面にテクスチャーがあるので、髪の毛や肌の質感は出やすいと思います。スクエア寄りの作品にしたもの良かった。セミナーへの参加でどんどん成長しているのが実感できました」(長瀬さん)

エプソンEW-M973A3Tでプリント(Velvet Fine Art Paperを使用。プリント後にEW-M973A3Tでスキャン)

shoji_sugaさんのポートフォリオ(GANREF)
https://ganref.jp/m/shoji_sugawara/portfolios

big sheepさん

・1点目(Velvet Fine Art Paper)

「Velvet Fine Art Paperにしたところ、階調も良くでました。赤いところは空で、カメラを途中から逆さにして多重露光しています。モニターで見ていた色をプリントで一発で出すことができたのが驚きです」(big sheepさん)

「素晴らしいプリントと写真です。面白い撮り方なので、僕も今度やってみます(笑)」(長瀬さん)

エプソンEW-M973A3Tでプリント(Velvet Fine Art Paperを使用。プリント後にEW-M973A3Tでスキャン)

・2点目(写真用紙<絹目調>)

「THETAで撮影した写真です。写真用紙<絹目調>でプリントしてみました。写真用紙<絹目調>はなんにでも合う印象ですね。Lightroom Classic CCで空のコントラストを上げる処理もしています。THETAは一般的なデジタルカメラより画素数が少ないのでプリントでどうなるか心配でしたが……」(big sheepさん)

「画素数が足りない写真は、ベルベッドファインや和紙ならテスクチャーで補えるので1つの方法です。ぜひいろいろと試して見て欲しいですね」(長瀬さん)

エプソンEW-M973A3Tでプリント(写真用紙<絹目調>を使用。プリント後にEW-M973A3Tでスキャン)

big sheepさんのポートフォリオ(GANREF)
https://ganref.jp/m/7ka4shi/portfolios

NEONEOさん

・1点目(写真用紙<絹目調>)

「山の色が出ていて少し雪がある風景です。写り込みが綺麗でした。この色を水彩画のように出したかったので、写真用紙<絹目調>で出力しました。オートファインEXを使ったところ、濃厚な色が出て面白いプリントになりました」(NEONEOさん)

「普段やらないことをやったとのことですが、これは僕も意識してやるようにしています。その時に思いがけない発見があるものです。その可能性を探るのは大切なことですね」(長瀬さん)

エプソンEW-M973A3Tでプリント(写真用紙<絹目調>を使用。プリント後にEW-M973A3Tでスキャン)

・2点目(写真用紙クリスピア<高光沢>)

「次はモノクロです。エプソンフォトプラスでモノクロにしたらきれいなプリントになりました。用紙は写真用紙クリスピア<高光沢>です。綺麗な夕焼け時だったのですが、敢えて色を抜いて鉛筆画のようにしました。それでいて、輝きも表現したかったのが写真用紙クリスピア<高光沢>を選んだ理由です」(NEONEOさん)

「最初、Velvet Fine Art Paperの方が合いそうだと思いましたが、輝きを優先して選んだとのことで、木の周りの眩しさが上手に表現できていて素晴らしいと思います」(長瀬さん)

エプソンEW-M973A3Tでプリント(写真用紙クリスピア<高光沢>を使用。プリント後にEW-M973A3Tでスキャン)

NEONEOさんのポートフォリオ(GANREF)
https://ganref.jp/m/sumidaman/portfolios

プリントで人生を豊かに

課題の発表が済んだところで、長瀬さんからさらにプリントを楽しむアドバイスがあった。

プリントの最終的な飾り方はさまざま。キャンバスを貼り付けたボックスに飾る、アクリル額に入れる、台紙に入れてプリントを挟む方法などが紹介された。

キャンバスを貼ったボックスにプリントを貼る
アクリル額は手軽な飾り方のひとつ
窓をつけた台紙とプリントを組み合わせる

長瀬さんは、「プリントは自分の人生を豊かにする」と話す。展示まで考えることで「写真」から「作品」にアップグレードできる点を強調し、これによって人と人とのコミュニケーションに繋がると説明した。長瀬さん自身も写真プリントの展示をおこなったおかげで「人生がガラッと変わった」という。

最後に長瀬さんは、「今回の試行錯誤が必ずプラスになったと思います。それを今後に活かしていって欲しい」とまとめた。実際、参加メンバーは当初支給されてていたプリント用紙の枚数では足りず、相当の試行錯誤をしていたようだ。やはりプリントは数をこなすことで、プリント自体のテクニックも向上する。加えて、プリントまで考えた撮影ができるようになると、それが写真の上達に繋がる。今回のセミナーで参考になる部分があれば、さっそく自分のプリントに活かしたいところだ。

制作協力:エプソン販売株式会社

1981年生まれ。2006年からインプレスのニュースサイト「デジカメ Watch」の編集者として、カメラ・写真業界の取材や機材レビューの執筆などを行う。2018年からフリー。