山岸伸の写真のキモチ

第3回:ねむ部長

現役OL兼コスプレイヤーを沖縄の2島で 写真塾の生徒も同行

EOS R5 / RF70-200mm F2.8 L IS USM(187mm) / 絞り優先AE(F3.2・1/400秒・-0.3EV) / ISO 400

早くも連載3回目となった今回は、現役OLとコスプレイヤーという2つの顔をもつ「ねむ部長」がモデルをつとめます。撮影地は沖縄。今回は「山岸伸写真塾」の塾生2名も撮影に同行しています。はたして、その撮影行での出来事とは?(編集部)

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これまでの連載

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モデルは現役のOL

今回モデルをつとめてもらったのは、IT企業で現役のOLとしても働いている「ねむ部長」です。コスプレイヤーとしても活動していて、今回はそういった衣装でのカットも交えています。彼女の名前でユニークなところが、“部長”とついているところ。もともとは「平社員ねむ。」という名前で活動していたところ、勤務先で部長に昇格したことで改名したそうです。沖縄ロケで彼女がどのような顔を見せたのか、今回塾生に同行してもらった理由とともにお伝えしていきたいと思います。

ねむ部長
1996年6月生まれ。カロスエンターテイメント所属。IT企業につとめる現役OLで、コスプレイヤーとしても活動。「平社員ねむ。」という名前で活動していたが、2020年6月に勤務中の企業で部長に昇格したことに伴い改名した。ミス東スポ2021候補生。
プロフィール:カロスエンターテイメント
オフィシャルサイト:Twitter
ブログ(Instagram):nemu_neeeemuuuu

沖縄本島からアクセスできる島々でロケを実施

今回のロケ地は、沖縄の伊計島(いけいじま)と古宇利島(こうりじま)でした。

伊計島は沖縄市から北東方面に位置する島で、沖縄本島から海中道路経由でアクセスできます。位置的には海中トンネルを抜けてまず入ることになる宮城島のさらに突端に位置しています。

伊計島でのワンシーン。ここではモデルにある程度、自由に動いてもらっています。
OM-D E-M1 Mark III / M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO(40mm:35mm判換算80mm相当) / 絞り優先AE(F3.5・1/500秒・+1.3EV) / ISO 200

もう一方の古宇利島では、コンテナを利用したカフェを撮影場所として利用しました。ハートロックビーチ近くに佇む建物で、1階から3階まではスタジオ、4階がカフェになっている場所です。パノラマビューが楽しめる窓からは、海が一望できるほか、備えつけられている什器類も一貫した世界観で整えられています。

古宇利島のロケーション。塾生2人にも撮影するチャンスが与えられました。

ロケ選びで大切にしていること

沖縄のロケは何度も実施していて、撮影できる場所や、その場所の光の状態をしっかりと把握しておくことが重要であることは言うまでもありません。そしてそれと同じくらい大切なのが、「モデルにとって過酷ではないこと」。第1回でもお話しているように、身体的な面ではある程度のガマンはできても、精神的にツラい状態が続くと、やはり保ちません。これがモデルの状態を撮り手自身が感じなければいけない、と強調していることです。

もうひとつは、撮影面での安全性を確保すること。何度も訪れることで、その場所のことを深く知っておくことはもちろんですが、撮影に関わる状況は日々変わっています。自分たちで調べて撮影場所に向かうこともしますけれども、人づてで行くことのほうが多いです。これは、現地の人がもつ「つながり」が、撮影にまつわるトラブルを抑制できることにつながるからです。

撮影には、モデル本人のほかにもマネージャーが同行しますし、各案件の担当者も加わります。さらにヘアメイクや衣装、アシスタントスタッフもいますから、撮影場所の選択と、そこで安全に撮影を完了できるか、ということはとても大きな問題です。ただし忘れてはいけないのは、これは人数規模の問題ではなく、撮影する上で最低限配慮すべきことでもあります。現地の人、モデル、スタッフ全員が気持ちよく仕事できること。これは一対一の撮影でも同じことです。

伊計島では海岸を利用して撮影しました。

グラビア撮影の楽しさと厳しさ

今回のロケには、2名の塾生が同行してくれました。同行といっても、実際の仕事の現場を一緒に体感してもらうということが主で、撮影会のような内容ではありません(もちろん、合間あいまでモデルを撮影してもらう時間はありました)。ボク自身、仕事として請け負っている内容ですので、スタッフ人数もどうしても多くなってしまいます。2名の塾生は、そうした内容でもと参加してくれました。

1日目は伊計島・大泊ビーチと、古⺠家スタジオ(オーナー 島根さん)が撮影場所となりました。どこで撮影したのかがわかるように背景を入れたカットも撮影します。季節感であったり、場所がわかる情報を画面構成に含めていくことも、グラビアで求められる要素のひとつです。

伊計島では海と空をバックにして撮影に挑みました。
OM-D E-M1 Mark III / M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO(12mm:35mm判換算24mm相当) / 絞り優先AE(F3.5・1/1,000秒・+0.3EV) / ISO 200

あえて通常の仕事で塾生に同行を呼びかけたのは、ボクの現場がどういったものであるのかということと、プロの現場がどのような場所であるのか、ということを伝えたかったからでした。

また現場では光の状態が刻一刻と変わりますし、場所の使用も無料というわけではありません。ですから現場では段取りの組み方がとても重要になります。各スタッフが目的に向かって先読みをして動いていきますので、初日は塾生2人には見学してもらうことにしました。光がいい状態をつかまえていく現場撮影の実際と、1枚をつくりあげるために多くの人が関わり連携しあうシビアな空気感を伝えたかったんです。

背景にグリーンが入ると女の子の姿が立ちあがって見えます
OM-D E-M1 Mark III / M.ZUIKO DIGITAL ED 25mm F1.2 PRO(35mm判換算50mm相当) / 絞り優先AE(F1.6・1/1,250秒・+0.7EV) / ISO 400
上のカットと同じ場所で。窓枠にスポット的に光がはいってくる瞬間をねらって、セッティングをしています。何度も足を運び、状況や時間帯ごとの光の変化を蓄積しておくことで、段取りよく撮影を進めることができるわけです
OM-D E-M1 Mark III / M.ZUIKO DIGITAL ED 25mm F1.2 PRO(35mm判換算50mm相当) / 絞り優先AE(F1.8・1/320秒・-0.3EV) / ISO 640

彼女の個性でもあるコスプレイヤーとしての面を伝えるカットも撮影していきます。グラビアでの撮影は彼女自身初めてのことだったそうで、初日はまだ表情に固さがありました。

OM-D E-M1 Mark III / M.ZUIKO DIGITAL ED 25mm F1.2 PRO(35mm判換算50mm相当) / 絞り優先AE(F1.2・1/500秒・+0.7EV) / ISO 200

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狭い場所でも印象の異なるカットを複数撮りわけるために

2日目は、古宇利島のコンテナハウスで撮影しました。もちろんポートレートはどこでも撮れますし、わざわざ沖縄まで来て撮影する必要はあるの? と思う人もいるかもしれません。それでも沖縄をロケ地に選んだ理由は、やはり空気が変わるとモデルのスイッチも明確に切り替わるからでした。これがロケの本質的な意義だと考えています。

とはいえ、綺麗な場所で、かつ人がいない開かれた空間は今やほとんどありません。繰り返し強調していることですが、“安全であること”は、まず最優先で確保しなければなりません。現地の撮影地オーナーに協力してもらったり、関係性を築くことでトラブルが発生しないよう調整につとめます。

いい風が入ってくるスタジオでしたので、モデルもリラックス。1日目よりもずっと表情が柔らかくなっていることが見てとれるだろうと思います。慣れという面もありますが、こうした変化を自然にもたらしてくれるところが、しっかりと日程をとって、ロケ場所を変えて撮影することの意味というわけです。

OM-D E-M1 Mark III / M.ZUIKO DIGITAL ED 25mm F1.2 PRO(35mm判換算50mm相当) / 絞り優先AE(F2.2・1/200秒・+1.0EV) / ISO 640
OM-D E-M1 Mark III / M.ZUIKO DIGITAL ED 25mm F1.2 PRO(35mm判換算50mm相当) / 絞り優先AE(F2.2・1/200秒・+0.7EV) / ISO 640

同じ場所でも、光の状態を掴んでおくことで様々な表現が可能です。こうした大きく動かない場所では、太陽の動きを読むことの重要性が増してきます。360度、つねに観察をすることで、小さな場所を“大きく見せる”わけです。

OM-D E-M1 Mark III / M.ZUIKO DIGITAL ED 25mm F1.2 PRO(35mm判換算50mm相当) / 絞り優先AE(F2.5・1/1,250秒・+0.7EV) / ISO 400
EOS R5 / RF70-200mm F2.8 L IS USM(111mm) / 絞り優先AE(F3.2・1/100秒・-0.3EV) / ISO 400

“大きく見せる”というのは、もちろん物理的なスペースのことではなく、カット構成のことです。限られた時間・限られた場所で、様々なバリエーションを撮りわけていくこと。この連載でも繰り返しお伝えしていることですが、これがグラビア撮影の肝のひとつでもあります。そういった時間や場所の使い方、モデルへのアプローチも、塾生の2人には持ち帰ってもらうことができたようです。

OM-D E-M1 Mark III / M.ZUIKO DIGITAL ED 25mm F1.2 PRO(35mm判換算50mm相当) / 絞り優先AE(F2.5・1/320秒・+0.3EV) / ISO 400

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撮影を振り返って

今回は多くのシーンでオリンパスのカメラを使用しています。自身にとって主力機材であるということももちろんありますが、使い慣れた場所と使い慣れた道具の組み合わせは、やはり大切なシーンでは強いです。レンズを含めてすべて揃っているということも、対応の幅広さを支えてくれています。機材レスポンスの良さという点でも、やはり主力としての力を発揮してくれます。

今回同行した塾生ですが、2人ともニコンの一眼レフカメラを使用していました。あらためてニコンのカメラを使用しているユーザーには写真好きの方が多くいるなと感じた瞬間でもありました。撮影の感想も聞かせてもらいましたが、2人からは撮った写真を発表したいという声があがりました。撮ることと、発表すること。写真との向き合いは、このせめぎあいの中でおこなわれますが、現場撮影の在り方を含め、撮影の楽しさと厳しさを持ち帰ってもらえていることを期待しています。

今回の撮影行では、写真の記録性をあらためて実感する出会いもありました。この話は次回でお伝えしていければと思います。

山岸伸

(やまぎし しん) タレント、アイドル、俳優、女優などのポートレート撮影を中心に活躍。出版された写真集は400冊を超える。ここ10年ほどは、ばんえい競馬、賀茂別雷神社(上賀茂神社)、球体関節人形などにも撮影対象を広げる。企業人、政治家、スポーツ選手などを捉えた『瞬間の顔』シリーズでは、10年余りで延べ800組以上の男性を撮影。また、近年は台湾の龍山寺や台湾賓館などを継続的に撮影している。公益社団法人日本写真家協会会員、公益社団法人日本広告写真家協会会員。