赤城耕一の「アカギカメラ」

第1回:勝手にアカギカメラグランプリ2020(カメラ編)

SIGMA fp+45mm F2.8 DG DN|Contemporary

コロナだの、カメラ雑誌の休刊騒ぎだのでみなさん忘れてしまったかもしれないけど、「カメラグランプリ」という、その1年間に発売されたカメラやレンズのうち、どれが最も優れた製品かを投票で決めるイベントがあります。今年の「カメラグランプリ2020」はソニーのカメラとレンズが投票による各賞を総なめの三冠ということで、遅ればせながらおめでとうございます。

私も外部の委託審査員という立場で20年以上は投票してるのかなあ。投票時期が近づいてくると次第に憂鬱になるわけです。なぜなら私は「カメラ博愛主義者」ですから、カメラの順位づけは苦手なわけ。全部好きです。カメラと名のつくものなら。防犯カメラでも。

グランプリに投票するかどうかは自分でも任意に決められるので、ある時に「もう降りていいかなあ?」と当時の編集者になんとなく相談したら「名誉なんですから! やりたい人がたくさんいるんですから!」と言われたりして。そうなの?

でもさ、私の場合はたしかに新型カメラのレビューとかもやりますけど、アサインメントでは機材のことはそんなに気にしてなくて、昨日はオリンパスOM-D E-M1 Mark IIを使っていたけど、今日は気分で富士フイルムX-T3を使うとか、予備のバッテリーを含めて全部満充電だから明日は重たいけどニコンD800を持っていこうとか、一眼レフ、ミラーレス、機種の新旧もあまり気にしない。

レンズなんかも防湿庫の手前に入っているやつを持っていくわけです。奥から出すの面倒じゃないですか。入れ直したりするの。仕事はほとんど人物撮影が多いから使うレンズも決まっているしさ。ええ、ズームレンズばかりですわ。

つまりですね、ただでさえ本妻が決まらない浮気者なんで、出たばかりの新型カメラで、どれがイチバンいいカメラなのか、なんてなかなか決めらません。億単位の高画素とか20コマ/秒の高速連写ができても自分のアサインメントには必要ないし。高画素機でたくさん撮影して、ほとんど変化のないコマが並ぶ中で最良のコマを選ぶなんて、すごく時間かかりません? それにデフォルトでもデカいファイルにレイヤーかけてまた重ねて、なんてつまらない写真で作業しても効率悪いし。

ちなみにオフの時は、ニコンFと戯れたり、ライカM3のブライトフレームの四隅がなぜ丸いのか悩んでいる平和な生活を送っていますから、デジタルカメラとは見ているところが違うわけです。

ああ、また最初から話がそれました。

「fp」のロゴの小ささが謙虚なわけ。品格があるわけ。この作戦が成功していますね。すぐにブランドがわからないカメラっていい。

ここ数年のことですが、カメラグランプリに投票するカメラをわたしがどういう基準で選んでいるかといいますと、単純ですね。機能じゃなくてデザインが美しく小型軽量なカメラに投票することにしてます。あ、ミスコンではないのでフェミニストの方は怒らないでくださいね。時々不細工でデブなカメラも好きになり恋に落ちて自分を呪いたくなる時があります。本当です。ただ、多くの場合、自分をみているような気分になって後悔することも多々あります。

自分のカメラ選びの基準ができたので、投票も少しは気が楽になったけど、さらに大きな問題が生まれました。投票は自分の10点の持ち点を1機種に全て投じることもできるし、持ち点を振り分けることもできること。やろうと思えばA社カメラに5点、B社カメラに3点、C社カメラに2点とか入れることができるわけ。でもさ点数の振り分けとか面倒くさいよね。誰がどのカメラに入れたのかは公表されるけれど、逆にカメラを作った人に失礼じゃないですか、点数を振り分けるのとかさ。

で、カメラグランプリ2020に投票したのはSIGMA fpなんですわ。持ち点10点ブチ込みました。長かったですね、ここまで。『アサヒカメラ』がある時は、なぜお前はそのカメラに点を入れたのだと言い訳する機会が与えられていたのですが、その機会もなくなったので、ここで記しておくことにします。ま、言うなれば「ひとりカメラグランプリ」です。

SIGMA fpに思うこと諸々

外形寸法は112.6×69.9×45.3mm、電池を抜いた重量は370g。フルサイズミラーレスカメラで世界最小・最軽量。これは間違いなく正義ですね。これだけでグラッときません?

個人的にはべつに35mmフルサイズじゃなくてもいいんだけどさ。昨今のフルサイズのミラーレス機とかをみると、お前さ、オスカー・バルナックがなぜライカを作ったのか知らねえで、こういうカメラ作ったのかよ。と責めたくなる機種が散見されますね。はい。もうオトナですからそういうことはリアルで面と向かっては言いません。酔っぱらうとわからないけどね。

SIGMA fpの軸足は動画撮影だよね。このために本体だけは徹底したシンプルなデザインにしておいて、"必要なものはお好きにどうぞ"的なオプショナルな思想がかなりいいわけです。つまりこの思想が、カメラとしての自由度を高めていて、場面に応じてコーディネートさせて姿カタチを変えることができるわけ。まさに私には理想的。

このボディ上部のシンプルさはどうだ。手慰みのためにあれこれといじくりたい向きには適さないけど、余計なことをしたくなくなって撮影に集中できるぜ。

本体は放熱のためのヒートシンク構造で上にも側面にもボコボコと穴があって、こんなに穴が空いていて、なぜか防塵防滴なのも謎だけど、昔の戦闘機は軽量化するために穴が開いていたことを思い出したわ。操作部自体はそんなにいじくり回すところがないものの、スライドタイプの電源スイッチとか、CINE/STILLの切り替えスイッチとか泣けません? 昔のコックピットとかにないすかこういうの。

シャッターボタンがボディサイズに対してかなり大きいのも好きですね、周りのダイヤルも。背面はよく整理されているけど、もうちょっと凝ってもよかったかなあ。"ボディが小さくて操作部分がデカい"って大事なんですよね。ボディ全体には色気はないんだけど、少し大きめな黒くて四角い石鹸箱みたいなフォルムって、あるようでないんだよね。手のひらに優しくないから撮影者は表現に向かって覚醒するわけですよ。

マウントは「Lマウント」。どうもジジイなんでLマウントと聞くと、おお、ライカスクリューのことか、なんて聞くたびに思ってしまうわけ。「いやいやそのLマウントじゃなくてですね」なんて言われると「どっちのLマウントなんだよ、あ?」みたいに、わかっていてわざと聞き直したりするわけです。

もちろん本機は例のアライアンスでのライカ、パナソニックとの共通マウントですね。こういうデカいマウントを採用しつつ、かつ小型軽量路線にしたのはエラかったです。なんかさ、ライツミノルタCLみたいじゃん。

ボディサイズに対して、マウント径がすごくデカい印象。それがまたいい感じで、その昔のオリンパスOM-1とかペンタックスMXを想起させるものがある。いかにも凝縮させたという感じがするしね。ボディが小さいと35mmフルサイズセンサーも、よりデカく感じますね。

軽いのは、ファインダーがねえからだろ。と言ったアナタ。SIGMA fpで気になる点はまさにそこですね。そこなんだけど、誰もRICOH GR IIIにEVFを内蔵して欲しいとは思わないでしょ。fpにもそういうところがあるわけですよ。フレーミングなんか大体で大丈夫ですよ。何としてもという場合はSIGMA LCD VIEW FINDER LVF-11を使えばいいんだろうけど、その姿カタチは私の中ではちょっと違うんだな。

繰り返すけど、本機の軸足は動画撮影です。だからフォーカルプレーンシャッターもないのでしょうし、これがまた小型軽量化にも貢献しているんだろうなとも想像します。なに? ローリングシャッター現象で歪む? いいんだよ、歪まない被写体だけ撮れば解決ですよ。そのうちレンズシャッター内蔵の交換レンズで対応するとかできないのかしら。それともグローバルシャッター待ちなのかな。もっとも、歪みが気になるのはちょっと電車を撮ったりするようなシーンで、運動会にはちゃんとEOS 5D Mark IVとかを持ってゆくわけでしょ。だから被写体を選ぶカメラがあってもいいよね。

アカギカメラ的「SIGMA fp」「45mm F2.8|C」インプレッション

センサーは裏面照射型の有効画素数2,460万・35mmフルサイズCMOSで、ベイヤー配列ですね。お馴染みのX3ダイレクトイメージセンサーではなくてガッカリな人もいるんですか? そのうち出るんでしょ、Foveonセンサーの35mmフルサイズは。

たしかにFoveonセンサー機の描写って、オリジナリティがありますし、凄みすら感じる時がありますよね。私もなんとしてもこれはFoveonで撮りたいなあという場合は持ち出すんだけど、シグマ以外の他機種と共用したりすると、整合が大変です。

で、fpの描写をみると、けっこう重たいと言うか、厚みのある描写なわけです。少なくともシグマの他のFoveon搭載機種で撮影してSIGMA Photo Pro 6でRAW現像すると、fpの画像の雰囲気が極端に浮いてしまうという感じがないですね。個人の感想だけど。それにfpは普通にISO 3200とか6400で撮れますしね。まったくの画像未調整でも、トーンのつながりの良さは特筆すべきものがあります。

シグマのカメラでISO 3200とかヤメれ、と言われそうだけど、もちろん平気で高画質なわけです。もっと高感度でも大丈夫だけど。うまい画処理だと思うなあ。
SIGMA fp 45mm F2.8 DG DN|Contemporary(F3.5・1/40秒)ISO 3200
タンクとか給水塔に弱い私は、出会うと必ず撮影。シャドー部のディテール再現を可能にするFill Light機能、効いてますね。斜光線だけどアスファルトとか車のディテール、タンクのハイライトの再現も好きです。
SIGMA fp 45mm F2.8 DG DN|Contemporary(F8・1/1,000秒)ISO 400

今回はレンズは小型の45mm F2.8 DG DN|Contemporaryのみ借り出しましたが、これがまた良いわけです。絞り環があるぜ、しかも1/3刻みの目盛りで。コシナ ツァイスのZMレンズとか、むかーしのトプコールみたいだぜ。フォーカスリングとフードに同じローレット処理がしてあるとことか泣きますね。ほんと。それに写りがまた開放では少しじんわりして、少し絞り込むと線が良い感じに立ちます。開放からチョリチョリして写るレンズには最近飽き気味です。

フォーカスリングとフードを同じローレットにするなど、デザイナーのオタク度がわかるというもの。素晴らしい。エア握手したいです(時節柄)。
都市風景。絞り込んでワイドふうにみせてみました。回折補正も行われるので、絞り込んでも安心。線の細い再現性は守られます。いいですね。
SIGMA fp 45mm F2.8 DG DN|Contemporary(F16・1/250秒)ISO 200

しかし、ここまで凝ったデザインするなら距離指標入れてくださいよー。MF時には画像拡大とか、距離スケールとかの画面表示あるんだけどさ、距離スケールなんかチューリップと山のマークしかないわけ。頼むよ、役に立ちませんね。これじゃニコンZみたいじゃん。1ペナです。

AFはコントラストAF。まったく爆速ではないですね、でも自分の肉眼のフォーカスと合う感じがして好ましいです。AFエリアは49点だけど、45mmかつ特別な大口径じゃないから、フォーカスロックをかけて撮影した方が速いかなあ。AFのエリアを移動させようとモニターにタッチするんだけど、一拍置いてから動くようなタイムラグがあるのはどうしてなのかなあ、別にいいけどね。シャッター音は無音でいけちゃうので、周囲に威圧感を与えないのは街中撮影ではいいですね。

新宿で見つけたオレンジのダルマ。コントラストAFはこんな角度でもバッチリ。ちゃんとダルマの目にピント合ってます。背景ボケも立体感高めてます。
SIGMA fp 45mm F2.8 DG DN|Contemporary(F4・1/500秒)ISO 200
曇天背景のステンドグラス。華美に走らず正しい再現性である。もっとも、撮影者に後でいじくり回す余裕も与えらている感じがします。
SIGMA fp 45mm F2.8 DG DN|Contemporary(F8・1/160秒)ISO 1600
45mm F2.8 DG DN|Contemporaryのレンズ前面。シグマのレンズは、前面にレンズ製品名をエングレーブしてあるものは文字に白色塗装を入れていない。最初は忘れちまったんじゃねえのかと思ったけど、これは映り込みを避けるためだろう。ならば最初っからエングレーブしなきゃいいじゃんとも思うが、実はそのムダな感じがいいわけ。

fpは大がかりなメジャーアップデートがあったばかり。試用した個体もその最新バージョンだったけど、快適に撮影できました。オンライン会議用のWebカメラとしても大人気と聞いています。こんな写りの良いカメラで自分の顔なぞ映して後悔しないだろうか。でもこうしていろいろな用途に使われるって、シグマの当初の思惑どおりなんでしょうね。

じつはカメラグランプリ投票前にSIGMA fpで撮影した機会は2回ほどで、いずれも短期間だったわけです。その時でも"これはイケる"と感じたわけで、私の決断は間違っていなかったように思うわけですわ。今回の試用でそれは確信できました。『アサヒカメラ』の休刊で、私のカメラグランプリの投票は今回でおしまいかもしれないけれど、いやSIGMA fpは自分の記憶の中に刻まれた1台になりましたね。これは間違いありません。

赤城耕一

写真家。東京生まれ。エディトリアル、広告撮影では人物撮影がメイン。プライベートでは東京の路地裏を探検撮影中。カメラ雑誌各誌にて、最新デジタルカメラから戦前のライカまでを論評。ハウツー記事も執筆。著書に「定番カメラの名品レンズ」(小学館)、「レンズ至上主義!」(平凡社)など。最新刊は「銀塩カメラ辞典」(平凡社)