赤城耕一の「アカギカメラ」
第110回:街スナップと相性抜群、キヤノンの最新パンケーキレンズ
2025年1月20日 07:00
今回はキヤノンのパンケーキ単焦点レンズRF28mm F2.8 STMの話をしようと思います。レンズ構成6群8枚、重量は120gですから、パンケーキというか小さなマフィンというか。とにかく小さいです。
キヤノンの一眼レフ用のパンケーキレンズの歴史を紐解いてみると当初はパンケーキレンズに対して、少し奥手だったようにみえます。
レンジファインダーカメラ時代はキヤノンにも全長が極端に短いレンズはたくさんあったのに。キヤノン25mm F3.5とか35mm F3.2などはボディキャップのようでした。ただ、その時代には全長が短く、ぺったんこのレンズでも「パンケーキ」とは呼ぶことがなかったのではないでしょうか。
キヤノンの最初の一眼レフ用のパンケーキレンズは、「FLP 38mm F2.8」というレンズで、ペリクル(半透明)ミラーを採用した、キヤノンペリックス(1965年)専用レンズとして登場してきました。
その名のごとくFLマウントなのですが、なぜ専用なのかといえば、後玉が突き出た形状ゆえ、ミラーの昇降する一眼レフに使うと後玉が干渉してしまうためにミラーが固定されたペリックス専用としたということであります。
ならば干渉しないように、焦点距離を見直すとか、光学設計で追い込めばいいじゃんと素人は勝手に思うのですが、このあたりの事情はよくわかりません。
ちなみにFLP 38mm F2.8を装着したキヤノンペリックスのファインダーをみると、室内などでは呪いたくなるほど暗く、写欲が湧きません。言うまでもなくMFですからねえ。フォーカスリングも操作しづらいんです。
いくらブラックアウトしないメリットがあったとしても、ペリクルミラーの露光倍数を考慮せねばなりませんから、常用レンズというよりも、日中晴天下以外は使いたくない印象のレンズでした。
その次に筆者が意識したというか、おお!と思ったキヤノンのパンケーキレンズは2012年に発売される「EF40mm F2.8 STM」でした。
風のウワサでは写真家の立木義浩さんのリクエストがあったとかなかったとか。いえ、ウラはとれていないので、間違っていたら、立木先生すみません。
このレンズは仕事でも私事でも、かなり使いました。キヤノンEOS Kiss X7のキットレンズとして用意されていたはずで、たしかボディカラーに合わせて、ブラックとホワイトが用意されていました。
エラいのは、レンズ名からもわかるとおり、35mmフルサイズのイメージサークルをカバーしていたので、正真正銘のEFレンズでありますし、筆者はEOS-1D Mark IIIなどにも装着したり、そのミスマッチさを楽しんだり、フィルム一眼レフカメラのEOS 7sでもよく使いました。写りは優秀です。
2014年には「EF-S 24mm F3.5 STM」というレンズも登場します。このレンズの名称はEF-Sですから、APS-C専用設計であることです。
35mm判用のレンズとして画角換算すると38.4mm相当になるようであります、そう、FLP 38mm F2.8と実焦点距離は異なりますから、被写界深度は違えど、おおむね近い画角になるわけですよね。これは偶然なのかなあ。
「EF-M 22mm F2 STM」というレンズもありましたね。キヤノン初のミラーレス、EOS Mシリーズに用意されたものですが、筆者もこれは愛用しました。
エラいなと思ったのは標準ズームレンズと共にこのレンズがキットとして採用されていたことです。パンケーキのデザイン、特性をもってすれば、焦点距離が重複しようとも、その独自の存在意義はあるということを知らしめたからです。というのは大袈裟でしょうか。
で、今回のRF28mm F2.8 STMですが、筆者は発表時からとても欲しかったレンズでした。焦点距離からすれば平凡で、これもまた標準ズームレンズの焦点域の中に入るものですが、独自の存在感を示しました。
全長の短さをみれば、ショートフランジバックのEOS Rシリーズにつけたら、さぞかし収納性もよくてデザインも似合うのではないかと。筆者は35mmレンズマニアであることは公言はしていますが、これはひとつの基準でありまして、かりに交換レンズを持たずして、覚悟を決めて街をさまよう場合は28mmのほうがスナップワークに特化した場合は良いかもしれません。筆者はいつでもどこでも、カメラと共にありたいと考えるほうですから、普段使いのGR IIIの代わりにもなりそうです。これは気分を変える上でも、とても嬉しいことであります。
ショートフランジバックならば、かつてのレンジファインダーカメラ用のレンズのように全長はさらに短くできるんじゃないかと素人は考えたりもするのですが、AFのモーターを入れなければなりませんし、レンズ後玉からセンサーまでの距離が短いわけですから、画面周辺部に適切な光を入れてゆくのはなかなかたいへんそうです。本レンズも前玉はヘソみたいに小さいけど、後玉はそれなりの大きさがあります。
もっとも矛盾してしまうのですが、デザインがよくても、小さければよいとも一概には申しません。カメラボディサイズと比べて、小さくなりすぎるとこんどはMFに切り替えたような場合にも使いづらくなる可能性もあります。
これ、余談で、筆者の本音が少しだけあるのですが、周辺まで光が入っていかずドカンと周辺光量が落ちたレンズがあったとしても、個人的にはその独自の写りに歓迎したいなあと思います。かつてのトポゴンタイプのワイドレンズなんか興味あるのですが、現代のレンズでこれをやると、叩かれちゃうんだろうなあ。
筆者はアナログもデジタルも、画像処理時やプリントする時は周辺の光量を意図的に落とすことが多いわけです。とはいえ使う人を選ぶことがない一般のレンズに、それを求めることはかなり難しいでしょう。もちろん本レンズの画質は均質性が高いですし、周辺光量も問題ありません。
本レンズの構成図をみてみますと、WのカタチをしたPMo(プラスチックモールド)非球面レンズが2枚配置されていることがわかります。キヤノンではこれを「カモメレンズ」と呼ぶそうです。カモメレンズも四角く成形されていたりしますから、年寄りはプラスチックというだけでおまえ本当に大丈夫なんだろうなと、心配しちゃうのですが、バッチリであります。
これも、まったくの余談ですが、レンズ描写を語るとき“カモメ”と聞いて、あまりよい印象を抱かないのは、これも筆者が年寄りだからでしょうか。
主にコマ収差の影響によって起こるものですが、夜景などで点光源が画面内に入ったとき点が点として写らず、鳥の羽根が生えたようにみえる現象を“カモメが飛んだようだ”と表現することがあったからです。
カモメと聞いてから、筆者の脳内では渡辺真知子さんの唄がリフレインしています。ええ、年寄りな証拠です。誰も知らないですよね。
いえ、だからといってキヤノンに呼び方を変えろというつもりもなく、たしかにPMoレンズの断面はカモメのようにみえるのはたしかですから、愛称はこのままでよろしいかと。
黎明期のパンケーキレンズはテッサータイプなど単純なものが多かった印象です。そこからみればずいぶんと進化しました。そう高価なレンズではありませんが、性能追求に賭けるキヤノンのエンジニアの姿勢はすごいですよね。
では、その写りはどうでしょうか。実際に使用してみますと、絞りによる描写性能の向上というか、効きはほとんどなさそうです。これは悪口ではありません、現代的なレンズという言い方で間違いはなく。年寄りはついおまじないの意味をこめて1/3絞りくらい絞りたくなるのですが、本レンズでは不要でしょうね。それでも絞ってしまいますが(笑)。
つまり絞りは光量調整と被写界深度のコントロールのためだけにあるわけです。撮影距離による描写の違いも筆者の老眼ではまったくわかりません。全体繰り出しという安心感はあります。ただ、最短撮影距離は0.25mで近いですが、せっかくならば、もう少し頑張りたかったですね。近寄るためには、やはり全長が長くなってしまうのでしょうか。
コントラストは絞り開放からとても高いです。絞り開放からキンキンに写ります。少し絞るとパキンパキンですね。筆者好みであります。コントラストの弱い、曇り日や、日陰の条件で使用してもよい感じに写るのはうれしいですねえ。
歪曲収差などはカメラ内でも補正しているのかもしれないけど、実用上の問題はありません。味わいなどと、甘っちょろい情緒性は感じられませんから、こちらも正攻法で被写体に向き合います。
昨今の認識だと、いくらパンケーキという特徴があるにしろ、開放Fナンバーは2.8ですから、ズームレンズでも同様のスペックのレンズを使えば、ボケの大きさも基本的には同じになります。写りの特性を追求するよりも、ここはスナップワークに特化した存在のレンズとして割り切って使用することを考えたほうがよいと思います。
ただ、MFに切り替えた時に表示されるEVFやLCDの距離インジケーターの表示が少し粗いように思います。1、1.5、2mあたりの表記があればベストなのですが。フォーカスリングに距離指標を入れろとはもう言いませんが、MF切り替えた時にクリックストップを入れて、ゾーンフォーカス的に使えるようになったりすると嬉しいんですが、そうなると大きくなったり、高くなってしまいますかねえ。
今回は主にEOS RPに装着して使用してみましたが、両者のコンパクトさを活かすことができ、相性も抜群でした。スナップでは、標準ズームレンズあたりと比較しても撮れ高がまるで違いますもん。「呼吸する」するようにシャッターを押してしまいます。そう「歩く目」となることができるでしょう。
本稿は現在滞在中の博多で執筆しました。一部作例も当地で撮影しています。博多阪急で「クラシックカメラ博 in 博多」と同時開催中の拙写真展「録々 6×6」のためですが、本日20日が最終日。午後5時まで開催しています。こちらもお時間ありますれば、足をお運びくださいませ。