Nikon Z 7IIに決めた理由

ハード・ソフトの両面で良好なクオリティ 繊細な描写にも大満足…小林淳さん

Nikon Z 7II・NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S・NIKKOR Z 20mm f/1.8 S

きらびやかな四日市コンビナートの工場夜景と、それが四日市ドームのガラスや水面に映り込む光景が近未来を思わせる。特に広角レンズが生きる構図で、20mm単焦点レンズの描写力が発揮されている
Nikon Z 7II / NIKKOR Z 20mm f/1.8 S / 20mm / マニュアル露出(F10、30秒) / ISO 100 / WB:オート

2020年12月11日に発売となった「Nikon Z 7II」(以下Z 7II)。有効約4,575万という高画素数はそのままに、連写性能や瞳認識AFといった諸機能がより強化され、さらにCFexpressおよびSDカードが対応するダブルスロットを搭載。「Z7」からさまざまな強化が加えられたフルサイズミラーレスカメラのフラッグシップ機だ。NIKKOR Zレンズのラインナップも充実してきた。

今回はZ 7IIを写真家の小林淳さんに使ってもらい、その感想を存分に語ってもらった。デジタル一眼レフカメラのヒットモデル「D850」のユーザーでもある小林さんは、Z 7IIについてどのような印象を持ったのだろうか。

小林淳

建築士の傍ら、写真の世界に魅せられて、「家族のいる風景」をテーマに撮影をはじめる。 写真を通じて、家族との時間を美しく記録することと、地元・岐阜の魅力を伝えていくのがライフワーク。「岐阜城に昇る月」の作品などがTVやWEBニュースなど各メディアに多数取り上げられるなど反響は大きい。近年では岐阜市との共催で写真展「本気岐阜(マジギフ)展」、「本気彩郷(マジサイキョウ)展」や、山県市巡回写真展「風光明媚」、そして個展「家族のいる風景」を開催し人気を博した。国内フォトコンテスト審査実績多数。一級建築士。


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Nikon Z 7II


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D850に加えてZ 7IIを買い増ししたい

——写真家になった経緯を教えてください。

きっかけは家族ですね。結婚して、子どもが産まれて、その記録を撮りたくてカメラを持ったのです。家族の写真を撮るうちに、だんだん作品として写真を残したいという気持ちが芽生えてきました。それが今の活動のきっかけですね。

もうひとつあります。それは地元(岐阜県)の風景を美しく残し、それを発信して、誰かに何かを感じてもらいたい、という思いからでした。

——最初に購入されたニコンのカメラは?

今から8、9年前だと思いますが、デジタルカメラを買おうと思い立ったとき、家電量販店で実際に握ってみて、「これにしよう」と決めました。「D5200」でした。カメラにのめり込むきっかけになった思い入れのある製品ですね。一緒に買ったのが「AF-S DX NIKKOR 35mm f/1.8G」で、そこからどんどんハマっていきました。その後、フルサイズの「D600」「D800E」と乗り換えてきました。いまは「D850」で、「Z 7II」の買い増しを考えています。

——そんな小林さんがカメラに求めることとは?

一言で言うと描写力です。極端な話、記録として残すだけの頃は画素数も色もあまり気にしていませんでした。ただ、作品として突き詰めていくと、どうしても描写性能を求めることになります。描写性能とは何か? というと難しいのですが、画素数や色の表現を含めた全般的な力になると思います。そしてもちろん、描写性能はカメラだけでは実現できません。描写性能に優れたカメラボディがあり、そのポテンシャルを引き出すためのレンズが必要です。

——それ以外に重視している撮影用品はありますか?

私は風景撮影が中心で、画面の隅々まで高い解像感で撮影したく考えています。そうなると、安定感のある三脚が必須ですね。また、自然の中を歩き回るため、機材を持ち運ぶためのカメラバッグも重視しています。体にフィットするものをこだわって探していますね。移動で疲れてしまうと、作品の質にも影響しますから。手ブレ防止のためにリモートコードを使用しています。それと、PLフィルターはよく使いますね。

中層ビルが密集している街並みの様子を、高層ビルから撮影した。日の入り前の光は、街並みのコントラストを強調した
Nikon Z 7II / NIKKOR Z 24-70mmf/2.8 S /55mm / マニュアル露出(F8、1/125秒)/ ISO 250/ WB:オート

細かく繊細な描写性能

——「Z 7II」を導入することを決めた一番の理由はなんでしょうか?

NIKKOR Zレンズが充実してきたのが大きいですね。「Z7」「Z6」が登場したときから気にはなっていたのですが、一眼レフカメラ用のNIKKOR Fレンズをマウントアダプター経由で「Z 7II」に装着することについて、あまり考えていませんでした。それがこの1・2年でミラーレスカメラ専用のNIKKOR Zレンズが充実してきて、特にズーム全域でF2.8のいわゆる「大三元レンズ」が出揃ったことは大きいです。もともと一眼レフカメラ用の大三元レンズにも信頼を寄せていましたので、これならどんな場面でも対応できそうな安心感を覚えます。

——今回、デジタルカメラマガジン2021年2月号の記事のため、「Z 7II」をご試用いただきました。感触はいかがでしょうか?

小さくて軽いボディが本当に衝撃的でした。「D850」の大きさ・重さに慣れていたのでなおさらです。それでいてグリップ感や操作性にほとんど違和感がありませんでした。カメラらしい重厚感や高級感もあり、私のようなニコンユーザーの期待に応えたミラーレスカメラだと思います。相当にこだわった設計をされているのでしょう。

操作性に関しても申し分ありません。右手中心の操作になっているのですが、すぐに慣れました。言われてみればそうかも……というくらいです。撮影中にノールックで操作するダイヤルやAFボタンなどは基本的な位置が変わっていませんし、位置が変わったボタンにはこれまでと同じ表記の文字がプリントされています。唯一気になったのは、イルミネーションボタン機能がなく、その文字が光らないことくらい。

——一眼レフとミラーレス機の大きな違いのひとつが、ファインダーです。「Z 7II」でのクオリティはいかがでしたか?

かなり自然な見え方になってきていると思います。以前「Z6」で撮影した時よりもかなり改善されていると感じました。

それと連写時のブラックアウトも短くなっています。下の写真は動いている白鳥を連写で撮影したものですが、この連写中でもブラックアウトはほとんど感じませんでした。風景撮影で連写はあまり使わないと思われがちですが、こういった動く被写体が絡む場合、約10コマ/秒の連写性能は心強いです。

鮮やかな紅葉と白鳥、湖面のリフレクションという神秘の絶景。この湖に1羽しかいない白鳥が来てくれるのをじっと待って連写した
Nikon Z 7II / NIKKOR Z 20mm f/1.8 S / 20mm/絞り優先AE(F6.3、1/160秒、+0.3EV)/ISO640 / WB:オート

——「D850」と同じく「Z 7II」はチルト式の背面モニターを装備しています。

チルトは普段から頻繁に使っています。地面スレスレにカメラを構えるような時など、もはや欠かせない機構ですね。基本的にはファインダーを覗く撮影スタイルなのですが、目線と違うカメラポジションにできるので、背面モニターでのライブビュー撮影もおこないます。

——「D850」との描写の違いは感じましたか?

求めるもの以上になっていました。描写が細かく繊細です。線の描き方がきれいです。さらに「ピクチャーコントロール」で「ミドルレンジシャープ」を調整できる点も気に入っています。これを使うことでさらに細かなシャープネスを調整でき、写真の立体感や奥行きを追求できます。ハード面での高精細と、ソフト面での調整機能が、ともにハイレベルで備わっている印象です。

——木々の葉っぱや、ビルの窓までくっきり写っていて、大きくプリントをしたときに迫力が増しそうです。

そうですね。有効約4,575万画素の力もありますし、A0サイズやそれ以上でも十分プリントできるクオリティでしょう。遠景のビルに書かれた文字まで見える、鳥肌が立つようなプリントができると思います。

——撮影設定についてお聞かせください。

基本的に露出はマニュアルです。風景撮影ではパンフォーカスにしたいので、F8〜11あたりに設定することが多いです。やはりF8〜F11の絞りが、写真全体をもっともシャープに写すことができると感じます。

——Z 7IIでは、シャッター速度を900秒まで設定できるようになりました。

これは大きなメリットです。これまでのカメラでは30秒が限界のカメラが多く、30秒以上の秒数に設定しようとするとバルブにする必要がありました。しかしこの雲海の写真は、シャッター速度を240秒にして撮影しています。これまでは専用のリモコンを使ったり、ストップウォッチを確認しながらシャッターボタンを押し続けなければいけなかったので、その手間がなくなるのはありがたいです。カウントダウンが表示されるのも嬉しい機能ですね。

肉眼で富士山が何とか見えるかどうかという暗い時間帯に撮影。4分間露光し続けて表現できた幻想的な雲海と富士山の世界
Nikon Z 7II / NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S / 44mm / マニュアル露出(F8、240秒) / ISO 100 / WB:オート

——ホワイトバランスはどう設定されているのですか?

すべてオートです。オートでも自分の感覚とそこまで狂いはなく、RAW現像で少し調整することを考えても、オートの信頼性は高いです。カメラの色識別が優秀なので、そこはカメラに任せて、自分は撮影に集中してなるべく多くの作品を残せるようにしています。

——アクティブD-ライティングはどうされているのですか?

今回の作例(JPEG記録)では「より強め」に設定しています。普段から白飛びを抑えるためやや暗めに撮影してRAW現像でシャドウを持ち上げていますが、「Z 7II」のRAWは、シャドウを持ち上げてもあまりノイズが目立たない印象を持ちました。「D850」の優れたダイナミックレンジを継承しているのでしょう。

——ノイズといえば高感度耐性はいかがだったでしょうか?

ISO10000以上で夜景を撮影してみましたが、手持ちで十分に作品として成立する写真が撮れました。そのうち星も撮れそうな気がします。「D850」も同じ感度で撮影して比較しましたが、ノイズの乗りが軽減されていますね。

抜けの良いF2.8ズーム、解像感の高い単焦点レンズ

——「Z 7II」と組み合わせて「NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S」「NIKKOR Z 20mm f/1.8 S」の2本を使っていただきました。

NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S
NIKKOR Z 20mm f/1.8 S

どちらのレンズも「描写力が優れている」という点に尽きると思います。四隅までまで解像感やシャープさが保たれており、周辺光量落ちも感じられません。それは「NIKKOR Z 20mm f/1.8 S」「NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S」ともに同様でした。NIKKOR Fレンズも大三元やF1.8の単焦点レンズは相当な描写力でしたが、NIKKOR Zレンズも同じか、それ以上の性能ですね。F8程度まで絞った時のシャープ感、適正に絞った時の描写力は強くお伝えしたいですね。画面の隅々まで圧倒的な解像力です。

そして衝撃を受けたのが「NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S」の抜けの良さです。それでいてボケの滑らかさや、全体的にやわらかく自然な表現が印象的でした。もともと良かったNIKKOR Fレンズからさらに優れたものが作れるのかと。この描写性能があるからこそ、ミドルレンジシャープの調整も生きるのだと思います。

——逆光耐性はいかがですか?

夜景写真は逆光になるので、性能がいまいちなレンズだとゴーストやフレアが出てしまいますが、このレンズはまったくその心配はありませんでした。逆光時にもピントが迷うことなく合います。「逆光耐性」と言うと、ゴーストやフレアが出ないことをイメージする方が多いと思いますが、逆光下でAFが正常に働く、オートホワイトバランスで正常な色表現を得られることも大事です。逆光下でそれらの性能が低いと、撮れ高が少なくなってしまいますから。そういう意味でこのレンズではまったく不安ではありませんでした。

——レンズの大きさや重さ、ボディとのバランスはいかがですか?

長らく一眼レフの大きさ・重さに慣れていたので、それに比べると軽さがありがたい機材です。ボディもレンズも軽量化されているので、バランスはとてもいいですね。

剣豪宮本武蔵が修行したと伝えられる名瀑。紅葉シーズンに色付いたモミジとのコラボを狙った
Nikon Z 7II / NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S / 33mm /マニュアル露出(F9、1/20秒) / ISO 100 / WB:オート

——操作性はいかがでしたしょうか?

違和感はありませんでした。あまり目立たないですけど、便利でありがたかったのが「NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S」のレンズ情報パネルです。ここに焦点距離や絞り値が表示されるので、モニターやファインダーを見なくて済みます。三脚を使って撮影すると、カメラのまわりをウロウロしたりするので(笑)、わざわざ背面に回らずに済むのは意外と便利です。特に焦点距離表示は頻繁に見ました。

——ボディ、レンズ、ともに非常に満足度の高い性能になっていると言えそうですね。

そうですね。ボディとレンズが持っている描写力がハード面、ボディに備わっている機能がソフト面だと考えると、その両方が高いクオリティに仕上がっていると思います。これからNIKKOR Zレンズを揃えていくのが楽しみです。

——「D850」との使い分けはどうなっていくでしょうか?

これから模索していくことになると思います。ただ当面は、NIKKOR Zレンズが揃っていない焦点域はD850で撮影する、ということになるでしょう。どちらも性能は遜色ないカメラなので、どちらのカメラで撮影しても自信を持って発表できます。これからどんな作品が撮れるか楽しみです。

デジタルカメラマガジンにも小林淳さんが登場!

デジタルカメラマガジン2021年2月号の「Z 7IIに決めた理由」では、インタビューにお答えいただいた小林淳さんとポートレート写真家の立花奈央子さんが、D850に対するZ 7IIのメリットやミラーレスカメラへの乗り換え条件などについて考察しています。ぜひご覧ください。

協力:株式会社ニコンイメージングジャパン

中村僚

編集者・ライター。編集プロダクション勤務後、2017年に独立。在職時代にはじめてカメラ書籍を担当し、以来写真にのめり込む。『フォトコンライフ』元編集長、東京カメラ部写真集『人生を変えた1枚。人生を変える1枚。』などを担当。