熱田護の「500GP-Plus」

第10回:2020年バーレーンGPとサヒールGP、そして角田裕毅選手

EOS-1D X Mark III EF400mm F2.8L III USM+EF2X III(F14・1/20秒)ISO 100

新年、明けましておめでとうございます!

皆様は、このお正月をどのように過ごされているのでしょうか? 僕は鈴鹿の実家には戻らず、東京の自宅で過ごしています。お正月に実家にいないというのは、記憶がないですね……。どう考えても異常事態の世の中、いつまで続いていくのかという不安もありますが、感染対策をしっかりとして前向きな気持ちで過ごそうと思っています。

今回は、去年のF1取材の中から、バーレーンで行われた2戦の写真で構成したいと思います。トップの写真に選んだのは、直線からヘアピンカーブへのアプローチ、ブレーキをロックする瞬間を狙った1枚です。実際には、このようにブレーキロックすることは多くはありませんが、それでも狙わなければ撮れません。

シャッタースピードを変えながら、あれこれと考えて撮影に没頭している時間はとても幸せなのですが、没頭すればするほど、走行時間はあっという間に終わってしまいます。

EOS-1D X Mark III EF400mm F2.8L III USM(F2.8・1/640秒)ISO 1600

オレンジ色の大きな丸ボケは、実はナイトレースを開催するために砂漠に無理矢理植えられたパームツリーにクルクル巻きされた電飾です。しかし! この電飾は今の時代ですから、LEDなのです。LEDというのは肉眼で見た感じではわかりませんが、高速で点滅しているのです。ですから、奥からこちらに向かってくるマシンに対して、ちょうどいい位置に来た時に点いているかどうかは、正に運です!

そして、ファインダーで見えているのと、実際に写っているボケの写り方も違いますので、モニターでチェックしながらボケの具合をチェックしつつ撮影を繰り返すという作業を行っています。それでも決まったときは、その苦労を忘れてしまうほど。

EOS-1D X Mark III EF400mm F2.8L III USM(F2.8・1/640秒)ISO 500

第15戦バーレーンGPの決勝。スタート直後にロマン・グロージャン選手が乗ったハースのマシンが高速でガードレールに激突し、突き抜けて炎上するという大事故が起きました。時速250kmからブレーキングするも、コース脇バリアに激突してF1マシンは真っ二つに分解するぐらいの衝撃。しかし、ドライバーは無事でした。

僕は少し離れた場所でスタートを撮影していたので、直後は見ていなかったのですが、その現場に着いた時は、ドライバーは無事ではないだろうと思いました。遠くから見えた炎は大きく、焼け残ったマシンを見る限り、ただならぬ事態が起こってしまったと感じました。大きな質量のレーシングカーを高速で操作しているのですから、世界トップレベルの運転技術を持ってしても、このような事故になってしまうことは避けられません。

しかし、技術の進歩によってレーサーの命が助かる事があるというのが、今回のこの事故で証明されたわけです。詳しくは、デジタルカメラマガジン2月号(1月20日発売号)を見てください!(宣伝!)

EOS-1D X Mark III EF400mm F2.8L III USM(F6.3・1/3,200秒)ISO 3200

ライコネン選手の手前にある鼻緒のようなものは、ヘイローと呼ばれるものです。フォーミュラーカーは、ドライバーのヘルメットが外に露出しているので、クラッシュによってドライバーが怪我をする危険があります。その可能性を低くするために2018年から装着が義務化されました。

ドライバーのヘルメットを中心に撮影するカメラマンにとって、これは邪魔な造形物でもあるのですが、あのガードレールを突き抜けた時に、もしヘイローがなかったとしたら……。そう考えると、これは絶対に必要不可欠です! 僕が多少撮りにくくなることなんて、微々たることですからね。

EOS-1D X Mark III EF400mm F2.8L III USM(F2.8・1/1,250秒)ISO 5000

第15戦を勝ったのはチャンピオン、ルイス・ハミルトン選手。今期11勝目、まったく危なげなく、王者の貫禄が漂う勝ちっぷり! 見事でした。しかし、しばらくしてこの屈強なハミルトン選手が、コロナに感染しているというニュースが流れます。3連戦ですから、少なくとも次のレースには出られないということになりました。

EOS-1D X Mark III EF400mm F2.8L III USM(F2.8・1/2,000秒)ISO 5000

表彰台で優勝トロフィーが重くてありがたいので、2位のフェルスタッペン選手に持ってみてと渡しているシーン。普段だったら、何気ない1シーンなのですけど、この時もコロナに罹患(りかん)していたハミルトン選手ですから、後から写真を見ると色々と考えてしまいますね。

EOS-1D X Mark III EF400mm F2.8L III USM+EF2X Ⅲ (F5.6・1/640秒)ISO 3200

同じサーキットの違うレイアウトで行われたサヒールGP(第16戦)には、ハミルトン選手に代わってジョージ・ラッセル選手が乗ることになりました! 若手で売り出し中の選手です。F1は2シーズン目です。そんな若手が、チャンピオンのマシンに乗ったらどうなるのか! という興味は多くの人が持つことですが、実際にレースを走るとなると過去にあまり例がないと思います。

結果は予選で2位と大健闘。本戦の活躍も期待されましたが、レースではチームのミスがあって後退してしまったものの、レースの大部分をトップで快走していました。こちらも将来が楽しみの選手の1人です!

EOS-1D X Mark III EF70-200mm F2.8L III USM(F13・1/500秒)ISO 500

夕陽とともに撮影できるのは、金曜日のFP1だけ。撮影できる場所もそんなに多くはありません。事前にロケハンをして、この周辺だと決めたものの、走行の前に実際にこの場所に来てみて、あれこれ悩んでレンズと場所を決めました。

EOS-1D X Mark III EF400mm F2.8L III USM(F4.5・1/800秒)ISO 2000

サヒールGPで、コース変更したエリアで路面にギャップがあって、しかもブレーキングポイントであったために、火花の撮影ポイントとなりました。この写真は、車体の底にはめ込まれたチタン合金と路面がちょうど接地した瞬間です、この直後火花となって後ろに出てくることになります。なにか、エネルギーがグッと溜められているようです。

EOS-1D X Mark III EF400mm F2.8L III USM+EF2X Ⅲ (F13・1/10秒)ISO 200

ナイトレースで火花が狙えるポイントがあるので、思い切ってこのグランプリの多くの時間をここに費やしました。とは言っても、火花が盛大に出るのはセッションの初期で限られたチームのマシンだけですし、タイムを出しにいっているラップに限られるのでそんなにチャンスは多くありません。

EOS-1D X Mark III EF400mm F2.8L III USM+EF2X Ⅲ (F6.3・1/640秒)ISO 5000

シャッタースピードの変化によって火花の流れる量を決めながら、マシンの位置と背景を決めていきます。さきほどのような流線型を描くものは1/10秒のスローシャッター、こちらのように火花の点として表現したい場合は1/640秒までシャッタースピードをアップさせます。自分が想像したように上手くすべてが整った写真を撮るのは、なかなかに難しいですね。

EOS-1D X Mark III EF35mm F1.4L II USM(F1.4・1/80秒)ISO 400

日本からの期待を一身に背負って、このレースは勝てるかもしれないとスタートしたフェルスタッペン選手のマシンがコース脇に置かれていました。思うようにはいかないのがレースであり、写真撮影も一緒です。思うように撮れるよう不断の努力をしていて、本当に極たまに、いいのが撮れる。だからこそ、楽しい!

EOS-1D X Mark III EF400mm F2.8L III USM+EF2X Ⅲ (F7.1・1/800秒)ISO 6400

サヒールGPを制したのはセルジオ・ペレス選手(レーシングポイント)。初優勝です! チェッカーを受け、チームメンバーが待ち受ける、歓喜の瞬間。ちなみに、手前に立っているカメラマンはマクラーレン専属のカメラマン。奥でPERというサインボード持っているのは、アルファロメオのフィジオ。ペレス選手はアルファロメオになる前のザウバー時代に同じチームに所属していた小林可夢偉選手のフィジオをしていて、当然顔見知り。

EOS-1D X Mark III EF400mm F2.8L III USM+EF1.4X Ⅲ (F4・1/800秒)ISO 6400

すでにご存じの人も多いと思いますが、ペレス選手は来期レッドブル・ホンダでフェルスタッペン選手とチームメイトになります。これまで、フェルスタッペン選手とチームメイトになって互角に戦えたのは、リカルド選手のみ。さて、ペレス選手はどんなレースを来期、われわれに見せてくれるのでしょうか? いまから、とても楽しみですね!

EOS-1D X Mark III EF70-200mm F2.8L III USM(F16・1/13秒)ISO 100

2021年の楽しみといえば、この人を忘れてはいけませんよね。この写真はF2の角田裕毅選手。サヒールGPのレース1でポール・トゥ・フィニッシュの大活躍で、シーズンランキング3位を獲得。F1に出場するためのスーパーライセンスを獲得することができました。

EOS-1D X Mark III EF400mm F2.8L III USM(F2.8・1/1,250秒)ISO 1250

20歳の若者です! そして、小林可夢偉選手以来、7年ぶりの日本人F1ドライバーの誕生です。その表情には、あどけなさがまだ残りますが、ドライビングテクニックは本物。F1という最高峰のステージで、どんな活躍をしてくれるのか、本当に楽しみです。

EOS-1D X Mark III EF35mm F1.4L II USM(F1.4・1/100秒)ISO 500

来期はアルファタウリ・ホンダでF1を戦います! 皆さんからも、多くの応援をお願いします! 僕も、超楽しみです!

次回は、2020年の最終戦アブダビGPとその直後に行われた、アブダビでのヤングドライバーテストの写真で振り返りたいと思います。

熱田護

(あつた まもる)1963年、三重県鈴鹿市生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。85年ヴェガ インターナショナルに入社。坪内隆直氏に師事し、2輪世界GPを転戦。92年よりフリーランスとしてF1をはじめとするモータースポーツや市販車の撮影を行う。 広告のほか、雑誌「カーグラフィック」(カーグラフィック社)、「Number」(文藝春秋)、「デジタルカメラマガジン」(インプレス)などに作品を発表している。2019年にF1取材500戦をまとめた写真集『500GP』(インプレス)を発行。日本レース写真家協会(JRPA)会員、日本スポーツ写真協会(JSPA)会員。