写真を巡る、今日の読書

第3回:美術史への苦手意識を変えられるかもしれない3冊

写真家 大和田良が、写真にまつわる書籍を紹介する本連載。写真集、小説、エッセイ、写真論から、一見写真と関係が無さそうな雑学系まで、隔週で3冊ずつピックアップします。

美術史は難しい?

美術史や写真史を学ぶというのは、新しい写真表現を見つける手がかりになるだけでなく、より豊かに美術や芸術を楽しむ素養となります。しかしながら、歴史を学ぶ重要性は理解できるけれど、勉強や読書そのものは退屈で関心が持てないという方も多いのではないかと思います。

特に、思い立って購入した美術史の入門書や専門書が、思いのほか難解で挫折したというのは、良く聞く話です。難しい上に、実際読んでも全く歴史のつながりに興味が持てなければ、美術史を学ぶことは苦手科目の試験勉強以上に辛いものになるでしょう。

今回は、そんな心持ちを変えられるかもしれない美術史関連の本を紹介してみたいと思います。

『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』末永幸歩 著(ダイヤモンド社・2020年)

まずは、『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』。この本では、様々な作品を丁寧に紐解きながら、自分なりの答えや視点を見つけ出す作家的な思考の成り立ち方を知ることができます。取り上げられている作家は、マティスやピカソ、デュシャン、カンディンスキー、ウォーホルなど、現代アートに直結するセレクトになっています。

ちょうど写真が発明された後の時代、いわば絵画が「正確に再現する」ことの意味を失った時代からのアートの系譜ですね。それぞれの解説に共通する点を雑に一言でまとめると、「なぜ、良く分からない絵(作品)を作ったのか」というその仕組みの説明です。ここで説明される背景や仕組みが、いわゆるコンセプトであり、その作品の新しさや価値を作り出していることが、非常に分かりやすく語られています。

それぞれの作品を点として見るのではなく、線でつなげてくれることで、ひとつの物語=現代美術史になることも良く分かると思います。美術家の考え方って面白いんだな、と改めて気付かされる一冊になるのではないでしょうか。現代美術は苦手、という方にとっては意識を変えるための絶好の入門書となるはずです。

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『マンガでわかる「西洋絵画」の見かた:美術展がもっと愉しくなる!』池上英洋 監修(誠文堂新光社・2016年)

二冊目は、『マンガでわかる「西洋絵画」の見かた:美術展がもっと愉しくなる!』。マンガで描かれていると言うよりは、イラスト多めの美術解説といった本です。

この本の面白いところは、それぞれの作家の時代背景や人間関係、人格などが分かりやすくまとめられているところです。なぜその作家がそのような絵を描いたのか、ということが分かると共に、美術作品がいかに人間的で、身近な親しみのあるものであるかが感じられるでしょう。

また、西洋美術を見る時の面白さのポイントとなる、様々なモチーフが表す象徴性や暗示についても簡潔にまとめられていますので、この絵はこういう意味だったのか、ということなども良く分かると思います。写実主義から印象派へ変化していく19世紀末以降の流れには、写真表現も大きく関わってきますので、まずはそのあたりから読み進めると良いかもしれません。

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『新しい分かり方』佐藤雅彦 著(中央公論新社・2017年)

最後は少し趣向を変えて、『新しい分かり方』という本を紹介したいと思います。著者の佐藤雅彦氏は、様々なCMや、だんご三兄弟、ピタゴラスイッチなどの制作で活躍したCMプランナーであり、東京藝術大学などで長年教壇に立ってきた教育者でもあります。

本書は上記二冊のような美術史に直接関係した本ではありません。著者が長年取り組んできたコミュニケーションデザインの観点から構成された、様々な「分かり方」「分からなさ」を体験する本です。考え方や視点を刺激するという点では、はじめに紹介したアート思考における部分で共通点があると思います。

前半部の様々な作品や装置と、後半部分のエッセイを合わせることで、伝えること、考えることの面白さに触れるだけでなく、新しい見方を発見し、共有することの知的な喜びや好奇心を知ることができる一冊ではないかと思います。

大和田良

(おおわだりょう):1978年仙台市生まれ、東京在住。東京工芸大学芸術学部写真学科卒業、同大学院メディアアート専攻修了。2005年、スイスエリゼ美術館による「ReGeneration.50Photographers of Tomorrow」に選出され、以降国内外で作品を多数発表。2011年日本写真協会新人賞受賞。著書に『prism』(2007年/青幻舎)、『写真を紡ぐキーワード123』(2018年/インプレス)、『五百羅漢』(2020年/天恩山五百羅漢寺)、『宣言下日誌』(2021年/kesa publishing)等。東京工芸大学芸術学部非常勤講師。最新刊に『写真制作者のための写真技術の基礎と実践』(2022年/インプレス)。