熱田護の「500GP-Plus」
第9回:2018年 R01オーストラリアGP〜R07カナダGP
2020年12月1日 12:00
いまから2年前のシーズン、2018年を今回は振り返りたいと思います。もう随分と前に感じてしまうのは、全くF1の現場に行くことができないからでしょうか……。この、コラムを書くきっかけとなったのは、F1に行けない状況で、時間ができたので昔の写真をしっかりと見直しつつデジタイズ(フィルムをスキャンしてデータ化すること)することでした。ポジフィルムを100mmのマクロレンズの先にマウントして、キヤノンのEOS 5Dsで撮影するという作業。アナログがデジタルになってパソコンのモニターで見ると、ライトテーブルとルーペで見るよりも、かなりハイコントラストになってしまいます。それをゴミ処理しつつ、イメージしていた写真に近づけていく作業は、思っていたよりも何倍も手間と時間がかかります。
しかし、フィルムとデジタルの写真を見比べると、もう全然違いますね、何もかも。当たり前なのですが、どちらがいいかということではなく、違う表現方法です。それと同時に、撮影している僕自身の撮影スキルが手に取るようにわかります。もちろん機材の進化という恩恵もかなり受けています。オートフォーカス然り、レンズの描写性能然り。分かりやすく言えば、フィルム時代は下手ですね。でも、若い勢いで撮れた写真というのもあります。ただ、いつの時代も、写真を撮るのは楽しく、悔しく、嬉しくもあり辛くもある。一生懸命になれる貴重な時間であることは今も昔も全く一緒ということですね。
上の写真と同じコーナーから狙った、時間違いの1枚。この光の感じが欲しくて、日曜日のレース中にコースを半周ほど歩きました。
時間が遅くなるほど、光が斜光になって綺麗になる……。あと1周、あと1周と粘りすぎて、危うく表彰台に間に合わなくなるところでした。撮影に夢中になると、時間が経つのを忘れて、いつもドキドキです。
バーレーングランプリ、長いホームストレートの終わりは、スリップストリームを使った追い抜きのチャンス。
前を走るマシンは、抜かれまいと走行ラインを変え、後ろのマシンも続く。その駆け引きをする中、路面のギャップに火花が飛び散ります。
レース序盤は、このようなチャンスが訪れることが多いのです。
中国グランプリの1コーナー。ホームストレートから若干の上り坂の中速右コーナーに進入しながらのブレーキングで、車体下にはめ込まれたチタン合金が路面と接地して火花が激しく飛び散ります。モータースポーツの写真の演出にはもってこいのアイテム。こんな瞬間を写し止めることができると、もう、止められません!
スタート直後の最終コーナー立ち上がり。ドライバーは混戦に乗じて1つでも前にポジションを上げるべく少しでも早くアクセルを開けようとして、カウンターなどを当てて少し横を向かないかなぁと想像して、もう何年もここに立っているんですけど、そうはなかなかならないのが現実です……。
アゼルバイジャンGP、バクー・シティ・サーキットは公道を閉鎖して行われます。このコースでのハイライトは、お城の跡の目の前を走るところですが、その城壁の中に入れて写真を撮らせていただきました。
毎年、入ることができる場所が違っているので、撮れるときに撮っておかないと次はありません。城壁の窓から覗く瞬間、被写体のF1マシンが小さくても、しっかりと存在感のある1枚になったでしょうか。
上の写真の城壁前のコーナー。走行時間が始まって少し、厚い雲の中にいた太陽が突然、出ました。
日頃の行いが良かったに違いない!
たまには、そういういい事もあるんです。
スペインGP、カタロニアサーキット。
黒い雲の上から覗く太陽。この状況が来るまで待って撮ったカットです。
モナコグランプリ、トンネルの中からの1枚です。
この場所、ものすごく速いんです。広角レンズで、至近距離のマシンの速さにしっかり追いつくのは、何年やっても難しい。
だからたくさんのシャッターを切る、トライをしなければ撮れない。ただでさえ、モナコはあちこち撮りたい場所がたくさんあります。移動したいけれど、確実に撮りたい……あっという間にセッションは終わってしまう……。何回行っても、撮り足りないのがモナコです。
カジノスクエアからミラボーに向けて、アクセル全開で駆け下りてくる。この場所が、現代のサーキットの中で撮影していて一番、恐怖を感じる場所です。
だからこそ、楽しいんですけどね。
カナダGP。毎年トライする木抜けの流し撮り。
この広角レンズで木抜けスローシャッターの流し撮りを最初にやったのは、フィルム時代の僕です。だからどうした、というわけではないんですけどね。特許を取っておけば良かったかな?(笑)
毎年、この周辺で撮影するのですが、この場所は木の密度が高くて、右のほうからくるマシンが目視できないんです。ですから、迫ってくるマシンの音で判断してレンズを振り始めます。
そして、画面の木の薄くなった場所にマシンが収まるところでシャッターを切れば良いのですが、この小さな穴にマシンが入ったと思ってシャッターを押しても遅いんです。もう、勘に頼ること、そして数をひたすら打ちます。
何枚か写っていてホッとする、良かったなあと思う瞬間です。全滅は寂しいです……。でも、正直そういう事もあります。
まだまだ、勉強が続きます。