山岸伸の写真のキモチ

第2回:大江翔萌美

芸能活動再開に向けて動き出した元AKB48を4台のカメラで写す

EOS R5 / RF70-200mm F2.8 L IS USM(128mm) / 絞り優先AE(F4.0・1/160秒・+1.0EV) / ISO 400

数々のグラビアや雑誌の表紙を飾ってきた、日本を代表するカメラマンの山岸伸さん。連載2回目は元AKB48、いわゆる初期メンバーの一人でもあった大江翔萌美さん。今回の撮影では編集部も現場にお邪魔させていただきました。撮影の様子や山岸さんが今の機材に対して抱いている感想なども交えてお伝えしていきます。(編集部)

芸能活動の再開に向けて

大江翔萌美さんは、AKB48の最初期メンバーのひとりで2005年の劇場オープンと同時にデビューしています。AKB48時代の活動名は大江朝美。どちらも読みは「ともみ」で同じですが、今回芸能界での活動を再開するのにあたって字を変えたのだそうです。

今回の撮影は、いわば芸能界復帰に向けた出発点となるものでした。撮影前には事務所で打ち合わせも重ねて、気合は十分。初日は少し緊張気味なところもありましたが、2日間のロケでじょじょに表情も変化していきました。そうした表情やしぐさの変化も感じとってもらえたらと思います。

大江翔萌美
おおえ ともみ
AKB48の一期生のひとりで、当時の活動名は大江朝美。2005年12月の劇場オープンと同時にデビューし、2008年10月の卒業公演まで活動を続けていた。新しい活動名は姓名判断で音を変えずに字のみ変えたもの。
Instagram:tomomopippi_

撮影前に必ずやっていること

今回のロケは2日間にわたっての進行となりました。両日ともにハウススタジオを利用している点では同じですが、あえて洋と和で趣を変えています。

日々撮影をしていると、同じスタジオを使う機会というのは往々にしてあります。複数回訪れたスタジオは、配置や時間帯ごとの光も把握しています。そうした経験や前知識があってもやっていること。それが「当日の光の具合を見ること」なんです。小物なども増えたりしていますから、今日はどこでどのように撮っていくか、という流れを計画していきます。

僕は基本的にスタジオを使って撮影を進めていますが、第1回でもお伝えしたように、自然光を大切にしています。レフ板などの補助道具はもちろん使用しますが、ストロボ等はあまり使用していません。そこに“いい光”があるのだから、それを利用して撮ればいい、という考え方を軸にしているからです。

下の写真はスタジオに到着して、モデルとスタッフが撮影準備を進めている合間に当日の状況チェックを兼ねて撮影したワンカットです。まずは光の具合をみているのですが、ちょっと調整を加えています。どんな調整をしているのか、ちょっと考えてみてください。

LUMIX S5 / LUMIX S PRO 24-70mm F2.8(43mm) / 絞り優先AE(F6.3・1/20秒・+2.7EV) / ISO 400

続けて本番カットをご覧いただきましょう。今回は各カットに撮影データも記載していますので、被写体との距離感も想像しながら見てもらえると嬉しいです。

LUMIX S5 / LUMIX S PRO 24-70mm F2.8(43mm) / 絞り優先AE(F6.3・1/15秒・+1.7EV) / ISO 400
LUMIX S5 / LUMIX S PRO 24-70mm F2.8(43mm) / 絞り優先AE(F6.3・1/40秒・+2.0EV) / ISO 400

さて、どんな調整をしているか分かりましたか? 答えは色温度です。どちらも寒色よりに寄せていますが、後処理で調整するのではなく一発撮りで、この色味になるように調整をしています。スタジオについてすぐに撮ったものとしてお見せしたカットでは、この色温度を探っていたというわけです。

色温度の調整は現場で追いこんでいます。屋外から差し込む光と屋内の照明でミックス光になっているので、自分のイメージした色をカメラ任せで出すことはとても難しい。ですので、K値の部分を直接調整してイメージを追いこんでいます。

と、こうした撮り方を進める中で実は今悩みがあるんです。それは複雑なミックス光だと色温度が分からない、ということ。人間が分からないのだから、当然カメラもこうした複雑な光の判断は難しい。これが今回のお話の裏テーマです。

シチュエーションに応じて最適な機材を使う

実は、今回の撮影では主力であるオリンパス(OM-D E-M1 Mark III・OM-D E-M1X)と、いつも使っているソニーα7R IVに加えて、キヤノンEOS R5とパナソニックLUMIX S5の計4台をスタジオに持ち込んでいます。これらを交互に使用した感想も少しお伝えしたいと思います。

まずオリンパスですが、長年使用していますので、色の出方は把握していますし、防塵・防滴の安心感や取り回しのしやすさは大きな力をもたらしてくれます。こうした機能や描写性がいきる場面では、やはりオリンパスの出番といった感じです。

撮影当日は編集部にも来てもらって撮影現場を見てもらったのですが、基本的に僕は三脚を使用して撮るスタイルをとっています。1点決めたら手持ちに切り替えて、動きやすさ重視で撮っていく。ハードに動いていく時はオリンパスを使っていくというのが、今回のベストでした。後の方で編集部からの現場レポートもありますので、あわせて見てもらえれば、雰囲気なども感じ取ってもらえると思います。

次のカットは肌の色と水の妖艶さを意識して撮影しています。手や身体の一部を切り取っていくことは、とても大切です。それに色もすごくいい。僕はポートレートでは女性の肌が黄色に傾いてはダメだと考えています。男性の場合はコントラストをつけていけば問題ない場合もありますが、女の子の場合はやはりスカッと抜けていかないといけない。露出補正も+2とか+3とかにしていく必要があります。自分の狙った色や露出にしていくために、カメラ任せにしないというのは、そういった理由もあるわけです。

OM-D E-M1X / M.ZUIKO DIGITAL ED 45mm F1.2 PRO(35mm判換算90mm相当) / 絞り優先AE(F2・1/800秒・+1.7EV) / ISO 640

こうした部分カットを全身カットやバストアップの間に入れていくと、アクセントにもなってくれますし、全体を通して見ていったときの見方も変えてくれます。そうした流れをつくっていくためにも、引きと寄りを考えていくことが大切なんです。

OM-D E-M1X / M.ZUIKO DIGITAL ED 45mm F1.2 PRO(35mm判換算90mm相当) / 絞り優先AE(F2.5・1/800秒・+1.0EV) / ISO 640

他のカメラの印象は?

ここからは、2日目のカットになります。初日は少し緊張気味でしたが、2日目はリラックスできたのか、表情がだいぶやわらかくなっているのが分かると思います。

LUMIX S5 / LUMIX S PRO 24-70mm F2.8(70mm) / 絞り優先AE(F3.5・1/100秒・+0.7EV) / ISO 800
EOS R5 / RF70-200mm F2.8 L IS USM(147mm) / 絞り優先AE(F2.8・1/60秒・+0.7EV) / ISO 1600

僕は色温度をその場で判断・調整して撮影を進めているとお伝えしました。実は現場ではカメラが壊れるんじゃないかってくらいダイヤルなどを操作しています(笑)。

キヤノンはEOS R5を使用していますが、RF70-200mm F2.8 L IS USMを含めてレンズの手元に配置されたコントロールリングの利便性が特に大きいと感じています。任意の機能をアサインして使用できるため、ここに色温度を当てることで撮る手をいったんとめてカメラをいじる必要がなくなります。まさにイメージした色温度に追い込んでいく今の撮り方にマッチしていて、今回すごくよかった。肌の出方もキヤノンは蓄積の度合いがやはり違うな、という印象を持ちました。冒頭のカットを改めて見てもらえるとわかるのですが、肌の色再現性の良さに加え、ヌケの良さも感じてもらえると思います。

一方、同時に使用したパナソニックのLUMIX S5は動画を主軸としてきたメーカーだからなのか、少し温かみのある印象が今はあります。とはいえ、まだ「このカメラはどうなのか」という質問に答えられるほど使い込めてはいませんが、ちょっと世間で言われている評価とは僕のようなカメラマンだと違った感想になるのかな、という気がしています。

色温度や肌再現を中心にお伝えしてきましたが、感度についても少しだけ。今回ISO 1600くらいまでは撮れるかなと感じました。自身が基準としている感度を1段超えてきたな、というのが今回4台を同時に使用しての感想です。僕は肌の色を最優先にしていますので、慎重に自身の許容できる値を探していき、例えばオリンパスだとISO 800を超えないようにしていました。

下のカットは太ももの一部が一部白トビしています。もちろん、ちょっと手を入れれば、この飛んでしまっている部分の階調も出すことはできます。ただ、手があってもやっていません。畳の部分が飛んでいて、太もものところだけ諧調があると、不自然に感じてしまいかねませんし、どうしても雰囲気が変わってしまいますから。

OM-D E-M1 Mark III / M.ZUIKO DIGITAL ED 25mm F1.2 PRO(35mm判換算50mm相当) / 絞り優先AE(F2・1/50秒・+1.7EV) / ISO 640
2日目のスタジオ周辺から

初日撮影の現場から(編集部)

今回の撮影にあたり、初日の現場に編集部もお邪魔させていただいた。撮影ではアシスタントやヘアメイク、スタイリストがひとつのチームとなり撮影を進めていく。

現場は緊張感が満ちているものの、殺伐とした印象はない。時に山岸さんの冗談が混じるなど、和やかな雰囲気で撮影は進行していく。メイクや衣装替えといった合間に今回の取材対応をしていただいていたが、その手と目は止まることがなかった。逐次、状況のチェックや撮影内容の指示など、現場をとりまとめるために先回りをした思考をしている、という印象で、刻々と変化していく光も見逃すことなく、撮影に反映していく。

初日のスタジオは3階建の白壁を主体としたスタジオだった。階段から2階部分を俯瞰で撮影位置をチェック
午後に入って日が傾きはじめると、色と角度も変わってきた。スポット的に入る光を見逃さずに、小物等を活用しながら撮影イメージをチームに伝えていく

水流を受け止める手のパーツカットシーンから。水しぶきがカメラにかかるくらいのところまで近寄って撮影していることが分かる。

EOS R5はRF70-200mm F2.8 L IS USMとの組み合わせで使用していた。三脚に固定してテザーで撮影を進めていくスタイルだ。撮影では単焦点ではなく明るいズームレンズを多用しているが、なぜ単焦点ではなく、こうした焦点距離が長めのズームレンズを多用しているのかを尋ねると、これくらいの焦点距離を使用したほうが“イヤらしく見えない”からなのだと教えてくれた。

モデルとの距離によって体温の伝わり方も違ってくると話す山岸さん。肌の露出が多い写真だからこそ、そうした体温の伝わり方に気をつかっているのだそうだ。ここに「モデルとの距離感を焦点距離から感じてほしい」というメッセージの意図が込められているのだ。

ホールディング性も良好だとして、キヤノンやニコンのカメラは、カメラマンの手を熟知しているとコメント

撮影結果はすぐにチェック。衣装イメージについても、それぞれの衣装を様々な角度からあらかじめ撮影した紙出力で確認して、本番ですぐに指示やイメージの共有ができるようにしていた。

今回掲出しているカットの多くを撮影したLUMIX S5を手に、カメラにとって、とにかく酷な使い方をして感触を確かめていると語ってくれた。あとはテザー通信の取り回しがもっと良くなって、明るいズームが増えてくれれば、と使用感を振り返っていた。

写真集とDVDが発売に

今回の撮影分は写真集とDVDにまとめられる。写真集はデジタル写真集としてDMM電子書籍で配信予定。DVDは竹書房のGreenレーベルより今年12月の発売予定だ。

ロケ1日目を終えた大江さんに感想をお聞きしたところ、今回で写真集が出るのは2冊目だという。1冊目の写真集から経過した時間について、新しい自分はもちろんだけれども、以前の自分も感じてもらえたら、と話す。ここからはじまる芸能活動の再スタートに向けて「自分らしさをもって、ひとつひとつのことを大切にしていきたいですね」とやわらかい笑顔を見せた。

山岸伸

(やまぎし しん) 1950年、千葉県生まれ。タレント、アイドル、俳優、女優などのポートレート撮影を中心に活躍。出版された写真集は400冊を超える。ここ10年ほどは、ばんえい競馬、賀茂別雷神社(上賀茂神社)、球体関節人形などにも撮影対象を広げる。企業人、政治家、スポーツ選手などを捉えた『瞬間の顔』シリーズでは、10年余りで延べ800組以上の男性を撮影。また、近年は台湾の龍山寺や台湾賓館などを継続的に撮影している。公益社団法人日本写真家協会会員、公益社団法人日本広告写真家協会会員。