熱田護の「500GP-Plus」

第24回:写真集『Champion』について

EOS-1D X Mark III シグマ 40mm F1.4 DG HSM|Art(F2・1/8,000秒)ISO 500

まずはお詫びから。毎月1日に公開予定の「500GP-Plus」ですが、実は2月は多忙のために休載にさせていただきました。長期取材から日本に戻ってきてほっとしたことや、写真集の製作も重なっていたこともあって、体力的に疲弊していたこともあります。しかし3月3日、写真集『Champion』が発売されました。今回は写真集に使用している写真、最終段階で惜しくも掲載されなかった写真を交えながら昨年のシーンを振り返りたいと思います。

これは写真集では使われなかった写真、モナコGPのトンネルの出口。とてもスピードが出ていて、マシンまでの距離が近い場所です。1/8,000秒の高速シャッターでもマシンの動きを止めることは出来なかったです。今年のモナコには1/64,000秒までシャッタースピードをアップできるEOS R3という最新鋭機があるので、この反省を踏まえて挑戦をしてみようと思います。

EOS-1D X Mark III EF400mm F2.8L IS III USM(F3.2・1/640秒)ISO 400

ポルトガルGPのレース後、パルクフェルメに停められたマシンのフロントタイヤ。ドライバーがステアリングを切り、フロントタイヤが向きを変えダウンフォースとブレーキングの荷重移動で路面に押し付けられて横方向のグリップを生みつつ徐々に削られていくショルダー部分。「いい仕事したでしょ!」とタイヤが語りかけてくるような感じがしました。

EOS-1D X Mark III シグマ 40mm F1.4 DG HSM|Art(F1.8・1/5,000秒)ISO 160

第2戦のエミリアロマーニャGP。角田選手の予選アタックの結果です。

大事な予選の最初のアタックラップでクラッシュをしてしまいました。少しだけ、オーバースピードだったように思います。こう言葉で書くと、少し抑えれば良かったのに……、となりますが、世界から集まった運転が超上手なドライバーが20人集まっている中での話ですから、そう簡単なことではありません。その“少し”をどのようにどこで使うのか、その微妙なほんの少しを1周纏め切るのは至難の業であると、外から見ているだけの僕は想像をします。そのほんの少しを控えてしまえばライバルには追いつけず、遅いのはどうしてだと言われるし、少し越えてしまうとクラッシュをして非難轟々……。

もちろん、自分のマシンのセットアップを自分の思うように仕上げるのも自分の責任ですしね。F1は本当に厳しい世界です。でもその厳しい世界だからこそ、ここで成績を出して認められればこっちのものです。そうなれる一流ドライバーだと、僕は思います。2022年は、角田選手にとって大切なシーズンです。本当に期待をしています!

EOS-1D X Mark III シグマ 40mm F1.4 DG HSM|Art(F1.4・1/4,000秒)ISO 50

ポルトガルGPの序盤、1コーナーに向かってまっすぐグラベルを進んで止まった、キミ・ライコネン選手。昨年いっぱいでF1を引退しました。怪我なく、たくさんの素晴らしいレースと記憶に残る名言を残してくれたことに感謝。今年はモトクロスの監督をやるとか……、キミさんらしいですね!

EOS-1D X Mark III EF400mm F2.8L IS III USM(F9・1/500秒)ISO 320

モナコGP。ガルフカラーというカラーリングのマクラーレンは、この1戦だけの特別カラー。カッコ良かった! 車でも、バイクでもレースカーでも一般車でも、カラーリングって大事ですよね。

EOS-1D X Mark III シグマ 40mm F1.4 DG HSM|Art(F1.4・1/2,500秒)ISO 200

アゼルバイジャンGP。もう少しでフェルスタッペン選手の優勝という場面、ホームストレートで左リアタイヤがバーストしてクラッシュ、リタイヤしてしまった状況の写真です。このリタイヤがなかったら、もっと楽な展開になっていたのだろうと考えるのは野暮ですよね。だからこそ、1ポイントでも多く、全力で1戦1戦、大事にレースをしなければならないとも言えます。

EOS-1D X Mark III EF400mm F2.8L IS III USM(F8・1/800秒)ISO 400

上のフェルスタッペン選手のリタイヤで、再スタートとなりました。ポールの位置からスタートするハミルトン選手にとっては、願ったり叶ったりの状況。しかし、スタートをして1コーナーの進入で少しオーバースピードだったのか、ブレーキをロックさせてしまって曲がりきれず、大きく出遅れて15位でチェッカー、ノーポイントとなってしまうのです。まあ、この時、普通にスタートをしていれば、ずいぶんと楽な展開になっていたかもしれない、というのは野暮ですね。あの、正確無比なハミルトン選手でも、こんなミスをしてしまうんだなと思ったレースでした。

EOS-1D X Mark III EF400mm F2.8L IS III USM(F5・1/1000秒)ISO 1000

ハンガリーGP。これは写真集では使っていない1枚です。まさかまさかの展開。優勝したのは、アルピーヌのオコン選手。でも勝ちは勝ちです。盛り上がるメカニックさんの気持ちはわかりますよね!

EOS-1D X Mark III EF400mm F2.8L IS III USM(F14・1/60秒)ISO 100

ベルギーGP、スパ・フランコルシャン・サーキット。このサーキットの代表的なコーナーと言えば、このオールージュ。急な上り坂を、F1でもアクセル全開で駆け登っていく様子は、F1という世界最速のレースカーのスピードを体感できる場所としても最適な気がします。どれくらいの上り坂かというと、たとえば僕の体力では下から上まで全力で走っては登りきれません……。写真を撮ることでも絵になるので、1イベントで3回行くことも珍しくありません。

そんな素敵なこの場所は、高速コーナーということもあり、大きな事故が多発していますし、死亡事故になってしまうこともありました。そこで昨年から、この場所の大工事が始まっていて、今年から新しいオールージュとしての開催となりそうです。コースレイアウトはほとんど変わらず、エスケープエリアを大幅に拡大したようです。ということは、コース脇で撮影する我々の入れる場所も変わっているはずなので、要チェックですね。

EOS-1D X Mark III EF400mm F2.8L IS III USM+EF2X(F13・1/500秒)ISO 500

トルコGP。この開催日は本来であれば日本GP(鈴鹿)でした。ホンダはレッドブルと交渉して、スペシャルカラーで走る予定でした。しかし、日本側のF1の受け入れ態勢が整わず2年連続で中止となってしまいました。そこで代替地のトルコで、この白いスペシャルカラーのマシンが走ったわけです。今、日本のホンダにもこのカラーを施したチャンピオンマシンが見られますし、ミニカーも発売されて大人気となっているようです。とても綺麗なカラーリングでした。

EOS-1D X Mark III シグマ40mm F1.4 DG HSM|Art(F1.8・1/640秒)ISO 500

トルコGP。こちらも写真集では使わなかった1枚。でも、僕は大好きな写真です。白いカラーリングに、白のスーツを着たフェルスタッペン選手が今から乗り込もうと準備をしているシーンです。

EOS-1D X Mark III EF400mm F2.8L IS III USM(F2.8・1/250秒)ISO 500

この1枚はしっかりと写真集で使われました。撮影したタイミングは、上の写真を撮った直後だったと思います。白いボディーが画面下にあります。とても柔らかな表情ですね。

EOS R3 RF85mm F1.2 L IS USM(F1.2・1/400秒)ISO 100

アメリカGP。ここから、カメラを新型ミラーレスのEOS R3に変更しました。シーズン途中からのメインカメラを変更するというのはとても勇気がいることでしたが、思い切ってEOS R3にして大正解でした。この85mm単焦点は、とても大きく、そして重いです。しかし、びっくりするほどの画質を提供してくれます。抜け、キレ、解像度、もう本当に素晴らしいです!

被写体はハミルトン選手。このスーパースターがいたからこそ、去年のシーズンが最高に楽しかったわけです。

EOS R3 RF400mm F2.8 L IS USM(F4・1/2,000秒)ISO 250

アメリカGP。ホンダの山本さんが表彰台に立ちました。山本さんの存在は、ホンダにとって非常に大きなものだったと思います。現場でしかわからないパドックの人間関係をうまく構築し、正しい方向で仕事を進めるというのは非常に難しいものです。

ただでさえ、海千山千の猛者がたくさんいる中、その都度正しい選択をして、結果を手に入れるというのは、山本さんの力が大きかったと思います。ホンダを退社して、日本のスーパーフォーミュラのチームで監督をするという報道がありました。とても、楽しみですね!

EOS R3 EF11-24mm F4L USM(F10・1/5,000秒)ISO 1000

ブラジルGP。チェッカーの周、突然目の前で狼煙が上がりました。画面に収めたくて、マシンを待っていたのですが、煙が消えていくのが早くてキミ選手だけしか撮れなかったです。

EOS R3 RF400mm F2.8 L IS USM(F2.8・1/800秒)ISO 6400

カタールGP。フェルスタッペン選手のテレビインタビュー中の様子です。この写真は未採用です。写真集の8ページ目に入る写真の候補でした。このように、どちらがいいのか、デザイナーとかんかんがくがくをしながら決めるのですが、時間も限られているので、僕は言うだけ言って最後はデザイナーセレクトで写真が決まっていくのが大体の流れになります。

僕は、その場の雰囲気とか、撮るのが苦労したとかの上で、その写真が好きだから使って欲しいと思うけれど、全体の流れや冷静な判断は、やっぱりデザイナーの判断が正解なんだろうと思います。

EOS R3 EF11-24mm F4L USM(F4・1/320秒)ISO 10000

サウジアラビアGP。初開催のグランプリは、楽しいですよね。何より、新鮮な気持ちで絵作りができます。この写真は未採用です。1コーナーのアウト側に立つビルの44階からの撮影です。スタート前のセレモニーの最中にライティングが変わりました。

国を挙げての開催ですので、気合が感じられました。しかし、ISO 10000というのは、ちょっとびっくりですし、使えることに感謝!

EOS R3 EF35mm F1.4L USM II(F5.6・1/1,000秒)ISO 5000

ホンダ第4期の最終戦を終わってからのホンダ現地スタッフの集合写真を撮らせてくださいと、ブラジルGPの時にお願いしていて、ものすごく忙しい中広報の鈴木さんが実現してくれました。嬉しかったですね!

ホンダワークスとしての結果をチャンピオンという最高の形で締めくくれました。そんなシーンを1年間通して撮影できたことに感謝。そして、それを実現できたホンダに感謝です! 本当にありがとうございました!

ここではお伝えしきれない数々の感動は写真集に詰め込んだつもりです。ぜひとも、購入して見ていただき、感想を聞かせていただけたら嬉しいです。そして、F1も2022年シーズンが開幕をします。まずはバーレーンGPに行ってきます。

熱田護

(あつた まもる)1963年、三重県鈴鹿市生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。85年ヴェガ インターナショナルに入社。坪内隆直氏に師事し、2輪世界GPを転戦。92年よりフリーランスとしてF1をはじめとするモータースポーツや市販車の撮影を行う。 広告のほか、雑誌「カーグラフィック」(カーグラフィック社)、「Number」(文藝春秋)、「デジタルカメラマガジン」(インプレス)などに作品を発表している。2019年にF1取材500戦をまとめた写真集『500GP』(インプレス)を発行。日本レース写真家協会(JRPA)会員、日本スポーツ写真協会(JSPA)会員。