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本体だけでここまで!ニコンCOOLPIX P900で「月」を撮る

光学83倍ズーム機による天体撮影の実態とは

光学83倍ズームレンズを搭載するニコン「COOLPIX P900」。今年3月に発売されるやいなや、前代未聞のズーム比で話題をさらい、いまだに品薄が続く人気のデジタルカメラです。

その高倍率ズームを活かすべく、COOLPIX P900を天体撮影に使うための指南書が登場しました。その名も『驚異!デジカメだけで月面や土星の輪が撮れる ニコンCOOLPIX P900天体撮影テクニック』。

このページではその一部を抜粋・再構成してご紹介することで、天体撮影におけるCOOLIPIX P900の可能性をお伝えしたいと思います。(編集部)

広角から超望遠まで、COOLPIX P900の魅力

COOLPIX P900は、光学83倍ズーム、望遠側では35mm判換算で2,000mm相当の画角が得られ、その時の開放F値がf/6.5という大口径レンズなどが特徴のデジタルカメラです。デジタル一眼レフカメラやミラーレスカメラとは違いレンズ交換はできませんが、だからこそ専用設計でこれだけの高倍率ズーム、超望遠までのズームが実現したと言えるでしょう。

ニコンCOOLPIX P900。実勢価格は7万1,640円。

撮像センサーは1/2.3 型、有効画素数は1,605万画素、感度はISO100〜6400まで設定可能です。このあたりの仕様はコンパクトタイプのデジタルカメラとしては標準的なものですが、実はデジタル一眼レフカメラなどの35mm判フルサイズの撮像センサーなどと比べると格段に小さいのです。撮像センサーが小さいことは、画質などの面で不利になることもあるのですが、特に狭い画角を実現するための望遠レンズの設計においては小型化しやすい大きな特徴があり、COOLPIX P900はそれを最大限生かしたカメラです。

35mm 判換算の焦点距離で言えば、広角側が24mm、望遠側が2,000mmで、広角側を基点にすると望遠側の2,000mm は83倍にあたります。さらに電子ズームの機能によって、光学ズームの望遠側2,000mmの4倍までの拡大が可能になっており、35mm判換算の画角で言えば8,000mm相当の超望遠の画角が可能ということになります。スポーツイベントのTV放送などで、プロカメラマンが大きな望遠レンズを持って選手の姿を追いかけている様子が映し出されることがありますが、それらのレンズは300〜800mm程度の領域のものがほとんどです。ですから、そういうプロのみなさんにとっても新鮮な画角がこのサイズのカメラで堪能できるのは画期的なことと言えるでしょう。

さて、ここまでの望遠レンズになると心配されるのが手ブレです。COOLPIX P900の手ブレ補正機能は、そういう超望遠撮影に耐えられ るような高性能なものが搭載されており、補正効果は5.0段分(CIPA規格準拠。35mm判換算約350mm相当で測定)ありますので、5段分の速いシャッタースピードを使用した時と同じ手ブレ補正効果があります。個人差やシチュエーションによって変化はあります が、1/30秒で撮影しても、1/1,000秒で撮影したのと同程度のブレ量に抑制されるということです。これは、日中の超望遠撮影に大きな安心感を与えるだけでなく、月など明るい天体では手持ち撮影をも可能にする性能で、単に大きく撮れるだけでなく、手持ち撮影など撮影スタイルの自由度も提供してくれているということで、大いに注目してよいでしょう。

焦点距離の違いによる月の写真

COOLPIX P900を手にすれば、83倍の光学ズームにより焦点距離24mmから2,000mm相当の画角、高画質をできるだけ維持するダイナミックファインズームと呼ばれる電子ズームで2,000mmから4,000mm相当の画角、さらに、いくらか解像感は低下するものの、さらなる電子ズームで8,000mm相当の画角の画像を撮影することができます。

ここでは、そのさまざまな焦点距離で月を撮影した画像を紹介します。COOLPIX P900は光学ズームだけでも83倍ありますから、各焦点距離での大きさを示してもよいのですが、広角側はあまりにも月が小さいこともあり、画面の中である程度見映えのする大きさである望遠の領域からスタートしましょう。

まずは800mm相当から。地球照を撮影しました。

800mm相当では、月が画面の短辺の1/3程度の大きさに写りますから、空にぽっかり浮かんだ月をイメージしてもらうのによい画角といえるでしょう。できるだけ拡大して見せたいというよりも、ゆったり見てもらうのに向いている画角ということです。

800mm相当で地球照を撮影

次は光学ズームの最長焦点距離、2,000mm相当で細い月を撮影した画 像です。

2,000mmになりますと、月の直径が画面の短辺の8割位ですので、満月などは画面いっぱいという感じになります。ですので、画角を一定にして、少し余裕を残しながら月の満ち欠けを継続的に記録したい場合には最適な画角です。

2,000mm相当で細い月を撮影

2,000mm相当の画像をもう1枚。上弦の少し前の頃の画像です。この頃は、明暗境界線付近にある大きなクレーターの影が伸び、立体感が感じられます。

2,000mm相当で半月の頃の月を撮影

3,600mm相当まで大きく伸ばしてみましょう。これはちょうど上弦の頃の画像です。

画面の長辺方向に月がいっぱい入る位の大きさです。ですので、半月あるいはそれより細い月を画面の中いっぱいに入れて撮影するのに向いている画角といえるでしょう。ちょうどこの頃には、クレーターだけでなく大きな山脈と呼ばれる地形(月のやや上部)も見えてきて、月面がもっともにぎやかに見えます。

3,600mm 相当で地球照を撮影

これは3,600mm相当で地球照を撮影したものです。画面の短辺方向に は月が収まっていないことがわかります。地球照の部分には、月の海やクレーターが見え、ちょうど倍率が100倍程度の望遠鏡で見たような感じです。

さらに大きく、4,800mm相当で半月に近い頃に撮影した画像です。大きなクレーターだけでなく小さいクレーターも見えてきました。撮影がますます楽しくなります。

4,800mm 相当で半月の頃の月を撮

5,600mm相当まで伸ばして半月の頃の月を撮影しました。2つ前の3,600mm 相当からさらに拡大しましたので、クレーターが密集している月面南部(画面下)に無数のクレーターが見えてきました。

5,600mm相当で半月の頃の月を撮影

COOLPIX P900の電子ズームの最長焦点距離、8,000mmで撮影しました。大気が安定して揺らぎが少なければ、このような画像を撮影できます。COOLPIX P900で月を撮影していると、まるで月探査衛星で月 の近くまで行なっているかのような気分になります。

8,000mm 相当で半月の頃の月の欠け際を撮影

代表的な月の撮影例

さてここで、月齢12の頃の月を例にとり、基本的な撮影条件などを説明します。月齢によって、多少設定を変えた方がよい場合もありますが、それはのちほど説明しますので、まずは基本的な注意点などを確認しておきましょう。

月の撮影例

この画像の撮影情報は次の通りです。

  • 焦点距離(35mm判換算):2,000mm
  • 撮影モード Aモード
  • 絞り値 f/6.5
  • シャッタースピード 1/200 秒
  • 露出補正 -0.7EV
  • ISO感度 100
  • フォーカスモード AF
  • ホワイトバランス AUTO1
  • COOLPIX Picture Control VI(ビビッド)※輪郭強調3、コントラスト+2
  • 手ブレ補正(VR) しない(OFF)
  • 光学フィルター 使用せず
  • 追尾/固定撮影 三脚を用いた固定撮影

焦点距離(35mm判換算)は、画面の中で月の大きさがちょうどよい2,000mmにしました。露出モードは、レンズの性能を最高に発揮させるために絞り値を開放 のf/6.5にしたいことからAモードにしました。露出補正は、月の最も明るい部分が白く飛んでしまわないようにヒストグラムを見ながら-0.7EVにしています。

ISO感度は、ノイズを少なくダイナミックレンジを広くしたいため、最低感度のISO100です。

ピント合わせはAFが可能だったためAF(AF-S)を使用しました。ホワイトバランスは、カメラ任せということでAUTO1です。

COOLPIX ピクチャーコントロールは、満月に近い月齢になってくるとクレーターよりも海(大きな暗い模様)のメリハリが画像のイメージを決定づけるため、コントラストが高めのビビッドを選択し、さらにコントラストを+2にしました。ただし、輪郭が太くなってしまうのを防ぐために輪郭強調はバランスのよい3にしています。

手ブレ補正は、この撮影ではCOOLPIX P900を三脚に取り付けてい るためOFFです。この後紹介する撮影例では、月齢など被写体の状況に応じてポイントとなる撮影情報を記載していますので、あわせてご確認下さい。

新月に近い細い月を撮影する

次は、月齢別に撮影のポイントを紹介します。月は月齢によって見え方が違います。約29.5日で新月から満月になりまた新月に戻る満ち欠けを繰り返しています。その月の満ち欠けは月齢で示します。新月は月齢0です。ここでは、月齢5以下、24以上の新月 に近い月を撮影してみます。

月齢5以下の月は夕方西の空に、月齢24以上の月は夜明け前に東の空に見ることができます。いずれの場合も月の高度が高くないことから、大気のゆらぎによる影響があり、大きく拡大して鮮明な画像を得ることは難しいのですが、地球照(ちきゅうしょう)という影の部分が見えやすいのが特徴です。

ここでは、まず2,000mm相当で細い月を撮影してみました。夕方の西の空や、明け方の東の空に浮かぶ細い月は、大変印象的です。これは明け方の空に浮かぶ月です。

新月に近い月齢の細い月を写す撮影例(2,000mm相当)

  • 撮影モード Mモード
  • 絞り値 f/6.5
  • シャッタースピード 1/30秒
  • ホワイトバランス 晴天
  • COOLPIX Picture Control SD(スタンダード)

月の撮影では、最も明るい部分が白く飛んでしまわないようにしつつ、できるだけ欠け際をうまく写るように露出条件を決めるのがポイントです。

細い月に対しては、測光が難しいことから、Mモードにするとよいでしょう。

絞り値は開放のf/6.5にして、シャッタースピードを変えてみて最適値を探します。

COOLPIX ピクチャーコントロールはスタンダードを選択しました。

撮影のポイント

月を撮影するには明るい部分が白く飛んでしまわないように、欠け際が黒くつブレてしまわないように露出を決める。

半月の頃の月を撮影する

月齢5〜10、19〜24の頃は、半月に近い月です。

半月に近くなると、明暗境界線付近にある大きなクレーターの影が伸び、立体感が感じられます。欠け際のクレーターが最も綺麗に見えるのが、半月の頃です。

上弦の月は、日没の頃に南中し、高度が高いということもあり拡大撮影も楽しい月齢です。欠け際が比較的まっすぐの時は、縦位置で撮影するのもよいでしょう。5,200mm 相当で撮影すると、小さなクレーターまでもはっきりと見えてきます。

半月(上弦の月)の頃の撮影例
左:2,000mm相当、右:5,200mm 相当

下弦の月も、上弦の月と同様、さまざまな構造が見えて、撮影していて楽しいです。満月の前から下弦の頃には、月面南部にあって光条が伸びているティコというクレーターが見えます。大きな海(やや暗い平坦な部分)と山岳部(クレーターが多い地域)の違いも興味深いです。

半月(下弦の月)の頃の撮影例
左:3,600mm相当、右:5,200mm相当
  • 撮影モード:Mモード
  • 絞り値:f/6.5
  • シャッタースピード:1/80秒
  • ISO:100
  • ホワイトバランス:晴天
  • COOLPIX PictureControl:SD(スタンダード)コントラスト- 1

半月の頃の月は、明るいところと暗いところの明るさの差が大きいため、コントラストが高いと欠け際が暗くなりすぎることがあります。欠け際のクレーターなどをはっきり写し取るため、COOLPIX ピクチャー コントロールはスタンダードを選択し、コントラストをやや低くするため-1に設定しています。スタンダードではなくニュートラルを選択してもよいでしょう。

撮影のポイント

半月の頃の月は、ハイライト部を白く飛ばさない、かつ欠け際のクレーターをきれいに見せるために、コントラストを調整する。

満月の頃の月を撮影する

満月は月の軌道が楕円であるため一定ではないのですが、月齢13.8から15.8の間に満月になります。

月に対して太陽の光が正面から降り注ぐためクレーターの影が短く、海と呼ばれる大きな模様がよく見えます。全体にコントラストが低い状態ですので、コントラストを高める工夫をすると見映えがよくなります。

満月の頃の月の撮影例
左:2,000mm相当、右:4,000mm相当
  • 撮影モード:Mモード
  • 絞り値 f/6.5
  • シャッタースピード 1/250 秒
  • ISO:100
  • ホワイトバランス:晴天
  • COOLPIX PictureControl:SD(スタンダード)コントラスト+ 2

満月の頃の月の撮影では、COOLPIX ピクチャーコントロールはスタンダードを選択し、海のコントラストがしっかりつくように、コントラストを+2に設定しています。

撮影のポイント

満月の頃の月は、海の模様やティコクレーターからの光条をはっきり見せるために、コントラストを高める。

月の前景に木立や建物を入れる

満月の頃、東の地平線付近から月が昇ってくる様は感動的です。このような月の前景に木立や建物を入れて撮ると、また別の作品に仕上がります。月を遠くに見上げるような構図で、画面の下に木立を入れました。月との距離が感じられる1枚です。

昇る月の下に木立を入れた撮影例(170mm相当)

  • 撮影モード:Pモード
  • 焦点距離:170mm相当
  • 絞り値:f/4.5
  • シャッタースピード:1/200秒
  • 露出補正:-1.7EV
  • ISO:100
  • ホワイトバランス:晴天
  • COOLPIX PictureControl:SD(スタンダード)

月が白く飛んでしまわないように、露出補正を- 1.7EV にしています。

次の画像は、木立を月に重ねて撮影したものです。

昇る月の前景に木立を入れる撮影例(2,000mm 相当)

  • 撮影モード:Pモード
  • 絞り値:f/6.5
  • シャッタースピード:1/200秒
  • 露出補正:―
  • ISO:400
  • ホワイトバランス:晴天
  • COOLPIX PictureControl:SD(スタンダード)

月と木立が重なっている場合、AFでは木立にピントが合う可能性が高いです。木立にピントを合わせたい場合にはAFでよいですが、月にピントを合わせたい場合は、マニュアルフォーカス(MF)を選択する方が確実でしょう。

露出モードは、AモードやPモードなどの自動露出モードでもMモードでもよいですが、月や空を意図する明るさにするためには、自動露出モードの場合は露出補正を使うとよいでしょう。この作例では露出補正は0ですが、傾向的に月は露出オーバーになりがちですから、アンダー側(マイナス)に補正することになります。

撮影のポイント

月が木立に重なっている時は、AF では木立にピントが合うことが 多い。月にピントを合わせたい時にはMFを選択しよう。

◇  ◇  ◇

この他、電子書籍(およびオンデマンド印刷)には、さまざまな内容が含まれています。

第1章 COOLPIX P900と天体撮影
第2章 天体撮影の基礎知識
第3章 カメラの基本的な使い方
第4章 撮影前の準備・設定と撮影の流れ
第5章 月の撮影テクニック
第6章 金星の撮影テクニック
第7章 木星の撮影テクニック
第8章 土星の撮影テクニック
第9章 太陽の撮影テクニック
第10章 天体の動画撮影テクニック
第11章 カメラの詳しい使い方
第12章 画像の管理と画像処理

著者:山野泰照
小売希望価格:電子書籍版1,200円(税別)/印刷書籍版1,800円(税別)
電子書籍版フォーマット:EPUB3/Kindle Format8
印刷書籍版仕様:A5判/モノクロ/本文182ページ
ISBN:978-4-8020-9015-5
発行:インプレスR&D

山野泰照