カメラ旅女の全国ネコ島めぐり

今、もっとも勢いがある猫島で、異世界と猫世界を行き来する(相島・後半)

福岡県の玄界灘に浮かぶ小さな離島、相島。アメリカのCNNが「世界6大猫スポット」の1つとして紹介した2013年を皮切りに、あれよあれよと猫が多く暮らす島として有名になりました。最近では、NHKの「ダーウィンが来た!」で、猫スポットとして紹介され、稀にみる観光客であふれた島の1つとなっているのです。

【これまでのねこ島めぐり】

私は、島で唯一の宿に泊まり、何十年と猫といっしょに過ごしてきた宿主との暮らしを垣間見ました。猫のために、猫好き観光客のために、宿を続けていくのだという宿主の猫愛に触れ、だからこそ、のほほんと暮らす島猫たちの幸福感のようなものが伝わってきました。

宿主だけでなく、猫と島民が支え合っているような構図が島にはあるように思えます。猫によって人が賑わい、勢いを増した島で、猫は安全で満ち足りた生活をしているのです。

そんな相島では、猫も人に慣れ、撮影がとても楽チン。ここぞとばかりに、フォトジェニックな写真をたくさん撮ってきました!

並んでご飯

相島で迎えた朝。海が目前の丸巳屋旅館では、朝日がふわりと部屋の中に入り込み、昨日とうってかわった晴天の兆しがします。きっと島中で、のほほんと日向で寛ぐ猫たちに出会えることでしょう。

その時、下のほうから、「ニャーニャー」大コールが聞こえてきました。おやおや、朝食の時間かな? 部屋から下をのぞくと、ひと猫ひとご飯という“丸巳屋スタイル”で、10匹の猫ちゃんが、等間隔にご飯を並べてもらって食べていました。

いいにゃあ、なんだか、ほのぼの。

しあわせな気持ちで、写真をパチリ。

それから下に降りて、朝食後に毛づくろいを始めた猫ちゃんたちに「おはよう~」と挨拶しにいきました。銘々気持ちよさそうな時間を過ごしています。

塀の前で毛づくろいをする猫と、塀の壁に映った自転車と他の猫の影が、何か物語的で思わず写真を撮りました。

猫の写真は、猫の影を撮っても、耳やしっぽなど特徴的なフォルムを捉えることで、しっかり猫の存在感を出すことができます。だから私は、猫影写真をおもしろがって、よく撮ります。

相島積石塚群で石の海原に圧倒!

それから、10時50分の船に乗るため、それまで島の猫以外の観光名所へ、宿で自転車を借りて行ってみることにしました。

山道を走る途中、集落を見下ろしながら写真を撮ったり、のんびり走ること15分ほどで到着。国指定史跡の「相島積石塚群」です。ここは、西日本最大の積石塚群で、石で埋め尽くされた海岸線には、200基を越す積石塚が広がっています。

相島は、江戸時代、朝鮮通信使節団が大勢来島し、彼らを迎える500人収容の接待所もありました。彼らの墓石は、積石群の中で見ることができます。

海辺に、えんえんと広がる石の海原を目の当たりにして、圧倒されました。大きな波がざばーんざばーんと石にあたっては大きなしぶきを吹き上げ、まるで一瞬にして異世界へ迷い込んでしまったかのような錯覚がします。

右手のほうには、通称めがね岩で知られる鼻栗瀬(はなぐりせ)という20mの奇岩が海から顔を出すようにしてそそり立っています。中央は波の浸食により削られ、大きな穴が空いているのです。江戸時代に来島した朝鮮通信使節団も感動したと古書に書かれているそうです。

私には、めがね岩が異世界へとつながる門のように思えて、なんだか鳥肌が立ってしまいました。

ごろごろとした岩の上をぴょこぴょこ歩き、来た道を自転車で引き返します。帰りの船の時間が迫ってきていたので、急いでペダルを漕ぎ、宿に戻りました。

サワラのバーガーを食べつつ相島を後に

宿主のおじさんに別れをつげ、1日でも長く宿が続くことを願い、玄関にいる守衛猫たちに「よろしくね!」と声をかけ、港のほうへ向かいました。

雨の昨日とはかわり、観光客が多く来島しています。みんな、あちらこちらでしゃがみ込み、猫と戯れ、写真撮影を勤しんでいました。猫たちも、今日は抱っこしてもらったり、たくさん遊んでもらったりして、嬉しそう。観光客と猫のほんわかとした写真も、とっても絵になります。

さっきまで、異世界のようなところにいたのが、嘘のよう。

船に乗る直前、そういえばお腹が空いたと思い、急いで道の駅「あいのしま」の2階へ行き、フィッシュバーガーをオーダーしました。

「お魚は相島のですか?」と店主に聞くと、

「そうですよ、今日はサワラ! 漁に出て、取ってくるんですよ」

なんて、贅沢な!

できたての、サワラバーガー(魚は日によって変わる)をテイクアウトして、船に乗り込みました。

帰る私とは逆に、島に着いたばかりの観光客たちは、「猫、ネコ、ねこ!」と嬉しそうな顔で島の中へと向かっていきます。

ふふふ、でも。

猫、宿、人、遺跡、フィッシュバーガー。

この島には、猫から異世界まで、わくわくするレイヤーがたくさん張り巡らされてるんだって、みんなに教えてあげたいような気持ちを堪えて、島を後にしました。

小林希

旅作家。元編集者。出版社を退社し、世界放浪の旅へ。帰国後、『恋する旅女、世界をゆくー29歳、会社を辞めて旅に出た』で作家に転身。著書に『泣きたくなる旅の日は、世界が美しい』や『美しい柄ネコ図鑑』など多数。現在55カ国をめぐる。『Oggi』や『デジタルカメラマガジン』で連載中。