Nikon Z 7IIに決めた理由

シャープな描写とナチュラルな色再現 乗り換えをためらう理由は特にない…飯野匠紀さん

ビルとビルの間から光が差し込む中に見え隠れする女性の瞳の存在感を追求した。背景がとろけるようにぼける一方で、瞳は繊細に描かれ、画面に美しく浮かび上がった(撮影・キャプション:飯野匠紀)
Nikon Z 7II/ NIKKOR Z 50mm f/1.2 S /マニュアル露出(F1.2、1/6,400秒) / ISO 125

2020年12月11日に発売となった「Nikon Z 7II」(以下Z 7II)。ニコン初のフルサイズミラーレスカメラ「Nikon Z 7」の後継機だ。4,000万を超える高画素記録という基本コンセプトは踏襲しつつ、さらにCFexpress&SDのダブルスロットを搭載するなど進化。NIKKOR Zレンズのラインナップも充実してきた。

今回はこのZ 7IIを写真家の飯野さんに使ってもらい、その性能を存分に語ってもらった。多摩美術大学出身で、デザイナー経験もある飯野さんの作風に、Z 7IIやNIKKOR Zレンズの性能はどのように活かされるのだろうか。

飯野匠紀

1989年生まれ。多摩美術大学に入学し、2014年卒業。在学中にプロダクトデザインを専攻すると同時にグラフィックデザインの知識も習得。2016年にフォトグラファーの道へ。国内外から注目を集め、広告を中心に活躍している。スナップショット・風景・ポートレートなど、ユニークな視点で切り取ることを得意とする。

Nikon Z 7II


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ポートレートと風景、どちらも優秀な描写力

——写真家になったきっかけを教えてください。

もともとカメラの勉強はしていなかったのですが、大学卒業後に2年間ほどアメリカに留学し、そこで撮影現場に呼ばれました。初めてカメラに触れたのはその時です。その後、留学を終えて帰国し、日本でデザインの仕事をしていたのですが、なぜかあまりしっくりこなかったんですよ。そんな中で当時の上司に「カメラを使っている方が楽しそうだし、カメラで食べられそうならその方がいいんじゃない?」と言われ、カメラを仕事にしようと思いました。シャッターを押せばすぐに結果が出ること、被写体の選択からレタッチまですべて1人で完結できることなどが、僕の性格に合っていたんだと思います。

——美大卒、デザイン関係の仕事の経験もあるということで、そのあたりの経験や知識が飯野さんの写真に与えている影響はあるのでしょうか。

デザインは人から人へ伝えるためのものなので、発信した先のゴール地点に必ず人がいます。アートは、ゴールに人がいなくても成立します。完全に自分のために完結してもいいわけです。美大でこういったことを教えられて、当初もデザインの仕事をしていたので、「人にどう見られるか」は常に意識していました。それは無意識に写真にも出ていると思います。アート的に撮ることは、おそらく僕はできないですね。

——ニコン製カメラを使い始めたきっかけはなんですか?

母がカメラを持っていて、それを借りて遊んでいました。そのうち自分でもカメラが欲しくなり、母の知り合いのプロカメラマンに教えてもらって、ニコンのD610を買いました。

——飯野さんはデザイン出身ということもあり、メッセージが非常にわかりやすい作品が多い印象です。「伝わる写真」を撮影する上で、Z 7IIが有利な点はどこですか?

描写力でしょうか。例えばこのポートレートはNIKKOR Z 50mm f/1.2 Sの絞り開放F1.2で撮影していますが、ピントがしっかり目にピントを合わせられますし、ボケもきれいです。

撮影:飯野匠紀
Nikon Z 7II/ NIKKOR Z 50mm f/1.2 S /マニュアル露出(1/5,000秒・F1.2) / ISO 64

僕はシングルポイントAFで合わせていますが、ピント精度は上がったと思います。焦点距離は50mmですが、ここまでボケが大きくてきれいだと85mm程度のレンズを使っているような感覚でした。この描写を引き出せるのはボディの性能あってのものだと思うので、Z 7IIの恩恵だと思います。髪の毛やまつ毛の一本一本のキレもあり、立体感がきれいに残っているのも印象的です。

(編集部注)2月25日に公開されたNikon Z 7II/Z 6IIの最新ファームウェアVer.1.10では、オートエリアAFとワイドエリアAFにおける瞳検出の性能が向上しました。

ニコン「Z 7II」「Z 6II」の最新ファームウェアが公開


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風景写真でもZ 7IIの威力はすごくて、最初に思ったのは「青がきれい」です。トーンジャンプや色の濁りなどもなく、美しい青空をそのまま描写できます。空の青さは一定ではなく、水平線からの距離によって微妙にグラデーションがありますが、Z 7IIとNIKKOR Zレンズはそれもきれいに表現してくれます。

僕は風景写真でも望遠レンズで切り取るのが好きで、広い風景の中からどこをクローズアップする場所を探します。F値を絞り被写界深度を深くして、手前から奥までシャープに写るようにするのですが、Zマウントになってからカリッとした表現は磨きがかかったと思います。もちろんFマウントに不満があったわけではないのですが、よりシャープに写るようになりました。

シャープな表現は、波にも表れています。例えばこの夕焼けの写真。風が強く、耳が取れそうなくらい寒かった日でした(笑)。風の影響で波が高かったのですが、その荒々しい波の様子を手前から奥までしっかりと描写できています。

撮影:飯野匠紀
Nikon Z 7II/ NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S /マニュアル露出(1/1,250秒・F11) / ISO 320

ピントは真ん中あたりの電柱に合わせていますが、上空に飛ぶヘリコプターまで含めて、ここまで全体をカリッと写すことができました。日没直前で、海面もかなり暗くなっていますが、黒つぶれも起きずに階調が残っています。


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シャープな表現で言うと、この写真も象徴的な写真だと思います。手前の階段のメタル感のある金属と、奥の富士山の雪の模様まで、質感がはっきりわかります。

撮影:飯野匠紀
Nikon Z 7II/ NIKKOR Z 50mm f/1.2 S /マニュアル露出(1/1,600秒・F6.3) / ISO 160

広い風景を望遠で切り取るのは僕の好きな手法で、カメラを持つと切り取る場所がどこかいつも考えています。それが自分のオリジナリティでもあります。望遠レンズなら歪みもなくなるので、風景をありのまま見せることができます。

色もやはり重要ですよね。僕は撮影当時の記憶色を再現できるように、撮影とレタッチを行います。カメラを始めた当時はレタッチの比率も高かったですが、最近はよりナチュラルに仕上げられるように注力しています。Z 7IIは「ナチュラルに仕上げる」ことにも貢献してくれている実感はありますね。

撮影:飯野匠紀
Nikon Z 7II/ NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S /マニュアル露出(1/400秒・F7.1) / ISO 200


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軽くて良い機材は表現の幅を広げる

——レンズの逆光耐性はいかがでしょうか?

そう言われてみると……フレアやゴーストは出ていないですね。撮影しているときにゴーストやフレアが出ていたら、構図を変えたりカメラの角度を変えたりして出ないようにしますから、「言われてみれば」ということは撮影時に出なかったのだと思います。思い返すと、この撮影では一度も出ていないですね。

——寒い中での撮影だったそうですが、動作やバッテリーの耐久性はいかがですか?

それも問題ないですね。バッテリーは1日1本で十分です。星の撮影などになると違うかもしれませんが、日中の撮影ではまったく問題ないです。ミラーレスカメラになると電力消費が大きくなり、バッテリーの持ちが悪くなると聞いていましたが、心配していたことは何も起こりませんでした。いずれモバイルバッテリーからの給電も試してみたいです。

——電子ビューファインダーと背面モニター、どちらをメインに使いますか?

半々です。一眼レフの時は背面モニターのライブビューと光学ファインダーでピント合わせの方法が違うので使い分けていましたが、Z 7IIはどちらも同じシステムなので、どの場面でもどちらも使えます。

——光学ファインダーと電子ビューファインダーを比べると、使用感はどちらが良いですか?

今はもう電子ビューファインダーの方が圧倒的に使いやすく感じています。僕は一眼レフカメラを使用していた時期が短かったので、慣れるのが早かったのかもしれません。

電子ビューファインダーはピントが合っているかどうかがわかりやすいのと、撮影設定が反映されて写るので、無駄なシャッターが減りますよね。結果、撮影後の選定も楽になります。

——ボディやレンズの大きさ・重さはいかがでしょうか。

軽くて持ち運びも便利です。三脚を使う時など、若干軽すぎて大丈夫かなと思う時はありますが、基本的に手持ち撮影なのでそういう環境は滅多にありません。

それに、本体とレンズが軽くなった分、別の機材を持っていけるようになりました。そうすると自ずと表現の幅も広がりますし、何より安心できるんですよね。そういう意味で、本体やレンズが軽いのはありがたいです。

システムが軽いことのメリットは、背面液晶モニターのチルト機構を使った撮影にも当てはまります。地面スレスレのローアングルから撮影することがありますし、スタッフ越しに役者を撮影する映画のスチール撮影のときは、液晶モニターを下に向けて、ハイポジションから撮影しています。映画の時はサイレント撮影モードも使っています。

——カメラやレンズ以外に、頻繁に使用するアクセサリーはありますか?

最近はクロスフィルターとブラックミストを使っています。クロスフィルターはポートレートで瞳にキャッチライトを入れたり、グラスに反射した一筋の光を入れたり、といった具合です。「ハイライトの中によく見ると小さなきらめきがある」くらいの効果ですが、僕はそれくらいが好きです。

撮影:飯野匠紀
Nikon Z 7II/ NIKKOR Z 50mm f/1.2 S / マニュアル露出(1/8,000秒・F1.6) / ISO 80


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——最後に、Z 7IIへの買い替えを検討している方へ、おすすめポイントをお願いします。

迷っている方は、フルサイズの一眼レフを持っていて、ミラーレスへの乗り換えをどうしようか、という人だと思うんですよね。そういった人たちが心配になっている大きな点がバッテリーだと思います。Nikon Zは他のメーカーのミラーレスよりもバッテリーの耐久性は高いと思いますし、それは大きな訴求ポイントです。

乗り換えについてのデメリットは、本当にないと思います。画質や描写力はもちろん向上していますし、他の細かな機能も配慮されていますから。


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取材を終えて

デザインの仕事をされていた飯野さんの写真は、主題が明確でメッセージがはっきりしており、いわゆる”デザイン的な写真“と言えるだろう。ピント、色、解像力など、主題となる被写体を忠実に写すための機能が強力なZ 7IIとZレンズは、最適な機材と言える。

一方で、取材中の飯野さんはカメラやレンズの機能について「言われてみれば」ということが多かった。飯野さん自身が道具を選ばずに撮影できる技量があるのはもちろんだが、逆に言えば撮影に集中させるだけのスペックをZ 7IIとZレンズが備えていることの証左でもある。撮影者のポテンシャルを最大限に引き出すことができるカメラだということだ。

編集者・ライター。編集プロダクション勤務後、2017年に独立。在職時代にはじめてカメラ書籍を担当し、以来写真にのめり込む。『フォトコンライフ』元編集長、東京カメラ部写真集『人生を変えた1枚。人生を変える1枚。』などを担当。