FUJIFILM Xレンズ 写真家インタビュー

3本の標準ズームレンズ、その役割分担とは?写真家・野呂希一さんに聞く

近景から遠景まで、フットワーク軽く自然を切り取る

写真家の野呂希一さん。Xシリーズの標準ズームレンズについて話をうかがった。

2012年、Xシリーズとともに誕生したXマウントレンズは、富士フイルムが誇る「フジノン」の名を冠した最高性能の交換レンズ群である。登場から6年という短期間にもかかわらず着実にラインナップを充実させ、多くの愛好家を魅了しつづけているのはご存知の通りだ。

しかし、ラインナップが充実してくるほどにわれわれユーザーを悩ませるのが「結局どのレンズを買うのが自分にとっての正解なのだろうか?」という問題である。特に、同じ焦点距離でありながら併売されているレンズの場合、どうしてもその真意を尋ねて納得したくなるというものだ。

そこで、スペックシートだけでは分からない特徴を導きたく、それぞれのレンズをリアルに愛用する写真家に聞いてみようというのが、この連載だ。

シリーズの中核をなす標準ズームレンズ

今回のテーマは標準ズームレンズ。多くの撮影シーンにおいて使用頻度が最も高く、システムの中心となるレンズと言ってよいだろう。

中心的なレンズだけに、富士フイルムからは複数タイプの標準ズームレンズが発売されているが、その中でも今回は

XF16-55mmF2.8 R LM WR
XF18-55mmF2.8-4 R LM OIS
XF18-135mmF3.5-5.6 R LM OIS WR

の3本を取り扱う。

XF16-55mmF2.8 R LM WR

同社の最高品質を誇るレッドバッジズームレンズシリーズに属する。卓越した描写性能をもつF2.8通しの大口径ズームであるが、その分、Xレンズとしては重く大きく高価である。他の2本が光学式手ブレ補正機構「OIS」を搭載しているのに対し、このレンズは非搭載となっている。

XF16-55mmF2.8 R LM WR

XF18-55mmF2.8-4 R LM OIS

テレ側の開放F値こそやや暗くなるが、それを差し引いても十分納得できるだけのコンパクトで優れた機動性をもつことが魅力。レンズ内に光学式レブレ補正機構「OIS」を備える。

XF18-55mmF2.8-4 R LM OIS ※画像入ります

XF18-135mmF3.5-5.6 R LM OIS WR

35mm換算で望遠206mm相当までの領域をカバーしているので高倍率ズームレンズと言った方が正確であるが、使用目的を考えれば望遠も使える「標準ズームレンズ」として捉えることもできるため、今回の選択肢のひとつとした。こちらもレンズ内に光学式手ブレ補正機構「OIS」を備える。

XF18-135mmF3.5-5.6 R LM OIS WR

北海道の大自然を捉えるレンズ群

今回インタビューをお願いしたのは、日本各地の風景・風土の写真で知られる写真家の野呂希一さん。野呂さんは、上記3本の標準ズームレンズを、必要に応じて臨機応変に使い分けていると聞いたからだ。

インタビューは北海道の北海道上川郡清水町にある「十勝千年の森」で行った。ここは1,000年後の未来へ残す大切な財産として、十勝の大自然がもつ営力を活かしてデザインされた壮大なスケールの北海道ガーデンだ。

「十勝千年の森」のガーデンにて。

−−「十勝千年の森」内にあるビジターセンターには野呂さんが撮影された写真が、横幅3mを超える大プリントで展示されていましたが、これらもXレンズで撮影されたのですか?

野呂:はい、全て富士フイルムのカメラとレンズで撮影しました。GFX 50S(中判デジタルカメラ)で撮影したものもありますが、ほとんどはXシリーズのカメラ・レンズで撮影したものです。

−−レンズは何を使われましたか?

野呂:ほとんどは「XF18-55mmF2.8-4 R LM OIS」と「XF18-135mmF3.5-5.6 R LM OIS WR」で撮影しています。どちらも私の愛用レンズで、「十勝千年の森」に限らず、多くの撮影をこの2本でこなしています。

−−ビジターセンターの大きなプリントもその2本で撮られているのですね。しかし、レンズの描写性能やセンサーサイズの違いなど全く気になることはなく、どの写真も非常に高精細で、北海道の美しい風景が見事に表現できていることにとても驚きました。

野呂:そうなんですよね。私自身が驚いたところもありますけど、Xシリーズのカメラとレンズで撮影した写真は大きくプリントしても期待以上の解像感を見せてくれます。写真集などで見開きの印刷が必要な場合でも、以前使っていたフルサイズのデジタル一眼レフカメラより綺麗に仕上がる程で、本当に感動しました。

−−なるほど、それがXシリーズにメイン機材を移行するキッカケになったと?

野呂:それもありますけど、はじめは「機材をできるだけ軽くしたい」と言う理由からでした。自然相手に歩き回って写真を撮るには機動力が何よりも大切になりますからね。でも、ミラーレスカメラになって機材が軽くなったとしても、肝心の画質が落ちてしまっては写真家として本末転倒です。そんな不安を見事に払拭してくれたのが、X-T1とX-T2、そしてそれらと組み合わせて使う2本の標準ズームレンズだったという訳です。

野呂:「XF18-55mmF2.8-4 R LM OIS」は広角端の開放F値がF2.8と明るく、「XF18-135mmF3.5-5.6 R LM OIS WR」は206mm相当の望遠域まで含んでいます。なのに両方とも驚くほどコンパクト。それでいて画質にも満足できるところが気に入っている理由です。

撮影者の目となる標準ズームレンズ

−−野呂さんにとって標準ズームレンズとはどのような存在でしょうか?

野呂:先ほどもお話ししましたように、私の撮影では機動力が何より大切になりますので、機材はできるだけ軽い方がよい。そんな中で、使用頻度の高い焦点距離を含んだ、高画質な標準ズームレンズはなくてはならない存在です。

−−「XF18-55mmF2.8-4 R LM OIS」と「XF18-135mmF3.5-5.6 R LM OIS WR」の使い分けについて教えてください。

XF18-55mmF2.8-4 R LM OISを装着したX-H1(野呂希一さん所有。以下同)。

野呂:基本的には「XF18-55mmF2.8-4 R LM OIS」をよく使います。これに他の望遠ズームレンズや単焦点のマクロレンズを組み合わせて撮影することが多く、「XF18-55mmF2.8-4 R LM OIS」の出番があまりに多いので、追加でもう1本購入しているくらいです。

XF18-55mmF2.8-4 R LM OIS
撮影:野呂希一
X-H1 / 21.4mm(32mm相当) / 絞り優先AE(1/2,500秒・F8・-0.3EV) / ISO 800
XF18-55mmF2.8-4 R LM OIS
撮影:野呂希一
X-H1 / 18mm(27mm相当) / 絞り優先AE(1/300秒・F8・-0.3EV) / ISO 800

ただ、自然が相手ですと、複数のレンズを準備できるといった余裕が、いつもあるとは限りません。例えば、急に天候が変わり、雨が上がって水滴が陽の光に輝きだす、そうした瞬間は本当に一瞬なのでズーム域が広く、多くの撮影シーンに対応できる「XF18-135mmF3.5-5.6 R LM OIS WR」だけを持って飛び出します。どんなシーンが待っているか想像できず、より機材を軽くしたい場合なども同じです。

XF18-135mmF3.5-5.6 R LM OIS WRを装着したX-H1。
XF18-135mmF3.5-5.6 R LM OIS WRの望遠端までズームさせたところ。1本で数多くのシーンをカバーできる。

−−「XF18-55mmF2.8-4 R LM OIS」がメインですが、状況によって「XF18-135mmF3.5-5.6 R LM OIS WR」の出番もあるということでしょうか?

XF18-135mmF3.5-5.6 R LM OIS WR
撮影:野呂希一
X-H1 / 34.5mm(52mm相当) / 絞り優先AE(1/13秒・F11・±0EV) / ISO 800
XF18-135mmF3.5-5.6 R LM OIS WR
撮影:野呂希一
X-H1 / 104.2mm(156mm相当) / 絞り優先AE(1/250秒・F8・±0EV) / ISO 500

野呂:はい、実際には「XF18-135mmF3.5-5.6 R LM OIS WR」の出番もかなり多いです。それともうひとつ理由があって、このレンズを使い、206mm相当のテレ端で近接撮影をすると、ちょうど名刺ぐらいのサイズがいっぱいになるくらい被写体に寄ることができ、背景の形を残しながらボケていくという理想的な画作りができます。これが蝶などの昆虫や花などを撮るのに非常に具合いい。

野呂:花に集まる虫は同じところを飛び回る習性がありますので、置きピンで花を狙っておいて蝶が来たところでシャッターを押すと言った使い方もできます。このレンズ特有の便利な使い方ができるところも、よく使う理由です。

−−なるほど、妥協して使っているのではなく、レンズごとの特性を活かして使っていらっしゃるのですね。

野呂:レンズを選ぶ時は、どうしても細かな性能の違いに意識がいきがちですが、写真を撮るという意味では、使うレンズの特長をよく理解して、自分なりの撮影スタイルに合わせていく、自分なりの表現に結び付けていく、そうしたことが大切だと思います。一番よく使う標準ズームレンズなら特に大切なことですね。

X-H1の登場で利用価値がアップ

−−ところで、Xレンズの標準ズームレンズとしては最も上位にあたる「XF16-55mmF2.8 R LM WR」の話がほとんど出てきませんが……あまりお使いになりませんか?

XF16-55mmF2.8 R LM WR

野呂:いえ、使ってはいるのですが……これまでよく使用してきたカメラボディがX-T1やX-T2ですので、重量のバランス上、正直、出番は少なめでした。

−−確かに小柄なX-T1やX-T2と組み合わせると、フロントローでアンバランスになりそうですね。

野呂:描写性能に関しては折り紙付きですし、実際、非常に高画質であることは理解しています。ただ、私の撮影スタイルでは、これまでは持ち出すことが多くなかったのが実際のところでした。

−−これまでは、ですか?

野呂:3月にX-H1が登場しましたよね。確かにコンパクトであることは重要ですが、何が何でも小さければよいというものでもない。私はX-H1のちょっと大きめなサイズ感が使いやすいと感じていて、X-H1と一番バランスがよいのは「XF16-55mmF2.8 R LM WR」だとも感じています。

これまでのXシリーズよりも若干大きなボディのX-H1。ボディ内手ブレ補正機構も備えているため、OIS非搭載のXF16-55mmF2.8 R LM WRとの相性は良い。

−−これからは「XF16-55mmF2.8 R LM WR」の出番も増えていきますか?

野呂:増えていくと思います。私は三脚にカメラを据えて撮ることもありますが、手持ちで撮ることも多くあります。そうなると手ブレ補正機構の有無が重要になって、ボディ内手ブレ補正が可能なX-H1なら、OIS非搭載の「XF16-55mmF2.8 R LM WR」でも手ブレを抑えた撮影ができるようになります。

−−レッドバッジズームレンズ群の標準ズームレンズだけに描写も最高ですしね。

XF16-55mmF2.8 R LM WR
撮影:野呂希一
X-T2 / 36.5mm(55mm相当) / 絞り優先AE(1/900秒・F16・-1.0EV) / ISO 400
XF16-55mmF2.8 R LM WR
撮影:野呂希一
X-H1 / 16mm(24mm相当) / 絞り優先AE(1/500秒・F8・±0EV) / ISO 400

野呂:もうひとつ。「XF16-55mmF2.8 R LM WR」のような最高級レンズは性能もさることながら価格も非常に高いのですが、そうしたレンズを所有しているという高揚感は、「写真を撮りに行こう!」という気にさせてくれます。これ、意外に重要なことです。

−−分かります。無理して買った自動車で素敵な場所にドライブしたくなるみたいな(笑)

野呂:写真は撮らなければ何も始まらないんですよね。それなら「これで撮りに行きたい!」と思わせてくれる道具を手に入れるって、重要なことではないですか。重くて高価なレンズですが、標準ズームレンズだからこそそうした価値観も大切です。ベストマッチのX-H1が登場したことで、私もこのレンズを使う機会が増えていくと思います。

−−Xシリーズ用の標準ズームレンズなら、結局のところどれがオススメでしょう?

野呂:最初の標準ズームレンズであるなら、やはり「XF18-55mmF2.8-4 R LM OIS」を勧めます。X-T2のキットズームと言うこともあって、比較的、低価格で入手できますし、写りのよさは私自身経験しています。性能・使い勝手・価格と三拍子揃った本当に基本となるオススメの標準ズームレンズです。

その上で、さらに上を行く、自分だけの撮影スタイルや、独自の表現手段が見えてきたなら、必要に応じて「XF16-55mmF2.8 R LM WR」や「XF18-135mmF3.5-5.6 R LM OIS WR」を手に入れればよいと思います。最も使用頻度の高い標準ズームレンズなので、決して無駄になることはありません。

まとめ

数タイプが用意されているXシリーズの標準ズームレンズであるが、最も使用頻度が高いレンズだけに、どれにしようか真剣に悩むところである。ただ、普通はどれかひとつにしようとするものだが、野呂さんのお話にあったように、必要に応じて標準ズームレンズを使い分けるというのも新しい考え方だろう。

幸いにして、Xシリーズの標準ズームレンズはいずれも、大きくプリントしても画質が破綻しない高性能レンズであることが分かった。まずはX-T2などのキットズームに設定されている「XF18-55mmF2.8-4 R LM OIS」を手に入れてから、落ち着いて自分に最も合う標準ズームレンズを探してみるというのも良いかもしれない。野呂さんがおっしゃるように「写真は撮らなければ何も始まらない」のである。

編集協力:富士フイルム株式会社
撮影協力:北海道ガーデン「十勝千年の森」

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。