新製品レビュー

SIGMA dp1 Quattro(外観・機能編)

風景やスナップに適した28mm相当のクアトロ登場

シグマから、レンズ一体型のデジタルカメラ「dp1 Quattro」が登場した。広角/標準/中望遠というレンズが異なる3台が予定されているdp Quattroシリーズの広角レンズ搭載モデルであり、今年6月に発売された標準レンズ搭載モデル「dp2 Quattro」に次ぐ製品だ。

そもそも同社のコンパクトデジタルカメラは、2008年に発売された初代モデル「DP1」以来、RGBの3層によって構成される独自のFoveon X3センサーを備えることが特徴になっている。このセンサーは、複雑な演算によって画像を生成する一般的なイメージセンサーとは異なり、すべてのピクセルでフルカラーの情報を取り込むことができるため、クリアな発色と精細な描写が得られる。

そんな画質の良さこそがdpファンを引き付けるいちばんの魅力といっていい。数ある高級コンパクトの中でも、特に画質にこだわったシリーズのひとつである。

今回のdp1 Quattro(およびdp2 Quattro)は、これまでの基本的な仕組みを受け継ぎながら、3層のうち下の2層を490万画素に、最上層を2,000万画素にした「1:1:4」構造の新センサーを搭載する。センサーのジェネレーションネームは数字の4を意味するQuattroとなり、そこから製品名も名付けられている。

この新センサーの採用によって、高画素化を図りながらも画素数アップにともなうデータ量の増大を抑えているという。さらに、新エンジンとの組み合わせにより、高感度画質の向上や消費電流の削減、操作レスポンスの高速化なども実現している。

発売は10月で、掲載時の実勢価格は税込10万5,740円前後。今回のレビューでは、その外観と機能をお伝えしよう。

画質の追求から生まれた個性派デザイン

dp1 Quattroのボディは、一足先に発売されたdp2 Quattroに比べるとレンズ部がやや長くなっているが、基本形状に変わりはない。板を薄く伸ばしたような横長の本体をベースにして、その端に円柱形のレンズを装着したスタイルだ。

レンズ部のまわりを見ればミラーレスカメラに似ているように感じるが、全体のシルエットラインはこれまでのどんなカメラとも異なる個性的な形状を描いている。特に通常のカメラとは逆方向に突き出たグリップ部のデザインが珍しい。

同社のプレゼンテーションによると、この斬新な形状は、高画質の追求から生まれた必然的なデザインとのことだ。つまり、画質を劣化させる最大の要因は「熱」であり、その発生源となる電子基板を1枚にまとめることで、ボディを横方向に大きくして薄型化を図って放熱効果を高め、さらにもうひとつの熱の発生源であるバッテリーを可能な限りセンサーから遠ざけるレイアウトを採用している。

また、ボディ全体の横長形状は、左手でレンズ部分を支えることで安定したホールド感が得られるスタイルであり、後方に突き出たグリップは、構えた時に自然と脇が締まるように配慮されたものだという。

個性が際立つ電池室を兼ねたグリップ部のデザイン。両手で構えた際のホールドバランスは確かに良好だ。ただし、グリップの角が指に当たって少々痛く感じる

そう言われると、なるほどと感心するが、そんな予備知識なしに見ても楽しめるデザインだ。新しいモノが好きな人なら、初めて手にした未来の道具を使っているようなワクワクした感覚が味わえるだろう。

今回の試用で感じたことは、撮影中ずっとカメラのことを意識するということ。ほかの一般的なカメラなら、たとえ初めて使う製品であっても、筆者の場合は丸一日も使えば慣れて、カメラ自体のことはあまり気にせずに撮影に専念できるようになる。だがdp1 Quattroの場合は、良い意味でも悪い意味でも、ユニークな形な道具を手に持ち、それを構えて写真を撮っていることを常に意識してしまう。デザインが奇抜すぎる上に、意外と大柄であることが原因かもしれない。

そんなデザインのカメラなので、目に留まったシーンを直感的にスナップするという撮り方ではなく、被写体にじっくりと向き合って丁寧に記録していく撮り方が似合うと思う。

ボディ全体をツヤ消しのブラックでまとめつつ、鏡胴部のみに光沢感のある仕上げを採用。同社の最近の交換レンズと共通した高級感が漂っている。なお、デザインのディレクションを担当したのはいずれも岩崎一郎氏だ

無駄を省いたシンプルな撮影機能

天面の電源ボタンを押すと、製品名のロゴが液晶に一瞬表示されてから起動し、撮影スタンバイ状態になる。起動までの時間は2秒強。

ボディ天面には、電源ボタンのほか、シャッターボタン、モードボタン、前ダイヤル、後ダイヤルなどを装備する

液晶モニターには3型で約92万ドットのTFTを装備する。表示の精細感はまずまずで、視野角は十分なレベルといえる。ただし、明るい屋外での視認性はあまりよくない。試用では、市販の液晶フードを適宜利用することで視認性を確保した。オプションとして用意される光学ビューファインダーや、発売予定になっているLCDビューファインダーを活用するのもいいだろう。

AFは、一般的なコントラスト検出方式を採用する。AFスピードは超高速とはいえないものの、動体撮影や暗所以外であれば、大きなストレスは感じない程度の速さで作動する。AFの作動範囲を制限する「AFリミットモード」や、AF作動中のライブビュー表示を停止する「速度優先AF」を利用することでAFスピードを高めることも可能だ。測距点は、背面十字キーの下を押して9点から選択でき、測距点のサイズは3段階に変更できる。また、AF補助光や顔認識AFも用意される。

各種の操作ボタン類は右手側に集中配置される。それぞれの位置やクリック感、レスポンスは問題のないレベルだ

十字キーの上を押した場合は、AFからマニュアルフォーカスへと移行する。液晶上に表示される距離目盛りや部分拡大を見ながら、鏡胴部のリング回転によってスムーズなフォーカス調整が行える。

絞りやシャッター速度、露出補正に関しては、天面に設けた2つの電子ダイヤルを回すことで、それぞれ1/3ステップ刻みで調整できる。シャッター速度は1/2,000~30秒に対応。ただし、絞りが開放のF2.8~F3.5の場合は、最高速度が1/1,250秒となる

ファームアップしたdp2 Quattroと同じく、マニュアル露出モードの際の、液晶モニターへの露出反映のON/OFFは撮影メニューから選べる
再生メニューでは、カメラ内RAW現像などの機能が選べる

撮影モードは、天面のモードボタンによって切り換える。露出モードは、プログラムAEのほか、シャッター優先AE、絞り優先AE、マニュアルの4つに対応。加えて、好きな設定の組み合わせを登録できるカスタムモードが3つ用意される。

背面のQSボタンを押した場合は、クイックセットメニューが表示され、感度やホワイトバランス、カラーモードなど8つの機能を素早く変更できるようになる。クイックセットメニューの内容をカスタマイズすることも可能だ。

そのほか、垂直と水平の傾きを示す電子水準器や、グリッド線の表示機能、オートブラケット撮影、インターバルタイマー、トーンコントロール、アスペクト比の切り替えなどに対応する。動画は非搭載で、シーンモードもない。これまでの製品と同じくフラッシュも内蔵していない。フラッシュ撮影を行う場合は、天面のホットシューに装着可能なオプションのフラッシュを用意しよう。

電源にはリチウムイオン充電池を採用。撮影可能コマ数は約200コマとなる
側面にあるカードスロットはカバーで覆われ、その開け閉めは少々不自由だ

レンズには、35mm判換算で28mm相当の焦点距離を持つ、開放値F2.8の広角単焦点レンズを搭載する。基本的なデザインと機能、操作性はdp2 Quattroと同じであり、dp1 Quattroならではの見どころといえるは、このレンズである。

45mm相当の標準レンズを備えたdp2 Quattroに比べると、よりワイドな焦点距離であり、広がりのある構図や遠近を強調した画面構成に適している。風景の全体を捉えたり、至近距離でスナップを撮るのに便利な焦点距離ともいえる。描写性能については、次回の実写編でお伝えする予定だ。

28mm相当のワイドレンズを搭載。レンズキャップは着脱式のものが付属する

28mm相当と45mm相当のどちらを好むかは人それぞれで、撮影スタイルや被写体によって異なるだろう。個人的にはどちらも好きな焦点距離なので、欲を言えば2台を持って撮影に出掛けたいところ。ただ、従来のDP Merrillシリーズに比べると、ボディがサイズアップしたため、2台持ちや3台持ちがしにくくなったのは少々残念だ。

その代わり、使い勝手に関してはDP Merrillシリーズから大きく向上している。特に、オートでの露出とホワイトバランスの安定感が高まったことと、AFをはじめとする各種のレスポンスが高速化したことはうれしい進化だ。

まとめ

デザインに関しては、従来のシンプルな箱型形状から、形容しがたい斬新なフォルムに変貌していっそうマニアック度が強くなったが、中身に関してはマニアックさが薄くなったといえる。他社では味わえない独自のスタイルとこだわりの画質を存分に楽しみたいカメラである。

オプションのレンズフードを装着すると、奇抜なデザインがさらに際立つ

永山昌克