カメラ用語の散歩道
第9回:アクセサリーシュー(前編)
付属品が履く“靴” カメラの進化とともに変わる役割
2021年11月16日 09:00
付属品が履く靴
アクセサリーシューの「シュー」って、なんだかわかるだろうか? そう、「靴」のことなのだ。英語の「シューズ」の単数形。そしてストロボなどの付属品側の「靴」に入る部分は「アクセサリーフート」、つまり「足」ということになる。
このアクセサリーシューは、いろいろな工業規格に定められていて、互換性に関しては優等生なのだが、歴史的にみるとさまざまな事情でついたり外れたり、規格破りが登場したりして、なかなか興味深い存在である。今回はこのアクセサリーシューについて語ってみよう。
ルーツはライカ?
このアクセサリーシューを最初に設けたカメラは何だろうか? いろいろと調べてみると、どうもライカらしいのだ。ライカ以前のカメラにはこの規格のアクセサリーシューは見当たらず、逆に1925年のライカA型発売以降は同じ35mmフィルムを使うコンタックスやレチナなど、みな同じ規格のアクセサリーシューを設けている。そして、その後スプリングカメラや二眼レフなど、さまざまなカメラに波及していった。
ふと思いついて中村信一著「バルナック型ライカのすべて」(朝日ソノラマ刊)を読んでみたら、ウル・ライカの項に「このファインダー用のアクセサリーシューが、そのまま量産機にも採用され、それが今日まで同じ形状と寸法で継続している。」とあるので、ライカが起源であるというのは、かなり確かなことと思われる。
アクセサリーシューに何を装着するか?
前述のようにライカ最初の試作機ウル・ライカにもアクセサリーシューが設けられている(写真1)。ウル・ライカにはファインダーがないので、主たる目的は外付けファインダーを装着するためだったのではないだろうか? ライカの試作機でもいわゆる「0型ライカ」になるとファインダーは付くようになったが、アクセサリーシューも位置は違うものの依然として設けられており、これは商品版のライカA型にも引き継がれた。この時点でライカは距離計を内蔵していないため、単独距離計を装着するのが主な目的であったのだろう(写真2)。そしてC型からはレンズ交換が可能になり、それぞれの交換レンズの画角に対応した外付けファインダーの装着が用途に加わる(写真3)。
第二次大戦後はシンクロフラッシュが普及した。当初はフラッシュガンが大型であったのでカメラの横や底面に円筒型のガンを装着していたが、その後「クリップオン」のフラッシュガンが登場し、アクセサリーシューに取り付けるようになった(写真4)。フラッシュバルブからストロボの時代になっても同様にブラケットによる装着からクリップオンへという経過をたどっている。
外付けから内蔵、そしてシューの省略
アクセサリーシューに装着される付属品の変遷をたどってみると、面白いことに気づく。それらの付属品は最初は外付けのものだったのが、やがてカメラボディに内蔵される。すると、もうアクセサリーシューを設ける必要がないということで、省略する機種が現れる。しかし、内蔵のものでは不足であったり新たなシューの用途が登場したりして復活するというようなことを繰り返しているのだ。
ライカA型では単独距離計装着のためのアクセサリーシューであったが、II型で連動距離計が内蔵された。しかし、交換レンズのための外付けファインダー装着という新たな用途が登場し、このときは省略までに至らなかった。次はライカM3。交換レンズに合わせて画角が変わるユニバーサルファインダーが内蔵されたが、今度はシャッターダイヤルに連動する外付け露出計の装着用にアクセサリーシューが使われるようになった。キヤノン7ではユニバーサルファインダーと連動露出計の両方がボディに内蔵され、アクセサリーシューが省略された。しかし、このころになるとクリップオンタイプのフラッシュガンが普及しており、それに対応するために外付けのシューをアクセサリーとして用意している(写真5)。これも後継機のキヤノン7Sではシューが復活した。
フラッシュガンやストロボの内蔵により、多くのカメラがアクセサリーシューを取り去った。カメラに内蔵されるフラッシュガンは、いわゆるピーナッツバルブを用いるものから連続発光可能な集合型に発展し、フラッシュキューブ、マジキューブ、フラッシュバー、フリップフラッシュなどが次々と登場したが、これらのカメラでアクセサリーシューを設けたものはむしろ少数派であった(写真6)。コニカC35EFに始まるストロボ内蔵機になると当然のようにシューは省略されている(写真7)。レンズ固定型のコンパクトカメラではこの傾向が定着し、デジタルになっても引き続き継承されて、アクセサリーシューを設けたコンパクトデジカメは少ない。
一眼レフの場合は?
一眼レフに於けるアクセサリーシューは、なかなか面白い存在になっている。35mm一眼レフが普及し始めた1950年代から1960年代のころは、アクセサリーシューを備えた一眼レフは少数派であった。一眼レフのよいところはレンズ交換の自由度が大きく、レンズを交換してもそれに合わせてファインダーを交換しなくてもよいということだ。つまり外付けのファインダーを装着するためのアクセサリーシューは不要というのが、出発点である。背景にはデザイン上の問題もあった。ペンタプリズムを載せるため、カメラ上面の中央部が盛り上がる。その三角山の上にアクササリーシューを配置すると、造形的にうまくまとめるのが難しくなるのだ。
しかし、外付けファインダーは必要なくなったものの、折から普及し始めたクリップオンタイプのフラッシュガンやストロボをとりつけるためには、やはりアクセサリーシューがほしい。そこで多くのメーカーが採ったのがアダプター方式である。多くは視度補正レンズや接眼アイカップを装着するためにファインダー接眼部に設けた溝やねじを利用して取り付ける(写真8)。中にはオリンパスのOM-1のようにペンタ部の稜線のところにアクセサリーシュー取り付け用のねじを設けたものもある。そこまでするのなら、最初からアクセサリーシューを固定しておけばよいと思うのだが、やはりデザイン上の都合なのだろうか?
この傾向から脱却を試みたのが、キヤノンFX(1964)やミノルタSR-T101(1966)だ。接眼部の真上、ペンタプリズムの稜線にあたるところにアクセサリーシューを固定した(写真9)。その後他社の一眼レフもこの位置に置くことを踏襲し、これは現在も続いている。もっとも、アクセサリーシューなしにこだわったのは、フォーカルプレンシャッターの一眼レフで、トプコンPRやコンタフレックスなどのレンズシャッター一眼レフは、以前からこの位置にシューを設けていた。これもフラッシュシンクロがレンズシャッターと相性がよいことと無関係ではないだろう。フラッシュバルブの時代からレンズシャッターではシャッター速度による制限は特になく、比較的容易に使えたが、フォーカルプレンシャッターではFP級という特別なバルブを使わなければならず、煩雑なタイムラグ調整を要したりと、使いづらいところがあったのだ。