赤城耕一の「アカギカメラ」

第51回:多機能カメラの本質とは? OM-1導入で実感したこと

読者のみなさま。暑中お見舞い申し上げます。日本全国でたいへんな酷暑が続いております。引き続きご自愛の上、健写で参りましょう! 連載51回目、さっそく始めさせていただきます。

今年の3月18日に発売されたOM SYSTEM OM-1ですが、もうすぐ発売から半年経ちますねえ。当初は品不足という報もありました。今はあらゆるところで売るほどあるみたいですが、一部のアクセサリーはまだ品薄みたいです。

読者のみなさまのところにあるOM-1はいかがですか? 元気でお過ごしでしょうか。発売と同時にうちにお越しいただいた2台のOM-1も、ファームアップを2度行いまして、ますますもって絶好調であります。

OM-1というカメラを機能面でみますと、OM-D E-M1 Mark IIIとOM-D E-M1Xの機能を合体させ、よりグレードを高めて磨き上げたカメラではないかというのが結論です。最上位機だったE-M1X同等の機能も多く搭載されていますが、それでよくもまあこんなにダウンサイジングできたものですねえ。これなら最初からやってほしかったよなあ。

オリンパスOM-D E-M1Xについては本連載でも取り上げましたが、つい先ごろ旅立たれ、新しい土地で活躍していると伝え聞いております。筆者とは強い縁を結ぶことができずに残念でした。

正直なところ、筆者にはマイクロフォーサーズのセンサーサイズと、この大柄なボディサイズのギャップを最後まで認めることができなかったというのが正直なところであります。E-M1Xユーザーの方、裏切りました。すみません。

OM-1の進化では、E-M1Xで初搭載された「被写体認識AF」の対応被写体に「動物」(犬・猫)が加わったことがポイントになっています。これはディープラーニング技術を活用したAF技術で、OMDSのアナウンスによれば、E-M1Xに装備されていたものを「AI被写体認識AF」と名前を改めた上で進化させたそうです。動物(犬・猫)のほかに、バイク・車、飛行機・ヘリコプター、鉄道、鳥も認識します。

これにより撮影者はファインダーで被写体を捕捉し、フレーミングとシャッターチャンスを確実に捉えることだけに集中すればよいことになります。筆者もモトクロスのバイクや飛行機の一部について被写体認識AFを使用してみましたが、結果は上々でしたね。けれど、筆者としてはレビューのために無理やり撮ったものです。筆者はこうした分野に縁のないド素人ですが、まあド素人でもフツーに写るということの証明になりました。

被写体認識AFのおかげでサルでもブルーインパルスを撮れますね、素晴らしいです。でも気持ちが入っていませんから、お目汚し程度です。
OM-1 M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO(F5.6・1/2,500秒)ISO 400
被写体への愛が薄いのにレンズを向けるとOM-1は勝手に、おお!バイクじゃねえか!と判断して追い続けます。しかもヘルメットにフォーカシングされるし。こちらは連写して、後でテキトーに良さげなコマを選ぶだけです。
OM-1 M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO(F3.5・1/5,000秒)ISO 1600

これ、被写体を選ぶことができず森羅万象を相手にせねばならない報道畑のカメラマンには便利だろうなあ。このOM-1が40年前にすでにあったなら、あんなにスポーツや動体撮影に苦労することはなかったんじゃないかとしみじみ思いますねえ。と、つい遠い目をしてしまう筆者であります。

AF精度はきわめて高く、そして高速で動作します。認識してからの捕捉能力は、使っているこちらが舌を巻くこともあるほどで、カメラが撮影者を無視して勝手にやっている感じです。

でも、とても稀にですが、レンズを向けても被写体を認識せず知らん顔していることがあるのはご愛嬌なのでしょうか。こういう時はOM-1に嫌われたのかと勘違いしそうになります。真面目な話、これが仕事の撮影でしたら話になりませんから、撮り直しのきかないような撮影条件を与えられた場合は状況をよく精査し、被写体認識AFを設定せねばなりません。

これはOM-1のAFを信頼していないということではありません。二度と撮り直しのできないアサイメント撮影は、万が一の動作ミスというリスクをいかに回避できるかにかかっています。これはソニーでもニコンでもキヤノンでも同じです。これも繰り返しておきますが、優れた被写体認識AFを使用しても、結果として、全てが人に響くような良い写真になるとは限りません。当然ですね。

カメラ任せで日中シンクロ撮影をしてみましたが、どなたでも撮れます。仕事がなくなる理由がわかりました。昔はいかにも知恵を使っている風を装えたので、格好つけられたのですが。モデル:ひぃな
OM-1 M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II(F4.5・1/160秒)ISO 200

OM-1のもう一つの大きな注目点は、新開発の裏面照射積層型Live MOSセンサーですね。新画像エンジンTruePic Xの搭載で、高感度領域の画質が飛躍的に向上しています。

常用最高感度はISO 25600へと大幅に拡大しましたが、筆者はビビりなので、まだこの高感度設定をきちんと使用しておりません。正直なところE-M1 Mark IIIまではISO 1600にセットすることさえ躊躇していたこともトラウマになっています。

とはいえ、ざっと高感度領域の画質を試写して確認してみると、ISO 6400程度までなら画像をみても全くストレスを感じませんでしたね。これにはびっくりです。今後は「マイクロフォーサーズ=高感度に弱い」と言わせないぞ、という強い気概を感じています。

これまでも超強力だったIS(手ブレ補正機構)は、OM-1でさらに補正量が拡大しました。ボディ単体でシャッタースピード7段分、手ブレ補正機構付きのレンズとのシンクロでは最大8段分の補正量となりました。

これはもはやISをオンにしたまま意図的にブレた作例を作ることが難しいくらいであります。以前は、手ブレ補正をこれ以上強力にするには地球の自転の影響がどうだとかいうコメントもありましたが、OM-1は自転さえも止めてしまいそうな勢いがありますね。安心して使うことができます。さらにここに「手持ち撮影アシスト機能」が追加されていますから、スローシャッター時のフレーミングにも大いに役立ちます。

比較明合成のライブコンポジットも手ブレ補正に対応し、なんと手持ち撮影が可能になりました。星景撮影も高感度設定と組み合わせることで、条件によっては手持ち撮影が可能だそうです。星景にも縁がない筆者などは完全にオーバースペックで持て余しているわけでして、OM-1に置いて行かれたような気分にもなっております。こうしたデジタルならではのサポート機能が豊富ですから、肉眼で見えるものにおいては、いや、おぼろげに見えるような状況でも、手ブレ防止のための三脚は不要になるでしょう。

これまではセンサー性能にコンプレックスがあったのか、画像のエッジ部分にやや強いシャープネスを与える画作りだった印象なのですが、OM-1では階調をなめらかに繋いでゆく再現性に感心しました。通常撮影の感度領域においても、OM-1は優れた性能を発揮します。

筆者は画素数とか解像力、シャープネスを重視するより、写真を見たときの階調の第一印象こそが、高品位な写真に仕上がるポイントではないかと考えています。約2,037万画素と従来よりも画素数が増えてはいなくても、より高画質に見えてくるのが不思議です。あ、これは個人の感想で、画質も写真の内容とは関係ありませんので念のため。

三脚の使用頻度は本当に減ってしまいました。仕事の時にパフォーマンスのために使うだけです。街中のスナップでもISを信頼して撮影してます。
OM-1 M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II(F18・1/20秒)ISO 200

ほかにも、筆者は興味がない……というより正直なところ使い方がよくわからない機能が集まった「コンピュテーショナル撮影」というメニューも新しいです。手持ち撮影も可能になったライブコンポジットのほかにも、センサーシフトと画像処理の組み合わせで高解像度画像を得るハイレゾショットは処理時間が短縮され、ライブバルブは最高でND64相当の設定も可能になりました。深度合成も大幅に処理時間が短いので使いやすいそうです。

なんだか他人事のようになってしまいましたが、OM-1の各種撮影機能は、こちらの思考を先回りして考えてくれているかのような出来です。これまで技術的は不可能だったこと、撮影者の知識や経験が足りずに難しかった撮影をカメラが叶えてくれるというわけです。

仕事先の人との待ち合わせに早く着きすぎたので、ライブND撮影で暇つぶししました。手すりの上にカメラ載せて撮影してます。何も考えなくても写ります。
OM-1 M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II(F22・0.8秒)ISO 200
こちらは、電車待ちでヒマだったので、カメラを地面に置いてライブNDで軽く撮影してみました。何も考えなくてもこれくらいは撮れますね。フォーサーズ時代の魚眼レンズなんで色が残ってますが、これもサイケでいいですね。
OM-1 ZUIKO DIGITAL ED 8mm F3.5 Fisheye(F8・5秒)ISO 200

このように筆者は正直なところ、OM-1に搭載されてる機能をすべて使いこなす自信はありません。と、いうか、自分の撮影スタイルでは、正直言って縁遠い機能も多くあります。いずれの機能も今後の研究課題であります。筆者は新しい写真作品を開拓することができるのでありましょうか。

もちろんいざとなれば、この機能が使えるのではないかという安心感がかなりあります。機能が内蔵されていることで気持ちの余裕が生まれるように思います。他のメーカーのカメラシステムをメインに使う場合にも、特定の被写体にはOM-1が向くと判断した場合は他社システムと同時に携行することもあり得るでしょう。

かつてのフィルム一眼レフ時代のOMシステムのキャッチコピーは「宇宙からバクテリアまで」というものでした。私の好きな言葉です。すべての撮影領域をカバーするレンズやアクセサリーシステムを揃えているという意味ですね。でもね、“失敗できずに撮影できますよ”という意味ではないと思います。

今回のOM-1も同様に広大な撮影領域をカバーすることができますが、こちらに知恵がなくても全てを行なってくれるようなところがあります。写真が上手くなったのではと勘違いしてしまうほどです。

これは自分への戒めでもあるのですが、あくまでも使いこなすのはシャッターボタンを押す人間であるということを忘れないようにせねばなりません。繰り返しますが、OM-1はすごく便利です。でも、きちんと写っていたとしても、写真の中身にはいっさい関係ないことは、この記事の作例をご覧になればわかることだと思います。

そして、これらのOM-1の革新性には驚くべきものがありますが、もちろん忘れてはいけないのが銀塩OMから通底する「小型軽量」。これもまた、私の好きな言葉です。次回はそんなOMシリーズとオリンパスについてお話しします。

赤城耕一

写真家。東京生まれ。エディトリアル、広告撮影では人物撮影がメイン。プライベートでは東京の路地裏を探検撮影中。カメラ雑誌各誌にて、最新デジタルカメラから戦前のライカまでを論評。ハウツー記事も執筆。著書に「定番カメラの名品レンズ」(小学館)、「レンズ至上主義!」(平凡社)など。最新刊は「フィルムカメラ放蕩記」(ホビージャパン)