赤城耕一の「アカギカメラ」
第109回:広い画角で被写体に寄りたい!広角マクロレンズ30年の進化をみる
2025年1月5日 07:00
読者のみなさま。新年あけましておめでとうございます。お正月はいかがお過ごしになられたでしょうか。
筆者はですね、元旦から少々ぶっ飛ばしてしまいまして、酔っ払いさんのまま3日をすごしてしまいました。
おかげさまでいまでもふわふわした気分でおります。ただ、肌はつやつやです。これは脂が原因ではありませんので念のため。でもそういう状況下でも作例写真家はきっちり仕事をキメなければなりません。
さて、2025年第1弾の「アカギカメラ」をはじめることにします。まだ、松の内ですから、なにか派手なカメラでも紹介し、今年を占う意味でもお正月らしく1発ブチ上げたいなあと思ったのですが、残念ながらフリーランスにはボーナスどころかモチ代すらありませんので、それはかなわずです。しかもお正月休みすらないのですから因果な商売ですよねえ。ええ、好きでやっているんですけどね。
前回も申し上げたと思うのですが、このところずっと機材整理をしています。いつくたばっても周りに少しでも迷惑をかけないようにするためです。越年しながらも、この断捨離作業が続いていますが、今回はヘンなレンズが防湿庫から出てきました。
これが今回紹介しますTAMRON 20mm F/2.8 Di III OSD M1:2(Model F050)であります。
登場したのは2020年ですが、本レンズとともに、24mm F/2.8 Di III OSD M1:2(Model F051)、35mm F/2.8 Di III OSD M1:2(Model F053)が用意され、F2.8トリオとして注目されました。
いやいやヘンなレンズというのは失礼でありますね。本レンズの購入動機はとにかく超広角レンズで被写体に近寄りたかったからです。
レンズは寄れば寄れるほど正義になるとして筆者は高く評価しているわけですが、1:2の撮影倍率って、けっこうすごいスペックだなあ思うのです。昔なら「マクロ」名をつけてもおかしくはないでしょう。でも3本のレンズ名に「1:2」とついていますから、至近距離撮影に強いというイメージは当然あります。
一眼レフ時代の超広角レンズは近づくことができず、けっこうイライラした記憶があります。
20mmレンズでも最短撮影距離が0.3mくらいのレンズが多かったからですね。ミラーレスカメラ時代になってからは、ショートフランジバックになったことや、設計制約が減ったこともあり、最短撮影距離を縮めたレンズが多くなりました。
実焦点距離が短く、フォーマットが小さいと、最短撮影距離を縮めると同時に撮影倍率を上げることができますから、専用のマクロレンズの存在意義をおびやかしかねないことになります。実際に大きなお世話かもしれませんが、マイクロフォーサーズマウントのマクロレンズの売れ行きは厳しいんじゃないかなあ。
本レンズのように35mmフルサイズをカバーする20mmの焦点距離、最短撮影距離が0.11mというスペックを持つレンズは他にはありませんでした。
本レンズ購入の動機は当時仕事をしていたインダストリアルフォトの撮影で、とある工場の内部で撮影することが多くなるために用意しました。パーツレベルのマクロ撮影から工場全景まで一気に撮影することができるのではないかと予想したからです。たしかにこの撮影には役立ちました。ただ、仕事が終わると役目が終わったとばかり防湿庫の奥にしまいこまれてしまうのは、至近距離撮影に強いといいつつスペック的には地味だからでしょう。開放Fナンバーも特別に明るいわけでもありませんし。
そういえばレンズの最短撮影距離は短ければ短いほどよいのではないかと、いつも光学設計技術者に勝手な注文をつけている筆者なのですが、技術者のみなさんは、あまりよい顔はしません。理由は単純ですね。近距離では光学性能が低下する可能性があるからです。
正直なところ、筆者の考えでは、20mmのレンズで文献の複写をする人などいないわけですから、中心だけがシャープに写りさえすれば周辺など多少ボケようが流れようが、光量が低下しようが、かまわないという考え方を持っています。
むしろレンズのクセが存在するほうが好きだという人には喜ばれるかもしれません。こういう考え方はイタすぎるでしょうか。また技術者に嫌われてしまいそうです(笑)。
もちろん技術者は至近距離での性能低下を許すはずもなく、フローティング(遠近距離収差補正機構)を設計に取り入れるなどして、収差変動の補正に努めるわけです。それでも性能の維持に限界があるわけですが、こと写真制作表現のためということを考えれば、多くの写真家は画面周辺の性能低下など気にしてはいないと思います。
さて、引っ張り出したTAMRON 20mmF/2.8 Di III OSD M1:2(ModelF050)の性能はいかがなものでしょうか。
外観デザインはちょっと変わっていて、マウント方向に下すぼまりとなり、くびれができました。
これ、筆者がけっこう好きなカタチのレンズで、フィルター径を67mmとしたことで、前径が大きいからということもありましょう。この大きさはF2.8というFナンバーのレンズにはあまり見られないものです。
鏡筒のフォーカスリングは幅広く取られているので重宝します。しかし距離目盛りはありませんから、色気はありません。でも仕上げはよい感じです。長さ64mm、重量は220gということもうれしい仕様です。簡易防滴構造と防汚コーティングを備えていますが、外観の雰囲気は少々華奢に感じます。
今回はソニーα7CRに装着して使用してみましたが、バランスもよく街中のスナップ撮影に適していると感じました。カメラの機能との整合感がとてもいいので、純正レンズとともに携行しても、まったくストレスがないわけです。なぜ購入時に気づかなかったんでしょう。
ただ、0.11mという最短撮影距離を決めて撮影しようとすると、距離指標がないものですから、被写体との距離感覚がなかなかつかめないまま、場合によっては前玉が被写体と衝突してしまいそうになることがありました。
また、ワーキングディスタンスがないに等しいので、撮影者の影が入りやすくなります。逃げ場がないというか。これは各人が工夫するしかないですね。
描写に関しては間違いのない性能を感じました。撮影距離による性能変化はきわめて小さく、絞りによる影響もないという優等生で現代的なレンズです。本レンズはタムロンブランドですが、収差補正にはカメラボディも協力しているようです。
実は筆者は本レンズの性能をみて、もう1本の古い単焦点24mmレンズを所有していることを思い出しました。
その名をSIGMA SUPERWIDE II 24mm F2.8 MACROと申します。単なる地味な単焦点広角レンズですが、鏡筒にはMACRO表記がありますから名称にもつくのかな。マウントはAマウントです。
距離目盛りを確認してみると、最短撮影距離は0.18m。この時の撮影倍率は1:4とあります。
本レンズが登場したのは1980年代の後半くらいでしょう。いまから30年くらい前、一眼レフ用の純正24mmレンズの最短撮影距離は0.3mくらいのものがほとんどでしたから、ここまで寄れるレンズというのは他にあまりありませんでした。
この撮影倍率で「マクロ」と表記するのが正しいのかどうかはわかりませんが、筆者は少しやんちゃな存在に感じてはいましたが、重宝して使用していました。
スペックは7群8枚構成。フィルターアタッチメントは52mmでとてもコンパクトです。一眼レフ用レンズとしては意欲的な製品だと思いますし、往時のミノルタ純正24mm F2.8レンズとうまく差別化できていると思います。
タムロン20mmと並べて防湿庫の中にあったのは「広角マクロ」の仲間として認めていたからで、仕事でも一緒に使用した記憶があります。
ちなみに現行のシグマ単焦点広角レンズにはSIGMA 24mm F3.5 DG DN|Contemporaryという製品があり、最短撮影距離10cmで1:2の撮影倍率を持っています。これはミラーレス用レンズですから設計制約が少なく、安定の信頼と余裕を感じます。筆者もこのレンズを愛用していますが、スキのない性能です。
でもね、このSIGMA SUPERWIDE II 24mm F2.8の、合焦点のチリチリしたシャープネス、寄るために潔く“周辺を捨てた”感のある設計思想は個性的な写りであり、私事撮影にも応用できるように感じています。これは最新レンズにはない味わいとして認めることができましょう。
一眼レフ用の交換レンズですから、当然のようにフォーカスリングには距離指標もあり、その表示が正確であるかないかは別としても、ある程度は撮影時の参考にはなります。
本レンズの描写はなかなか個性的でした。当然、カメラ側からの収差補正の援護射撃は得ることができませんから、タル型の収差は残存したまま、余計な光がレンズに入れば、奇妙な形のはっきりしたゴーストが出ます。
こうした描写を欠点と考えてしまうのか、目立たないように工夫するか、あるいは特性として作画に応用するかは撮影者の選択にかかっています。
今回は純正のマウントアダプターLA-EA5を装着してソニーα7CRに使用していますが、まったくストレスのない動きをします。
顔認識AFも当然のように機能します。像面位相差によって、一眼レフに使用された時よりも精度の高い合焦を可能としていますから、本レンズのポテンシャルを引き出すという意味においても一目置く必要がありましょう。
この30年の時を経て、交換レンズはカメラの形式の変化とともに設計も性能も大きく変わりました。ミラーレス用に用意された単焦点広角レンズの多くが、何もお願いはしていないのにマクロ領域に迫るほど、至近距離を短縮してきました。
今回の2本のレンズを見てみると、いつの時代も筆者と同じ考えを持つ広角マクロ派が存在し、強く実現を要望していたことがわかり、興味深く感じています。