写真を巡る、今日の読書

第2回:直感的に良いと思った写真集は“買って損なし”

写真家 大和田良が、写真にまつわる書籍を紹介する本連載。写真集、小説、エッセイ、写真論から、一見写真と関係が無さそうな雑学系まで、隔週で3冊ずつピックアップします。

良い写真集との出会いは、タイミングが重要です

連載二回目となる今回は、写真集をいくつか紹介したいと思います。良い写真集との出会いはタイミングというものが非常に重要で、その時には買わなかったものの後から買おうと思ったときには既に在庫切れで絶版、といったことが往々にして起こるものです。

何か惹かれるものがあれば、まずは買うというのが写真集の買い方の基本だと言えるでしょう。それに良いレコードと一緒で、惹かれるようなところがある写真集は、まず間違いなく中古市場でも値は下がりません。むしろすぐに定価の数倍にもなることの方が多い。学生たちにも、「直感的に良いと思った写真集は買って損はない」といつも話しています。

といったところで、今日は現時点で定価で購入できる写真集の中から、いくつかをピックアップしてみたいと思います。

『鎌鼬 新装普及版』細江英公 著(青幻舎・2009年)

一冊目は、私の大学時代の恩師でもある細江英公先生の代表作のひとつ、『鎌鼬』。本書は、1969年に発表された原本に未発表作を加え、普及版として刊行された一冊です。

最も重要な現代写真家のひとりである細江英公と、舞踏の創始者である土方巽のコラボレーションによる不朽の名作を収録した本作は、入手可能な現在において真っ先に手に入れておいたほうが良い一冊であると言って良いでしょう。

モノクロームのトーンの中で疾走する人体の躍動感、まさに風が駆け抜けるように都市や田畑の風景を切り裂いていく写真表現からは、眺めるたびに新鮮な感動が得られるのではないかと思います。装丁も美しく、重厚な佇まいが感じられる写真集です。

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『MASAHISA FUKASE』深瀬昌久 著、トモ・コスガ 監修(赤々舎・2018年)

次は、日本写真史に残る傑作のひとつである『鴉』を代表に、多くの実験的作品を残してきた深瀬昌久の全集とも言える写真集『MASAHISA FUKASE』。傑出したひとりの写真家の表現の全貌が俯瞰できる貴重な一冊です。

初期のスナップから、後期の「ベロベロ」や「ブクブク」といったセルフポートレートまで余すことなくそのキャリアを追うことができます。また、残された手記や雑誌に掲載された撮影記を紐解きながら、その時代背景と作品の成り立ちが解説されており、ひとりの写真家の思考と活動を深く知ることができるでしょう。印刷も非常に美しく、現在の在庫が無くなれば入手困難になることは間違いない一冊だと言えます。全416ページに渡る、圧倒的な存在感を放つ写真集です。

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『Wolfgang Tillmans. four books. 40th Ed.』Wolfgang Tillmans 編(Taschen・2021年)

最後に、現代写真において最も影響力のある写真家のひとりであるウォルフガング・ティルマンスの『Wolfgang Tillmans: Four Books』。代表作であり、今では入手困難な四冊の写真集を、ティルマンス自身が再編集して収録した、いわばセルフベスト版のような一冊です。

自身が属した90年代のユースカルチャーを捉えた初期作から、その後の抽象表現、また世界中を旅しながら眺めた社会状況など、ティルマンスの観察眼を複数のシリーズから俯瞰することができます。判型そのものは大きくありませんが、ハードカバーで500ページを超える重厚な写真集です。この内容と品質を低価格で提供できるというのは、美術書における超大手出版社であるTaschenならではというところでしょう。

大和田良

(おおわだりょう):1978年仙台市生まれ、東京在住。東京工芸大学芸術学部写真学科卒業、同大学院メディアアート専攻修了。2005年、スイスエリゼ美術館による「ReGeneration.50Photographers of Tomorrow」に選出され、以降国内外で作品を多数発表。2011年日本写真協会新人賞受賞。著書に『prism』(2007年/青幻舎)、『写真を紡ぐキーワード123』(2018年/インプレス)、『五百羅漢』(2020年/天恩山五百羅漢寺)、『宣言下日誌』(2021年/kesa publishing)等。東京工芸大学芸術学部非常勤講師。最新刊に『写真制作者のための写真技術の基礎と実践』(2022年/インプレス)。