カメラ用語の散歩道
第11回:画面サイズ(その1)
被写界深度との関係、動画と異なる情報量の考察など
2022年2月22日 12:00
画面サイズは情報量
銀塩でもデジタルでも、画面サイズは記録する画像の情報量に関係する。銀塩では画面サイズが大きいほど解像度が上がり、階調表現も豊かになる。写真展などでバイテン(8×10インチ)やシノゴ(4×5インチ)の精緻な表現に感嘆した人も多いだろう。これはデジタルでも言えることで、画面サイズが大きいほど画素数の多い撮像素子が製造でき、また画素数が同じなら画素サイズが大きくなるためダイナミックレンジも広がる。いわゆる中判デジタルカメラを使う人たちは、このような特性を求めているわけだ。
画面サイズと画角
画面サイズは撮影レンズの焦点距離と画角に関連する。画角とは撮影される被写体の範囲を、画面対角線方向の角度で表したものだ。通常は被写体側で言う画角と、撮影レンズから撮像面の対角線に張る角度とは一致するので、撮影レンズの焦点距離と撮像画面対角線の比がわかればそこから計算できる(図1)。
「通常は」と記したが、この条件から外れるのが魚眼レンズだ。魚眼レンズは被写体側の画角は180度あるいはそれ以上だが、撮像面の対角線に対して撮影レンズの主点が張る角度は180度以下である。これは魚眼レンズがわざと大きく残した歪曲収差に起因するものだ。同様に、歪曲収差が大きなレンズでは被写体側の画角と撮像側の画角に違いができる。
そういう例外はあるものの、まあ一般的には撮影レンズの焦点距離と画面対角線長の比が画角に相当すると考えてよいだろう。画面サイズが違っても、この比が同じであれば等しい画角で撮影されるということだ。
従って、同じ画角で撮影するには画面サイズが小さいほど焦点距離の短いレンズでよいことになり、カメラの小型化に寄与する。逆に、前述の記録情報量を上げて高画質を得るために画面サイズを大きくすれば、そのぶん長焦点の撮影レンズが必要になりレンズ自体も大型化するというわけだ。
画面サイズと被写界深度
画面サイズが関連する特性で、もう一つ重要なことは「被写界深度」であろう。同じ画角のレンズを用い、同じ被写体距離、同じ絞りで撮影する場合には、画面サイズが小さいほど被写界深度が深くなるのだ(写真1)。
被写界深度には、以下の4つの要素が関係する。
・撮影レンズの焦点距離:焦点距離が短いほど被写界深度が深い
・絞りのFナンバー:絞り込むほど(Fナンバーが大きいほど)被写界深度が深い
・撮影距離:被写体までの距離が遠いほど被写界深度が深い
・許容錯乱円径:許容錯乱円径が大きいほど被写界深度が深い
4番目の許容錯乱円径は、ちょっと聞きなれない用語だが、これは許容できるボケの大きさである。点の像がボケると円(錯乱円)になるが、その円の大きさがある値以下だとボケていないとみなすことができる。その限界の値ということだ。
画面サイズが小さいと、同じ画角でも撮影レンズの焦点距離が短くなる。しかし、観賞時の引き伸ばし倍率やモニターでの拡大率が大きくなるので、許容錯乱円径は小さくなる。被写界深度に対しては、焦点距離の短さは被写界深度が深くなる方向に効くが、許容錯乱円径の小ささは被写界深度が浅くなる方向に効く。しかし、焦点距離の変化の方が効き方が大きいので、“画面サイズが小さくなると被写界深度が深くなる”というわけだ。
昔の8mmムービーカメラなどでは、この性質を使ってフォーカシングを省略し、固定焦点(パンフォーカス)としたカメラが多かった(写真2)。いわゆるダブル8の画面サイズは4.5×3.3mmで、現在のスマホ内蔵のカメラ程度であった。そこでエントリークラスではF2だとかF1.4の単焦点レンズでフォーカスフリーにしてしまった撮影機が可能になったわけだ。ただ、そうは言っても焦点距離は10mm程度と長めだったので、固定焦点とするには少々無理があった。そこは許容錯乱円径をオマケするような形でカバーしたのだ。
動画と静止画
8mmムービーの話が出たので、静止画と動画の画面サイズの違いについて書いておこう。一般的に動画の方が静止画より画面サイズが小さい傾向にある。銀塩の場合でも動画、つまり映画の画面サイズは35mm判の半分、つまり写真でいうところのハーフ判から出発した(※35mm判カメラ自体が映画フィルムの流用なので、話の順序としては逆となる。後述)。
その後16mmフィルム、8mmフィルムと、画面サイズは小さい方向に推移している(図2)。劇場用の映画のために70mmフィルムを用いるものも登場したが、大画面化もここまでで、静止画カメラのようにシノゴ(4×5インチ)やバイテン(8×10インチ)のような大型の画面サイズは、動画では登場していない。
その理由は、前述の情報量に関係しているだろう。動画は複数の画面(フレーム)が一定周期で連続して現れ、隣り合う画面の内容が似通っている。そのため1つの画面の情報量が不足していても、それを眼の残像を利用して隣接する画面の情報で補完することができるのだ。昔の8mmムービーの映写機には一時停止(ポーズ)機能があるものがあったが、映写途中でこの機能を使って停止すると、とたんに粒子の荒れや解像度不足が目立つ低画質の画像になった。
また、観賞形態の違いも関係する。特に銀塩写真の時代にはほとんどの場合、静止画はプリントの形で観賞された。それに対して動画ではプリントで観賞することはできないので、スクリーンに投映することで観賞されていたのだ。特に科学的な確証があるわけではないが、投映による観賞よりプリントによる観賞の方が、画質上のアラが目立ちやすいようなのだ。
1980年に発売された「アグファファミリー」というスーパー8のフィルムを用いるホームムービーのシステム(写真3、図3)があるが、このシステムは動画と静止画の兼用システムだった。撮影機には動画用と静止画用の2つのレリーズボタンを備えており、静止画用のボタンを押すと1コマ分の撮影をすると同時に内蔵されたLEDの光を画面外に焼き込んでマーキングを施す。再生機(すりガラスのスクリーンに背後から投映する形式の映写機)で動画を再生しているときにこのマーキングを検出するとポーズ状態になって静止画を表示するという仕掛けだ。この再生機にはインスタントフィルムを用いたプリンターが内蔵されており、プリントも得られるようになっていた。
当時、実際にこのシステムを体験する機会があったが、やはり静止画としては画質に無理があったように記憶している。そのためか、アグフアの他には日本のエルモがこのシステムの撮影機を造ったのみで消えていった。
動画フィルムの静止画への流用
動画用に使われていたフィルムを静止画に用いた例はライカが有名だ。35mmムービー用のフィルムに映画の2コマ分の画面サイズを撮影するようにしたわけだが、前述したように動画には十分な画面サイズであっても、静止画としては極小型となり、当時はミニチュアカメラのような扱いをされた。同様に16mmの映画用のフィルムや9.5mm幅のパテーベビー用のフィルムからも静止画のフォーマットが生まれた。
前者はいわゆる16mmカメラで、ヨーロッパや日本のメーカーからさまざまなカメラが出された(写真4)。後者は11×8mmのミノックス判が有名である。ただ、いずれも映画用のフィルムをそのまま流用したわけではなく、パーフォレーションの位置などの違いはある。いずれも静止画の画面サイズとしては非常に小さく、微粒子フィルムや微粒子現像液を使うなど、細心の注意を払ってやっと満足できるような写真が得られるレベルであった。このようなことからも、動画と静止画の画面サイズに対するレベルの違いがわかる。
(その2に続く)