ミニレポート
星空写真が好きなら「ライブコンポジット」に注目!
(OLYMPUS OM-D E-M10)
Reported by 礒村浩一(2014/9/3 08:00)
夜の光景を捉える夜景写真はとても人気があるジャンルだ。デジタルカメラでの撮影が一般的となったいまでは、撮影のあとすぐに画像の良し悪しを確認することができるので、撮影人口がとても多くなっている。
さらに星空を風景のなかに捉える星景写真の人気も高まっており、以前に比べると多くの方々から星景写真にもチャレンジしたいと言う声を聞くようになった。実は星景撮影とデジタルカメラの相性はとてもよく、ちょっとしたコツさえ覚えてしまえば意外な程本格的な撮影も可能なのだ。
ただ、星景写真と聞くとおそらくだれもが思い浮かべるであろう、時間とともに星々が夜空を円を描くように移動する星の光跡の撮影は、実際に撮影を行うとわかるのだが、撮影地の空の明るさや月の満ち欠けなど様々な条件が揃わないとうまく撮影できない。
街明かりが近い場所では長時間露光を行うと空の明るさまでも拾ってしまい、まるで昼間に撮影した空のように、星以外もすべて明るく露出オーバーとなってしまうからだ。
ところが、ミラーレスカメラ「OLYMPUS OM-D E-M10」に搭載されているライブコンポジット機能を使用すると、実に簡単に星の日周運動までも撮影することができる。これは星撮りを知る人にとっては驚くべき機能なのだ。
私はこのライブコンポジット機能が使いたいがために、同じくOM-DシリーズのE-M1 、E-M5をすでに所有しているにも関わらず、 E-M10を発売初日に購入した。このちょっと地味ながらも使ってみると驚くライブコンポジット機能について、実際に撮影した作品をご覧いだだきながらレポートしたいと思う。
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そもそもライブコンポジットとはどのようなものなのかを簡単に説明すると、通常のバルブやタイム撮影はシャッターを開けて露光を開始すると、シャッターを閉じるまで画面全体が均一に明るく露光されるのに比べ、ライブコンポジットでは画面全体の基本的な明るさは一定のままで、暗い背景のなかに新たに現れた明るいもののみを重ね合わせて露光していく。つまり暗い空は暗いままに、そこを横切る星や飛行機の明かりのみを点や線のように記録した写真が撮影できるのだ。
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
こちらの写真は山の展望台から街の明かりと空の星々をE-M10のライブコンポジットで撮影したものだ。撮影時のExifデータにはISO1600、F4、4秒での露光と記されているが、実際にはライブコンポジットで約20分間の撮影をしている。
この写真をもとにライブコンポジットではどのような方法で画像を作成しているのかを説明しよう。まずはマニュアル露出モードにてISO感度、絞り値を設定する。これに対して画像1枚の露光時間をこの写真では4秒と設定した。この設定で約20分間、およそ300回シャッター(電子シャッター)を切り露光を行う。
この作業はライブコンポジット撮影の間はカメラが自動的に行ってくれるので、撮影者は初めに1回シャッターボタンを押すだけだ。最終的にはシャッターボタンを再度押して露光を終了した段階で、カメラ内で自動的におよそ300枚の画像を重ね合わせて1枚の画像が生成される。
このとき、全体の明るさを足し合わせていくのではなく、暗い空や地面の背景に対して、4秒間の露光で得られた明るさのみを重ね合わせる。つまりずっとそこにある街の明かりは4秒間露光の明るさ以上は加算されず、時間とともに移動する星の明かりは「4秒間露光で写った星」+「そこから移動して4秒間露光で写った星」+「さらにそこから移動して4秒間露光で写った星」+……と、移動した光を20分間分記録する。
最終的にはこれををカメラが自動的に重ね合わせ1枚の写真として保存するので、結果、星の点はつながって線となった写真ができ上がるのだ。
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上の写真は同じ条件で通常のバルブ撮影を行った画像だ。たった40秒間の露光時間であるにも関わらず、かなり明るい画像となってしまっている。この日は満月に近い月が画面外向かって右側後方にあったため夜空も明るくなり、また街の灯りが露出オーバーで白とびしてしまった。
実は星景写真の撮影では、このような複数毎撮影した画像を重ね合わせて1枚の画像を作り上げるといった手法が以前から良く使われているのだ。撮影した画像をPhotoshopのような画像処理ソフトを使って「比較明合成」(ひかくめいごうせい)という方法で生成するのだが、この方法を使えば街明かりにより明るくなっている空であっても、必要以上の明るさとなることなく、街の夜景と星の軌跡を同時に記録することが出来るからだ。
ただ、その過程には数百枚から数千枚を連続し手動で撮影したうえで、その画像をパソコン上の画像処理ソフトで毎回処理するという作業が必要となる。このように専門的かつ手間のかかる撮影および処理を、E-M10に搭載されたライブコンポジットは撮影時に、しかも自動的にすべて処理し1枚の写真として保存してくれるのだ。
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それでは、ライブコンポジット撮影の手順を説明したい。
E-M10をマニュアル露出モードにして、ダイヤルでシャッター速度を1番長くなる方向にまわすと、ライブコンポジットモードに切り替わる。そのうえでメニューボタンを押し[コンポジット撮影設定]画面にて1コマ分の露出時間を設定する(ライブコンポジットモードに切り替わるとモニター画面の輝度が下がる。暗い中での眩惑を避けるためだ)。
設定できる露出時間は、1/2秒、1/1.6秒、1/1.3秒、1秒、1.3秒、1.6秒、2秒、2.5秒、3.2秒、4秒、5秒、6秒、8秒、10秒、13秒、15秒、20秒、25秒、30秒、40秒、50秒、60秒。
E-M10を三脚に据え付けて、構図、MFでのピント合わせ、ISO感度、絞り値を設定する。
シャッターボタンを1度押してノイズリダクション用の画像を取得する。これを元に撮影終了後にはノイズリダクションが自動的に行われる。
画面が撮影画面にもどり「コンポジット撮影の準備ができました」の表示が出たら撮影準備完了。シャッターボタンを押して撮影を開始する。
撮影中はリアルタイムに比較明合成の状況が画面に表示される。画面右下には撮影開始からの時間、1コマの露光時間と電子シャッターでの露光回数が、左下には現時点までに取り込んだ露光を重ね合わせた画像のヒストグラムが表示される。これらを参考にして程よい仕上がりになったら、もう1度シャッターボタンを押して撮影を終了する。
E-M10のライブコンポジット撮影は、実に手軽に比較明合成を行ったうえで画像を記録してくれる。記録した画像はJPEG画像およびRAW画像としてメモリーカードに保存される。RAW+JPEG記録にも対応しているのも嬉しい。撮影後パソコンにて現像を行うことにより、明るさやホワイトバランスなどの調整も可能だ。
ただし撮影時に設定した露出バランスは後からでは変更することができないので、明るい地上の夜景と暗い星の明るさのバランスは設定時に露出時間、絞り値、ISO感度で整えておく必要がある。
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ここまででライブコンポジットの概念を文字で伝えようと細々と述べてきたが、実際にはあまり難しいことを考えなくとも、ライブコンポジットに設定したE-M10を三脚に据え付けシャッターを押すだけで、ご覧頂いたような作品がいとも簡単に撮影できてしまうのだ。
もちろん夜景撮影や星景撮影の基本的な知識と設定は必要ではあるが、このライブコンポジット機能を活用すれば、これまでの夜景作品がおおきく変化する可能性がある。アイデア次第ではまだまだ色々な撮影に活かすことができるはずだ。
惜しむらくは、現在このライブコンポジット機能が搭載されているのはOM-Dシリーズのなかでもエントリー機に位置するE-M10のみであるということだ。この機能がフラグシップ機であるE-M1にも搭載されれば、その防塵防滴機能を活かして厳冬期の北海道など寒冷地での星景色や、雨天時に濡れた地面に映し込まれたネオンサインや車のテールライトなどのコンポジット撮影にも使用することができるはずだ。ぜひともファームウェアのアップデートなどでの対応や、今後発売される機種での採用を期待したいと思う。