カメラ旅女の全国ネコ島めぐり
猫にまつわる不思議を秘めた、伊豆諸島随一の温泉の島へ(式根島・前半)
2018年4月23日 17:00
東京から南に約160km、伊豆諸島のひとつに、外洋に浮かぶ小さな式根島があります。ここは、温泉評論家の野口冬人さんが、全国の露天風呂番付をしたときに、横綱とほぼ同格の張出横綱に選んだ“地鉈温泉”がある「温泉の島」として知られています。
【これまでのねこ島めぐり】
遥か昔、火山が噴火して出来た島で、今でも、島のあちこちで温泉が湧いている、と言います。実際に、島を囲む海岸線の浜辺では、ぷくぷくとお湯が沸き上がって、“海中温泉”を楽しめます。
季節はいよいよ初夏を迎えますが、式根島の人たちは、「夏こそ最高だ」と言っておられます。
一方で、昔から猫がとても多いのだそうです。しかも、猫にまつわる、ちょっとした不思議な話も、島を訪れたときに聞きました。それは一体……。
いざ、温泉の島で、猫をめぐる旅へ!
東京から11時間の船旅
式根島へは、東京竹芝桟橋から東海汽船の“さるびあ丸”に乗って向かいました。
高速ジェット船もありますが、東京の夜景をクルージングする気分で、ゆっくりとした時間を楽しむ船旅もいいなと、今回は大型客船にしました。
さるびあ丸は、全長120mの大型客船で、伊豆大島、利島、新島、式根島、神津島へと航行しています。
22時に竹芝桟橋を出航して、式根島へ到着するのは翌日の9時5分。実に11時間の船旅ですが、東京タワーや摩天楼が煌めく夜景や、レインボーブリッジ、羽田空港を発着する飛行機の往来を眺めながら、同乗した他の旅人たちと交錯する時間を楽しんで、2段ベッドの特二等室で横になったら、あっという間に朝でした。
船が近付く式根島は、「あ、山が低いな」という印象。どうやら、平らな地形をしているらしいです。
港で、予約していた民宿わたなべの女将さんが迎えにきてくれました。
接客上手の猫
島の中心部にある民宿わたなべは、庭に白い砂が敷いてあって、南国のようです。実はこの砂は、抗火石という火山岩の一種で、国内でも新島、神津島、そして式根島にしかないそうです。東京渋谷のモヤイ像は、この石でつくられています。
さてさて、民宿で待ち構えていたのは、可愛らしい猫ちゃん。
「アメです。雨の日に、迷い込んできた仔猫だったの。保護してからずっとうちで暮らしてるんですよ~」と、女将さん。
玄関でしっかり写真を撮らせてもらいました。
アメちゃん、「いらっしゃいませにゃ」と、接客バッチリです。
それから部屋に通してもらい、ふっとバルコニーから外を眺めようと出てみると、横から視線を感じ?
「あ! アメちゃん!」
「にゃーん」
隣の部屋へ、女将さんがほかの旅人を案内したときに、アメちゃんもくっ付いて行ったようです。
庭先では、先輩猫のマロがいました。
マロは、もうおばあちゃん猫です。女将さんの息子さんが小さいときに、路上で保護して連れて帰ってきたそう。たまたまそのとき、目の上に黒い汚れが点、点と付いていたため、「麻呂」って名前にしたんだとか。
「式根島って猫が多いんですね~?」と、女将さんに確認すると、
「いっぱい、いっぱい。そこらへんで、すぐ会えますよ」と、特定の場所を言うでもなく、“あちこち”だと教えてくれました。
ただし、最近はちょこっと数が減ったかしら、とも付け加えていましたが。
犬とも仲良し
さっそく島を散策しようと、民宿の向かいにある、レンタサイクル屋さん「千代屋」に行くと、飼い主さんとお散歩しているワンちゃんがいました。
「あれ、猫ちゃんもいる」
「毎日いっしょに散歩してるんですよ」と飼い主のおじちゃん。
ほかの島でも、猫と犬の散歩シーンに出くわすことがありますが、大抵猫が自由で、犬と飼い主が猫のペースに合わせています。
このときも、猫ちゃんが「休憩」をはじめたので、ワンちゃんが待機。お利口さんです。
さて、電動自転車を借りて島のなかを走ることにしました。
その道すがら、猫たちが路上でぐでーん、ごろーんとしていました。自転車を止めて写真を撮ろうとすると、「何者だにゃ?」と警戒されましたが、猫に会えば止まり、写真を撮って……、という繰り返し。
温泉で島の人々と交流
島には露天風呂が3つと、温泉施設「憩の家」があります。
露天風呂のうち、地鉈温泉と足付温泉は、野湯なので、潮の満ち引きによって温度が変わるため、入れる時間が限られます。
式根島港近くの温泉「松が下雅湯」は、温度調整ができるように作られているので、24時間いつでも入ることができます。
観光客と地元の人が入り交じって、男女混浴(水着着用)で、温泉談話している光景がとても素敵でした。
私も夕方入りに行きましたが、地元のおばあちゃんやおじちゃん、他の旅人たちと
「どこから来たの~?」
「どこに泊まっているんですかー?」
なんて交流できて、一人旅でもとても楽しめる温泉の島だなあと感じました。
ちなみに、泉質は、硫化鉄泉なので、鉄分が豊富で、それゆえ色が赤っぽいらしいです。「内蔵があたたまる、内科の湯だよ」と、おばあちゃんが教えてくれました。
自転車でくるくる走ると、島はだいたい半日もあれば回れてしまう規模感。もちろん、温泉に浸かったり、山道の遊歩道を歩いたりすると時間がかかります。
個人的に好きな場所は、石白川海岸。
真っ白な浜辺と、こじんまりとした湾が可愛らしいです。
なにより、おばあちゃんがぼうっと海を眺めていて、
「今日は穏やかな海で、気持ちがいいなあ、ああ本当にいい日だ」と言っていたのが、心に残りました。
島生まれ、島育ちで、ずっとこの海を見てきたようです。
不思議な猫の話
ところで、式根島にいる間に、地元の人にこんな話を聞きました。
「この島は、猫にまつわる不思議な話があって、まず、大王神社というところ。ここは、満月の夜、島中の猫が集まって、みんな同じ方角を見るんですよ」
「え! 何を見ているんですか?」と突っ込んでも、
「いやあ、わからないです。とにかく、目撃者が何人もいるのは事実で、いったい猫たちがなぜそこに集まるのかも謎。飼い猫まで、集まるそうですよ」
そんな不思議な場所、行ってみるしかない! と、シャーッと自転車を走らせていきました。
そして、大王神社に到着。
すると!
ぜんぜん、猫の気配がしない……。
急な階段があり、とことこ登って、本殿まで来たのですが、やはり猫の姿はまったく見当たらない。
いつか満月の夜に来てみたいと思います。
ちなみに、満月のとき、海は大潮になります。
温泉で出会ったおじちゃんが、「大潮になると、幻の温泉が海にできるから。また来てごらん」と言われました。
さーーっと潮がひくと、海底の岩が自然の湯坪をつくり、そこを温泉として入ることが可能になるそうです。
猫の集会を確かめに、幻の温泉に入りに、満月のときに必ずまた来ようと誓いました。
夜、わたなべで美味しいご飯をいただき、部屋で寛いでいると、アメちゃんが遊びにきてくれました。
「あなたも、満月の夜は大王神社に行くの?」
「にゃ?」
ちょっと知らんぷりをされましたが、アーモンド型の愛らしい瞳の奥に、人が知らない秘密が隠されているようにみえました。