赤城耕一の「アカギカメラ」

第110回:街スナップと相性抜群、キヤノンの最新パンケーキレンズ

今回はキヤノンのパンケーキ単焦点レンズRF28mm F2.8 STMの話をしようと思います。レンズ構成6群8枚、重量は120gですから、パンケーキというか小さなマフィンというか。とにかく小さいです。

キヤノンの一眼レフ用のパンケーキレンズの歴史を紐解いてみると当初はパンケーキレンズに対して、少し奥手だったようにみえます。

レンジファインダーカメラ時代はキヤノンにも全長が極端に短いレンズはたくさんあったのに。キヤノン25mm F3.5とか35mm F3.2などはボディキャップのようでした。ただ、その時代には全長が短く、ぺったんこのレンズでも「パンケーキ」とは呼ぶことがなかったのではないでしょうか。

キヤノンの最初の一眼レフ用のパンケーキレンズは、「FLP 38mm F2.8」というレンズで、ペリクル(半透明)ミラーを採用した、キヤノンペリックス(1965年)専用レンズとして登場してきました。

その名のごとくFLマウントなのですが、なぜ専用なのかといえば、後玉が突き出た形状ゆえ、ミラーの昇降する一眼レフに使うと後玉が干渉してしまうためにミラーが固定されたペリックス専用としたということであります。

ならば干渉しないように、焦点距離を見直すとか、光学設計で追い込めばいいじゃんと素人は勝手に思うのですが、このあたりの事情はよくわかりません。

本レンズ記念すべき最初の1枚は、路上にて。何か考えるスキもなくシャッターボタンを押していました。すっきりとした描写だなあという印象です。
キヤノン EOS RP/RF28mm F2.8 STM/28mm/マニュアル露出(1/1,000秒、F9.0)/ISO 400
レンズが歪んで写るのではありません。曲がった窓に映るリフレクションであります。冬ということもあるでしょうけど、スカッと写りますね。
キヤノン EOS RP/RF28mm F2.8 STM/28mm/プログラムAE(1/400秒、F7.1、±0.0EV)/ISO 400
最近気に入っている仕事場近くの景色なんですが、ハイライトの調子もよい感じに再現されております。
キヤノン EOS RP/RF28mm F2.8 STM/28mm/プログラムAE(1/1,250秒、F11、−0.3EV)/ISO 400

ちなみにFLP 38mm F2.8を装着したキヤノンペリックスのファインダーをみると、室内などでは呪いたくなるほど暗く、写欲が湧きません。言うまでもなくMFですからねえ。フォーカスリングも操作しづらいんです。

いくらブラックアウトしないメリットがあったとしても、ペリクルミラーの露光倍数を考慮せねばなりませんから、常用レンズというよりも、日中晴天下以外は使いたくない印象のレンズでした。

その次に筆者が意識したというか、おお!と思ったキヤノンのパンケーキレンズは2012年に発売される「EF40mm F2.8 STM」でした。

風のウワサでは写真家の立木義浩さんのリクエストがあったとかなかったとか。いえ、ウラはとれていないので、間違っていたら、立木先生すみません。

このレンズは仕事でも私事でも、かなり使いました。キヤノンEOS Kiss X7のキットレンズとして用意されていたはずで、たしかボディカラーに合わせて、ブラックとホワイトが用意されていました。

エラいのは、レンズ名からもわかるとおり、35mmフルサイズのイメージサークルをカバーしていたので、正真正銘のEFレンズでありますし、筆者はEOS-1D Mark IIIなどにも装着したり、そのミスマッチさを楽しんだり、フィルム一眼レフカメラのEOS 7sでもよく使いました。写りは優秀です。

2014年には「EF-S 24mm F3.5 STM」というレンズも登場します。このレンズの名称はEF-Sですから、APS-C専用設計であることです。

35mm判用のレンズとして画角換算すると38.4mm相当になるようであります、そう、FLP 38mm F2.8と実焦点距離は異なりますから、被写界深度は違えど、おおむね近い画角になるわけですよね。これは偶然なのかなあ。

「EF-M 22mm F2 STM」というレンズもありましたね。キヤノン初のミラーレス、EOS Mシリーズに用意されたものですが、筆者もこれは愛用しました。

エラいなと思ったのは標準ズームレンズと共にこのレンズがキットとして採用されていたことです。パンケーキのデザイン、特性をもってすれば、焦点距離が重複しようとも、その独自の存在意義はあるということを知らしめたからです。というのは大袈裟でしょうか。

で、今回のRF28mm F2.8 STMですが、筆者は発表時からとても欲しかったレンズでした。焦点距離からすれば平凡で、これもまた標準ズームレンズの焦点域の中に入るものですが、独自の存在感を示しました。

全長の短さをみれば、ショートフランジバックのEOS Rシリーズにつけたら、さぞかし収納性もよくてデザインも似合うのではないかと。筆者は35mmレンズマニアであることは公言はしていますが、これはひとつの基準でありまして、かりに交換レンズを持たずして、覚悟を決めて街をさまよう場合は28mmのほうがスナップワークに特化した場合は良いかもしれません。筆者はいつでもどこでも、カメラと共にありたいと考えるほうですから、普段使いのGR IIIの代わりにもなりそうです。これは気分を変える上でも、とても嬉しいことであります。

ショートフランジバックならば、かつてのレンジファインダーカメラ用のレンズのように全長はさらに短くできるんじゃないかと素人は考えたりもするのですが、AFのモーターを入れなければなりませんし、レンズ後玉からセンサーまでの距離が短いわけですから、画面周辺部に適切な光を入れてゆくのはなかなかたいへんそうです。本レンズも前玉はヘソみたいに小さいけど、後玉はそれなりの大きさがあります。

レンズを甘えさせちゃいけないということで太陽を入れてみました。ゴーストは出ますけど、これくらいなら問題はないですね。
キヤノン EOS RP/RF28mm F2.8 STM/28mm/プログラムAE(1/80秒、F18、−0.3EV)/ISO 100
これも太陽を入れてみました。線状にみえるゴーストが出ますが、さほど違和感はありません。
キヤノン EOS RP/RF28mm F2.8 STM/28mm/プログラムAE(1/320秒、F18、−0.7EV)/ISO 100
最短撮影距離です。後ろのボケもきちんと丸く再現されています。昔のパンケーキレンズは絞りの枚数が少ないものが多く、ボケ味はいまひとつでしたから大きな進化を感じます。
キヤノン EOS RP/RF28mm F2.8 STM/28mm/絞り優先AE(1/800秒、F5.6、−0.3EV)/ISO 400

もっとも矛盾してしまうのですが、デザインがよくても、小さければよいとも一概には申しません。カメラボディサイズと比べて、小さくなりすぎるとこんどはMFに切り替えたような場合にも使いづらくなる可能性もあります。

鏡筒は短いですが、AF/MF切り替えスイッチの位置もよく考えられ、操作性を犠牲にしていません。

これ、余談で、筆者の本音が少しだけあるのですが、周辺まで光が入っていかずドカンと周辺光量が落ちたレンズがあったとしても、個人的にはその独自の写りに歓迎したいなあと思います。かつてのトポゴンタイプのワイドレンズなんか興味あるのですが、現代のレンズでこれをやると、叩かれちゃうんだろうなあ。

筆者はアナログもデジタルも、画像処理時やプリントする時は周辺の光量を意図的に落とすことが多いわけです。とはいえ使う人を選ぶことがない一般のレンズに、それを求めることはかなり難しいでしょう。もちろん本レンズの画質は均質性が高いですし、周辺光量も問題ありません。

本レンズの構成図をみてみますと、WのカタチをしたPMo(プラスチックモールド)非球面レンズが2枚配置されていることがわかります。キヤノンではこれを「カモメレンズ」と呼ぶそうです。カモメレンズも四角く成形されていたりしますから、年寄りはプラスチックというだけでおまえ本当に大丈夫なんだろうなと、心配しちゃうのですが、バッチリであります。

レンズ後玉をみます。四角いですね。四角くみえるだけだと思ったら、本当に四角いレンズですが、これもPMoレンズのなせる技のようです。
MADE IN TAIWANの文字があります。製造がどこであろうが気にはしませんが、そのむかしキヤノネットの一部もTAIWANで作られていたことを思い出しました。

これも、まったくの余談ですが、レンズ描写を語るとき“カモメ”と聞いて、あまりよい印象を抱かないのは、これも筆者が年寄りだからでしょうか。

主にコマ収差の影響によって起こるものですが、夜景などで点光源が画面内に入ったとき点が点として写らず、鳥の羽根が生えたようにみえる現象を“カモメが飛んだようだ”と表現することがあったからです。

カモメと聞いてから、筆者の脳内では渡辺真知子さんの唄がリフレインしています。ええ、年寄りな証拠です。誰も知らないですよね。

いえ、だからといってキヤノンに呼び方を変えろというつもりもなく、たしかにPMoレンズの断面はカモメのようにみえるのはたしかですから、愛称はこのままでよろしいかと。

黎明期のパンケーキレンズはテッサータイプなど単純なものが多かった印象です。そこからみればずいぶんと進化しました。そう高価なレンズではありませんが、性能追求に賭けるキヤノンのエンジニアの姿勢はすごいですよね。

EW-55という専用フードもあります。少しだけ鏡筒が長くなりますが、レンズ前面を保護するには有用ですね。

では、その写りはどうでしょうか。実際に使用してみますと、絞りによる描写性能の向上というか、効きはほとんどなさそうです。これは悪口ではありません、現代的なレンズという言い方で間違いはなく。年寄りはついおまじないの意味をこめて1/3絞りくらい絞りたくなるのですが、本レンズでは不要でしょうね。それでも絞ってしまいますが(笑)。

つまり絞りは光量調整と被写界深度のコントロールのためだけにあるわけです。撮影距離による描写の違いも筆者の老眼ではまったくわかりません。全体繰り出しという安心感はあります。ただ、最短撮影距離は0.25mで近いですが、せっかくならば、もう少し頑張りたかったですね。近寄るためには、やはり全長が長くなってしまうのでしょうか。

コントラストは絞り開放からとても高いです。絞り開放からキンキンに写ります。少し絞るとパキンパキンですね。筆者好みであります。コントラストの弱い、曇り日や、日陰の条件で使用してもよい感じに写るのはうれしいですねえ。

コントラストの高いレンズだから、こうした明暗差の大きな条件ではどうかということで試してみましたが、階調に破綻がありません。レンズ性能とカメラの性能がうまくバランスしているようです。
キヤノン EOS RP/RF28mm F2.8 STM/28mm/プログラムAE(1/500秒、F8.0、±0.0EV)/ISO 400
高画素機で撮影したようにも見えます。シャープすぎる描写がつまらないという人もいますが、28mm単焦点レンズの描写のひとつの基準となりそうです。
キヤノン EOS RP/RF28mm F2.8 STM/28mm/プログラムAE(1/640秒、F9.0、−0.3EV)/ISO 400
紅白幕。布のディテール描写とかいいですねえ。いちおうまだ1月ですからおめでたいということで撮影してみました。
キヤノン EOS RP/RF28mm F2.8 STM/28mm/絞り優先AE(1/640秒、F8.0、−0.7EV)/ISO 200

歪曲収差などはカメラ内でも補正しているのかもしれないけど、実用上の問題はありません。味わいなどと、甘っちょろい情緒性は感じられませんから、こちらも正攻法で被写体に向き合います。

昨今の認識だと、いくらパンケーキという特徴があるにしろ、開放Fナンバーは2.8ですから、ズームレンズでも同様のスペックのレンズを使えば、ボケの大きさも基本的には同じになります。写りの特性を追求するよりも、ここはスナップワークに特化した存在のレンズとして割り切って使用することを考えたほうがよいと思います。

ただ、MFに切り替えた時に表示されるEVFやLCDの距離インジケーターの表示が少し粗いように思います。1、1.5、2mあたりの表記があればベストなのですが。フォーカスリングに距離指標を入れろとはもう言いませんが、MF切り替えた時にクリックストップを入れて、ゾーンフォーカス的に使えるようになったりすると嬉しいんですが、そうなると大きくなったり、高くなってしまいますかねえ。

裏路地を歩いていたら、食欲がなくなるような、鍋の見本があり。ファインダーを覗かずに適当に撮りました。コントラストが低い条件ですが、よい描写です。
キヤノン EOS RP/RF28mm F2.8 STM/28mm/絞り優先AE(1/500秒、F4.0、−1.0EV)/ISO 400
路上ライブのミュージシャンにお願いして撮らせてもらいました。これもファインダーを覗いていませんがカメラが勝手にフォーカシングしてくれています。曇り日ですが、明確によく写ります。
キヤノン EOS RP/RF28mm F2.8 STM/28mm/プログラムAE(1/250秒、F5.6、±0.0EV)/ISO 400
ウィンドウに網がありますが、カメラは何ら迷うことなく、目玉にフォーカスしました。そのままシャッターを切っただけです。よい描写です。
キヤノン EOS RP/RF28mm F2.8 STM/28mm/絞り優先AE(1/400秒、F3.5、−0.3EV)/ISO 400

今回は主にEOS RPに装着して使用してみましたが、両者のコンパクトさを活かすことができ、相性も抜群でした。スナップでは、標準ズームレンズあたりと比較しても撮れ高がまるで違いますもん。「呼吸する」するようにシャッターを押してしまいます。そう「歩く目」となることができるでしょう。

本稿は現在滞在中の博多で執筆しました。一部作例も当地で撮影しています。博多阪急で「クラシックカメラ博 in 博多」と同時開催中の拙写真展「録々 6×6」のためですが、本日20日が最終日。午後5時まで開催しています。こちらもお時間ありますれば、足をお運びくださいませ。

モノクロのようでいて、そのままのカラー再現です。半逆光ですが、トーンの再現性はとてもいいですね。
キヤノン EOS RP/RF28mm F2.8 STM/28mm/プログラムAE(1/80秒、F18、−0.3EV)/ISO 100
建築物の直線部分が曲がるとイヤな気持ちになりますが、実直すぎるくらいよく写りますね。
キヤノン EOS RP/RF28mm F2.8 STM/28mm/プログラムAE(1/800秒、F10、−1.0EV)/ISO 400
こうした条件でも歪まないですね。自分の目より現実をよくみている印象のレンズです。
キヤノン EOS RP/RF28mm F2.8 STM/28mm/プログラムAE(1/1,250秒、F13、−0.7EV)/ISO 400
バリアングルモニターを利用してローアングル気味で撮影してみましたが、ちょっとカメラが傾きました。許してもらえますよね。
キヤノン EOS RP/RF28mm F2.8 STM/28mm/プログラムAE(1/1,000秒、F10、−0.3EV)/ISO 400
花屋さんの裏なのです。これもバリアングルモニターを利用して撮影してみました。光の難しい条件ですが、後処理はしなくてもきちんと階調を繋げてきますし、適宜なコントラストですね。
キヤノン EOS RP/RF28mm F2.8 STM/28mm/絞り優先AE(1/160秒、F8.0、−0.3EV)/ISO 400
花のイルミネーションです。点灯前に撮りました。いろいろなリフレクションが抽象画みたいになりました。これも優れた階調再現ですね。
キヤノン EOS RP/RF28mm F2.8 STM/28mm/絞り優先AE(1/1,000秒、F5.0、±0.0EV)/ISO 400
至近距離で絞り開放で撮影していますが、筆者の予想よりも被写界深度が浅く感じる印象です。切れ込みのいいレンズだと、深度は浅く感じるんですよね。
キヤノン EOS RP/RF28mm F2.8 STM/28mm/絞り優先AE(1/1,000秒、F2.8、−0.7EV)/ISO 800
櫛田神社にて。お正月の雰囲気がまだ漂っており。提灯の影がなかなかよくて。日陰と日なたの両者をきっちり再現してきます。
キヤノン EOS RP/RF28mm F2.8 STM/28mm/プログラムAE(1/1,000秒、F11、−0.7EV)/ISO 400
街で見かけたモノ。写真の謎って、写っている本来の意味を超えることがあることで、実直な写りをするレンズはその引き出し役となります。
キヤノン EOS RP/RF28mm F2.8 STM/28mm/プログラムAE(1/800秒、F10、−0.3EV)/ISO 400
赤城耕一

1961年東京生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒。一般雑誌や広告、PR誌の撮影をするかたわら、ライターとしてデジカメ Watchをはじめとする各種カメラ雑誌へ、メカニズムの論評、写真評、書評を寄稿している。またワークショップ講師、芸術系大学、専門学校などの講師を務める。日本作例写真家協会(JSPA)会長。著書に「アカギカメラ—偏愛だって、いいじゃない。」(インプレス)「フィルムカメラ放蕩記」(ホビージャパン)「赤城写真機診療所 MarkII」(玄光社)など多数。