新製品レビュー
ライカXバリオ
ドイツメイドのAPS-Cズームコンパクト
Reported by藤井智弘(2013/7/31 08:15)
ライカXバリオは、世界初となるズームレンズを搭載したレンズ一体型のAPS-Cコンパクトだ。発表前にライカカメラ社のホームページで「Mini-M」としてティーザー広告されていたのは記憶に新しい。ミラーレス機ではないかという噂も流れたが、実際はライカXシリーズのニューモデルだった。
レンズ交換ができないことを残念に思った人もいるだろうが、ボディから撮像素子、そしてレンズやエンジンまでトータルで設計できるレンズ一体型は、画質の面ではレンズ交換式より有利だ。またAPS-Cサイズの高画質コンパクトは単焦点レンズばかりで、ズームレンズの要望が多かったことも推測できる。特に単焦点レンズは、日本をはじめとするアジアでは人気が高いものの、欧米では難しいという話を聞く。そうした声に応えたカメラともいえるだろう。
外観はすでに「写真で見るライカXバリオ」で紹介しているので、ここでは実際の使用感を中心にお伝えする。
ボディデザインは、ライカX1、ライカX2がスクリューマウントのバルナック型ライカを彷彿させたのに対し、ライカXバリオはM型ライカのテイストになった。特にそれを感じられるのがトップカバーだ。シャッターダイヤルやシャッターボタンなどの操作部より、アクセサリーシュー側が一段高くなっている。光学ファインダーこそ持たないものの、M型ライカに近いデザインだ。なおデジタルM型ライカのトップカバーは、真鍮の無垢からの削り出しだが、ライカXバリオのトップカバーはアルミの無垢からの削り出し。高品位な仕上がりもM型ライカに近い。
そして背面のサムレストとそこに設定されたダイヤルは、ライカMを彷彿させる。ズームレンズを搭載したことで、ボディの大型化は避けられない。しかしM型ライカよりはるかに小さく、M型ライカをイメージさせるデザインで上手にまとめたと思う。コンパクト、と呼ぶには大柄だが、ホールドするとラウンドした側面が手にフィットし、ボディレザーの質感も高い。いかにもライカらしい感触だ。サムレストも親指がしっかり掛かり、握りやすい。ここでは試していないが、よりガッチリ握りたい人は、オプションのハンドグリップを装着するといいだろう。
軍艦部のレイアウトはライカX2とほぼ同じ。しかしライカXバリオはライカXシリーズで初めて動画機能が搭載され、録画ボタンが新設された。各ダイヤルやレバー、ボタンはメリハリのある動きで、高級機らしさが感じられる。
レンズはLEICA VARIO-ELMAR f3.5-6.4/18-46mm ASPH.。35mm判換算すると、28-70mm相当になる。レンズ鏡筒は、先端側がズームリング、手前側がピントリング。ピントリングをAFの位置から外すとMFになる。適度なトルクがあり、まるでMFレンズのような滑らかさだ。こうしたところにも、ライカらしい造りの良さが実感できる。ズームリングもスムーズに回転し、微妙なフレーミングも楽に行なえる。欲を言えば24-70mm相当で、テレ側の明るさはF5.6にしてほしかった。しかしズーム倍率が上がってF値が明るくなると、当然大きくなる。これが小型化と使い勝手が両立できるラインだったのだろう。
AFは1点、11点、スポット、顔認識の4種類。DELETE/FOCUSボタンを長押しすると、測距点の移動が可能だ。AF速度は特別速いという印象ではないが、遅くもなく、実用上は不満を感じなかった。最短撮影距離は30cm。ただしMF時はテレ側のみ30cm、それ以外は40cmとなる。できればMFでもズーム全域で30cmを実現してほしかったが、小型化を優先させた結果なのかもしれない。
撮影していて使いやすかったのがMFだ。先に述べた通り、ピントリングの感触が良好なのももちろんだが、画面の一部分が拡大されるフォーカスアシスト機能が進化した。ピーキング機能は持たないものの、拡大中に十字ボタンを押すと、拡大部分の移動が可能になった。これなら構図を先に決めてからピントを合わせられる。特に三脚使用時に有効だ。これはライカX2にもライカMにも搭載されていない。
さらに外付けEVF(ライカX2、ライカMと同じLEICA EVF 2)の操作性も向上した。メニュー画面から「常に液晶で再生」をオンにすると、EVFを装着して画面をEVFにしていても、再生はカメラ側の液晶モニターに表示される。またメニュー液晶表示から、メニュー、露出補正、フラッシュ、セルフタイマー、AFモード、WB、ISOの各項目を、EVFに表示させるか、背面液晶モニターに表示させるか、が選択できる。
ライカX2とライカMでは、表示をEVFにすると撮影時だけでなくメニュー画面や再生までEVFに表示されるようになっていた。今回は、おそらくメニュー画面を表示するのに、EVFを覗きながら操作する人は少ないとの分析もあったのだろう。その点において、筆者にとってライカXバリオは上位機のライカMよりEVFが使いやすい。ライカX2もライカMも、フォーカスアシストの拡大画面の移動と、EVF装着時の機能をファームアップで対応してほしい。
撮像素子はAPS-Cサイズ相当の有効1,620万画素CMOSセンサーで、ライカX2と同じスペックだ。画質は、ズーム全域で絞り開放から解像力の高い写りが楽しめる。周辺光量低下もほとんど目立たない。ズーム倍率や明るさを無理していないおかげだろうか。逆光でフレアやゴーストが出にくいのも好感が持てた。
JPEGでの色調は、ライカX2と同様にやや彩度を抑えた落ち着いた印象。ヨーロッパのメーカーらしさを感じる。ただRAWで撮ってLightroomで現像すると、JPEGより鮮やかになった。またJPEGよりやや明るくなる傾向なので、JPEGとRAWでは露出のコントロールが異なるのが気になった。
ISO感度はISO100〜12500。ISO800まではノイズが少なく、とても滑らかな写りだ。ISO1600も十分実用的。ISO3200から高感度らしいノイズ感になる。ライカXバリオはライカX2と同様に、2枚連写して合成する電子式手ブレ補正を持つものの、効果は高いとはいえない。高感度を積極的に活用して手ブレを防ぐのが、ライカXバリオの解像力を引き出すコツだ。
ライカXシリーズ初の動画機能は、MP4形式のフルHD。テレビ向きのAVCHD形式と異なり、パソコン向きの仕様だ。1,920×1,080p/30fpsの他、1,280×720p/30fpsのHDも可能。ライカMと同じく、ムービーボタンを押すだけで動画撮影が開始される。ただしライカXバリオはAFなので、ライカMより気軽に動画が楽しめるように感じた。
コンパクトデジタルカメラと呼ぶには大柄なライカXバリオ。だがしっかりしたホールディングができて、本格的な作品を撮りたいという気持ちが高まってくる。また外観の仕上げは、さすがライカと思わせる高級感があり、クラフトマンシップが伝わってくる。
コンパクト機としては高価ではあるが(実勢価格34万円強)、M型ライカは敷居が高く、レンジファインダーも難しい。しかしライカX2ではレンズが35mm相当のみ。それでもこだわった1台が欲しいと思っていた人に、ライカXバリオは最適な存在だ。レンズ交換は意識しないで、旅行や日常のスナップを軽快に撮るのにおすすめできる。
実写サンプル
- ・作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- ・縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
・ISO感度
各画像のサムネイルは、下の画像の青い枠内を等倍で切り出しています。
・仕上がり設定
・RAWとJPEG
・作例
・動画
※サムネイルをクリックすると、元ファイルにリンクします。
LEICA X VARIO (Typ 107) / 1,920×1,080
【8月1日0時】記事初出時に「最短撮影距離はテレ側で30cm、それ以外は40cm」としていましたが、AF時はズーム全域で30cmまで寄れることがわかったため該当部分に修正を加えました。