カメラ用語の散歩道

第9回:アクセサリーシュー(前編)

付属品が履く“靴” カメラの進化とともに変わる役割

付属品が履く靴

アクセサリーシューの「シュー」って、なんだかわかるだろうか? そう、「靴」のことなのだ。英語の「シューズ」の単数形。そしてストロボなどの付属品側の「靴」に入る部分は「アクセサリーフート」、つまり「足」ということになる。

このアクセサリーシューは、いろいろな工業規格に定められていて、互換性に関しては優等生なのだが、歴史的にみるとさまざまな事情でついたり外れたり、規格破りが登場したりして、なかなか興味深い存在である。今回はこのアクセサリーシューについて語ってみよう。

ルーツはライカ?

このアクセサリーシューを最初に設けたカメラは何だろうか? いろいろと調べてみると、どうもライカらしいのだ。ライカ以前のカメラにはこの規格のアクセサリーシューは見当たらず、逆に1925年のライカA型発売以降は同じ35mmフィルムを使うコンタックスやレチナなど、みな同じ規格のアクセサリーシューを設けている。そして、その後スプリングカメラや二眼レフなど、さまざまなカメラに波及していった。

ふと思いついて中村信一著「バルナック型ライカのすべて」(朝日ソノラマ刊)を読んでみたら、ウル・ライカの項に「このファインダー用のアクセサリーシューが、そのまま量産機にも採用され、それが今日まで同じ形状と寸法で継続している。」とあるので、ライカが起源であるというのは、かなり確かなことと思われる。

アクセサリーシューに何を装着するか?

写真1:ライカの最初の試作機「ウル・ライカ」には、現在と同じ規格のアクセサリーシューが設けられている。写真ではファインダーが装着されている。

前述のようにライカ最初の試作機ウル・ライカにもアクセサリーシューが設けられている(写真1)。ウル・ライカにはファインダーがないので、主たる目的は外付けファインダーを装着するためだったのではないだろうか? ライカの試作機でもいわゆる「0型ライカ」になるとファインダーは付くようになったが、アクセサリーシューも位置は違うものの依然として設けられており、これは商品版のライカA型にも引き継がれた。この時点でライカは距離計を内蔵していないため、単独距離計を装着するのが主な目的であったのだろう(写真2)。そしてC型からはレンズ交換が可能になり、それぞれの交換レンズの画角に対応した外付けファインダーの装着が用途に加わる(写真3)。

写真2:実際に市販されたライカA型はファインダーがボディに設けられているので、アクセサリーシューの主目的は単独距離計の装着に変わった。(写真提供:日本カメラ博物館
写真3:ライカC型になるとレンズ交換が可能になったので、内蔵ファインダーで対応できる画角以外のレンズを使う場合は、天面中央のアクセサリーシューに外付けファインダーを装着する。(写真提供:日本カメラ博物館

第二次大戦後はシンクロフラッシュが普及した。当初はフラッシュガンが大型であったのでカメラの横や底面に円筒型のガンを装着していたが、その後「クリップオン」のフラッシュガンが登場し、アクセサリーシューに取り付けるようになった(写真4)。フラッシュバルブからストロボの時代になっても同様にブラケットによる装着からクリップオンへという経過をたどっている。

写真4:フラッシュシンクロが普及すると、アクセサリーシューに装着するクリップオンタイプのフラッシュガンが登場した。

外付けから内蔵、そしてシューの省略

アクセサリーシューに装着される付属品の変遷をたどってみると、面白いことに気づく。それらの付属品は最初は外付けのものだったのが、やがてカメラボディに内蔵される。すると、もうアクセサリーシューを設ける必要がないということで、省略する機種が現れる。しかし、内蔵のものでは不足であったり新たなシューの用途が登場したりして復活するというようなことを繰り返しているのだ。

ライカA型では単独距離計装着のためのアクセサリーシューであったが、II型で連動距離計が内蔵された。しかし、交換レンズのための外付けファインダー装着という新たな用途が登場し、このときは省略までに至らなかった。次はライカM3。交換レンズに合わせて画角が変わるユニバーサルファインダーが内蔵されたが、今度はシャッターダイヤルに連動する外付け露出計の装着用にアクセサリーシューが使われるようになった。キヤノン7ではユニバーサルファインダーと連動露出計の両方がボディに内蔵され、アクセサリーシューが省略された。しかし、このころになるとクリップオンタイプのフラッシュガンが普及しており、それに対応するために外付けのシューをアクセサリーとして用意している(写真5)。これも後継機のキヤノン7Sではシューが復活した。

キヤノン7では連動露出計もユニバーサルファインダーもカメラに内蔵されたので、アクセサリーシューは省略された。フラッシュガンはボディ側面のシンクロターミナル周囲に設けたバヨネットに装着する。
キヤノン7に一般のクリップオンタイプのフラッシュガンを装着するために、専用フラッシュガンのためのバヨネットを利用して取り付けるアクセサリーシューアダプターが用意された。同時期のキヤノンフレックスシリーズにも使える。

フラッシュガンやストロボの内蔵により、多くのカメラがアクセサリーシューを取り去った。カメラに内蔵されるフラッシュガンは、いわゆるピーナッツバルブを用いるものから連続発光可能な集合型に発展し、フラッシュキューブ、マジキューブ、フラッシュバー、フリップフラッシュなどが次々と登場したが、これらのカメラでアクセサリーシューを設けたものはむしろ少数派であった(写真6)。コニカC35EFに始まるストロボ内蔵機になると当然のようにシューは省略されている(写真7)。レンズ固定型のコンパクトカメラではこの傾向が定着し、デジタルになっても引き続き継承されて、アクセサリーシューを設けたコンパクトデジカメは少ない。

写真6:コダックインスタマチック100と104。レンズ交換のできないエントリークラスのカメラでは、フラッシュ機能が内蔵されると当然のようにアクセサリーシューが省略された。左の100型はポップアップ式のフラッシュガンを内蔵しており、右の104型はフラッシュキューブのガンを内蔵している。(写真提供:日本カメラ博物館
写真7:コニカC35EF:ストロボ内蔵の35mm判コンパクトカメラや、その延長上にあるコンパクトデジカメでも、ほとんどのものがアクセサリーシューを省略するようになった。(写真提供:日本カメラ博物館

一眼レフの場合は?

一眼レフに於けるアクセサリーシューは、なかなか面白い存在になっている。35mm一眼レフが普及し始めた1950年代から1960年代のころは、アクセサリーシューを備えた一眼レフは少数派であった。一眼レフのよいところはレンズ交換の自由度が大きく、レンズを交換してもそれに合わせてファインダーを交換しなくてもよいということだ。つまり外付けのファインダーを装着するためのアクセサリーシューは不要というのが、出発点である。背景にはデザイン上の問題もあった。ペンタプリズムを載せるため、カメラ上面の中央部が盛り上がる。その三角山の上にアクササリーシューを配置すると、造形的にうまくまとめるのが難しくなるのだ。

しかし、外付けファインダーは必要なくなったものの、折から普及し始めたクリップオンタイプのフラッシュガンやストロボをとりつけるためには、やはりアクセサリーシューがほしい。そこで多くのメーカーが採ったのがアダプター方式である。多くは視度補正レンズや接眼アイカップを装着するためにファインダー接眼部に設けた溝やねじを利用して取り付ける(写真8)。中にはオリンパスのOM-1のようにペンタ部の稜線のところにアクセサリーシュー取り付け用のねじを設けたものもある。そこまでするのなら、最初からアクセサリーシューを固定しておけばよいと思うのだが、やはりデザイン上の都合なのだろうか?

写真8:初期の35mm一眼レフでは、デザイン上の理由からか、アクセサリーシューをもたない機種が多く、クリップオンタイプのフラッシュガン装着などの際には、別途用意されたアクセサリーシューアダプターを使用した。写真はペンタックスSP用にアクセサリーシューアダプターを装着したところ。
ペンタックスSP用のアクセサリーシューアダプターは、不用意に外れないようロック付きで、けっこう凝った作りになっている。

この傾向から脱却を試みたのが、キヤノンFX(1964)やミノルタSR-T101(1966)だ。接眼部の真上、ペンタプリズムの稜線にあたるところにアクセサリーシューを固定した(写真9)。その後他社の一眼レフもこの位置に置くことを踏襲し、これは現在も続いている。もっとも、アクセサリーシューなしにこだわったのは、フォーカルプレンシャッターの一眼レフで、トプコンPRやコンタフレックスなどのレンズシャッター一眼レフは、以前からこの位置にシューを設けていた。これもフラッシュシンクロがレンズシャッターと相性がよいことと無関係ではないだろう。フラッシュバルブの時代からレンズシャッターではシャッター速度による制限は特になく、比較的容易に使えたが、フォーカルプレンシャッターではFP級という特別なバルブを使わなければならず、煩雑なタイムラグ調整を要したりと、使いづらいところがあったのだ。

写真9:キヤノンFX。このカメラあたりから35mm判フォーカルプレン一眼レフでも、現在のようにペンタプリズム部の稜線部分にアクセサリーシューを固定することが定着した。
豊田堅二

(とよだけんじ)元カメラメーカー勤務。現在はカメラ雑誌などにカメラのメカニズムに関する記事を書いている。著書に「とよけん先生のカメラメカニズム講座」(日本カメラ社)、「カメラの雑学図鑑」(日本実業出版社)など。