熱田護の「500GP-Plus」

第25回:1998年、ミカ・ハッキネン選手の初栄冠

EOS-1N HS EF200mm F1.8L USM(F2・1/60秒)コダクローム64(以下KR)

今回は、1998年のF1シーズンを振り返ってみようと思います。

この年は、マクラーレン・メルセデスに乗る、ミカ・ハッキネン選手がフェラーリに乗るミハエル・シューマッハ選手と熾烈な争いを制して初栄冠、チャンピオンを獲得しました。この写真は、僕の記憶が正しければ、確かプレスコンファレンスの時に撮ったものだと思います。

EOS-1N HS EF600mm F4L USM(F4・1/15秒)KR

ハッキネン選手の速さはF1ファンであれば誰もが認めるもので、シューマッハ選手との戦いに一喜一憂したことを覚えています。

EOS-1N HS EF14mm F2.8L USM(F8・1/200秒)KR

長身で青い目、金髪で甘いマスクとくれば、女性からの人気は圧倒的でした。実際に会ってみても、実直な感じで挨拶も返してくれるし、以前に出版した写真集に前書きをお願いしたら快く書いてくれました!

シューマッハ選手のツンとした感じとは正反対な感じで、パドックでの人気も高かったですし、僕が大好きなドライバーの1人です。

EOS-1N HS EF600mm F4L USM(F9・1/15秒)KR

スポンサーだったWESTというたばこメーカーのロゴがないので、フランスGP、マニクールサーキットの最終コーナーの写真だと思います。カウンターステアを切りながら、スローシャッターでちゃんと写っているのは僕としては珍しいかもしれません……(笑)。ハッキネン選手の予選の速さは神が勝っているほどのオーラを感じました。

EOS-1N HS EF600mm F4L USM(F4・1/125秒)KR

現代のF1は、ドライバーの保護のためにヘイローが付いているので、ガレージでマシンに乗ったドライバーの表情を捉えるのが大変です。そう思うと、この時代は撮りやすかったなと思います。

EOS-1N HS EF600mm F4L USM(F6.3・1/320秒)KR

シューマッハ選手が乗るフェラーリとマルボロ。モータースポーツの世界とタバコのイメージの親和性がいいということで、多くのタバコスポンサーが各チーム、ドライバーのレーシングスーツにそのロゴが飾られていました。特にマルボロのロゴは目立ったしカッコ良かった。

EOS-1N HS EF200mm F1.8L USM(F5.6・1/500秒)KR

ベルギーGPのスタート。ポールポジションはハッキネン選手で、1コーナーを回った時にはシューマッハ選手がもう前に。焦ったのかな? スピンをしています。

この場所は、今は撮影できなくなってしまいました。とても絵になる場所だったのでとても残念です。

EOS-1N HS EF600mm F4L USM(F6.3・1/500秒)KR

ベルギーGP。オー・ルージュと呼ばれる下ってから上がる有名な高速コーナーで、少しミスをしてしまうと大事故につながる難所です。

クラッシュしているのは、ミカ・サロ選手。ハッキネン選手と同じフィンランド出身で年齢も近いことから、幼少期からライバル関係にありました。ファーストネームが同じなので、「ふたりのミカ」として才能を比較されたという逸話もあったぐらいです。大事に至らず良かったです。

EOS-1N HS EF600mm F4L USM(F11・1/500秒)KR

バルセロナのテスト走行。オレンジ色に光っているのは、カーボンブレーキから出ているカーボンダスト。そのカーボンのチリを高校からの夕日が照らしてオレンジ色になっています。このカーボンのチリは、吸い込むと有害です。

昼の光ではこのようにたくさん出ているとは気付かないのですが、このシーンがフォトジェニックなので瞬く間に各国のカメラマンが発表して問題になり、ダストの出にくい素材に変更になってしまいました。残念なような、良かったような微妙な気持ちになった思い出があります。

EOS-1N HS EF600mm F4L USM(F8・1/500秒)KR

もうひとつのフォトジェニックなシーンといえば、ブレーキロック時のタイヤスモークもいいですよね。でも、ドライバーにとっては、タイヤを1本ダメにしてしまった瞬間なわけでもあります。ドライバーは前年のチャンピオン、ジャック・ビルヌーブ選手。

EOS-1N HS EF600mm F4L USM(F6.3・1/500秒)KR

フォトジェニックなシーン、その3と言えば水煙。僕が雨の中で写真を撮るのが好きな理由は、フォーミュラカーの大きなタイヤから盛大に巻き上がる水煙の表情がたまらなくカッコいいからです。路面に溜まった水の量やマシンのスピードによってもその表情はさまざまに変化します。

理想的には、ざんざん降りの中を全開で走るマシンに逆光が差すような夢のようなシチュエーションを30年ぐらい待っています。が、なかなかその機会に恵まれませんね。ドライバーはティレルから参戦していた高木虎之介選手。

EOS-1N HS EF600mm F4L USM(F22・1/20秒)KR

さらに続けてみましょう。フォトジェニックなシーン4は逆光のキラキラ。逆光というのは、どんな方向性でも写真を撮るものの味方になってくれます。

どのコーナーに行けばどのような光があるのか、計算して挑むわけですが、良い時間はあっという間に終わってしまいます。ドキドキしながらシャッターを切っている至福の時間はとても楽しい! ドライバーはこちらも日本人としてミナルディから参戦している中野信治選手。

EOS-1N HS EF600mm F4L USM(F25・1/13秒)KR

イタリア、イモラ・サーキットのアクアミネラーレを立ち上がってくるマシンを流し撮り。ヘルメットだけ止めてその他が流れればいいなと思いながら撮った写真。ごく稀に思ったように撮れることもある。

EOS-1N HS EF600mm F4L USM(F4・1/125秒)KR

ジャン・アレジ選手。奥様は日本人の後藤久美子さんということもあって、日本のファンも多い選手でした。僕も大好きなドライバーです。先日も、爆竹騒ぎでYahoo!ニュースになっていましたが、なぜ、そんなことがニュースで騒いでいることが不思議でなりません。まったく、もーって感じで。

EOS-1N HS EF14mm F2.8L USM(F8・1/60秒)KR

フェラーリの深紅のマシン。排気管がボディーの上に出ました! 効果があるからこうなったんでしょうけれど、なんといってもデザインがカッコ良かった! 僕にはそれだけで十分です!

EOS-1N HS EF200mm F1.8L USM+EF1.4X(F5.6・1/500秒)KR

ハンガリーGPのピットロードを夕陽が照らし、マクラーレンのシルバーのカウルが金色に変化します。

最近のマシンのカラーリングは、艶消しが多くなってきました。空力に良い影響があるとかないとか……。艶消しは、一見かっこいいかもしれませんが、良い光を有効には使えません。ですので、どうか、ツヤあり塗装に戻してほしいと、個人的には思います。

EOS-1N HS EF17-35mm F2.8L USM(F5.6・1/500秒)KR

このような情熱的な女性がめっきり減ってしまったと思う今日この頃……。女性蔑視だとかなんとか……、なんでなんだろうなぁ。見よ! このカメラマンたちの盛り上がりよう! この写真が写っているということは、僕もその1人なんだけどね(笑)。

時代なのか? なんか違うんじゃないの? とにかく、寂しいなぁ。

EOS-1N HS EF600mm F4L USM(F4・1/320秒)KR

チャンピオンになる男をキリッとした目線で見つめる女性たち。手には、白ワイン。いいね!

熱田護

(あつた まもる)1963年、三重県鈴鹿市生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。85年ヴェガ インターナショナルに入社。坪内隆直氏に師事し、2輪世界GPを転戦。92年よりフリーランスとしてF1をはじめとするモータースポーツや市販車の撮影を行う。 広告のほか、雑誌「カーグラフィック」(カーグラフィック社)、「Number」(文藝春秋)、「デジタルカメラマガジン」(インプレス)などに作品を発表している。2019年にF1取材500戦をまとめた写真集『500GP』(インプレス)を発行。日本レース写真家協会(JRPA)会員、日本スポーツ写真協会(JSPA)会員。