カメラ用語の散歩道
第10回:アクセサリーシュー(後編)
情報伝達する“ホットシュー” デジタル時代の更なる進化も
2022年1月5日 07:00
インターフェースとしてのアクセサリーシュー
以前、このデジカメWatchにレンズマウントに関する連載を書いたときに、レンズマウントにはレンズをボディに固定する機能の他に、レンズとボディとの間で情報やエネルギーをやりとりする、インターフェースの役割があると述べた。これはアクセサリーシューにも言える。外付けファインダーやストロボなどのアクセサリーをカメラボディに固定する機能の他に、やはりインターフェースとしてアクセサリーとボディとの間の情報やエネルギーのやりとりをする機能が早い時期に付加された。
機械的な情報伝達
レンズマウントの場合、情報の伝達はまず機械的な方法から始まった。レンジファインダーカメラのフォーカシングによるレンズの繰り出し量や一眼レフカメラの自動絞り、またTTL開放測光における絞り設定値の伝達などである。それが技術の発展に伴って接点を介した電気的な信号のやりとりになり、さらにデジタルデータの通信に変わってきたという歴史がある。
アクセサリーシューの場合はどうだろうか? こちらは主たる情報交換の相手がフラッシュガンやストロボ発光器だったこともあり、早くから電気的なものがメインとなっていた。では機械的な情報伝達は全くないかというと、それがあったのだ。1956年発売のキヤノンVT(写真1)ではアクセサリーシューにレンズのフォーカシングに連動して上下に動くピンを設け、この動きで外付けファインダーのパララックス補正を行っていた。
しかし、これはむしろ稀な例で、多くのカメラでアクセサリーシューは単にファインダーやフラッシュガンをボディに固定するだけのものであった。
フラッシュガンの直結
アクセサリーシューに装着するものが単独距離計や交換ファインダーからフラッシュガンに代わると、シューに電気接点を設けてコードレスに接続するものが登場してきた。前回お話ししたキヤノン7のように、標準規格のアクセサリーシュー以外の手段でカメラとフラッシュガンを直結するものもいくつか存在したが、規格化されたシューにフラッシュガン直結用の接点を設けたのは、ニコンS2(1954年)あたりからのことである。シューの前方に絶縁のための白いプラスチックで囲まれた電気接点を設け、フラッシュガンのピンと装着時に接続するようになっている。この接点はその後ニコンSPまで設けられていた(写真2)。
ホットシュー
現在のようにアクセサリーシューの中央にフラッシュ用の接点を設け、フラッシュガンやストロボとコードレスに接続できるようにしたのは、いつごろからか定かではないが、1950年代のリコーの35mm判カメラにそのルーツを見ることができる。これは「ホットシュー」と呼ばれ、後にJISやISOなどの工業規格にもなって多くのカメラに採用された(写真3)。
規格化されて互換性が保証されたため、どのメーカーのフラッシュガンやストロボでも使えるようになり、ユーザーにとってもメーカーにとっても大きなメリットとなったのだが、技術の進歩に従ってフラッシュ接点以外にカメラボディとアクセサリーの間にやりとりする情報が新たに登場し、完全な互換性が保てなくなってきた。
そのきっかけは1976年のキヤノンAE-1(写真4)である。専用ストロボを装着して使用可能な状態になるとその情報をカメラ側に伝え、シャッター速度を強制的にシンクロ同調速度に設定する。うっかりシャッター速度を同調速度以上に設定したまま撮影する失敗を防止するのだ。更に外光式オートストロボの方で設定した絞り値をカメラボディに伝え、絞り設定の失敗もなくした。そのためにホットシューのシンクロ接点以外に2つの接点を設けている。
またストロボのTTL調光の機能がカメラに内蔵されると、今度はボディ側からストロボに発光停止信号やプリ発光の信号を送るようになり、やりとりする情報の複雑化に従って接点の数も増えていった。そしてそれらの接点の形状、位置、信号の規格などはメーカーによって異なり、シュー中央のフラッシュ接点だけは共通であるものの、他は互換性がないものになってしまったのだ(写真5、6)。
デジタル時代のアクセサリーシュー
デジタルカメラの時代になると、さらに情報のバリエーションが増えた。クリップオンストロボだけでなく、さまざまなものをアクセサリーシューに装着し、ボディとの情報通信を行うようになったのだ。外付けのEVF、GPSユニット、動画用の外付けマイクなどがその例である。
そうなると、それまでのようにホットシュー中央に設けたシンクロ接点の周囲に追加の接点を設けただけでは間に合わなくなってくる。そこでそれらの情報交換のために、本格的なコネクターをシューの前方や下方に設けて、ストロボなどのユニットを装着する際にコネクターに接続するような構造のものも登場してきた。新しいところではソニーの「MI(マルチインターフェース)シュー」があり、キヤノンもEOS R3で「マルチアクセサリーシュー」と称してホットシュー前方にコネクターを設けたものを搭載している。これを利用して今後これまでには思いつかなかったようなアクセサリーの可能性も出てくる(写真7、8)。
ただ反面、このように各メーカーがそれぞれ独自の機能をアクセサリーシューに盛り込んだため、共通規格としての性格はどんどん薄れてきている。シュー中央のシンクロ接点のみを使用する単純なマニュアルあるいは外光オートのストロボでさえ、どうかすると装着できなかったり発光しなかったりするようなケースも耳にするようになった。その意味ではもはやホットシューの互換性は全く保障できないとみてもよいだろう。
独自規格のアクセサリーシュー
電気接点の問題とは別に幾何学的な寸法形状についても、メーカーあるいは機種独自規格のアクセサリーシューを備えるという例は古くからあった。特に35mm一眼レフの場合には初期のころはペンタプリズム部上部にアクセサリーシューを固定することに抵抗があったようだ。そこで別の所に設けようとしてもそうそう良い場所がない。
撮影者からみてボディの右側は巻き上げレバー、シャッターボタン、シャッターダイヤルが並んでおり、それらの操作の邪魔をすることはできない。左側には巻き戻しノブ(クランク)があるが、これは撮影終了時にしか使わないというので、巻き戻しノブをまたぐような形でその両側に溝を設け、専用のアクセサリーを装着するようにしたものが現れた。ニコンF、F2、F3、それにキヤノンF-1、ミノルタX-1などがその代表例である(写真9)。
ミノルタは、1987年のα7700iから独自規格の「オートロック・アクセサリーシュー」を採用した。ペンタプリズムの稜線という通常の位置にあるのだが、規格のシューとは大きく形状が異なっている。前述のように接点が増えて互換性が保てなくなったのなら、この際形状の方も規格の束縛から逃れて、より合理的なものにしようという発想なのだろうか? この形状のアクセサリーシューは、ソニーのαシリーズやNEXシリーズにも受け継がれたが、2012年のα99からまた元の形状に戻った(写真10)。