カメラ旅女の全国ネコ島めぐり

瀬戸内海の知られざる、猫にたくさん出合える石の島へ行く!(讃岐広島・後半)

瀬戸内海には、有名な猫が多く暮らす島がいくつかありますが、まだまだ知られざる猫島もたくさんあります。

【これまでのねこ島めぐり】

私は、これまで40島ほど瀬戸内海の島を訪れ、「へ~ここにも猫がたくさんいるんだ!」と発見したところが、何島もありました。

ただ、猫たちが港に密集していたり、分かりやすい場所にいたりするわけではないので、「猫がいる場所」を知らないと、なかなか出合えない島もたしかに多いのです。

そのなかの1つに、私が何度も通っている讃岐広島という島があります。

讃岐広島は、昔から石の島として有名でした。今、人口は200人ほどしかおらず、全盛期は60も70も採石場があったそうですが、現在は5、6場しか稼働していません。

ただ、かつての栄華を物語るように、島には圧巻の岩肌が随所に見られます。

猫だけでなく、王頭山(おうとざん)や心径山(しんぎょうさん)という石の山に登って、島の姿を写真に撮るのもオススメです。

では、後半は、青木という集落にいる猫たちをご紹介します。

猫のいる集落を目指す

讃岐広島の玄関口江の浦から、コミュニティバスに乗って、青木という集落に行きます。

バスを降りると、山側のほうに鋭利な岩肌むき出しの「心径山」(しんぎょうさん)がみます。

そこは、王頭山から尾根伝いにトレッキングすることできるので、山登りの好きな方は、スリリングな岩山は楽しいかもしれません。
ちなみに王頭山は、塩飽諸島でもっとも高い312mの山なので、頂上からは瀬戸内海が一望できます。

青木は、讃岐広島のなかでも、とくによい花崗岩がとれ、「青木石」として昔から全国に出荷していました。

今でも稼働している採石場が青木にあり、見学をお願いすれば見せてくれると思います。圧巻の岩肌は、写真映え間違いないです。

さて、青木の集落に着くと、道路を堂々とわたる白猫がいました。
猫が来たほうを覗くと、枯れ草の間にうずくまった猫たちが日向ぼっこをしていました。

写真を撮らせてもらうと、「お昼寝の邪魔しないでほしいにゃあ」というふうに、ひとつ大きなあくびをして、それからご機嫌ナナメな顔をして、また眠ってしまいました。

この猫たちは、青木の山本さんというおじちゃんが、ご飯をあげています。

青木に何度か行くうちに、山本さんというおじちゃんと知り合い、よくお話をするようになりました。

「猫もようけ増えたわ。茶色と白いのばっかやけん」

と、会うたびに、最近の猫事情をお話してくれます。

もともと島を出て、東京にも暮らしことがあり、写真が好きでよく撮っていたという山本さんは、いつでも猫たちの写真を自由に撮らせてくれます。

猫たちの安心した表情や日常の様子が写真に表れて、とても癒されます。

実は、前半でご紹介した、同じ島の別の集落、茂浦にいる茶トラ猫の茶々丸くんは、青木からとことこやってきたのでは、茂浦の自治会長の平井さんと、青木の山本さんは話すそうです。

もともと、青木には茶トラ猫が多かったのですが、茂浦のほうには、それまでいなかったからです。

今も、茂浦では茶トラ柄は茶々丸くんだけですが、青木ではたくさんみかけます。

「でも、どっちにしても、うちの茶トラ猫のほうが可愛いけん」

と、お父さん同士が、陰でそんなことを言っているのを聞いたことがあります(笑)。

猫がくれた縁

山本さんのところに行く楽しみは、猫ともう1つ。たくさんの柑橘類を見にいくことです。

レモンや夏みかん、ブラッドオレンジ、文旦、ザボンなど、大小さまざまな種類の柑橘類が、たわわに木に実っています。

季節によって、実るものがちょっとずつ変わるのを、肌で感じることができるのにも感動します。

ところで、山本さんが行くところには、猫たちも気になるのか、木の下でこっそりお父さんの様子をうかがっていました。

「ほれ、これ持っていきな」

と、山本さんが、レモンと文旦をたくさんビニール袋に入れてくれました。ずしっと、重みがあって、さわやかな香りがしました。

その様子を眺めていた猫たちは、

「じゃあ、ボクたちにもご飯!」

といって、にゃあにゃあ騒ぎはじめました。

「よっしゃ、ご飯にするか」

家のほうへもどって、猫たちのご飯の準備をして、そこでまたちょっとした猫事情をおしゃべり。

「あいつなあ、こないだから姿みせんのや」

山本さんは、そんな猫話から島の話、彼の亡きお父さんから聞いたという戦時中の話など、いろいろと話してくれます。その時間が、私はとても好きです。

猫の写真を撮って、柑橘類の果物をお裾分けしてもらって、ためになる話をたくさん聞いて。

たくさんもらってばっかだなあ。

そう思って申し訳ない気持ちになるのですが、「聞いてくれるだけでいい」とか「顔をまた見せてくれたらいい」と言ってくれるので、それがずっと続いて、毎回顔を出すようになりました。

猫がくれた御縁は、島の人とつながって、こうして何度も来島する理由ができたのです。

讃岐広島の圧巻する岩山を眺めながら、次なる島旅へ向かうことにしました。

小林希

旅作家。元編集者。出版社を退社し、世界放浪の旅へ。帰国後、『恋する旅女、世界をゆくー29歳、会社を辞めて旅に出た』で作家に転身。著書に『泣きたくなる旅の日は、世界が美しい』や『美しい柄ネコ図鑑』など多数。現在55カ国をめぐる。『Oggi』や『デジタルカメラマガジン』で連載中。