改めて……カシオ「ダイナミックフォト」入門

Reported by 飯塚直

 高感度、顔認識、シーン認識、追尾AF……コンパクトデジタルカメラの進化にいまだ終わりはないが、こうした機能がすぐに各メーカーで普遍化する昨今。もちろんそれぞれに細かい違いはあるものの、そのブランド独自の飛び抜けた特徴を打ち出しにくい状況になっている。

 ところが2009年に入り、今までにない強烈な独自機能が登場した。それがカシオの「ダイナミックフォト」だ。簡単に説明すると、動く被写体をカメラで連写→動体だけをカメラ内で切り抜き→背景となる別の静止画と合成する機能だ。一般的にはあり得ない「動く写真」を作れるというわけだ。現行機種では「EXILIM ZOOM EX-Z400」、「EXILIM ZOOM EX-Z270」、「EXILIM CARD EX-S12」の3機種が同機能を搭載している。

 ダイナミックフォトの発表は、年初に開催された米国でのイベント「2009 International CES」だった。いささか時間が経ってはいるものの、改めて使い勝手や使い方を紹介してみたい。

●ダイナミックフォトに対応した機種は?

 6月15日現在、ダイナミックフォトが利用できるのは、カシオの「EXILIM ZOOM EX-Z400」、「EXILIM ZOOM EX-Z270」、「EXILIM CARD EX-S12」の3機種となる。いずれも2009年春に発売されたモデルで、「EXILIMエンジン4.0」を搭載。ダイナミックフォトも同エンジンの高速処理能力を活かした機能だという。

 EX-Z400は、EXILIMの中核を担うEX-Zシリーズの上位機種。EX-Z270はその下位モデルで、主な違いは有効画素数だ。それぞれ EX-Z400が1,210万、EX-Z270が1,010万画素となる。ともに、28mm相当からの光学4倍ズームレンズ、CCDシフト式手ブレ補正機構などを採用。液晶モニターはEX-Z400が3型、EX-Z270が2.7型液晶モニターになる。EX-S12は、元祖EXILIMともいえるカードシリーズ直系の最新モデル。奥行き14.9mmのスリムボディが特徴で、撮像素子は有効1,210万画素、レンズは光学3倍ズーム。液晶モニターは2.7型となっている。

EXILIM ZOOM EX-Z400EXILIM ZOOM EX-Z270EXILIM CARD EX-S12

 

フレームレートは3種類から選択可能

 ダイナミックフォトを作成するには、2つの要素を用意する必要がある。前景に置く「動くキャラクター」と、静止画である「背景」だ。

 まずは、動くキャラクターを作ってみよう。ベストショット(BS)モードのひとつ「動くキャラクター」を選択すると、「まず、被写体を撮影してください。」というコメントが表示される。ここでキャラクターのフレームレートを設定可能だ。選択肢は「動くキャラクター 1秒(20fps)」、「動くキャラクター 2秒(10fps)」、「動くキャラクター 4秒(5fps)」の3種類。いずれも連写コマ数は20。加えて、止まったままのキャラクターを合成するための「静止キャラクター」が用意されている。

ダイナミックフォトの撮影はベストショット(BS)から選ぶ。ダイナミックフォトという機能がメニュー内にある訳ではないので注意
次にフレームレート(および記録時間)を選択その後は被写体を連写する
今回は白壁をバックに動くキャラクターを撮影してみたその後は同じ位置から壁だけを撮影
動くキャラクターのみが上手く切り抜かれた

 ここでポイントとなるのが、キャラクターの動きに対して「どのフレームレートを選ぶか」だ。動画の世界においてフレームレートとは動きの滑らかさにつながるものだが、ここではさらに記録時間(20fps=1秒、10fps=2秒、5fps=4秒)の制御にもつながる。例えば、“オーバーハンドでボールを投げる”というモーションを動くキャラクターとして用意したい場合を考えてみよう。「動くキャラクター 1秒(20fps)」であれば、下げた手を振り上げるという動作まで。「動くキャラクター 2秒(10fps)」であれば、足を上げてボールをリリースする直前まで。そして、「動くキャラクター 4秒(5fps)」であれば、すべての投球動作をカバーするといった具合だ。この場合は4秒を選ぶのが適切だろう。ただし5fpsになるため、投球フォームはある程度カクカクしてしまう。逆に滑らかにしたい場合は1秒を選ぶわけだが、これだと撮影時間が短くなる。

 フレームレートを選択したら、被写体が動いている状態を連写する。終了したら、被写体がいない状態で同じ場所を撮影。すると、被写体と背景をカメラが自動で認識し、その差分から自動的に動いている被写体だけを切り抜く。映像の世界でいう、いわゆるクロマキー合成をカメラ内で行なうわけだ。

 このとき気をつけたいのが、カメラをなるべく動かさないこと。三脚などを利用してシッカリと固定するようにしよう。また、動いている被写体の背景にも配慮したい。複数の色が混在すると被写体だけを切り取れないことがある。被写体と背景が解け合い、不必要なところまで切り取られ、不自然な連続写真となってしまう。背景は単色であればあるほどキレイに切り取れることを覚えておこう。

 「動くキャラクター」がうまく作れたら、次は背景を用意する。もっとも背景は、いままでSDHC/SDメモリーカードに撮り貯めた静止画を利用してもよい。

背景となる画像を撮影中背景と合成する「動くキャラクター」を選び……
合成する位置を調整するとりあえず完成

 背景を決めたら、再生モードのメニューから「キャラクター貼り付け」を選択する。いよいよ動くキャラクターと背景の合成を行なう訳だが、この時に表示されるのは、動くキャラクターのスタート位置(最初のフレーム)になる。同じ地点で動作が完結するなら問題ないが、画面内を大きく移動させるような場合は、予めどこまで動くかをチェックした後、合成するとよいだろう。合成自体は10数秒で完了。一度、動くキャラクターを作成できれば合成まではすんなり行なえるだろう。

 

“巨大な足に踏みつけられる人”というオーソドックスな合成の例。驚いているシーンを動くキャラクターとして記録し、その角度に合わせて背景を撮影した。カメラ内でダイナミックフォトを作成後、「ダイナミックスタジオ」を使ってFLVファイルを作成している(以下同)

 制約としては、「縦位置の動くキャラクターに横位置の背景は合成できない」、「動くキャラクターの拡大・縮小ができない」といった点がある。特に後者は重要で、つまり動くキャラクター作成時に、完成時の大きさを考慮しておく必要があるのだ。ただし、7月発売の新機種「EXILIM Hi-ZOOM EX-H10」では、動くキャラクターの拡大縮小が可能になっている。

 なお5月29日、カシオは「動くキャラクター素材」をインターネットで無償で公開した。ダウンロードしてカメラに保存すると、動くキャラクターとして登録できる。利用できる素材は「クラッカー」、「ブーケ」、「ハート」、「恐竜」、「クマのぬいぐるみ」、「魔女」、「星」、「火の玉」の8種類。これにより、ダウンロードした動くキャラクターを、子どもやペットの写真に合成するという楽しみ方が増えた。動くキャラクターをメインの被写体にするのとは、ちょうど逆の発想といえる。

5月29日に公開された「動くキャラクター素材」。対応機種は今後、素材が記録された状態で出荷されるという

 

おもちゃのミニカーが実際の道を走っていると想定。背景を先に撮り、ミニカーを背景の道筋に合わせて動かし撮影した

 

ライターの火を撮影して、本来なら水が出るはずの蛇口から火を出してみた。日常ではあり得ないシーンだ

 

雨傘を利用して、コマを回しているシーン。合成なので非現実的なほど綺麗に回っている

 

 

あらかじめ撮影しておいた水槽内の写真を利用。別撮りした「動くキャラクター」は、床でジタバタするだけだ

 

カシオのWebサイト「ダイナミックフォト広場」からダウンロードしたオリジナル素材「火の玉」を使った作例。レッサーパンダが火を吹くというイメージだ

 

一般的な動画形式に変換する

 「キャラクター貼り付け」が終了すると、作成したダイナミックフォトはカメラ内で再生できる。しかし、せっかく作った力作も、カメラ内でしか再生できないのであれば宝の持ち腐れだ。というのもダイナミックフォトは動画ではなく、SDHC/SDメモリーカード内に静止画の連続として記録されている。他人に配布したい場合は、動画に変換したいところだ。

 そんな時は、カシオのWebサイト「ダイナミックスタジオ」を利用する。変換可能なファイル形式は、FLV、MPEG-1、MPEG-4、MOV、3GPP、3GPP2。なお、ここで変換できる最小画像サイズは96×80ピクセルで、最大画像サイズは3GPP/3GPP2形式が320×240ピクセル、そのほかの形式は640×480ピクセル。画像サイズ以外にも、ビットレートやフレーム数(秒)の調整や繰り返し回数、折り返しの有無などが設定できる。


まずは動画に変換する20コマの連続写真(.jpe)をアップロードする次にアップロードした画像の種類を選択する
カメラ内で合成していない場合、背景がないのでここで背景画像を選択するアップロードした画像と背景の組み合わせ(合成画像)の確認を行なう
動画に変換する際の条件を設定するサイズやビットレートの変更が可能だダウンロード設定。zipファイルのダウンロード、またはオンラインへの保存先の確認ができる

 細かい設定がわからなければ、再生機器ごとに自動でパラメータが設定される「用途」を選ぶとよい。設定が完了したら「動画変換」ボタンを押し、動画変換の完了を待つ。変換自体は、パラメータやサイトの混み具合により時間がかかるというが、MOV形式で品質を最高にした場合でも10秒程度で終了した。

 変換が終わったら、動画をプレビューでき、ダウンロード手段が表示される。変換後の動画ファイルは、直接zipファイルをダウンロードするか、ダウンロードURLにアクセスすると入手できる。また、オンラインムービーも作成され、表示されたQRコードを読み込むか、URLにアクセスすれば動画を見ることができる。ただし、オンラインムービーの保存期間は30日まで。その後は自動的に削除される。ちなみに、ダイナミックスタジオの「動画変換サービス」は、デジタル一眼レフで過去に撮影した連続写真などでも利用可能だ。

まとめ

 「ダイナミックフォト」は、マルチCPUを搭載した新型の画像処理エンジン「EXILIMエンジン4.0」を採用にしたことにより実現した機能だ。連続写真を切り取り、合成するという重い作業も、この新型エンジンの圧倒的な処理能力により行なえるようになったわけだ。動画を記録できるコンパクトデジタルカメラは多く発売されてきたが、静止画に動くキャラクターを貼り付けるのは斬新なアイデア。動画は見たままを残すモノだが、この“ダイナミックフォト”の面白さは、非日常・ありえない作品を作れることにある。撮影者のアイデア次第で、見る人を驚かせたり、感動させたりできるのだ。

 背景となる写真はいつ撮影してもよいので、動くキャラクターを作り込んで遊んでいるユーザーは多くいるという。特に、子どものいる家庭で楽しまれているそうだ。こうしたい、ああしたいと言いながら仲間とトライ&エラーを繰り返す作業は、学芸会のノリといっていい。今後の展開にも期待したいところだ。

関連サイトの紹介

ダイナミックフォト広場

 ダイナミックフォトを啓蒙しているカシオのサイト。一通りの解説はもちろん、ユーザーから投稿された力作を見ることができる。もちろん投稿も可能だ。また、オリジナルの「動くキャラクター」素材をダウンロードできるのもこのサイトからだ。ちなみに、このサイトからダイナミックスタジオにアクセスすることができる。

ダイナミックフォトファンの総本山ともいえるサイトが「ダイナミックフォト広場」。発想勝負の人気作品が楽しい

ダイナミックスタジオ

 作成した連続写真を一般的な動画形式に変換するためのサイト。ダイナミックフォトを搭載したカメラだけでなく、さまざまなカメラで撮影した連続写真の合成も可能だ。また、各ステップはやり直すことが可能。その場合は、やり直したいステップをクリックするだけでOK。

ダイナミックフォトを動画に変換する「ダイナミックスタジオ」

●ダイナミックフォトが強化された新モデル「EX-H10」

 2009年夏モデルの「EXILIM Hi-ZOOM EX-H10」には、進化したダイナミックフォトが搭載されている。例えば「動くキャラクター」の貼付け時に拡大縮小が可能に。また、カメラ内でMotion JPEGへの変換ができたり、背景となる静止画をパソコンからカメラにダウンロードできたりと、現行機種より自由度が高まっている。

 また、焦点距離24〜240mm相当(35mm判換算)の光学10倍ズームレンズや、1,000枚の撮影が可能な大容量バッテリーを採用。旅に便利なコンパクトデジカメとなっている。家族旅行でのダイナミックフォト撮影は子どもに喜ばる上、良い記念にもなりそう。発売はシルバーが7月3日、ピンクが7月中旬だ。

EXILIM Hi-ZOOM EX-H10(シルバー)EXILIM Hi-ZOOM EX-H10(ピンク)




(飯塚直)

2009/6/15 14:10