赤城耕一の「アカギカメラ」

第52回:これぞ、“シン・OM-1”と呼ぼうではないか!

シン・OM-1です。ド真正面から勝負を挑んでおります。撮影したのはOM-D E-M1であることは内緒です。

はい。8月20日になりました。学生のみなさんは、夏休みも残り少なくなり、宿題に追われる日々かと思います。リミットが近づいておりますね。大丈夫ですか?

社会人のみなさん。残暑厳しきおり、汗水、鼻水を垂らしながら、すでに労働に励む日々を送っているかと思います。お仕事ご苦労さまでございます。

底辺で生きているアカギは、夏休みシーズンは本業の撮影仕事が減りますので、自宅の狭い仕事場の片隅で膝を抱え、天井を見つめて、静かに来し方と行く末を考えながら、日々を過ごしておりました。はたして年末まで生きて行くことができるのでしょうか。

こんにちは。あらためまして気を取り直し、前回に引き続き、OM SYSTEM OM-1を考える後編をお送りしたいと思います。今回もおつき合いのほど、どうぞよろしくお願いします。

OM SYSTEM初のフラッグシップ・ミラーレスカメラが、かつてのオリンパスフィルム一眼レフカメラと同じ名称である“OM-1”名を冠したということは、古くからのオリンパスユーザーにとっても大いに刺激になりました。

これはマーケティング的にも戦略があったのでしょうけど、若い人は“OM-1”の栄光の時代はご存じないと思うので、「おまえ、こんな大胆な名前をつけて本当に大丈夫なんだろうな? あ?」とか、ジジイは少し心配になりましたよ。

しかも筆者はフィルムのOM-1を半世紀近く、今もまだ現役で愛用していることもあり、その布幕横走りのトロンとしたフォーカルプレーンシャッター音を聞くと天にも昇る気持ちになります。もう人生を振り返る年齢ですから仕方ありません。

うちにある中でいちばんキレイなダイジダイジのOM-1NとOM-1を並べて撮っております。どっちがカッコいいかとか言わないようにお願いします。
そうだ、OM-1Nにモータードライブ1をつければOM-1に勝てるのではということで着けてみたんですが、高さが増しただけであまりエラくなりませんでした。

そういえばライカやペンタックスにも、フィルムカメラ栄光の時代と似た機種名を冠するデジタルカメラがあったりしますよね。私以外は皆さんオトナなんで、素直に受け入れます。いずれも同名であることの心配は杞憂に終わっています。

でもね、昔を知るジジイは、これらの古いカメラの名前を街頭で耳にしたりすると、思わず脊髄反射で振り向いてしまうわけです。まるで犬ですね。

OM-1とシン・OM-1です。ええ、この通りまったく似ていないのに、ヘンな説得力あるんですよね。

今後、筆者にOM-1の話をするときは気をつけてくださいね。筆者は必ず「OM-1? 古い方か新しい方か、はっきりさせてから話をしてくれ!」とかクレームを入れたりする可能性がございます。ええ、年寄りなんでわりとウザいです。いずれにしろこの新しい「OM-1」は大きな責任を担い、かつユーザーの強い期待を集めるものとなりました。今ふうに言えば「シン・OM-1」と名づけたいくらいでありますね。庵野監督すみません。

最初はOM-1じゃなくてM-1でしたね。エルンスト・ライツからケチをつけられてOM-1になりました。でもM-1のままだったら、名前は同じようにつけられなかったかもしれないですね。「M」はオリンパスの天才設計者 米谷美久さんの名が由来になっています。定説です。
M-1の試作機MDNです。本来はユニットを組み合わせ、目的に応じてカタチを変えるカメラだったわけですが採用されませんでした。米谷美久さん、コレやりたかったみたいです。ローライフレックスSL2000Fのコンセプトに似ています。今からやってはダメですかねえ。

筆者がこういう気持ちになっているのは、OMDS(OMデジタルソリューションズ)としては“してやったり”ですね。ジジイ相手にはこの「昔の名前を使用しています作戦」は間違いなく成功しましたが、それだけではありませんでした。かつてのOM-1を知らない世代を含め、老弱男女を問わず多くの人に歓迎され、受け入れられました。これには長年にわたる“OM-1”ユーザーの筆者も感激で、大成功であると言って良いと思います。このあたりもシン・ウルトラマンと同じです。

マイクロフォーサーズレンズは実焦点距離が短いこともあり、接写に強く、マクロレンズキラーでありますよね。移動の合間に軽く撮影してみました。
OM-1 M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II(F4・1/200秒)ISO 200
廉価版レンズで撮影しておりますが、素晴らしくよく写るレンズでOM-1の画質も生かせます。こんな優等生レンズに「ファミリーポートレートレンズ」とかニックネームをつけちゃダメです。
OM-1 M.ZUIKO DIGITAL 45mm F1.8(F2・1/1,600秒)ISO 200
気だるい昼下がり。嘘です。エレクトロニックフラッシュFL-900Rをカーテンに向けて発光させて撮っただけです。簡単です。モデル:ひぃな
OM-1 M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0 PRO(F4・1/60秒)ISO 400

ちなみにカメラ本体に「OLYMPUS」のエンブレムがついたカメラは、このOM SYSTEM OM-1で最後となるそうです。そういう意味では歴史に残るエポックな機種にもなります。開発陣も、この責任とプレッシャーを相当に感じているはずです。また、安易に続編を作ってしまうと“シン・OM-1”ではなくなってしまいますので、ここで釘を刺しておきますね。

「OLYMPUS」のエンブレムもこれにて見納めでありますね。次からの機種が皆さんに馴染んでもらえるかどうか大変です。でも実際に使用する時、筆者はエンブレムにパーマセルを貼ってたりします(笑)

でもね、今後のカメラに付けられるエンブレム(銘板)は大丈夫なのかなあと、いらん心配をしそうになります。「OM SYSTEM」は長いですし。「OM707」みたいなエンブレムになったらどうすんねん(知らない人はググってね)とか思いませんか?

いっそのこと、カメラ名のないカメラにするとかダメですかねえ。1960年代の初頭には「ノーネームコンタックス」あるいは「ノーネームキエフ(キーウ)」と呼ばれたカメラが売られていましたね。あるいはエンブレムを真っ黒にするとか。あ、これもライカとペンタックスがやってるのか。

さて、最新のデジタルカメラとして蘇ったOM-1のチャームポイントはどこにあるのでしょうか。

うちのダイジダイジなOM-1です。見る角度によってはとても美しいわけです。ブラックペイントのような光沢の質感をマグネシウムで真似するの大変ですぜ。
上からの眺めもいいぜOM-1。今や未来技術遺産カメラですからねえ。シンプルなカメラには神が宿ります。私は髪を宿したい。
こちらシン・OM-1。カメラに凝縮感とか硬質なイメージがあるのはいいと思います。カメラ上部の仕上げは本当にいいですね。

パッと見のデザインに、それほど新鮮味は感じません。コンサバと言ってもいいくらいでしょうが、洗練されていると思います。手にした感じで素晴らしいのはグリップ感がとてもいいことです。手の大きい人にもこれなら大丈夫じゃないのかな。

大型ストロボやLED照明も持参しましたが、アシスタントがおらず組み立てと片付けが面倒くさいので、カメラを右手で持ちクリップオンのストロボ(エレクトロニックフラッシュFL-900R)を左手に持って壁や天井に適当に向けて発光させて撮りました。苦労なしで撮れます。仕事がなくなるわけです。モデル:ひぃな
OM-1 M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II(F2.8・1/60秒)ISO 200

デジタルOMの初号機であるOM-D E-M5と同様に、OM-1は“一眼レフスタイル”を踏襲しました。ミラーレスという新しい分野のカメラなのに何故、こうしたデザインになったのか。筆者は意地悪ですし、カメラに関しては保守的な傾向ですから、少々抵抗感を持ってOM-D E-M5を見ていました。ミラーレスなのだから、PEN E-P1のような、フラットタイプデザインを発展させてゆくのが筋ではないかと個人的には思ったからです。

ところが冷静に考えてみると、これは逆かもしれないのです。本格的なミラーレスカメラとしての仕様を考え、機能的な発展を目指したら、一眼レフに似てきてしまうのは、むしろ必然となるのかもしれません。これはOMだけには限らないわけですけれども。

OM-1真上からみました。グリップ手前の空き地が気になります。E-M1Xぽいのかな。ダイヤルを隠したほうがいいんじゃね、という配慮かなあ。

EVFの性能を高めようと考えるならば、大きめのLCD/OLEDパネルと、設計に無理のない接眼光学系を収めるスペースが必要ですから、どうしても一眼レフに似たスタイリングになってしまうわけですね。一眼レフデザインの特徴はファインダーアイピースが光軸上に位置し、高性能の大きなEVFを採用していることですが、これでやっとファインダーを覗きやすく、長焦点レンズを装着してもホールディングバランスに優れたカメラが仕上がるわけです。機構としての“一眼レフ”はもう数が少なくなりましたけれど、これ、カメラのデザインとしては永遠に生き残っていくのかもしれないですね。

小型軽量は正義だといいながら、単体のOM-1では威厳がないので、クライアントやADさんの立ち合いがある時は恰好がつきません。本当に仕方なく“縦グリ”も買いました。タケー!んすよ、ほんと。使うシーンは限られます。実はOM-1を入手するためにOM-D E-M1Xをドナドナしました。

でもね、最近になってあらためて思うのですが、OM-1は一眼レフスタイルのミラーレスカメラの中でも美しいデザインだと思います。これは筆者がミラーレス黎明期に登場したOM-D E-M5に抱いた印象と真逆という印象です。人間の価値観も変わりますが、どうも最近はブサイク、じゃない、筆者の好みではないスタイリングのカメラが増えてしまい、とても選択が悩ましいわけです。筆者はカメラの価値はデザインが全てだと思っておりますのでなおさらです。

赤城耕一

写真家。東京生まれ。エディトリアル、広告撮影では人物撮影がメイン。プライベートでは東京の路地裏を探検撮影中。カメラ雑誌各誌にて、最新デジタルカメラから戦前のライカまでを論評。ハウツー記事も執筆。著書に「定番カメラの名品レンズ」(小学館)、「レンズ至上主義!」(平凡社)など。最新刊は「フィルムカメラ放蕩記」(ホビージャパン)