イベントレポート

写真甲子園2019、本戦4日間を振り返る

各校それぞれが工夫をこらして撮影テーマに挑む

開会式、選手宣誓の様子

第26回全国高等学校写真選手権大会「写真甲子園2019」本戦大会が、7月30日から8月2日にかけて、北海道・東川町を中心として開催された。

本戦大会は、ファースト、セカンド、ファイナルの3つのステージ(1日1ステージ)で作品を撮影して、それぞれのステージごとにおこなわれる公開審査を経て優勝校が決定する。各ステージではテーマが設定されており、その内容に沿って撮影がおこなわれることになる。

審査結果については、こちらの記事にてすでにお伝えしているので、ここでは選手たちがどのようにテーマを捉え撮影を進めていったのか、4日間の日程を振り返りつつ、2019年の本戦大会の模様をお伝えしていきたい。

開会式

7月30日、東川町内の施設で開会式が催された。2019年の大会本戦には、全国より18校が集まった。今回の大会エントリー校数は500校。これが地域ごとのブロック審査で80校まで絞り込まれ、本戦に出場する18校が決定していった。

開会式では、前年優勝校の和歌山県立神島高等学校より優勝旗が返還された。そして、審査委員長をつとめる写真家の立木義浩氏より選手激励のあいさつがあり、中越高等学校(北陸信越ブロック)の大川真白さんが選手宣誓をおこなった。

優勝旗の返還
選手を激励する立木義浩氏

式終了後は場所を移して現地の人やスタッフから、ジンギスカンや焼きトウモロコシなどの食事が振る舞われた。ファーストステージを翌日に控えて緊張しているかと思いきや、道産の食材に選手たちの顔もほころぶ。

写真が好きだということがよく伝わってくる場面も。食べることもそっちのけで撮影している選手たちの姿がちらほら見られた。中には箸を片手に持ちつつ撮影している選手も。この時撮影された作品も、いくつかの学校で提出作品として使用されていた。

食事終了後、選手たちはそれぞれホームステイ先へ移動することになる。どの選手にとっても暖かく迎え入れてくれたホストファミリーは特別な存在になったようで、後日の提出作品にこれら家族の姿を捉えたカットを組み込んでいる学校が多く見られた。

ファーストステージ

7月31日、朝早くからファーストステージがスタートした。7時頃に東川町を出発した選手たちは、ファーストステージ最初の撮影地である忠別湖(東川町と美瑛町の境に位置するダム湖)に到着した。

現地に到着した選手たちは、まずバスからロケーションをチェックする。バスは撮影地を定期的に周回運行しており、制限時間まで撮影と移動を繰り返しつつ作品撮影がおこなわれる。

移動は徒歩かバス移動となる。選手たちは広大な撮影地でテーマに即した作品イメージを追い込んで捉えていく

2019年ファーストステージのテーマは「共存」。撮影条件はカラー写真であることだ。この日の夕刻におこなわれた公開審査会で審査委員の面々より「難しいテーマにどのように向き合っていったのか楽しみにしていました」と声がけがあったが、哲学的なテーマに対して選手たちは様々なアプローチで撮影にあたっていた。

ファーストステージ最初の撮影地にて。選手自身がモデルとなりチーム一丸となって撮影に挑むシーンもみられた
ダム湖周辺で作業に従事している人に撮影協力をお願いしているシーンも。現地の人との交流を通じて、作品をまとめていくチームもあった

写真甲子園では、各ステージの終了ごとに撮影データを記録したメモリーカードの提出が求められる。提出が遅れると、点数が引かれていくため、戻り時間を計算しつつ撮影をこなしていかなければならない。

ここまででファーストステージ最初の撮影地が終了。つづけて選手たちは次の撮影地に向かった。このように、ファーストステージとセカンドステージでは1日2カ所で撮影がおこなわれていた。

ファーストステージ次の撮影地は、旭川空港周辺だった。空港ということもあり、ひらけた土地で、周辺には神社や農家が点在する場所だ。

選手たちは、ここでもバス移動を繰り返しつつ、近隣農家に撮影の協力をお願いしたり、自然風景の撮影をしたりと様々なアプローチをしていた。

手持ちのライトを使用してスポット光をつくりだしているチームや、霧吹きで蜘蛛の巣を浮きあがらせて撮影するなど、工夫をこらしている場面もみられた。

この旭川空港周辺での撮影でファーストステージ第2幕は終了。この日2回目のメモリーカード提出を経て、昼食に。このあとは午後の公開審査へ向けて提出作品をセレクトするセレクト会議がおこなわれ、選手たちは組み写真の構成をおこなうことになる。

提出されたメモリーカードは、各校ごとに用意された封筒に入れられ厳密に管理されていた

セレクト会議では、提出した撮影データをもとに、提出する作品のプリントと、そのセレクトがおこなわれる。途中、各校の顧問の先生と作品構成や提出作品について相談できるテクニカルタイムが設けられている。コンタクトシートでチェックしたり、プリント作品をならべて提出作品を練るなど、ここでも学校ごとに、さまざまなアプローチがみられた。

公開審査会では、合計8枚の写真で組み写真を構成し、各日で設定されたテーマを表現する。今回優勝した和歌山県立神島高等学校のファーストステージの提出作品は「夏、ずんべら」。“ずんべら”とは雑草の意味なのだと、現地の人に教えてもらったのだという。

講評は、選手が作品の構成や撮影意図についてプレゼンテーションをおこない、審査委員1名と審査委員長の立木義浩氏からコメントをもらう形式で進行する。

今大会の審査は、立木義浩氏(審査委員長・写真家)をはじめ、長倉洋海氏(写真家)、鶴巻育子氏(写真家)、公文健太郎氏(写真家)、小髙美穂氏(フォトキュレーター)、野勢英樹氏(北海道新聞社)の6名が務めた。

選手のプレゼンテーションに耳を傾ける審査委員の面々

同校のコメントをつとめたのは、公文健太郎氏。人物を撮影することがよく訓練されているとコメントした。立木氏からも“距離感がうまい”とのコメントがあり、優勝校インタビューでもお伝えしたとおり、初日から高い評価を得ていた。

公文健太郎氏
立木義浩氏

セカンドステージ

撮影がはじまって2日目。セカンドステージのテーマは「いとなみ」と設定された。写真の条件はモノクロだ。

撮影はファーストステージと同じく2カ所でおこなわれた。1カ所目は美瑛町の市街地で、2カ所目は上富良野町のこちらも市街地でおこなわれた。

美瑛町ステージは、美瑛駅およびその周辺を中心に撮影がおこなわれていた。周辺には商店や学校などがあり、野球の練習に打ち込む子どもたちや、地域住民の人、はたまたセルフタイマーを活用したセルフポートレートによる表現など、テーマへの取り組みは様々だった。

美瑛駅のプラットホームから、駅に降り立つ人々や駅の風景をねらっていたチーム
野球の練習風景を撮影させてもらえるよう交渉しているシーン
地元商店などでも撮影を交渉しているシーンがみられた
セルフタイマーをもちいた、セルフポートレートのこころみ。このチームはファイナルステージまで、この作品スタイルを貫いていた

広大な撮影フィールドを撮り歩くため、散開した方が撮影効率が上がる。ただ写真甲子園では3人で1組のチームを組むことになるため、のちのち組み写真を構成するときに、選手それぞれの“色”を、どのようにまとめていくのか、という課題も残る。その意味でチーム内のコミュニケーションや連携が試されている、という側面もあるわけだ。

とくに上富良野町は、市街地と周辺の農家やラベンダー畑がひろがる日の出公園も撮影エリアに含まれている。一方は市街地で、また一方は農家や公園へ、とバラバラに動くケースがみられた。

メモリーカード提出前に作品データをチェックする場面も。カード1枚あたりの容量も限られているため、撮影しながらの残す/消すといった判断も求められているようだ。

セカンドステージの公開審査会に提出された作品。写真は準優勝となった沖縄県立浦添工業高等学校のもの。立木氏は、広角で寄っていっており重量感のある作品になっているとコメント。沖縄という土地ならではの個性の強さが感じられると讃えていた。

同校の儀間梨々香さんはキヤノンスピリット賞も受賞していた。

ファイナルステージ

ファイナルステージの舞台は東川町・キトウシおよび市街地。テーマは「北海道のいい人、いいところ」で、カラー・モノクロの指定はなく、自由に取り組むことができる。

この日は、ファースト・セカンドとはうってかわって朝から好天に恵まれた。例年よりも暑いといわれる気温の中、早朝から撮影に臨むチームも。

写真は、バスの発着基点ほど近くにある町の施設「せんとぴゅあ」の一場面。東川町では写真を通じた国際交流も推し進めており、写真甲子園と同時期におこなわれていたイベントで来ていたグループとの交流もみられた。

写真のまちとして知られる東川町だが、その出発は1985年にさかのぼる。この時の宣言文をみると“私たちは「写真文化」を通じて「この小さな町で世界中の写真に出逢えるように、この小さな町で世界中の人々と触れ合えるように、この小さな町で世界中の笑顔が溢れるように」願っています”とある。

写真甲子園も今回で26回目の開催をむかえるということもあり、町の人々の認知度や理解も高い。これは東川町に限らず、美瑛や上富良野でも同様だった。町の人々にとっても、楽しみなイベントとなっているのだろう、どこに行っても協力的な場面がみられた。

ファイナルステージの公開審査では、あえて自分たちの苦手としている手法に挑戦する学校もあった。写真は、新島学園高等学校のもの。同校は、町民が選ぶ特別賞(セカンド)と選手が選ぶ特別賞のほか、上富良野町長賞も受賞。出場校中で3つの賞を獲得していたのは、同校のみだった。

キヤノンが東川町と協力関係を妥結

写真甲子園は東川町が主催している写真を基点としたイベントだ。1994年の開始以来、今回で26回目を数える。この第1回大会からカメラやプリンター機材の提供と大会運営サポートで協力していた企業がキヤノンマーケティングジャパン株式会社だ。

東川町は昨年に「東川オフィシャルパートナー協定」を策定し、町とつながりの深い企業とのパートナーシップ関係の構築を進めている。

これをうけて8月2日、今回の写真甲子園の開催中に東川町とキヤノンマーケティングジャパン株式会社は、オフィシャルパートナー協定を妥結した。

妥結式では、東川町長の松岡市郎氏とキヤノンマーケティングジャパン株式会社代表取締役社長の坂田正弘氏が登壇し、協定文書を取り交わした。

これまでも協力関係にあった両者だが、今後はより一層緊密な連携を図っていくことが宣言された。

左からキヤノンマーケティングジャパン株式会社 代表取締役社長 坂田正弘氏、東川町長 松岡市郎氏

本誌:宮澤孝周