FUJIFILM Xレンズ 写真家インタビュー

等倍 vs 小型軽量!2本のマクロレンズの違いを並木隆さんに聞く

XF60mmF2.4 R Macro/XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macro

写真家の並木隆さん。富士フイルムのマクロレンズ2本についてお話をうかがった

2012年、Xシリーズの誕生とともに登場したXマウントレンズは、富士フイルムが誇る「フジノン」の名を冠した最高性能の交換レンズ群である。登場から6年という短期間にもかかわらず着実にそのラインナップは充実してきており、多くの愛好家を魅了しつづけているのはご存知の通りだ。

しかし、ラインナップが充実してくるほどにわれわれユーザーを悩ませるのが、「結局どのレンズを買うのが自分にとっての正解なのだろうか?」という問題である。特に、同じ焦点距離でありながら併売されているレンズの場合、どうしてもその真意を尋ねて納得したくなるというものだ。

そこで、スペックシートだけでは分からない特徴を導きたく、それぞれのレンズをリアルに愛用する写真家に聞いてみよう、というのがこの連載だ。

視覚を超えた微小世界を表現するマクロレンズ

今回のテーマは「マクロレンズ」。小さな被写体を大きく写せるため、普段はなかなか気づくことのできない微小世界を鮮やかに表現できるレンズである。また、マクロ表現だけでなく普通に中〜遠距離を狙った単焦点レンズとして使うこともできるため、撮影距離に伴う汎用性の高さから人気のレンズであることはご存知の通りだろう。

そんな利便性の高いマクロレンズであるが、富士フイルムからは

XF60mmF2.4 R Macro
XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macro

という、微妙に焦点距離と開放F値の異なる2本がラインナップされている。

XF60mmF2.4 R Macro

Xマウントレンズの中でも最古参の部類に入るレンズで、発売は2012年2月。非球面レンズやEDレンズを採用することで、良好な光学性能をもちながら、長さ63.6mm、重量215gという携行性の良さがウリである。最大撮影倍率0.5倍の1/2マクロではあるが、開放F2.4とマクロレンズとしては珍しい大口径であることも魅力のひとつとなっている。35mm判換算で焦点距離90mm相当の中望遠マクロだ。

XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macro

2017年11月に発売された新マクロレンズ。非球面レンズ1枚、EDレンズ3枚、スーパーEDレンズ1枚を含む12群16枚構成という豪華な光学系で、鏡筒は防塵防滴構造となっている。さらに手振れ補正機構OISや高速かつ静音なリニアモーター採用のAFを搭載するなど、富士フイルムのレンズ技術をフル装備した高級レンズだ。ただし、「高性能レンズは大きく重い」のセオリー通り、長さは130mm、質量は750gと、なかなかの重量級レンズとなっている。35mm判換算で焦点距離120mm相当、最大撮影倍率1倍の等倍マクロである。

XF60mmF2.4 R MacroXF80mmF2.8 R LM OIS WR Macro
発売年月2012年2月2017年11月
実勢価格
(税込)
6万3,000円前後13万円前後
レンズ構成8群10枚12群16枚
非球面レンズ1枚1枚
EDレンズ1枚3枚
スーパーEDレンズ1枚
焦点距離91mm相当122mm相当
最大口径比
(開放絞り)
F2.4F2.8
最小絞りF22F22
絞り羽根枚数9枚9枚
円形絞り
ステップ段差1/3ステップ1/3ステップ
撮影距離範囲標準0.6m〜∞
マクロ26.7cm〜2.0m
25cm〜∞
最大撮影倍率0.5倍1.0倍
外形寸法64.1×63.6mm80.0×130mm
質量(約)215g750g
フィルターサイズ39mm62mm

並木さんの表現になくてはならないレンズ

今回インタビューをお願いしたのは、花や自然をモチーフにした作品で知られる並木隆さん。自然光や前後のボケを活かした花のマクロ撮影は特に有名で、多くの方が雑誌等でその美しく幻想的な作品を目にしたことがあることだろう。

インタビューは、千葉県千葉市にある「三陽メディアフラワーミュージアム(千葉市花の美術館)」で行った。比較的近隣にお住まいということもあって、撮影に来られる機会も多いという並木さんオススメの撮影スポットでもある。

——さっそくですが、並木さんと言えばマクロレンズというイメージがあります。やはりXシリーズ導入時からご使用のレンズなのでしょうか?

並木:そうですね。やっぱり僕にとって、マクロレンズはなくてはならないレンズですのでX-T1導入と同時に購入しました。

——初めに購入されたレンズはXF60mmF2.4 R Macroですか?

並木:はい。当時はXマウントのマクロレンズというとXF60mmF2.4 R Macroしか選択肢がありませんでしたので、迷わずそれを買いました。ただ、コンパクトで持ち運びやすいところが気に入っていて、今でも作品撮影だけではなく、ちょっとしたスナップ撮影や記念撮影などで普通に単焦点レンズとしてよく使っています。

——XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macroを使われだしたのはいつ頃のことでしょうか?

並木:XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macroは比較的新しいレンズなので、使いだしたのもここ1年以内のことです。それでも発売とほぼ同時に手に入れ、X-H1の登場(2018年3月)以降は、ほとんどこれとの組み合わせで使っています。

——ライトなXF60mmF2.4 R Macroは小柄な他のXシリーズのボディで、ヘヴィなXF80mmF2.8 R LM OIS WR MacroはX-H1での組み合わせ、ということですか?

並木:XF60mmF2.4 R MacroはX-T2やX-T20で、XF80mmF2.8 R LM OIS WR MacroはX-H1で使うことが多いです。XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macroはかなり大柄なレンズですので、小さなボディですとどうしてもバランスが気になってしまう。後を追うようにしてX-H1が登場しましたので、以後はこれとの組み合わせで撮影するのが定石になりました。でも、組み合わせを変えられるのがシステムカメラのよいところですので、決してその限りという訳ではありません。

X-H1 + XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macro(上段)、X-T20 + XF60mmF2.4 R Macro

花のマクロ撮影に絶対必要なものとは

——両方使っていて感じる違いはありますか?

並木:まず焦点距離が違いますよね(笑)。でも、実はこれは僕の撮影では大きな影響がありません。どちらも中望遠マクロの焦点距離としてちゃんと使えます。

——35mm判に換算すると一方は90mm相当で、かたやもう一方は120mm相当ですよね? 結構違いがあるように思えますが?

並木:それはもちろんありますよ。ありますけど、植物をマクロで撮るという場合は、細かい画角や効果の違いというよりも、使っているレンズで自分が思い描いたとおりに被写体が表現できるか、被写体同士の距離や配置をよく考えて選ぶことの方が重要になります。自然相手ですので、最適な被写体を探すことが、何よりも大切なのです。

——そうなると被写体探しに費やす労力や撮影枚数はかなりのものになりそうですね。

並木:それは、もう大変です。よくレンズの性能や効果で写真が何とか良くならないか悩んでいる人がいますけれど、その前に大切なのは、何よりも最適な被写体を予測しながら“探す”ことです。それを見つけることができれば、作品制作の80%は完成したと言ってよいかもしれません。

——80%ですか! なるほどまさに自然が相手の撮影ですね。画角以外に、例えばAF性能や操作性などで2つのレンズの違いはありますか?

並木:AF性能なら、新しくて高級なXF80mmF2.8 R LM OIS WR Macroの方がもちろんよいです。速くて静か。でも、実は花のマクロ撮影の場合、ある程度ピントを合わせたら、後は自分の体を前後させて微調整をする、というのが常套手段となります。ですからこの場合、AF性能はそれほど大きな問題ではありません。

——ピントリングの操作性などはいかがでしょう?

並木:スムースで精密感があった方がもちろんよいです。その意味では、やはりXF80mmF2.8 R LM OIS WR Macroの方が操作性はよいですね。しかし先ほどの話と同じく、花はある程度ピントを合わせてから自身が動いてピントの微調整をしますので、これもさほど問題にならないな、というのが僕の感想です。

——手ブレ補正機構の有無はいかがですか? XF60mmF2.4 R Macroにはレンズ内に手振れ補正が搭載されていませんが、XF80mmF2.8 R LM OIS WR MacroはOISが搭載されています。また、X-H1はXシリーズで唯一、ボディ内手ブレ補正を搭載しています。

並木:絶対ではないですけど、あった方が助かります。手振れ補正が必要な時は、XF60mmF2.4 R MacroをX-H1に付けて使うこともありますし、逆に、XF80mmF2.8 R LM OIS WR MacroをX-T2やX-T20に付けて使うこともあります。こうしたことが臨機応変に対応できるところも、システマチックなXシリーズのいいところですよね。

トップクラスの描写性能をもつ80mm

——並木さんにとって両レンズのスペック上の違いはそれほどないということですね。それでも、大きくて高価なXF80mmF2.8 R LM OIS WR Macroを使う意味はどこにあるのでしょうか?

並木:それはもう画質です。富士フイルムに限らずマクロレンズにはたくさんの種類がありますけれど、その中でもXF80mmF2.8 R LM OIS WR Macroの描写性能はトップクラスだと、僕は思っています。

——トップクラスの描写性能をもつマクロレンズというフレーズはグッときますね。

並木:APS-C用なのにフルサイズ並みのボリュームがあるレンズですからね。これほど大きなレンズであることには当然理由があって、それが写りに反映されているということでしょう。

花の撮影ですと、思いっきり逆光を画面に入れることも多いのですが、XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macroならゴーストやフレアが出ることがほとんどありませんし、等倍まで寄れて焦点距離が長い分、前ボケや後ボケのコントロールもしやすくなります。

——大きく、重くても使いたくなるだけの価値が?

並木:あります!

XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macro
X-H1 / 絞り優先AE(1/100秒・F11・+1.7EV) / ISO 1600

XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macro
X-H1 / 絞り優先AE(1/3,200秒・F2.8・-1.0EV) / ISO 500

XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macro
X-H1 / 絞り優先AE(1/200秒・F4.0・+0.3EV) / ISO 500

使いこなすことで上達する60mm

——では逆に、XF60mmF2.4 R Macroの価値とはどんなところにありますか?

並木:軽く小さいので取り回しがよいところです。花のマクロ撮影は適切な被写体を探すことが大切ですので、機動力が高いのはよいことです。

——1/2マクロであることは不利になりませんか?

並木:等倍まで寄れた方が良いに越したことはありませんけれど、ほとんどの撮影では0.5倍まで寄れれば構図は成立しますよ。何がなんでも寄ればよいというものではありません。いざとなったらマクロエクステンションチューブ(MCEX-11およびMCEX-16)を使うこともできます。

——逆光耐性など、描写性能で不便を感じることは?

並木:ぜんぜん大丈夫です(笑)。はっきり言ってマクロレンズに悪いレンズなどというものはありません。

描写性能で言うと最高峰のXF80mmF2.8 R LM OIS WR Macroには叶わないというだけで、十分に高画質なレンズですし、逆光に関してはハレ切りをするなど自分で撮影状況に上手く合わせていけばよいのです。

——レンズ内に手ブレ補正機構がありません。

並木:手ブレ補正がX-H1以外のカメラで使えないのは多少不利になるかもしれませんが、Xシリーズのデジタルカメラは高感度の画質も高いですから、状況に応じてISO感度を上げて撮るという手もありますよ。ぜんぜん大丈夫です。

マクロ撮影は被写体を探すことが大切です。言ってしまえば、XF60mmF2.4 R Macroを使いこなせるようになれば、XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macroでの撮影は非常に簡単にできるようになります。

XF60mmF2.4 R Macro
X-H1 / 絞り優先AE(1/480秒・F2.4・+1.0EV) / ISO 200

XF60mmF2.4 R Macro
X-H1 / 絞り優先AE(1/220秒・F2.4・+1.0EV) / ISO 200

XF60mmF2.4 R Macro
X-H1 / 絞り優先AE(1/1,900秒・F2.4・±0.0EV) / ISO 200

まとめ

本連載「FUJIFILM Xレンズ 写真家インタビュー」では、毎回最後に読者にオススメするレンズを聞くことが恒例となっていたが、今回は、並木さんのお話から素直に意図を汲み取ることができたので、ここでまとめさせていただきたい。

Xシリーズで入門者が初めに手にすべきマクロレンズはXF60mmF2.4 R Macroである。十分な画質をもちながらコンパクトなボディは、並木さんが繰り返し強調された「適切な被写体を“探す”」ことが肝となるマクロ撮影のワークフローにおいて、実に最適なレンズだと言えるだろうからだ。まずはこのレンズを使いこなし、思い通りの作品を撮れるようになりたいものだ。

しかし、XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macroの「トップクラスの描写性能をもつマクロレンズ」というフレーズも気になるところだ。最適化されたレンズ内手ブレ補正機構や快適なAF性能など、ハイスペックであるところにも、やはり大きな魅力がある。

相変わらず悩ましい選択であるが、大きさや価格を押してでも最高性能を求めるのであれば、初めからこちらを選択するのが近道だと言えるのかもしれない。

制作協力:富士フイルム株式会社
撮影協力:三陽メディアフラワーミュージアム

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。