イベントレポート
吉村和敏×Synology×Seagate デジカメ Watch記事連動セミナー
大切な撮影データを失わないために 写真家・吉村和敏さんに学ぶNAS運用
2018年11月22日 15:28
株式会社インプレスは、写真家がストレージの活用法を伝授するイベント「吉村和敏×Synology×Seagate デジカメ Watch記事連動セミナー『できた!はじめてのNAS導入』」を11月12日に開催した。
ここではイベントで語られた、吉村和敏さんが大量の画像データをどのように保存、管理しているのか? また昨今話題のNAS(Network Attached Storage)とは何か? そしてNASに適したHDDとはどのようなものかをとり上げる。
NASの無い生活は考えられないほど
吉村さんと言えばカナダの絶景写真などで知られるが、2018年は毎月海外に撮影に行くほど多忙だったという。それだけに、撮影データも大変な量になっており、管理に頭を悩ませていたそうだ。
「仕事場ではMac miniに4TBの外付けHDDを9台繋げています。それを常に動かしていて、使いたい画像をすぐに取り出せるようにしています。加えて、それと同じコピーを別に2セット作ってバックアップとしています。日々大量のデータとの戦いですね」(吉村さん)
常に繋げているHDDは時々壊れるため、買い換えてはバックアップHDDからデータをコピーすることでテータを失うことなく運用しているとのこと。「バックアップがあればHDDが壊れても問題ない」と吉村さんはバックアップの重要性を強調していた。
そんな吉村さんだが、これまでNASを使ったことはなかったという。そこで、NASメーカーのSynology協力の下でNASを試用してもらい、その活用法を探ろうというのが今回の企画である。
吉村さんにNASを提案したところ、自身の作品を販売する「清里フォトギャラリー」にある仕事場にぜひ設置したいとのことで、さっそく設置することになった。
「以前から清里に写真データを全て置きたいと考えていました。ちょうどバックアップをもう1セット作りたいと考えてもいて、NASがあればちょうど良いなと思っていた所でした。フォトギャラリーにもネットワークは引いてあるので、そのままNASを使えました」(吉村さん)
NASを使うのは初めてという吉村さんだったが、「使い方は凄く楽。Webブラウザの感覚でいいんです」と難なく使えた様子。SynologyのNASの管理画面はまさにパソコンのデスクトップ画面同様で、アイコンのクリックですぐにアクセスできるようになっている。初期設定は付属のマニュアルを見ながら進めていったとのことで、ユーザー登録、HDDの初期化なども簡単にできたとのことだ。
今回吉村さんが使ったのは同社ミドルクラスの「DS1618+」。最大6基のHDDが装着可能(6ベイ)なモデルだ。ここで吉村さんの失敗談が披露された。最初に4台のHDDで使い始めて後からもう2台のHDDを追加したところ、RAIDの再構築に非常に時間がかかってしまったとのこと(データは消えない)。そのため導入のコツとして、最初から全てのベイにHDDを入れて使い始めるのが良いと教えてくれた。
NASには「フォト」と「書類」というフォルダがデフォルトであるので、そのフォトフォルダに写真をどんどん入れていく。吉村さんはまず「国内」と「海外」のフォルダを作り、海外のフォルダには日付と撮影場所のフォルダを、国内のフォルダにはカメラの機種別のフォルダをそれぞれ作り、さらにRAWとJPEGを別々のフォルダにわけて保存しているそうだ。外付けHDDからNASへのデータコピーは、NASのUSBコネクタに外付けHDDを接続して行える。
写真をNASに転送すると、NASが自動でインデックスを作成して、RAWデータからプレビュー用のJPEGを生成してくれる。これは出先など、どこからアクセスしてもすぐに写真が見られるようにするためだ。吉村さんは海外の撮影地で相手に作品を見せたりするのにとても重宝しているとのことだ。会場では実際に吉村さんのNASにアクセスして写真を表示したが、素早く表示されていた。もちろん、スマートフォンからの閲覧も快適に行える。
また、写真を相手に送りたいときは、ダウンロードアドレスが生成されるが、それを使ってダウンロードすると、プレビューデータではなくきちんとオリジナル画像が相手に送られるということで、吉村さんはこの機能にも感心していた。
吉村さんはクラウドサービスとして無制限のフォトストレージ「Amazon Photos」も使っているとのことだが、SynologyのNASは取り込んだ写真をこうしたクラウドサービスに自動的にアップロードできるので、バックアップをさらに強化できると話した。
吉村さんは最後に、「NASはいろんなところと繋がっていて、いろんな管理ができる。今はこれがない生活は考えられないくらい重宝しています。これを機会に皆さんもNASを導入してみてください。これが今日言いたかったことです」と結んだ。使い始めて1カ月ほどだが、すっかり使いこなしている吉村さんだった。
使い始めのハードルが低くなったNAS
続いてSynology製品の代理店を務める株式会社フィールドレイクの営業企画部部長の小川将司さんがNASのメリットなどを解説した。
まず外付けHDDとNASの違いだが、外付けHDDの使用にはパソコンが必要になるが、NASはパソコンがなくても使える点が大きな違いだとした。NASにはCPUが搭載されており、それ自体が小さなパソコンになっているため、単独で全ての処理が行えるようになっているとのこと。そのため、例えば出先からのアクセスも容易というわけ。データの保存しかできない外付けHDDに対して、NASは保存だけでなく、保存したデータをさまざまな場面で活用できるようになる点が大きなメリットとなる。
SynologyのNASを使うためには、まずNAS本体を購入する必要がある。同社のNASはHDDが入っていない状態で売られているので、HDDは別途購入することになる。最近はNAS用のHDDが出ているのでそれを使うのが良いそうだ。
次に管理ソフトをパソコンにインストールし、そのソフトで動くアプリを用途に応じてインストールしていくという流れだ。アプリは写真用以外にもたくさん用意されており、そのほとんどが無料となっている。あとはLANに接続し、電源を入れればNASが立ちあがる。
初期設定ではWebブラウザからNASにアクセスしてパスワードの設定などを行う。設定自体に要する時間は15分ほど。昔に比べて簡単になっているそうで、それが最近NASが流行っている1つの要因なのではないか、とのことだ。
ちなみにSynologyは台湾のメーカーで、2018年4月に日本法人を設立したばかり。いまは日本市場により注力していこうという段階だが、すでにワールドワイドレベルではNASおよびサーバーで約32%のシェアを占めており、ナンバーワンとのこと。
NASの大きな特徴であるデータの安全性についても触れていた。NASにはRAIDという機能があり、2台のHDDに同じデータを同時に記録することが可能。これにより、仮に片方のHDDが故障してもデータ消失の危険性を回避できるシステムをつくることができる。
以前はRAIDの設定はそれなりに難しかったそうだが、同社のNASでは独自のSynology Hybrid RAID (SHR) という機能が搭載されており、簡単にRAIDの構築ができるようになっているとのこと。2台以上のHDDで設定できるSHR-1では1台が、4台以上のHDDで使えるSHR-2では2台が、同時に故障してもデータを失うことなく運用できる。壊れたHDDはあとから入れ替えれば良いというわけだ。
また災害などでNAS自体が失われる可能性に備えて、NASのデータを別のNASに定期的にバックアップしたり、吉村さんの話にもあったように各種クラウドサービスへの同期も可能なため、あわせて使うことでデータ消失の危険性はグッと下げられるというわけだ。
増え続ける写真データに対応する機能も用意されている。NASの容量がいっぱいになった場合、別売の拡張ユニットをNASに装着することで元のNASとあわせて1つの大きなHDDとして使うこともできる、というものだ。
また、写真愛好家向けに便利な機能として、カードリーダーをNASのUSBポートに繋ぐと自動的に差分取り込みなどをしてくれるUSB COPY2.0も搭載されている。パソコンを立ちあげるまでもなく、記録メディアから直接写真を保存できる。
また、写真管理ではPhotoStationとMomentsという2つのアプリが用意されている。PhotoStationはExif情報に基づいた検索やタグでの管理などが簡単にできるようになっている。また写真を誰かに見せたいという場合には、写真ごとにURLを送るのではなく、あらかじめ発行した1つのURLで常に最新の写真が見られるといった機能もある。
一方のMomentsは、データ管理が面倒で写真も撮りっぱなしといったユーザーが写真を活用することを想定したアプリだ。写真を放り込んでいくとタイムラインに写真が並んでいくわけだが、特長はAIによって写真の自動仕分けを行ってくれるという点だ。個人の判別はもちろんだが、子供、猫、サンセットといった300程あるテーマとごに写真を分けてくれる。仕分けにあたってユーザーは何もしなくて良い。
NASのメリットをまとめると、データ保護や保存領域の拡張性に加えて、どこからでもアクセスできる便利なストレージだということになる。加えてSynologyのNASはPhotoStationやMomentsといった写真愛好家向けの機能の充実が図られている点がポイントだといえそうだ。
HDDの大敵「振動」に打ち勝つテクノロジー
続いてはHDDメーカーである日本シーゲイト株式会社の技術本部技術部主席技師の佐藤之彦さんが、NASに適したHDDについて解説を行った。
Seagateでは2年前からNAS向けのHDDとしてIronWolfシリーズを展開している。24時間365日の可動を前提としているのが特長だ。
HDDは高速で回転する金属のディスクに、磁気ヘッドを近づけて、ディスクを磁化することでデータの記録をおこなっている。磁気ヘッドはひじょうに精密な機械で、ジャンボジェットに例えると、地面すれすれを飛んでいるほどようなものだとのことだ。
衝撃などで稼働中にヘッドとディスクが接触すると、不良セクタができたり最悪の場合はHDDが使えなくなってしまう。それを防ぐのが4GB以上のIronWolfシリーズで採用されているRVセンサー(加速度センサー)だ。振動や衝撃が加わった場合に、ヘッドを即座に制御してオントラック状態を維持してくれるというもので、物理的な故障に対する安定性が高まり、かつ転送速度も落ちないので、NASにはこのVRセンサー付きのモデルがおすすめとのことだった。
なお、IronWolfの10TB以上のモデルはヘリウム充填の密封タイプとなっているため、湿度にも強い仕様となっているそうだ。
SeagateはSynologyとコラボレーションすることで、HDDの異常をNASに伝達できる。IronWolfシリーズを使うとNASの管理画面からHDDの温度やバッドセクタなどのログを見ることができる。あらかじめ閾値を決めておけばメールにアラームを出すことなどもできる。これらの数値は時系列で見ることができるので、S.M.A.R.T.のようにその瞬間でしか見られないものよりも有意義だということだ。
ちなみにSeagateでは比較的安価にHDDのデータ復旧サービス実施している(要登録)。佐藤さんによると、今のところ救済率は8〜9割ほどあるそうだ。
プレゼントの抽選で盛り上がる
本イベントにはプレゼントコーナーがあり、参加者から抽選でSynologyのDS718+(2ベイ)とSeagateのHDD IronWolf(4TB)が1名ずつに贈られた。太っ腹な企画とあって、抽選は大いに盛りあがった。
デジタルカメラの画素数はどんどん増え、いまや動画も4Kが当たり前の時代。HDDの保存容量はどれだけあっても足りないというのが、熱心な写真愛好家に共通する課題ということなのだろう。
吉村さんと同じく、気がつけば外付けHDDが山ほど、という人は案外少なくないかも知れない。そうした中で、バックアップも万全という人はどれだけいるだろうか? 「HDDは必ず壊れる」という小川さんの言葉が印象的だったが、快適さだけでなく、データを失わないためにも筆者自身NASの導入を検討しようと考えたイベントだった。
制作協力:Synology Japan株式会社 日本シーゲイト株式会社