新製品レビュー
キヤノンEOS 70D
実力十分。Wi-Fi機能と可動式モニターが嬉しい中級機
Reported by 礒村浩一(2013/8/1 11:59)
キヤノンが8月29日に発売する「EOS 70D」は、キヤノンのデジタル一眼レフカメラの中級機としての存在を担う、EOS二桁シリーズに属する最新鋭機だ。かつてデジタル一眼レフカメラ草創期にキヤノンより登場したEOS 10Dの流れを汲んでおり、ミディアムサイズのボディにメイン&サブの2ダイヤルを搭載。イメージセンサーにAPS-Cサイズの撮像素子を採用するという現在におけるデジタル一眼レフカメラの中核となるスタイルを受け継いでいる。
さらに、シリーズ最高の画素数およびライブビュー撮影時のAFスピードの飛躍的な向上と、まさしく革新的なカメラとなっている。今回は実写可能な個体による撮影画像を基にレポートをお届けしよう。外観写真やEOS 60Dとの比較写真等は、先に掲載した「写真で見るEOS 70D」(試作機)を参照していただきたい。
EOS 70Dの外寸と重量は約139×104.3×78.5mm、約755gで、EOS 60Dとほぼ同じ(EOS 70Dがわずかに小さい)。可動式の液晶モニターもEOS 60Dから引き継いでいる。この可動モニター(とくに本機のようなバリアングル機能)は一度使うとその便利さを忘れられない。これがEOS中級機以上のモデルに採用されていることは非常に嬉しい。
EOS 70Dに搭載された撮像素子は、EOS中級機として最も多い有効約2,020万画素となった。これまでEOSデジタルのAPS-C機は約1,800万画素が最高であったが、これによって画素数としてはフルサイズ機のEOS 6Dと並ぶものとなった。それでいて連写速度は7コマ/秒へと引き上げられている(EOS 60Dは5.3コマ/秒)。
またISO感度もEOS 60Dでは常用感度6400(拡張時12800)だったものが、EOS 70Dでは常用感度12800(拡張時25600)へと引き上げられた。これらはカメラに搭載された画像処理エンジンがDIGIC 5+へと一世代進化したことにより、より高度な処理が行なえるようになった結果と言えるだろう。
革新的な「デュアルピクセルCMOS AF」
EOS 70Dにおいての革新的な変化といえば、ライブビュー撮影時のAFスピードが大幅に速くなったことも挙げられる。これまでのライブビュー撮影時のAFはコントラストAF方式が一般的であった。それによってAF測距時にはレンズのピント位置を小刻みにずらしながら合焦する必要があったため、光学ファインダーを使用する際の位相差AF方式と比べるとどうしても時間がかかってしまっていた。
今回、それを解消すべく開発されたのが新機構を採用したCMOSセンサーによる「デュアルピクセルCMOS AF」だ。これは撮像に使用している画素の大部分を位相差AFのセンサーとしても使うことによって、ライブビュー撮影時においてもストレスのない合焦速度を実現する技術だ。
具体的な技術としては、画素のひとつひとつを2つのフォトダイオードで構成することにより、位相差AFで採用しているセンサーと同じ役割を与えるという。それでいて撮影時にはひとつのフォトダイオード(1画素)として光を受け取ることができるとのことだ。この機構には本稿執筆時点で103本のEFレンズが対応となっている。よっぽど古いレンズかAF非対応のシフトレンズ等でなければ、ほとんどのレンズでこの恩恵を受けられるというのも嬉しい。
編注:デュアルピクセルCMOS AFがライブビューで動作している様子は「写真で見るEOS 70D」(試作機)に動画があります。
Wi-Fi機能によりスマホ親和性がアップ。手軽で便利なリモート撮影も
EOS 70Dに搭載された機能のうち、筆者が特に注目したのは内蔵のWi-Fi機能だ。コンパクトデジカメやミラーレスでは広がりを見せているが、一眼レフでは外付けのWi-Fiアダプターが一般的だった。キヤノン一眼レフでは35mmフルサイズ機のEOS 6D(2012年12月発売)において初めて内蔵され、APS-C機ではEOS 70Dが初だ。
EOS 70DのWi-Fi機能は、無線LAN機能を持ったアクセスポイントと無線接続することで、LAN内のパソコンにカメラ内の画像を転送・保存することができる。またLAN環境がない場所でも、スマートフォンやタブレット端末と直接アドホック接続を行なうことにより画像転送が可能だ。これらを行なうためには、EOS専用のパソコン用クライアントソフト「EOS Utility」(同梱)、およびスマートフォン/タブレット端末用アプリ「EOS Remote」が必要だ。
スマートデバイスとの連携機能は非常に実用的だ。EOS 70Dと端末を直接アドホック接続し、EOS Remoteアプリを起動することでカメラ内の撮影画像をスマホやタブレットから確認することができる。必要な画像は即座に転送・保存することも可能だ。ただし端末に保存される画像はリサイズされたものとなる。この画像をメール添付したり、FacebookやTwitterといったSNSにスマホから投稿することができる。
また、EOS Remoteに用意された遠隔操作機能を使えば、ライブビューモードにしたEOS 70Dをワイヤレスで操作して撮影することもできる。しかも端末上にてライブビュー画像を確認しながら撮影できるので非常に便利だ。ライブビューはカメラ本体に比べれば若干のラグもあるが、実質的な操作への影響は少ない。それよりも、カメラから離れた状態でライブビュー画面を見ながら遠隔操作できるというのが非常に面白いし便利だ。無線LANの電波さえ届けば、少し遠くの位置からだってリモートコントロールできる。もちろん撮影後の画像も手元ですぐに確認することができるので、アイデア次第で様々な撮影に応用できるだろう。
・Wi-Fi接続手順
・リモート撮影
新機構の展開にも注目
EOS 70Dはカメラとしての基本性能もEOS 60Dより大きく進化している。ファインダー倍率は約0.95倍と変わらないものの、視野率は96%から98%と広くなった。AF測距点は9点から19点へと大きく増え、全測距点がF5.6対応のクロスセンサーとなり、測距エリアも「1点AF」「ゾーンAF」「19点自動選択AF」が選べるようになった。
また、先にも述べたが連写速度はEOS 60Dの5.3コマ/秒から7コマ/秒へスピードアップした。同じAPS-C機の「EOS 7D」(2009年10月発売)の8コマ/秒に及ばないまでも、かなり差が縮まる進化だ。
本稿執筆時点の予約価格はボディ単体で13万円前後、「EF-S 18-55mm F3.5-5.6 IS STM」とのセットが14万円前後、「EF-S 18-135mm F3.5-5.6 IS STM」とのセットが17万円前後となっており、中級機としては比較的手にしやすい価格と言える。おそらくEOS 70Dの持つ機能や性能ならば、ほとんどの被写体に対応可能と思えることからも、非常にコストパフォーマンスが高いモデルと言えるだろう。新機構のデュアルピクセルCMOS AFも、発売後は様々な撮影シーンでその実力のほどがさらに見えてくるはず。そのフィードバックと今後の発展にも注目していきたいカメラだ。
実写サンプル
- ・作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- ・縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
・ISO感度
常用感度内を、ノイズリダクションオフ、ノイズリダクション標準、マルチショットノイズ低減にてそれぞれ撮影した。いずれもISO400程度まではほぼ遜色無いほどノイズは少ない。しかしISO800辺りからはノイズリダクションオフにおいては高感度ノイズが目立ってくる。
一方、ノイズリダクション標準ではノイズが大きく解消され、ISO12800であっても十分に常用することができる。ただしISO6400辺りからノイズリダクションの弊害といえるディテールの喪失が徐々に目立ってくるが、それを考慮したとしても高感度撮影でこれだけの画質をキープできるということは非常にありがたいことだ。
そして、更にマルチショットノイズ低減をオンにすると、これまた驚くほどにノイズを抑えつつ、ディテールの喪失もほぼ無くなる。ただし複数回シャッターを切って撮影した画像を合成することでノイズを低減させているので、動きのある被写体やスローシャッターでの撮影ではうまくいかない場合もあるので注意が必要だ。その点さえ気をつけることができれば、積極的に使用してもよいと思わせる画質だ。
※各画像のサムネイルは、下の画像の青い枠内を等倍で切り出しています。
高感度ノイズ低減:標準
高感度ノイズ低減:オフ
マルチショットノイズ低減
・作例
約2,020万画素となったAPS-Cセンサーが搭載されたことで、より高精細な画像を得る事ができるようになった。それだけに、組み合わせるレンズの性能によって描写も如実に変わってくる。今回はEOS 70Dのキットレンズとして用意されている「EF-S 18-135mm F3.5-5.6 IS STM」を中心に、いくつかのEFレンズにおいても撮影を行なった。各レンズとの組み合せによる描写の違いに注目していただきたい。