FUJIFILM X、それぞれのコンセプトを探る
プロの道具としての使いやすさが、表現する意欲を高める
写真家・井賀孝さんに聞く「X-Pro2」の魅力
2018年2月22日 12:00
富士フイルムのミラーレスカメラ「Xシリーズ」には、同じイメージセンサー、同じ映像エンジンを搭載した5モデルが存在する。X-H1、X-T2、X-Pro2、X-E3、X-T20の5機種だ。
他のカメラメーカーのラインナップと異なり、明確なヒエラルキーを持たないこれら4台の違いとは何か。スペックシートからわからない特徴を導きたく、それぞれのリアルユーザーに愛機の話を聞いた。それがこの連載「FUJIFILM X、それぞれのコンセプトを探る」だ。
今回のテーマは「FUJIFILM X-Pro2」(以下 X-Pro2)。
すべての写真作家の頼れる右腕として開発されたという、レンジファインダーカメラスタイルのフラッグシップモデル。一眼レフカメラライクなデザインで汎用的な立ち位置を特徴とする「FUJIFILM X-T2」に対し、フラットで品位の高さを醸し出す佇まいは、高い趣味性と持つ喜び、撮る喜びを素直に感じさせてくれるのだ。
特徴のひとつは、前モデル「FUJIFILM X-Pro1」から引き継いだ「アドバンストハイブリッドマルチビューファインダー」だ。光学式ビューファインダー(OVF)と電子式ビューファインダー(EVF)をレバーひとつで切り換えることができる。慣れ親しんだ自然な見え具合のOVFと、ミラーレスカメラならではのEVFの良さを併せもつこのシステムは、アート性を重視する写真家の目であり、感性の延長線上にあるといえるだろう。
イメージセンサー | X-Trans CMOS IIIセンサー 約2,430万画素 |
レンズマウント | FUJIFILM Xマウント |
撮影感度 | ISO100〜51200(拡張設定を含む) |
最高シャッター速度 | 1/8,000秒(メカシャッター) |
連写性能 | 約8コマ/秒 |
ファインダー | ハイブリッドビューファインダー(OVF/EVF切替式) |
液晶モニター | 3型 約162万ドット |
動画 | 最大3,840×2,160/29.97p(4K) 100Mpbs |
外形寸法 | 140.5×82.8×45.9mm |
質量 | 約495g(付属バッテリー、メモリーカード含む) |
“闘って撮る写真家” 井賀孝さん
ブラジリアン柔術の指導も行う井賀孝さんは、異色の写真家といえるだろう。写真学校への進学やアシスタントの経験を経ることのなかった井賀さんが、高校時代に没頭したのはアマチュア・ボクシングだったという。写真よりも先に格闘の世界に足を踏み入れた訳である。
厳しい格闘技の世界で紆余曲折を経た後に、井賀さんが志したのが表現者としての道だった。写真を始めたのは大学卒業後、独学でのことだったという。27歳の時にニューヨークで出会ったブラジリアン柔術をきっかけに“闘って撮る”写真家の道を志向し、幾度となくブラジルへと通った末、2002年に処女作『ブラジリアンバーリトゥード』を著した。
その後、日本の山を撮ろうと思い立ち、2012年には『山を走る-1200日間山伏の旅』を出版。熊野から吉野までの山を歩く修験者の撮影に挑んだ。
そして写真集『不二之山』を出版したのが2014年のこと。厳冬の富士山頂上を目指すために、本格的な雪上訓練を数年こなしてから臨んだという。写真集には実際に登ったものだけが知る自然の厳しさや神々しさなど、井賀さんならではの富士山に対する敬意が溢れている。
現在も山伏修行や作品撮影をこなしながら、さまざまな媒体において格闘家やアスリート、アーティストなどの撮影にあたっている井賀さん。今回のテーマであるX-Pro2とはどのように向き合っているのか、お話をうかがってみた。
ツールとしての使いやすさ
−−井賀さんは表現に対して真剣に向き合っているイメージですが、カメラ自体もお好きなのですか?
好きですよ(笑)でも、どちらかというとメカのことよりは写真の方に興味が強いかな?もちろんメカも人並み以上に興味ありますけど。
−−ご自分の撮影スタイルに合うかどうかが重要なのでしょうか?
そう。写真を撮るためのツール、道具としての使いやすさということの興味です。だからこれまでには相当いろいろなカメラを弄ってきました。
−−X-Pro2を使われるようになったキッカケは?
知人から「いいカメラだからちょっと使ってみてよ」といわれ、ご厚意で貸してもらったのです。それで実際試しに使ってみたら、すごく使いやすくて気に入りました。富士フイルムからはいろいろなタイプのデジタルカメラが発売されていますけど、断然X-Pro2を気に入って購入しました。
−−私の勝手な印象ですけど、正直、格闘家でもある井賀さんがレンジファインダータイプのカメラを選ばれたというのは意外です。
そうですか? フィルムで撮影していた頃はライカやコンタックス、マミヤなんかのレンジファインダーカメラをよく使っていました。いろいろ触ってきた経験から、X-Pro2を選んだのです。
−−レンジファインダータイプのカメラの良さはどこでしょう?
やっぱり小さくて軽いカメラが好きですし、実際、そうしたカメラでないと撮影が難しいシーンもあります。比較的危険なところでも撮影することがありますし、富士山などでも機材がコンパクトになれば身軽になり、その分、安全を確保してチャンスを増やすことができます。
−−「危険な」というのはどういった状況でしょう?
例えば、富士山や修験道の撮影でしたら、機材の重さがそのまま命の危険に繋がることがあります。ブラジルなどで観光客が行かないようなところでは、強盗に襲われる危険も普通にあるので、まず不用意にカメラを出しっぱなしにはしません。大きなバックを持っていることも危険なので、なるべく目立たないようにしなければなりません。
−−必要な時だけさっとカメラをだして撮影を終えたら直ぐにしまう?
そうです。僕は山の写真を撮るにしても三脚立てて光を待ってというタイプではありません。常にカメラを持ち歩いて自分で被写体を探していくので、小さいこと、軽いことがとても重要になります。
表現者に最適なツールとは
−−X-Pro2を使っているユーザーは、心からX-Pro2を愛して使っている方が多いといいます。
そうそう! 僕も本当にX-Pro2が好きなんです! いわゆるデジタル一眼レフカメラは格闘技の興行を撮る時などに使っていますし、仕事道具として信頼もしています。でもそうしたカメラには写真を撮る楽しさが少ない。その点X-Pro2だと、手に持った感じやシャッター音、ファインダーを覗いたときの自然な感じがとてもしっくりくる。僕にとっては写欲を掻き立ててくれるカメラになっているのです。
−−撮りたい気持ちを掻き立ててくれるカメラは、いまや貴重なのかもしれません。
写真を始めた頃はレンジファインダーカメラやコンパクトカメラをいつも持ち歩いて何でも撮っていた。でも最近、仕事や作品撮影の時以外はカメラを持ち歩かないようになってしまっていた。でもX-Pro2を手に入れてからは、ほぼ毎日持ち歩いて何かしら撮るようになりました。
このビルの写真は、仕事で打ち合わせに向かう途中に目についたので撮ったものです。ごく日常的な写真ですけど、こういう写真も再び撮るようになったことが、僕にとってのX-Pro2の良さなのです。
井賀さんにとってのX-Pro2・今とこれから
−−性能的に不満を感じることはありませんか?
AFですが、精度もスピードも問題なく気持ちよく撮れます。プロも納得の性能だと感じています。あと、富士フイルムのカメラ全般にいえることですが、フィルムシミュレーションを使うことで、僕らの世代にとっては馴染み深い色調が選べるのが嬉しい。特に「プロビア」とか「アクロス」などは、X-Pro2の撮影スタイルに合っているように思えて、また嬉しくなります。
−−確かに、フィルム世代にとってフィルムの名前は特別なものがありますね。
今のデジタルカメラはどれも綺麗に撮れますけど、フィルムで育った僕らにとっては、フィルムの名前を出されると心に響くものがありますよね。
−−今よく使われているフィルムシミュレーションは何ですか?
ブラジリアン柔術の道場で撮影する時は、「クラシッククローム」を使っています。フィルム時代のブラジルでの撮影では、道場内が暗い上に、「練習の邪魔になるからストロボを焚かないで」と言われていた関係でストロボを使えなかったことから、「PRO400」というネガカラーフィルムをよく使っていました。クラシッククロームの発色は渋めでコントラストはやや高めという調子が、これまでの経験と今の感性を合わせて一番シックリきています。
でも、日常を撮るときよく使っているのが「プロビア」です。僕は、八王子市の高尾に住んでいてよく山を散歩しますが、散歩中の僕の目についた光景なんかを撮るときはほとんど「プロビア」で撮影しています。
−−X-Pro2はOVFとEVFの両方を備えた「アドバンストハイブリッドマルチビューファインダー」が特徴のひとつです。井賀さんはどちらがお気に入りですか?
手に入れた最初の頃は、馴染みやすいOVFを使っていましたけど、だんだん本気の作品撮りに使う機会も増えてくると、構図をキッチリ図れるEVFの使用頻度が増えてきました。しかし、気分に合わせて両方切り換えられるのはいいですね。
−−ところで、レンジファインダー風という意味では、OVFこそ搭載されていませんが、より小型のカメラが富士フイルムから発売されていますが……
X-E3ですね! つい先日、触らせてもらう機会があって、ああこれもいいなと思いました。思いましたけど、スナップ撮影以外に仕事や作品撮影でも使いたいと思うようになってくると、僕としてはX-Pro2並みのカメラらしい風格を備えたたたずまいが欲しいと思います。なので、やっぱり僕にはX-Pro2かな(笑)あくまで撮るための道具ってこともありますしね。
−−X-Pro2は防塵・防滴・耐低温性に優れた堅牢なカメラですが、それも重要ですか?
すごく重要です。六本木のフジフイルムスクエアで「不二之山_新」という写真展を開催させてもらったことがあるのですが、その写真を撮りに富士山に登った時、竜巻に巻き込まれて、砂や石がカメラにガチャガチャあたりながら撮影したこともあります。僕の撮影ではそういった過酷な状況が突発的に起こることもあるので、カメラが頑丈で信頼できるということは最低条件だともいえます。
−−富士山にはまた撮影に行かれる予定ですか?
まだまだ通うつもりです。ちなみに明日からも撮影のために富士山に行きます。明日出発で裾野にテント泊をして午前2時起きくらいで登山と撮影を始める予定です。今までにもX-Pro2と一緒に富士山に登っていますけど、冬にX-Pro2を持っていくのは実は明日が初めてなんです。この季節だと上の方の気温は-10度を切っています。ちょっとした実験の意味もあって、そこで実際に期待した通りの活躍を見せてくれるかどうかという。
−−過酷な使い方ですね。そこまでの条件でX-Pro2を使うユーザーはほとんどいないと思います。
厳冬期の富士山にX-Pro2を持っていく人はまずいないでしょうね。でも僕が、僕のスタイルでX-Pro2を信じて持っていくという体験が、まずは貴重なことなんだと考えています。X-Pro2を始めとしたミラーレスカメラも、ついにプロの領域に迫ってきたのかと思うと本当に楽しみです。
まとめ……表現者の道具としての良き相棒
相手の力強さに惹かれ、取材の対象として正面から挑んで行くのが井賀さんのスタイルなのだろう。そんな井賀さんが選んだカメラがX-Pro2だった。プロ機らしさ、汎用性の高さ、といった基本的説明を尻目に、自身で試し、自身で選び、自身で使いこなしていくスタイルは、井賀さんのこれまでの人生や流儀に見事重なる。
自分の撮影スタイルにはどのカメラが一番合っているか? どのカメラが本当に自分の感性を刺激してくれるのか?……自身を振り返りたくなるインタビューであった。
デジタルカメラマガジンで「Xで撮る日本四景」連載中!
デジタルカメラマガジン2018年3月号では、X-Pro2を手にした大和田良さんが、仙台を撮り歩いた様子が掲載されています。ハイブリッドビューから生まれる躍動感ある作品を、誌面で確認してください。