イベントレポート

4 Seasons ~OM-D E-M1 Mark IIで撮る四季~ 秋編

写真家それぞれが秋をテーマに撮影

左から今浦友喜さん、木村琢磨さん、吉住志穂さん、萩原史郎さん。

オリンパスのミラーレスカメラ「OM-D E-M1 Mark II」を使うプロ写真家・今浦友喜さん、木村琢磨さん、萩原史郎さん、福田健太郎さん、吉住志穂がさん、春夏秋冬、季節ごとに各々の写真を飾るグループ写真展「4 Seasons ~OM-D E-M1 Mark IIで撮る四季」。ここまで春編、夏編と開催され、デジカメ Watchでもトークショーの模様をレポートしてきた。

今回は9月28日(金)~10月10日(水)にかけて開催された秋編。これまで同様、写真家によるトークショーが実施された。参加した写真家5人のうち福田健太郎さんを除く4人が登壇して、展示作品や撮影時のテクニックなどについて語ってくれた。

オリンパスプラザ東京での展示の様子。

写真は見る方向によってもまったく違うものになる

最初に登壇したのは今浦友喜さんだ。

1枚目は群馬県みどり市の小中大滝(こなかおおたき)で撮影された紅葉。手前の木々は日光で照らされているが、奥の景色は暗く落ち込んでいる妖艶な写真だ。

「切り立った谷の中にあるところなので、そういった場所ではさまざまな光を見ることができます。ここは紅葉の向こう側に斜面があるのですが、光が入っていないので真っ暗になっており、手前側の光が当たっている紅葉とのコントラストが強くなっています。撮影は黒の扱いを意識しておこないました。主役を見つけたら考えるのが写真のセオリーだと思っているので、この時は黒の面積をとにかく意識しています。ここではオリンパスの特徴であるハイレゾショットを使っています。5,000万画素という高画素で撮影できるので、今回の展示でも一番大きなサイズでプリントしてもらいました」

2枚目は鮮やかさというよりも、落ち葉の儚さ、切なさを暗く表現したような写真。枯れ落ちた葉と暗く引き締まった背景が、重苦しさを感じさせる。

「埼玉の大宮公演で撮影した1枚です。やはり同じ種類の葉だけだと単調になってしまいますが、この1枚の中には4〜6種類の葉が写っているので、そのバランスが面白い写真になりました。薄暗い渓流だったので、-2.3EVまで下げて水中は写さず、わずかに差した光だけで葉のディティールを表現しました。コントラストの強さはオリンパスのカメラの特徴なので、かっこよく仕上げることができました。ただ、黒い背景に葉があるだけではつまらないので、水に浮かんでいることがわかるように、水面の反射も写すようにすると状況が伝わるようになります」

ここまで黒く引き締まった写真が多かったが、最後は明るい写真。ススキの穂が優しく照らされて、どこか懐かしさを感じる1枚が表示された。

「埼玉県の秋ヶ瀬公園で撮影した写真です。僕の中で、秋は野草が茂り、夕日のオレンジ色が強くなるイメージがあります。ここではあえてハイキー調に持っていき、寂しくならないように仕上げました。実は僕は夕方が苦手な時間帯で、1日が終わってしまうさみしさを感じてナーバスになり、あまりウキウキできないんです。そういった心の苦しさがあったので、写真はあえて明るく仕上げました」

もう1枚は、ギャラリーでの展示が終わった後にWebで公開される写真だ。水面に浮かぶ落ち葉が、隙間から入り込んだ光に照らされている。

「これは千葉県の梅ヶ瀬渓谷で撮影した1枚です。沈んでいるもみじと、浮いているもみじの対比を意識しました。メインの葉が2枚重なって流れていくところを撮影しました。よくよく見ると、2枚はくっついているわけではなく、偶然重なっているだけなんです。仲がいいふりをして実は手を繋いでいないというか、仮面夫婦のような毒々しい雰囲気もおもしろく感じてセレクトしました。写真は見る方向によってもまったく違うものになると、改めて感じた1枚でした」

その後は展示作品以外の写真も表示し、それぞれの作品の狙いやテクニックも説明しながらスライドは進む。

同じ被写体を違う印象で仕上げたものや、オリンパス特有の機能「ハイライト&シャドウコントロール」を用いた作品など、バリエーションに富んだ写真が並べられた。最後には蜂の巣に近づいてスズメバチを捉えた1枚が紹介された。次回に向けて防護服に身を包んだ今浦さんの姿が会場の笑いを誘い、次の写真家・木村さんへバトンが渡された。

既成概念に囚われないユニークな撮影表現を披露

2人目は木村琢磨さん。もともと広告写真のスタジオ出身ということで、今回は風景を広告風に撮影することにチャレンジしたようだ。その宣言通り、最初の1枚目からインパクトが強かった。落ち葉を写したようだが、コントラストと明瞭度が高く、一見すると精密な写実絵画のようにも見える。

「今年の岡山は大雨や台風が続いていて、この雨を活かせないかと思い、夜中にストロボを持って裏山へ入りました。これはハイレゾショットで撮影していて、2m程度の三脚に固定し、カメラはスマートフォンと接続してリモートで撮影しました。ハイレゾショットなのでディティールがとても細かく表現されています。プリントの方がきれいに描写されているので、ぜひ展示作品で見てみてください」

2枚目は草木の中にしらさぎがが佇む写真。大自然の中かと思いきや、住宅街の隙間だという。

「住宅地の真ん中にあるひらけた場所で、夏は草がすべて緑に染まりますが、9月の頭くらいになると枯れる草も出て来て、ちょうどいい"まだら感"が生まれます。その中心にしらさぎが止まったので、少し引いた感じで捉えました。昔はぐっと寄っていましたが、最近はどのレンズで撮る時も標準レンズのような距離感を大切にしています。この写真は望遠端の100mm側で、引けるところまでひいて撮影しました」

次の写真もなんとも不思議な1枚だ。葉が何枚も折り重なっているが、背景は真っ白。とても自然の中で撮影したようには見えない。しかし、実際には真夜中の山中で撮影したものとのこと。

「台風直撃時に裏山で撮影しました。夜中の2時から4時くらいまで撮影していたと思います。背景が真っ白に飛んでいるのは、ストロボの光があたっているためです。重りをつけたストロボを2台用意し、後ろから光を当てて背景を飛ばしました。空中に舞ってる葉は自然のもので、背景は人工的に作り出すという、いわばハイブリッドのような1枚です」

「『ネイチャーフォトはこうあるべき』という概念は僕にはないんです。ストロボを焚いてもいいし、明るくしたい部分があればLEDライトやスマートフォンの光を当てることもあります。自分の思い通りに仕上げられるのであれば、そういったテクニックを使ってもいいですし、そうすることでしか撮れないものもあります。鏡ひとつあれば反射させることもできるので、ちょっとしたテクニックを覚えれば引き出しを増やすことができます」

4枚目はWebで公開される写真。この4枚の中では唯一、広角で写された写真だ。だが、夕焼けは独特な色合いをしており、どこが幻想的な雰囲気がある。

「これは鳥取で撮影した田んぼです。かなり高い位置からカメラを構えています。夕焼けがとても綺麗だったのですが、彩度をあえて落として『カラークリエイター』を使いました。これは写真全体の色のトーンを変える機能で、やや赤っぽく仕上げています。写真よりも、パステル調の絵を描いたような雰囲気にしました。『芸術の秋』のイメージですね」

「僕はレンズから出るフレアやゴーストが大好物なのですが、最近のレンズは高性能になって、ほとんど出なくなってしまったんですね。なので、この時はレンズを砂に擦り付けてわざと汚し、前玉についた砂で乱反射させてフレアを作るんです。加えて、彼岸花のしべに寄れるだけ寄って、玉ボケを作りました」

木村さんに毎回驚かされるのは、大胆なカメラの使い方だ。春編、夏編では、カメラの防塵防滴性能をいかして、水中にカメラを突っ込んで撮影するなど、ユニークな方法を使用していた。今回も、普通では考えられないような撮影方法を紹介していた。

聴衆が目を丸くするようなテクニックを披露した後も、木村さんはマイペースにトークを展開。独特な世界観を改めて見せつけて、3人目の吉住さんにマイクを渡した。

彼岸花の重層的なイメージを引き出す

吉住志穂さんは毎回「世阿弥」の言葉と写真を結びつけながら、写真への心構えを展開している。今回も例に漏れず、『花伝第七 別紙口伝』が引用された。

今回の展示写真はすべて彼岸花で構成。明るくメルヘンな雰囲気のもの、暗く重苦しいものまで、同じ被写体でこれだけ撮り分けられるのかと驚かされた。

「彼岸花のイメージは、お彼岸のころに咲くことや、突然ニョキッと生えてくることもあり、不吉、怪しいと感じている方もいるかもしれません。彼岸花、曼珠沙華、天人の花、死人花、地獄花など、多数の呼び名があり、あの世に通ずるような怪しい意味を持つことが多いです。そのイメージの通りに、コントラストを強めて暗く仕上げた、あの世とこの世の橋渡しをしているような雰囲気の1枚、逆にイメージを覆すようなハイキーの写真もあります」

薄暗い中で、光の道筋を写したような写真、前ボケを用いてファンシーに仕上げた写真、シルエットに仕上げた写真、そして夕日をバックにトンネル構図であの世をイメージした写真と、Webも含めた展示作品4枚を紹介。展示作品以外にも、青く染めて怪しい雰囲気に仕上げた写真や、あえてピンボケにすることでシルエットを写した写真など、バリエーションに富んだ数々の作品が紹介された。そして今回の世阿弥の言葉が吉住さんから説明される。

”住する所なきを、まづ花と知るべし”

「”住するところなきを”とは、『ある程度のレベルで満足してはいけない、新しい世界をつかんでいくべきだ』という意味です。また、世阿弥は『花』という言葉を、能の理想の形として用いています。花は季節ごとに咲く種類が変わるからこそ珍しさや貴重さ、魅力があり、逆に年中桜が咲いていたら、きっと魅力は半減してしまいます。花と同じように、咲かせる場所、つまり力を発揮する場所はどんどん変えていくべきだと、そう説いているのです。写真で言えば、『今までこういう写真を撮ってきた』という定番だけではなく『こういうのも撮るのか』と新しい発見を与えるようなことも必要だという意味です」

「ただし、戒めの言葉もあります。

”ただし、やうあり。めづらしきといへばとて、世になき風体をし出すにてはあるべからず。花伝に出だす所の条々を、ことごとく稽古(けいこ)し終りて、さて申楽をせん時に、その物数を、用々に従ひて取り出だすべし”

単に明るく撮る、思い切り寄ってボカすなど、今までにないスタイルをただ単になんとなくやってみるだけではいけません。しっかりと基礎を身につけた上で、いろいろなテクニックを実践することが大事なのです」

この話の通り、この「4seasons」の展示では吉住さんのイメージを覆すような写真の数々が見られる。気になる人はぜひオリンパスプラザまで足を運んでみてほしい。

萩原流の写真セレクト術が紹介される

最後は萩原史郎さんだ。萩原さんは展示4枚の説明はもちろんのこと、その4枚がどのように選ばれていったのか、そのプロセスを発表していった。写真家は渾身の一枚を世に出すだけに、一般人がお蔵入り写真を見られるのは貴重な機会。参加者は食い入るようにスライドを見つめた。

「今回の展示にあたり、かなりの枚数をピックアップしました。その中から絞り込んで15点程度にし、さらに絞り込んで3点を選んでいます。今回の写真はすべて石神井公園で撮影したもので、その写真だけで構成することは最初から考えていました」

そこから15枚の写真をそれぞれ解説。落ち葉を明るく写したもの、暗く写したもの、前ボケで紅葉を写したもの、暗い背景で引き締めたもの、色鮮やかに明るく写したものなど、ある意味萩原さん「らしくない」写真も作品も交えつつ、テンポよく話は進んでいった。

そして本題の選考プロセスの話になる。

「まず全体の雰囲気に合わないので、スライドのいちばん右・上から2番目の写真を外しました」

「次に雰囲気が似ている写真の中から剪定し、前ボケが作られている2枚が目にとまったので、赤みがかった方の写真を外す」

「次にぼんやりとした2枚に目を向けると、完全にピントを外した写真の方が色合いや構図のバランスがよかったので、いちばん左下の写真を除外」

「次は水面に浮かぶ落ち葉シリーズですね。最上段の左から2番目の写真をメインに使うことはこのあたりで決めたので、それ以外は外します」

「次は色合いが似ている3枚ですね。緑、オレンジ、赤、黄色の4色で季節の移行を表現したものです。作品的に自分が気に入っているのは最下段の右から2番目の写真で、それ以外は色があるからという理由だけで入れたので、2枚は外します」

「ここまで見ると、明るい系統の写真と暗い系統の写真に分かれており、下3枚か上3枚か、トーンを統一して展示するのもありだと思いました。しかし合わせ技にしたい気持ちも強くなったので、次に落ちたのが暗い2枚です」

「最後は暗い1枚は確定させ、明るい3枚のうち2枚から選ぶ作業になりました。熟考した結果、右下のボケている写真が合わないと感じたので、最後にこれを外して3枚が残りました」

こうして萩原さんの講義も終了。写真家の頭の中を覗く貴重な時間になった。

いよいよラストとなる冬へ向けて

最後は全員が登壇し、冬への意気込みを語ってこの日のトークショーは終了。展示作品自体は、そもそも秋の被写体に赤やオレンジの物が多いため、5人とも統一感があったように思う。しかしながら、その捉え方は三者三様で、それぞれの秋色を存分に見せてくれたと思う。

残念ながら東京会場での秋編は10月10日で会期を終えてしまっているが、オリンパスプラザ大阪にて2018年11月9日(金)~11月15日(木)にかけて展示されるので、見逃してしまった方は足を運んでみてはいかがだろうか。

「4 Seasons ~OM-D E-M1 Mark IIで撮る四季~」、次回は冬編だ。四季シリーズもいよいよ大詰め。ラストを飾る冬を残すのみとなった。それぞれの写真家がどんな冬を切りとるのか、注目したい。

今後の開催スケジュール

オリンパスプラザ東京

展示内容と会期
冬編:2019年1月7日(月)~1月16日(水)
※トークショーも実施予定
所在地
東京都新宿区西新宿 1-24-1 エステック情報ビル 地下1階
営業時間
11時00分〜19時00分
休廊日
木曜日

オリンパスプラザ大阪

展示内容と会期
秋編:2018年11月9日(金)~11月15日(木)
冬編:2019年2月8日(金)~2月14日(木)
所在地
大阪府大阪市西区阿波座1-6-1 MID西本町ビル 1階
営業時間
10時00分〜18時00分
休廊日
日曜日、祝日

中村僚

編集者・ライター。編集プロダクション勤務後、2017年に独立。在職時代にはじめてカメラ書籍を担当し、以来写真にのめり込む。『フォトコンライフ』元編集長、東京カメラ部写真集『人生を変えた1枚。人生を変える1枚。』などを担当。