ミラーレスカメラ・テクノロジー
プロローグ:既視感
2019年1月9日 07:00
「ミラーレスカメラのメカニズムを知りたい」「ミラーレスカメラと一眼レフカメラの違いを知りたい」という読者のために、豊田堅二さんによる解説記事の連載を始めました。第1回はそのプロローグとして、ミラーレスカメラの歴史を振り返ります。(編集部)
最初のミラーレスカメラであるパナソニックのLUMIX DMC-G1の発表が2008年の9月。2018年には10年という節目を迎えた。当初は「女流一眼」のキャッチフレーズが示すように、どちらかというと女性や初心者向けで、コンパクトデジタルカメラのユーザーをレンズ交換式カメラに誘い込もうという意図が感じられた。
その後、オリンパス(2009年)、ソニー(2010年)、富士フイルム(2012年)など、特に一眼レフであまり振るわなかったメーカーがミラーレスに続々と参入した。いずれも当初は入門機から中級機のレベルだったものが、改良を重ねて高級機としても通用するレベルに到達したのが、LUMIX DMC-G1から5年が経った2013年のことである。この年、オリンパスOM-D E-M1とソニーα7/α7Rが登場している。
そして10年が経過した2018年に、ミラーレスカメラの世界は転機を迎えた。これまで社内競合を恐れて、何となく腰が引けていた一眼レフカメラの大手が本気を出し始めたのだ。そして、これまでほぼソニーの独壇場であった35mm判フルサイズ(約36×24mm)のミラーレスカメラ分野に、キヤノン、ニコン、パナソニックと、一挙に3社の商品が発表された。
なお、パナソニック、ライカ、シグマの3社は共通のレンズマウント「Lマウント」を使用することを発表し、シグマもフルサイズミラーレスカメラの開発を表明している。
また、それよりも一回り画面サイズの大きな約44×33mmフォーマットのミラーレスカメラで先行していた富士フイルムも、バリエーションを増やして35mmフルサイズのものと競合する様相を見せ始めている。これらの新製品が一堂に会した2018年のフォトキナは、いつにない賑わいを見せたのだ。
このような経過をみてみると、同様のことを以前にも経験したような、妙な既視感がある。そう、1950年代に一眼レフカメラが台頭した経過に似ているのだ。一眼レフの歴史は古いが、35mm判のユニバーサルカメラとしての可能性が意識され始めたのが、ペンタプリズムの採用で正像のアイレベルファインダーを実現したコンタックスS(1948年)からと考えてみる。
6年後の1954年に高度の技術を結集したレンジファインダーカメラの最高峰であるライカM3が登場し、それによって大きく水をあけられた日本のメーカーはみな一眼レフの開発に方向を転じた。そして一眼レフの技術が熟してきた1959年にキヤノンとニコンが参入した。
この一眼レフの発展に関連して開発された技術も数多い。クイックリターンミラー、自動絞り、コパルスクエアに代表されるユニット型フォーカルプレンシャッターもその範疇に入るだろう。撮影レンズの分野ではレトロフォーカスタイプやズームレンズ、ミラーレンズなどが挙げられるだろう。
この状況は、デジタル一眼レフカメラでキヤノン、ニコンに水をあけられたメーカーがミラーレスカメラに方向を転じ、技術が熟して35mmフルサイズにまで及んだときにキヤノンとニコンが参入という現在に(一部のプレーヤーは違っているが)なんとなく似ているのではないか?
技術開発の面でもやはり、ミラーレスカメラの発展に伴ってEVFの改良、像面位相差AF、顔認識や瞳認識、電子先幕シャッターなどが登場している。してみると、往年のレンジファインダーカメラのように、一眼レフはミラーレスカメラに王座を明け渡し、ごく一部のマニア向けのカメラとしてのみの存在となるのだろうか? それともそれぞれの特徴を活かした形で棲み分けていくのだろうか? いずれにしても、今後デジタルカメラの世界が大きく変わるであろうという予感がするのは、筆者だけではないだろう。
この機会に、これまでのミラーレスカメラの発展を技術的な側面から一眼レフとの対比において分析し、今後を占ってみたいと思う。
今後の掲載予定
・プロローグ:既視感(2019/1/9)
・その1:EVFと一眼レフファインダー(2019/2/5)
・その2:ミラーレスカメラのシャッター
・その3:ミラーレスカメラのオートフォーカス
・その4:ミラーレスカメラの手ブレ補正
・その5:ミラーレスカメラのレンズマウント
・その6:まとめ。今後どうなるか?