Nikon Z 7IIに決めた理由

撮影者の視点に立った改良が作品を向上させる…佐々木和一朗さん

巨大な楓の木をローアングルから手持ち撮影した。5段分の強力なボディ内手ブレ補正に加え、新搭載のライブビュー情報表示の消灯機能により、背面モニターを見ながら四隅までしっかりとフレーミングできた(撮影・キャプション:佐々木和一朗)
Nikon Z 7II / NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S / 14mm /マニュアル露出(F11・1/25秒) / ISO 320

2020年12月11日に発売となった「Nikon Z 7II」(以下Z 7II)。ニコン初のフルサイズミラーレスカメラ「Nikon Z 7」の後継機だ。4,000万を超える高画素記録という基本コンセプトは踏襲しつつ、さらにCFexpress&SDのダブルスロットを搭載するなど進化。NIKKOR Zレンズのラインナップも充実してきた。

今回はこのZ 7IIを写真家の佐々木和一朗さんに使ってもらい、その性能を存分に語ってもらった。登山やバルーンに乗った空撮など、独特の撮影をおこなう佐々木さんには、Z 7IIのどのような部分が響いたのだろうか。

佐々木和一朗

1995年生まれ。佐賀県在住。愛用するニコンの広いダイナミックレンジを生かし、光を意識した作品を好む。最近は熱気球に乗ってバルーン空撮にも挑戦。第67回ニッコールフォトコンテストネイチャー部門でU-31賞受賞。

Nikon Z 7II

軽いことが前提の作品づくり

——写真家になったきっかけを教えてください。

もともと旅行が好きで、ある時思い立って「日本一周をしてみよう」と決意し、ヒッチハイクで1カ月かけて日本を回ったんです。そこで各地の観光名所を回って感動したのと同時に、「この景色をしっかりとしたカメラで写したい」と思いました。それがきっかけです。ただその時はカメラは持っていきましたが、まだ写真に関する知識もないですし、じっくり撮影する時間もあまりなかったので、行った先で記録として撮影する程度でした。

佐賀に御船山楽園という紅葉の名所があり、その写真をInstagramで見たんです。自分もよく知っている場所だったのですが、見たことがない視点と切り取り方でした。それに感銘を受けたのがカメラを勉強し始めたきっかけです。

——そこから各種フォトコンテストに応募され、数々の賞を受賞されています。

最初はInstagramに投稿するだけでしたが、そのうちコンテストに応募したくなり、まずは地元の小さいコンテストに応募しました。そこから徐々に大きなコンテストに応募するようになりました。

——そんな中で、佐々木さんがカメラに求めることはどんなことでしょうか?

最低限の描写力はもちろんのこと、頑丈さ、過酷な環境でも使えることですね。さらに最近はバルーンに乗ったり登山をしたりしながら撮影しているので、ボディとレンズの軽さも大切だと感じています。一眼レフの機能は魅力的なのですが、やはり持ち運びは不利なので、Nikon Zのコンパクトさが助かります。

——ニコン製のカメラを導入したのはいつでしょうか?

20歳のころに友だちからエントリー機のD3200をプレゼントしてもらい、1年ほど使ってからD750に買い替えました。早めにフルサイズにステップアップしたのは、のめり込むほどに「いい機材を使いたい」、「いい写真を撮りたい」という欲求が大きくなったので。コンテストに応募し始めたのもD750に移行してからです。

細かな改善点で使いやすくなった

——Z 7IIを使ってみて、感触はいかがでしょうか?

前身のZ 7を使っていましたが、見た目も機能もほとんど同じで、パッと見ただけではあまり変わりません。ただ、実際に使っていると細かな点が改善されていて、非常に使いやすくなっています。

例えばライブビュー表示の際、Z 7IIはすべての情報を非表示にして、撮影画面だけにできるんです。

これはZ 7にはなかった機能です。情報が非表示になると、画面の端に入り込んでいる余分な被写体を見逃さずに排除できるので、特に広角レンズで撮影するときに便利です。

Z 7IIからすべての情報を非表示にできるようになった。超広角レンズで構図を作る場合など、四隅まで視認できる

また、USB給電ができるようになっため、モバイルバッテリーをつなぎながら撮影できるようになりました。星の軌跡を撮影する長時間撮影の時など、安心してシャッターを開けっぱなしにすることができます。

——操作性で気に入っている部分はありますか?

電子ビューファインダーが見やすさですね。逆光で撮影することが多いので、電子ビューファインダー越しに太陽を直接見ることができるのが便利です。また、撮影設定の反映や拡大したピントを確認したりと、電子ビューファインダーを覗きながら全ての操作を完結できるのがありがたいです。

光学ファインダーから電子ビューファインダーに移った時の違和感もありませんでした。むしろ電子ビューファインダーの方が好感触です。長時間の撮影でも疲れないですし、僕はとても気に入っています。

また、背面液晶モニターを引き出してチルトすると、電子ビューファインダーのアイセンサーが自動的にオフになるんです。これまではタッチ操作時にアイセンサーが指に反応して電子ビューファインダーへと切り替わるため、ライブビュー画面が消えるということがありましたが、それがなくなりました。こういった細々とした改善のおかげで撮影が捗ります。

液晶モニターを引き出すとアイセンサーがオフになる設定が可能に。ファインダーを塞ぐと液晶モニターが消えてしまう問題が解消した

——低温度環境での撮影も多いと想像しますが、バッテリーの持ちはいかがでしょうか。

ミラーレスカメラに移行した時少し心配していましたが、バッテリーが弱くなったと感じることはありません。Z 7IIはUSB給電も可能なので、バッテリーが不安になったことはないですね。

バルーンからの撮影でNikon Zの良さを実感

——バルーンに乗って上空から作品を撮影されていますよね。

佐賀のバルーンは地元の名物です。そのバルーンのパイロットさんと知り合うことができて、月に1〜2回のペースで乗せてもらい撮影しています。ガスボンベ、パイロット、そして僕が乗り空中に浮かびます。ゴンドラの中はとても狭いので、必要最低限の機材しか持っていけません。基本的には立ち位置も固定で動けません。上半身だけを動かして撮影します。重量も制限されます。広角と標準、それぞれのレンズを装着したカメラを1台ずつ持って、それだけで乗り込みます。三脚も、予備のバッテリーすら持ち込みません。

飛んだ先で被写体を見つけて素早く撮るということが必要になり、瞬発力を求められます。雲の流れで太陽が見え隠れすれば、それだけで露出が大きく変わりますし、それに合わせて設定も素早く変えなければいけません。常にファインダーを覗き、状況に合わせて設定を調整し続けて備えます。慣れるまでは難しかったですね。

この写真は、佐賀に雪が降った翌日に撮影したものです。

撮影:佐々木和一朗
Nikon Z 7 / NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S / 14mm / マニュアル露出(1/200秒・F9.0) / ISO 64

佐賀は平地なので数年に一回程度しか雪が降らず、しかも積もるほど降るのはごく稀です。そんな日に風の強さもちょうどよくバルーンが飛べて、撮影ができました。貴重な一枚だと思います。

この作品はZ 7で撮影しています。Z7 IIはZ 7に比べ、連写性能とバッテリー性能が向上しているので、より撮影が捗ると思います。バルーン空撮は基本的にファインダー撮影ですが、状況によってはライブビュー撮影も行うのでZ 7 IIの情報表示の消灯機能が非常に役立つと思います。


◇   ◇   ◇

これは雲海の上から撮影した写真です。

撮影:佐々木和一朗
Nikon Z 7 / NIKKOR Z 14-30mm f/4 S / 14mm / 絞り優先AE(1/125秒・F9.0・-0.3EV) / ISO 64

高度は1,000~1,200m程。ドローンの5倍以上の高さで、雲海にブロッケン現象も発生しています。高度を表すために町の風景を入れたかったので、ここでも超広角レンズを使用しています。

ドローンは規制が厳しく、飛ばせる場所が制限されます。その上、ドローンについているカメラはまだ画素数が低く、高度もあまり出せないので、構図や画質に限界があります。一方で、バルーンはドローンよりも飛行区域の制限は少ないですし、高度もドローン以上。カメラも約4,575万画素のZ 7IIを持ち込めます。カメラを持つ人が増えていますし、自分独自の写真を撮ることは常に意識しています。その選択肢のひとつが、バルーンの空撮でした。


◇   ◇   ◇

——空撮ではない風景でもNikon Zをお使いですよね?

はい、例えばこれは、熊本の菊池渓谷で撮影した写真です。

撮影:佐々木和一朗
Nikon Z 7II / NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S / 14mm / 絞り優先AE(1/3秒・F11・-0.3EV) / ISO 64

1/3の低速シャッターですが、Z 7IIの強力な手ぶれ補正が効いているので、手持ちで撮影できました。四隅までしっかりとブレずに撮れるのは、Z 7IIならではの機能です。


◇   ◇   ◇

これは濃霧の中で鳥居を狙って撮影したところ、たまたま鳥が鳥居に止まってくれたので、連写した中から一枚を選びました。濃霧の中に鳥居や紅葉のシルエットが浮かび上がり、モノクロ作品のような仕上がりになっています。

撮影:佐々木和一朗
Nikon Z 7II / NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S / 14mm / 絞り優先AE(1/20秒・F9.0・-0.3EV) / ISO 64

これだけの輝度差でも白飛びや黒つぶれは起きておらず、階調が残っているのは、Z 7IIの強みだと思います。ノイズもかなりおさえられますね。CFexpressを使うとカメラ内での再生動作やパソコンへのデータ転送が速くなり、ストレスなく操作できます。


◇   ◇   ◇

Z 7IIから30秒以上の長時間露光をシャッター速度設定で使えるようになりました。これまではバルブモードに切り替える必要があったのです。星景写真が撮りやすくなりましたね。

逆光に強く四隅まで高い描写力

——レンズの話もお聞かせください。Zレンズは何をお持ちですか?

NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S、NIKKOR Z 24-70mm f/4 S、NIKKOR Z 20mm f/1.8 Sの三本です。もう一本、明るい高倍率ズームがあると嬉しいですね。

——今回は「NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S」を主に使っていただきました。

NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S

逆光で撮影することが多いのですが、このレンズはゴーストやフレアがほぼでません。太陽をそのまま画角の中に入れたとしてもです。ここまで何も出ないのはすごいと思います。絞り開放で撮影した時のシャープさも特筆すべきものがあります。しかも四隅まできっちり写ります。

薄暗い森に差し込む光を撮影したがフレアでにじむことがなく、細部までクリアな描写が得られている(撮影・キャプション:佐々木和一朗)
Nikon Z 7II / NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S / 24mm / マニュアル露出(1/13秒・F11) / ISO 250

——大きさや重さ、Z 7IIに装着した時のバランスなどはいかがでしょうか?

バランスは悪くないです。持っていても違和感はないですし、レンズもボディもコンパクトになって持ち運びも楽ですね。

軽くなったからといって堅牢性に不安があるわけでもなく、海で波を被った時も、手入れさえすれば問題ありませんでした。安心感はむしろ一眼レフの頃より増している印象です。

ボディが作り出す画、細かな機能の改善、そこにレンズの描写力が相まったことで、Z 7IIはより完成度の高い撮影機材になった思います。これからの使用し続けていきたいですね。

取材を終えて

若くして自身の撮影スタイルを確立し、自己研鑽と投資を厭わない佐々木さん。本稿では書ききれなかったヒッチハイク日本一周のエピソードや、それをおこなうきっかけ、実際にアクションを起こす行動力など、彼から学び教わることは多かった。

またZ 7を使い込んだ佐々木さんから、Z 7IIに盛り込まれた改善点を細かく聞くことができた。Z 7IIはZ 7から大きな変更がないように感じていたが、実際には撮影者の側にたった改良が加えられ、完成度を増している。筆者自身もそうだが、ニコンユーザーなら、こうしたニコンの姿勢に好感を覚えることだろう。

編集者・ライター。編集プロダクション勤務後、2017年に独立。在職時代にはじめてカメラ書籍を担当し、以来写真にのめり込む。『フォトコンライフ』元編集長、東京カメラ部写真集『人生を変えた1枚。人生を変える1枚。』などを担当。