熱田護の「500GP-Plus」

第1回:1992年 R02メキシコGP〜R14ポルトガルGP

イタリアGPのスタートシーン。出走台数は1992年が30台、現在は20台です。参加台数減少の一番大きな理由は、マシン開発費用の高騰だと思います。 R13 イタリアGP・EOS-1 HS EF600mm F4L USM(F8・1/500秒)コダクローム64(以下KR)

29年間、世界各地のサーキットに出かけ、F1の世界を大切に撮影してきた写真で、2019年末に「500GP」(ゴヒャクジーピー)というタイトルの写真集の出版と写真展を開催しました。写真集は224ページ、写真展も常設写真展会場としては日本最大級の会場で、多くの方々に見ていただけました。

ですが、どうしても紹介できなかった多くの写真が残ってしまいました。そこで発表できなかった写真を、撮影時のエピソードや機材などの話も織り交ぜつつ「500GP-Plus」というタイトルで連載していこうと思います。

この年は、圧倒的な強さを誇ったウイリアムズに乗るマンセル選手が速く、地元イギリスGPは大盛り上がりでした! R09 イギリスGP・EOS-1 HS EF600mm F4L USM(F8・1/500秒)KR
R13 イタリアGP・EOS-1 HS EF600mm F4L USM(F16・1/125秒)KR

キヤノンがメインスポンサーのウイリアムズのマシン。しかも、他を圧倒するスピードがこのマシンにはありました。アクティブサスペンションやトラクションコントロールなどの電子制御のハイテクです。

ゼッケン6番のドライバーは、リカルド・パトレーゼ選手。ピットビルディングから600mmの手持ちで流し撮りをしています。

この写真は、某メーカーの広告写真に使っていただきました。F1カメラマンとして、選んで頂いて嬉しかったのを覚えています。ギャラもたくさんだったしね! R14 ポルトガルGP・EOS-1 HS EF14mm F2.8L USM(F11・1/250秒)KR ストロボ使用
JJレート選手。フィンランド出身で私が好きなドライバーでした。 R12 ベルギーGP・EOS-1 HS EF200mm F1.8L USM+1.4x(F5.6・1/250秒)KR
R06 モナコGP・EOS-1 HS EF20-35mm F2.8L(F8・1/500秒)KR

初めてのモナコGP。なんと刺激に満ち溢れているのでしょう!

走っているマシンとの近さ、パドックではマシンを隠さず作業している、カジノや豪華クルーザーをバックに収められること、しかもトンネルを通過する……もう、夢のような時間の連続。興奮したという当たり前すぎる感覚ではなく、10戦くらいモナコでレースをやっても、全然撮り足りないような気持ちになりました。

カメラマンの移動する経路も入り組んでいて、地下通路でエレベーターを使うところなどは、まるで迷路のよう。案の定、マンセル選手が独走して楽勝ペースで終盤まで走っているレース展開で、興奮しすぎて表彰台に戻る道を間違えて、迷いに迷って一般道に出てしまいました。その最中に観客席からどよめきが聞こえたりする中、なんとか表彰台の横に到着すると、マンセル選手が路面にへたり込んでいる状況でした……。

そしてセナ選手が満面の笑顔???

歴史的にも貴重なシーンを撮り逃しました。

でも、不思議とそんなに悔しくはなかったかな。

R02 メキシコGP・EOS-1 HS EF20-35mm F2.8L(F11・1/250秒)KR ストロボ使用

F1まで辿り着いた新人ドライバーの中で、光る速さを持つドライバーを見るのは楽しい。そんな才能を誰もが感じていた一人に、このカール・ベンドリンガー選手がいます。

しかし、この2年後の1994年モナコGP、上のコースを見下ろしている写真の右側にあるタイヤウォールに激突し重傷を負ってしまい、復帰はしたものの、その怪我の影響で元のスピードまで自身を持っていくことが出来ずに引退してしまいました。

雨のレース、その雨しぶきをどう表現するのか。スローシャッターを使うことによって、絵画調の表現になります。 R04 スペインGP・EOS-1 HS EF600mm F4L USM(F8・1/15秒)KR
上のマシンのドライバー、ピエール・ルイジ・マルティニ選手。コクピットに座り真剣な眼差しで、何を見つめているのか。 R13 イタリアGP・EOS-1 HS EF600mm F4L USM(F4・1/125秒)KR
R12 ベルギーGP・EOS-1 HS EF600mm F4L USM(F9・1/500秒)KR

濡れた路面に、厚い雲の切れ間から強い光が差してきました。

この時はまだ今のようなデジタルカメラという存在がなく、全ての写真はフィルムで表現されていました。自分の好きな色、コントラスト、粒状性は、数多あるフィルムの中から選択することで決定されました。

僕は、コダックのコダクローム64(KR、PKR)とコダクローム25(KM、PKM)という2種類を主に使っていました。30年近く経った今でも退色などなく、きれいな色で当時を再現しています。

若かりし頃の僕(笑)。

場所は多分、イタリアのモンツァ・サーキットだと思います。600mm F4のEFレンズは当時I型で、重量が6,000gもありました! それが現行のIII型は3,050g! 技術の進歩はカメラマンを助けてくれます!

手前に見えるのはEF200mm F1.8L USMに1.4倍のエクステンダー付きですね。フードを両方外しているのは、少しでも軽くしたかったから……。よく見えないけれど、お腹のキヤノンポーチバッグにはフィルムを入れてました。

熱田護

(あつた まもる)1963年、三重県鈴鹿市生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。85年ヴェガ インターナショナルに入社。坪内隆直氏に師事し、2輪世界GPを転戦。92年よりフリーランスとしてF1をはじめとするモータースポーツや市販車の撮影を行う。 広告のほか、雑誌「カーグラフィック」(カーグラフィック社)、「Number」(文藝春秋)、「デジタルカメラマガジン」(インプレス)などに作品を発表している。2019年にF1取材500戦をまとめた写真集『500GP』(インプレス)を発行。日本レース写真家協会(JRPA)会員、日本スポーツ写真協会(JSPA)会員。