イベントレポート

オリンパスプラザ東京「4 Seasons 〜OM-D E-M1 Mark IIで撮る四季~ 春編」スペシャルトークショー

吉住志穂・福田健太郎・木村琢磨……三者三様の春を語る

初日の会場に集まった写真家3名。左から福田健太郎さん、今浦友喜さん(2日目に登壇。初日当日は見学のため来場)、木村琢磨さん、吉住志穂さん。

オリンパスのミラーレスカメラ「OM-D E-M1 Mark II」を使うプロ写真家5名によるグループ写真展「4 Seasons 〜OM-D E-M1 Mark IIで撮る四季~ 春編」がオリンパスプラザ東京で開催されている。季節ごとに春夏秋冬での展示が予定されており、今回は春編だ。

それにちなみ、参加写真家5名がその作品や撮影の解説を行うトークイベントが行われた。初日の3月31日には5名うち3名の写真家が登壇し、それぞれの作品について語った。

被写体は同じでも撮る人の心で変わる

1人目は吉住志穂さんだ。花のクローズアップ写真などで知られ、繊細な描写が人気を博している。

吉住志穂さん。

撮影:吉住志穂

吉住さんがまず語ってくれたのは、写真を撮る時の基本的な心構えだ。

「写真を撮るにはテクニックだけでは足りません。それをどう使っていくかを見つけていく必要があります。世阿弥の『風姿花伝』に『花は心、種は態(わざ)』という言葉があります。花とは作品のことで、それは心の状態を表しているよと。それを表現するのはワザ、つまりテクニックですね。それが種となって、花を作るという意味です」

「若い頃の私は、花の心を写真に写そうとしていました。つまり、落ち込んでいるときでも明るい花を撮ろうとしてきたのです。しかし、最近は自分自身の心を花に写すようになりました。明るい気分の時、暗い気分の時、それが写真に表れています。これから見ていただく写真は、私の心です」

いくつかの写真が表示された後、筆者の中で強く印象に残った写真が表示された。暗く引き締まった背景の中に、1輪の白い花が力強く表現された1枚だ。

撮影:吉住志穂

「ただ、明るい気分だから明るい写真、暗い気分だから暗い写真、というわけではありません。例えばこの写真。一見すると暗い写真ですが、その中にもポンと明るい花が咲いています。私はこの写真は明るいイメージでとりました。すべてのものには陰と陽があると感じています。写真展『陰&陽(いん&やん)』」で使用したものです」

もう1枚は、背景は玉ボケでキラキラと表現され、細く頼りなくとも懸命に生きようとする1本の茎の写真だ。

撮影:吉住志穂

「最近はこういったほとんど何も写ってないような写真も撮るようになりました。スクエアのフォーマットで撮影し、細くて小さい茎なんですけど、背景をすべて明るい色でぼかして、主役は真ん中に置き、細くても頑張る力強さを表現しました。端に置いてしまうと弱くなっていたでしょうね」

そこからは具体的なテクニックの話に入っていく。特に、実際の撮影画面をスクリーンに表示し、ピントの合わせ方や色の調整の仕方をレクチャーするパートは、具体的で説得力があった。

「私はファインダーを使わずに液晶画面で見ます。バリアングルモニターが便利ですね。光は逆光が好きです。特に薄曇りの柔らかい光は、明るく楽しい感じに仕上げられます。よく『どの花を主役にしたらいいかわからない』と質問されますが、主役選びは観察です。花がたくさんある花畑でも、背が高いもの、飛び出しているもの、色が綺麗なものなど、なにか目立つ花があります。それをぼかしたり、アングルを変えたり、背景を整理したりして、主役に仕立て上げるのです」

「ISO感度は400〜800くらいまでですね。暗いときは三脚を使って固定し、あえて花の動きを表現したような写真を撮ります。ホワイトバランスはカスタムを使って、色温度5200が太陽の色なので、そこを中心に数字で設定していきます。仕上がり設定はポートレートで黄色味を足したり、アートフィルターのファンタジックフォーカスを使ったりします」

基本的な設定はここまで。そして次に述べたことが重要な内容だ。

「明るさは、比較しないとわかりにくいんです。一枚見ただけだと、人間の脳はそれがいいものだと思い込んでしまいます。そのため、露出補正などで明るさを変えて撮影し、比較をしていきます。その繰り返して適正露出を見つけていくのです。

撮影:吉住志穂

「最後は色です。雑誌で知った知識をそのまま活用するだけでは、自分の写真にはなりません。撮るのはカメラだけど、どの色を選択するかは自分の心です。写真がうまくなりたければ、たくさん撮るのがコツです。どんな風に撮ればいいのか、悩みながら、花を見つめながら何枚も撮ります。1枚だけ撮って終わるのは、花に対して愛情がない証拠です」

ほかにもボケや露出、ホワイトバランスのテクニックを、写真とともに紹介してくれた吉住さん。最後に世阿弥の言葉を再び引用して、この日のステージを締めた。

『時の間にも、男時・女時とてあるべし。いかにすれども、能によき時あれば、必ず、また、悪きことあり。これ力なき因果なり。信あらば徳あるべし』

「スランプになるときは誰にでもあり、それはしょうがない。だけど、それでも稽古を続けないとダメ。やり続けないと停滞してしまうし、うまくいかないことがあってもやり続ける。そういう意味ですね。私も悩みながら撮影している時期はあったし、今もそうです。

『人々心々(にんにんこころこころ)の花なり。いずれを真とせんや。ただ、時に用ゆるをもて、花と知るべし』

「作品は人によって違う形をしています。写真で言えば、テクニックは同じものを持っていても、心が違えば別の写真になる、ということですね」

ここまで話し終えたところで1時間が終了。2人目の福田健太郎さんにマイクを渡した。

自分に正直に撮ることで見えるものがある

2人目の福田健太郎さんは、まず春のイメージから話をしてくれた。

「春は入園・入学、新生活など、新しい挑戦の時期です。僕自身も何かに挑戦したくて、ハーフマラソンに出場してみました。なんとか完走できたのですが、人間というのは欲が出てくるものなので、次は完走だけでなくタイムにも挑戦したいですね」

今回の写真はすべて撮り下ろしで、CP+2018の期間中(3月1日〜3月4日)に撮影していたものだという。あえて単焦点レンズだけで勝負した。

「撮影で意識したのは『探る』ことです。新作で勝負したかったので、CP+期間中に伊豆へ行き撮影してきました。例えばこの写真。まったく春らしくはないんですが(笑)。岩場でキラキラした光を見つけて、スクエアのフォーマットで撮影。この写真を撮って、この日は『光』をテーマに撮影しようと思いました。そしてまた歩いて探していきます」

撮影:福田健太郎

「こちらは桜並木が川ぞいに連なっていました。朝方にこの場所を見つけて、夕方に再訪。この写真で効いているのは右に小さく写っている猫ですね。私は『持ってる』ので(笑)、撮影しているとこういう子が来てくれるんです。この子が桜を見た瞬間に撮影し、半逆光気味で影が生まれてくれるので、うまいバランスがとれました」

ここまで見せた後、福田さんは最近の心境の変化を話してくれた。

「昔、竹内敏信師匠に『風景なんて撮るな。お前は撮れないから違うことをやれ』と言われたことがあります。今思うと、色々な経験を重ねて、優しさや思いやりが重なって、物事の本質が見えてくるという意味だったんだなと。それが見えて初めていい写真が撮れるようになるということだったと思います」

「今の自分がそうなっているかは怪しいですが、昔は見えないものが見えるようになってきました。自分自身の心に正直になり、有名な撮影地に行くのではなく、当たり障りのない場所で琴線に触れるものを探す。それで十分なんです。豪華さはないけれど、そういった写真を撮っていきたいと思うようになりました」

撮影:福田健太郎

確かにこの日の福田さんの写真からは、今までの作風のイメージとは違う印象を受けた。福田さんと言えば、荘厳でドラマチックな風景写真の印象が強いが、この日の写真はより自由に撮影しているように見えた。

「3年くらいにはこんな写真は撮らなかったと思います。人工的に植えられた桜で、真ん中ではサザエが串刺しになっています。人が作り出した雑多な感じの中に、この景色を作った人の心情が見えてくるような風景です。『いいね!』はもらえないかもしれないけど、自分が好きな写真はこれです。大衆ウケを狙いすぎると、写真はつまらなくなります」

撮影:福田健太郎

もっとも、それでも空とのスペースや色使いなどは、一流のそれを感じさせるもの。「黄金比などは何も考えずに直感で撮ってるんですけど、意外とちゃんと考えてるみたいですね」と、笑いをとることも忘れなかった。

撮影:福田健太郎

そしてアマチュアカメラマンに勇気が出るような言葉を残し、3人目の木村さんへ繋いだ。

「写真の感性は人それぞれです。もっと言えば、自分の写真を見てもどこがきれいなのかわからないことがあります。でもそれでいいんです」

機材と現像ソフトを駆使して自分の世界を再現

3人目は木村琢磨さん。岡山県出身の写真家で、広告写真スタジオに12年勤務したのち独立。ここ数年で評価を高めてきたフリーランスフォトグラファーだ。元々は絵を描いたりデザインしたりする仕事に就いており、その感性が写真にも生かされている。

木村琢磨さん

「僕は『写真』に対する固定概念はないので、風景写真に人工物が入ってはいけないなどの考えはありません。人工物も含めて目の前の風景を写すのが風景写真だと思っているので、写真業界の中では破天荒な作風だと思います」

木村さんも自分の作品を見せながらプレゼンを進めていくが、確かに前の2人よりも写真の印象は違う。どちらかというと絵画を見ているような印象だ。しかし、木村さんはそれが自分の作風だと語っており、狙いを持って撮影とRAW現像が施されていることがわかる。そして何より、そういった写真に仕上がっていても、目が疲れることはない。

例えば鯉の写真。RAW現像で彩度を下げ、逆にコントラストは上げて、水面の波紋と鯉へ視線誘導している。構図も日の丸構図に近く、何が主役の写真なのかが一目でわかる。

撮影:木村琢磨

木村さんは他の写真でも日の丸構図を多用するようだ。その理由は、もっともインパクトが強い構図で、見た人の視線を迷わせないから。見た人に「なぜそこに被写体を置いた?」と疑問を残してしまうと、それが写真の印象を弱めてしまうという。

中でも気になったのは、高い位置から見下ろしているような写真が数点あったことだ。何か建物や高台の上から撮ったのかと思いきや、7.5mほども伸びるロング一脚にカメラを取り付けて撮影しているという。撮影の様子を写した写真を見たときは流石に驚いた。

撮影:木村琢磨

「見慣れた景色をいかに見たことのない景色に仕上げるか。そういった工夫でアングルが変わるだけでも、見たことのない景色になるんです。それが写真の醍醐味のひとつですね」

「ロング一脚を使うときは、広角レンズが多いです。手ぶれ補正が強力なのでブレも心配ありません。F5.6まで絞り、パンフォーカスで画面全体にピントが合うようにします。絵画にはボカす文化がないので、僕はどこをボカせばいいのかわからないんです。広角レンズを使ってパンフォーカスで撮れば、自分が得意な描写になります」

そして、撮影した写真はあとからRAW現像で調整することがほとんど。あえて時間をおいて後から見返すことで、自分の作品と会話をしながら作品を作っていく。その際には仕上がり設定やホワイトバランス、アートフィルターなどの特殊効果も加えて、見た目とは全く違う印象に仕上げていくこともあるという。

撮影:木村琢磨
撮影:木村琢磨

「せっかくカメラに機能があるので、使わない手はないと思います。写真にマンネリしてきたら、今まで使わなかった機能を使って、今までになかった写真を撮ってみるのもいい。『写真とは』という固定概念は捨てて、仕上がり設定やアートフィルターを楽しむといいと思います」

常識にとらわれない作風で観衆を楽しませ、デジタルカメラの新しい可能性を感じさせた1時間だった。

四季を通じてシリーズが続く

これでこの日の3人のステージは終了。いずれもそれぞれの個性を存分に見せてくれ、非常に密度の高いステージだった。

このイベントは夏編、秋編、冬編と続く予定なので、また次のステージでどんな写真と話が聞けるのか、期待したい。

写真展「4 Seasons 〜OM-D E-M1 Mark IIで撮る四季〜 春編」

会場

オリンパスプラザ東京 地下1階ショールーム クリエイティブウォール
東京都新宿区西新宿1-24-1 エステック情報ビル地下1階

開催期間

2018年3月23日(金)〜4月4日(水)

開催時間

11時〜19時(最終日は15時)

休館

木曜日

次回以降の開催スケジュール

オリンパスプラザ東京

夏編:2018年6月22日(金)~7月4日(水)
秋編:2018年9月28日(金)~10月10日(水)
冬編:2019年1月7日(月)~1月16日(水)

オリンパスプラザ大阪

夏編:2018年7月13日(金)~7月19日(木)
秋編:2018年11月9日(金) ~11月15日(木)
冬編:2019年2月8日(金) ~2月14日(木)

中村僚

編集者・ライター。編集プロダクション勤務後、2017年に独立。在職時代にはじめてカメラ書籍を担当し、以来写真にのめり込む。『フォトコンライフ』元編集長、東京カメラ部写真集『人生を変えた1枚。人生を変える1枚。』などを担当。愛機はNikon D500とFUJIFILM X-T10。